第25話 青瀬琳寧の気持ち
紫伊香とは赤子の時から関わってきた。
とは言ってもその時の記憶は母親から聞いたものだけど。
物心ついた時の最初の紫伊香の印象は、私と違って明るく元気で、社交的だった。
小学生の頃、私は誰とも話さず常に本を読んだり、勉強をしたりしていた。
そんな私を変に思った同じクラスの子達からいじめを受けるようになった。
最初は、気にならない程度の悪口や、ハブられる程度だったため気にもしなかった。
しかし徐々にエスカレートしていき、本を捨てられたり、ノートを破られたりした。
流石に許せなかったが、私にはどうすることもできずにいた。
そんな私を救ってくれたのが紫伊香だった。
今でもその時のことを覚えている。
「琳寧のこといじめたやつ出てこいよ! 次そんな事起きたら私が許さないから!」
私のクラスに乗り込んできて凄い形相で怒鳴りつけた。
当時から紫伊香はU12のトップアスリートで、体格がいい事も合わさって威圧感がすごかった。
その後私の元に来た。
「何かあったらすぐ言ってね!」
私にだけ優しく柔らかな笑みを見せ、教室を出て行った。
まるで白馬の王子様のようであった。
それ以降いじめは無くなった。
思い出すだけで胸が暖かくなる。
当時はむず痒さや、恥ずかしさのようなものしか感じていなかったが今なら分かる。
あれは恋だった。
きっと紫伊香よりも先に私が好きになっていた。
中学生の頃は、私と紫伊香と穂乃果でよく遊んでいた。
そして中学3年生の夏、紫伊香の気持ちを知った。
いつもは3人で遊んでいたが、その日は紫伊香が大会で海外に行く必要があり、2人で遊ぶことになった。
東京での大会ならいつも応援しに行っていたが、海外となると金銭的に難しかった。
私と穂乃果は映画を見たり、ショッピングをしたり、食べ歩きやプリクラを撮ったりと楽しんだ。
その次の日だった。
いつもは登校してすぐ私に会いに来てくれる紫伊香は、その日は教室で机に突っ伏して寝ていたのだ。
私は疲れているのかなと思い話しかけるのをやめた。
お昼もいつも3人で食べていたのにその日は1人で食べていた。
なんだかおかしいと思い放課後1人で話しかけに行った。
「今日の紫伊香なんか変だよ?」
「別に」
いつもとは違う冷たい返事を返してきた。
「教えてよ」
少しの間の後、紫伊香は答えた。
「——昨日は穂乃果と楽しそうだったね」
怒っている。いや、怒っているというより嫉妬しているような表情であった。
そういえばSNSに写真をあげていたため、それを見たのだろう。
「今度は3人で遊ぼ!」
私は機嫌を直すように提案した。
「いや」
それを紫伊香は拒絶した。
「いやなの?」
「うん。2人がいい」
その時の紫伊香は恋する乙女のような震えた目をしていた。
「もちろん! 2人で遊ぼうね!」
この状況が何かまずいものと思ってしまった私は、遊ぶ約束を交わし、すぐに顔を背けた。
この時私は、お互い好き同士なんだということが分かった。
今世では私が先に好きになっていたが、前世では違った。
というのも、会ったその日のうちにエリーは私に惚れていたのだ。
勝てるわけがない。
前世でも今世でもあの子は私を好きになった。
そして私も当然のように好きだった。
「なのに私はさ……」
紫伊香の匂いだけが残る空間で1人、私は自分に失望していた。
紫伊香を探しに行くとリビングで一人泣いていた。
先ほどの言葉できっと傷つけてしまっている。
「紫伊香……」
「ほっといてよ! 琳寧に私の気持ちなんて何もわからないでしょ!」
「紫伊香聞いて!」
「うるさい!」
私の言葉を聞いてくれそうにもなかった。
私は卑怯だと思いながらも音を遮断し、距離を詰めた。
「臆病な私を許して。私は紫伊香のことが小学生の頃から好きだったよ。」
何かいいたそうにしていたが音を遮断したままにした。
「いじめられていた私を助けてくれた時、紫伊香は白馬王子様のように見えた。それから今日に至るまでずっと大好きだったよ。愛してる、紫伊香」
抵抗することができないように唇を合わせた。
かわいそうだと思い、音の遮断をやめた。
「本当なの? 嘘じゃない?」
「嘘じゃないよ全部本当のこと」
確信を持てなそうな紫伊香に再びキスをした。
「これで分かった?」
紫伊香は再び泣き出した。
「どうしたの? 嫌だった?」
「前世からずっと望んでいたことが叶った。やっと、琳寧と一緒になれて、嬉しくて!」
そういう意味か、そう考えるとなんだか私も感動してきた。
「琳寧」
そういうと紫伊香は私の頭に手を回し、余った片手で私の手に指を絡めてきた。
そしてそのまま再びキスをした。
今度は紫伊香は簡単に離してくれなかった。
私は緊張して、唇に力を入れたままだった。
それをこじ開けてくるように、柔らかいものが触れた。
舌がピリピリとするような感覚を覚えた。
何もかも経験したことない初めてのことで、胸の鼓動が全部聞こえてしまいそうだった。
何分経ったのだろう。
地球に2人しかいない状態で、私達だけこんな幸せでいいのだろうか。
「ありがとうね琳寧! 私すごい嬉しいよ」
「私の方こそ!」
「改めて、琳寧は私の彼女になってくれるの?」
「もちろん! 私は紫伊香だけの彼女だよ!」
この日2人の少女は恋人同士になった。
数分間での出来事はキスのみです。




