第26話 世界で一番愛していると伝えるために
私、風山紫伊香は、ついに幼馴染の青瀬琳寧と恋人になることができた。
前世から願っていたことが叶った今、人生で一番幸せを感じている。
カミングアウトした時は拒絶されたかと思いびっくりしたが、才色兼備な琳寧でも恋愛面は不器用なだけだった。
前世から私の一方通行の愛だとばかり思っていたが、いつの間にかお互い好き同士になっていたのだ。
世界で一番愛している相手と呼ぶには世界に人が少なすぎる。
世界に2人しかいないなら、誰と誰でもそういう呼び方ができてしまう。
私はしっかりとこう思いたい。
地球に80億人もの人がいるが、そんな世界の中でも一番愛しているのは琳寧だと。
こんな考えを直接言う事はできない。
「地球に人を取り戻す方法を考えよ!」
だからこう伝えた。
別にヒーローになりたいとか、地球を守りたいとか立派な理由などではない。
全ては琳寧を世界で一番愛したと言うことができるようにするためだ。
「うん。私達にしかできないことだから」
琳寧は覚悟を決めたような、真剣な表情であった。
なぜか分からないが、それが私を不安にさせた。
「疲れていては何もできないから今日は、寝よっか」
「うん」
私の問いかけに琳寧は同意し、家の周りに認識阻害魔法をかけた。
「一応保険として!」
琳寧はニヤニヤと口角を上げ、目を細めそう言った。
恋人になって最初の夜であったが、2人はそれぞれ明日以降のことしか考えられていなかった。
それほど明日からの不安と言うものが強くあったのだ。
「おやすみ、琳寧」
「うん。おやすみ、紫伊香」
2人は眠りについた。
フォールにサイカが入ってから1年と1ヶ月が経とうとしていた。
「ねえサイカみて! 時間操作できるようになったよ!」
サイカに上級魔法を教わってから1ヶ月。
ようやく使えるようになってきた。
「すごい覚え早いね! さすがエリー」
「サイカが教えるの上手いだけだよ!」
褒められてなんだか照れくさくなってしまった。
サイカは褒め上手だ。
「じゃあ次は空間の時間を止めて動いてみて」
「え〜どうすればいいか見当もつかない」
「じゃあまず手本を見せるね」
そう言うと指を軽く振り、サイカを中心とした球状の青紫色のオーラが放たれ、周囲の粒子が凍りつくように動かなくなり、私は身動きが取れなかった。
そんな中、ただ1人サイカのみがゆっくりと歩いていた。
こんな魔法を殺意を持った敵に使われたらと思うと恐怖であった。
私の不安を読み取ったのか、魔法を解除した。
「おっと、やっと動けた。サイカ天才? 何これ無敵じゃん!」
目を細め、微笑みながら近づいてきた。
「凄いでしょ! 教えてあげるね!」
そう言うと丁寧に教えてくれた。
初級魔法や中級魔法をうまく組み合わせながら、時間操作をするというものであったが、マナ消費量も膨大で、それを維持するのは容易でなかった。
「——はあ〜これ、難しすぎでしょ! ぜんっぜん分からない!」
「かなり難しい部類だからね、無理なくやっていこうね」
サイカは苦笑いしながら、励ましてくれた。
「何やってるんですか〜!」
ローラが走りながらこっちに向かってきた。
「特訓だよ特訓! ローラもやる?」
どれだけ危険か分からなかったため今までローラを誘っていなかったが、問題なさそうなので誘ってみた。
「ぜひお願いします師匠!」
「師匠はそっち!」
私はサイカを指差した。
弟子がもう1人増えて頭を抱えていたが、快く受け入れてくれた。
「ぜひお願いしますサイカさん!」
「私厳しいからね?」
サイカはローラの扱いを分かっていた。
甘くして育つ子ではないと。
「はい! よろしくお願いします!」
そんな風に毎日のように、サイカの指導の下で2人は特訓し続けた。
フォールで上級魔法を使えるのはこの時点でこの3人のみである。
強大な力があるため、サイカはあまり広めたくなかったのだ。
そのため、半年前に倒した敵たちが上級魔法を使っていると言う事実が今でもサイカを不安にさせていた。
「2人とも聞いてほしい」
サイカはエリーとローラを呼んだ。
「私が使うこの上級魔法は力が強すぎるから誰かに教えたことないし、ウィージンも私以外に教えた事はなかったの」
エリーとローラは頷き、サイカの話の続きを待った。
「だけど、半年前に不安因子の削除要請を受け廃墟に向かった時あったでしょ? その時相手は上級魔法を使っていたの」
エリーとローラは固唾を飲み込んだ。
「私ほど使いこなしてはいなかったんだけど、何か嫌な予感がするの」
「他の誰かもすでに、上級魔法を解明し、広げてしまってるのかな?」
エリーが口を開き、疑問をぶつけた。
「分からない。けどそれが広がってしまったらパワーバランスが大きく崩れてしまう」
それだけ時間や空間を操作できる魔法は危険であった。
「もし敵となる人達が習得してしまった場合、フォールで処理できなくなる可能性があるから、フォールの全員に教えるか悩んでるの」
「確かにみんななら信用していいんじゃないですかね!」
ローラはあまり深く考えていないようであった。
「ありがとうローラ。とりあえず私の方で考えてみる。今日は疲れただろうから、2人とも着替えてゆっくり休んで!」
サイカの一言で解散した。
鳥の鳴き声も、工事の音も何も聞こえず、自然と目が覚めた。
夢から目覚め、2人だけしか存在しない現実に戻った。
世界で一番と言うには、比較対象人数が多くないとですよね。
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