第29話 膝枕されて気づく限界値
少しの沈黙の後、私が最初に切り出した。
「——琳寧はさ、私とそういうことしたい?」
「どんなこと?」
琳寧は下から私を見上げるように優しくそう言ってきた。
なんてずるいんだと思った。
「こんなこと」
柔らかい膨らみに触れた。
琳寧は急いで顔を逸らし、私の手をそっと退けた。
顔が真っ赤に茹で上がっていた。
「いや?」
表情と手の力から嫌がってないのは分かっていたがあえて聞いた。
私も琳寧にいじわるしたかった。
「そうじゃない……こんな状況でできない……」
「こんな状況?」
恥ずかしさからでるトーンとは違った暗さを感じ、何を指しているのか分からなくなった。
「私達には、やるべきことがあるでしょ」
琳寧は絶望する未来を想像して尚、地球の未来について考えているんだと私は思った。
私と琳寧では覚悟が違うんだ。
「のぼせちゃうからでよっか」
「そうだね」
お風呂から出た後、2人は着替え、髪を乾かした。
「じゃあ私ご飯作っちゃうから、休んでていいよ!」
「ありがとう紫伊香」
そう言い琳寧はソファに横になった。
それを確認し、私は台所へ向かった。
「よしっ! 美味しいご飯作ろう!」
とは言ってもガスも水も電気も止まっているため、魔法で補う必要があった。
冷蔵庫に氷を生成するのを忘れていたため中は常温だ。
「あちゃ〜これお肉とかお魚だめかもな……」
魔法を使えばお腹を壊してもなんとかなるが、そんなものを出したくない。
仕方ない、常温でも問題ないような卵とか野菜、それと冷凍庫に入っていた鶏肉を使い炒め物を作ろう。
ご飯は炊飯器を使えないため土鍋で炊くことにした。
未開封のオイスターソースがあったので、塩胡椒で下味をつけた後、風味付けで使うことにした。
青梗菜と鶏肉を食べやすい大きさに切り、にんじんを短冊切りにした。
そして卵を3個ほど溶いておいた。
「この前ショート動画で見ておいて良かった!」
作り方はすでに頭に入っている。
鶏肉に塩胡椒で下味をつけ火を通し、固くならないよう1度取り出す。
次に、そこで青梗菜の色が鮮やかになるまで炒め、卵を入れる。
最後に鶏肉を戻し、中華粉末とごま油とオイスターソースを回しかけ完成だ。
「香り良すぎじゃん! 私って天才かも?!」
土鍋で炊いたご飯もちょうど良いツヤであった。
「琳寧〜! ごはんできたよ〜!」
返事がないためソファへ見に行った。
赤子のように可愛くお昼寝していた。
「可愛いから写真撮っちゃお! 彼女の特権!」
6枚ほど可愛い寝顔を撮った。
「琳寧ごはんできたよ〜!」
鮮やかなピンク色の唇に触れたくなる衝動を抑え琳寧を起こした。
琳寧はゆっくりと瞼を開いた。
「あれ、私寝ちゃってた?」
「うん! おはよ!」
「ごはん作ってもらってるのに私だけ休んじゃってごめんね」
「そんなこと気にしないよ! 私は琳寧に休んで欲しかったから! さあさあテーブルに行きましょ!」
申し訳なさそうにしていた琳寧の手を取り、テーブルに連れて行った。
「鶏肉と青梗菜と卵の炒め物だよ! ご飯は土鍋で炊きました!」
「え、紫伊香天才じゃん! 本格中華料理みたいだよ!」
「そうかな! えへへ」
琳寧は褒め上手だ。
「じゃあ食べよっか! いただきます!」
「うん! いただきます」
私の合図と共に琳寧も食べ始めた。
私は琳寧の反応が気になった。
モグモグと食べる様子が可愛くて写真を撮りたくなったが、怒られるため我慢した。
「どう? 美味しい?」
「うん! 見た目も味も本格的で美味しいよ!」
琳寧の喜んでいる姿を見ることができて嬉しかった。
好きな人を笑顔にできるのは幸せなことだ。
晩御飯を食べ終えた。
「あ〜お腹いっぱい! ご馳走様でした!」
「本当にありがとうね、美味しかった。ご馳走様!」
洗い物をしようと食器を持って行こうとすると、琳寧がそれを止めた。
「私が洗い物するから今度は紫伊香が休んでて!」
「え、いいの? ありがとね!」
「うん!」
琳寧の気持ちが分かるからここは甘えることにした。
自分ばっかりしてもらう側なのは嫌なのだろう。
「あ、水でないから魔法でなんとかやってみて!」
「確かにそうだったね!」
なんだか会話がおかしく感じられ2人で笑ってしまった。
先のことを考えなければ今は幸せそのものであった。
琳寧と一緒に暮らして、毎日のように愛し合って、そしていつか結婚して、子供は残念ながらできないけど、それでもおばあちゃんになるまで2人でいる。そんなことを想像してしまった。
琳寧がここまで思ってくれているかは分からないが、私にはそこまでの覚悟がある。
「神様、私と琳寧からこれ以上何も奪わないでよ」
紫伊香は琳寧に聞こえないよう、小さく囁いた。
「洗い物終わったよ!」
私が色々と考え事をしている間に済ませてくれていた。
「すっごい助かるよ! ありがとう!」
「いえいえ! これくらいしないとね!」
2人は紫伊香の部屋へ向かった。
「今日は色々やって疲れたな〜! けど琳寧とずっと一緒だったから楽しかった!」
「それはこっちのセリフだよ〜!」
私はなるべく琳寧が先のことを考えないように話しかけた。
「琳寧はさ、私のどんなところが好きなの?」
「え、いきなりだね!?」
少し頬が赤くなったように見えた。
「えっとね、いつも明るく完璧で太陽みたいなんだけど、私の前では甘えん坊の子猫ちゃんになるところ!」
想定してなかった返答がきてしまった。
琳寧を照れさせようと思っていたが、逆に私が照れてしまう。
ていうか子猫ちゃんとかいう表現が、琳寧の口から出てくるだけで驚きだった。
「え、私そんなだったの!」
「実際に私に甘えたいんでしょ?」
いつも明るく元気でいることを意識していたため、なかなか人に甘える機会は無い。
だからこそ幼馴染であり、彼女である琳寧には甘えてしまっていた。
「いいよ、こっちおいで」
琳寧は私の手を取り、自分の元へ引き寄せた。
何をするんだろうと思っていたら、琳寧の太ももの上に私の頭を持ってきたのだ。
「膝枕嬉しいでしょ?」
答えるのも恥ずかしかったが、素直になろうと思った。
「はい、好きです……」
琳寧は満足そうに笑みを浮かべていた。
私はそれが嬉しかった。
琳寧は何度も何度も私の頭を優しく撫でてくれた。
なぜか涙が出てきた。
私は気づいた。
——そうか、私もとうに限界を迎えていたんだ。
私達二人は強力な魔法使いでもあるが、心はそこまで強くなかった。
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