第23話 君だけがいない世界と、君しかいない世界
リビングのドアを開けたが電気が消えていた。
「あれ? お母さん?」
晩御飯を作っていると思っていた母親の姿はどこにもなかった。
「あれ〜? おかしいな、どこ行っちゃったんだろう」
食材が足りなくて買い出しに行ったのかなと思い、リビングの電気をつけようとしたがつかなかった。
「あれ、何でだろ」
仕方なく魔法で光を生み出し、ソファーに腰掛けスマホを開いた。
お母さんからの連絡は無かった。
SNSを開くと、その現状に嫌な予感がした。
直近の投稿が何も無かった。
あの時見た夢を思い出した。
突然の異常気象と共に、地獄のような歪みを生み出し、クラスメイトが息絶え、琳寧が気絶した悪夢。
その時もSNS更新がされていなかった。
あの夢での理由としては人が誰一人生きていなかったか、電波が妨害されたかのどちらかだと思うが、それが今起きていた場合、夢とは訳が違う。
そう思い、急いでドアを開け外に出た。
「良かった」
地獄のような空や、悲惨な景色は何も無かった。
しかし違和感がある。
人の気配が全くない。
広範囲にマナ感知を行うと、至る所に強力なマナ反応があった。
痕跡は最近のものである。
上級魔法を使おうとするとなぜか使えない。
あの異空間で使えなくなってから、外でも使えなくなっていた。
誰かに相殺されているというより、使用できないように封印されている感覚であった。
今の私にはそれを解く方法が分からずにいた。
そのため、時間を操作することによっての解決は不可能だ。
しかし弱音を吐いてはいられないため、元素魔法を用いて速度を上げ、辺りを見て回った。
コンビニにも、交番にも、公園にも人はいない。
手に負えないような状況で、不安になってきた。
誰一人いなくなった世界で孤独に最後を待つ感覚である。
「みんなどこに消えたの……」
そんな不安を消し去るように、強力なマナの接近を感じた。
私は急いで近くの家に身を隠した。
もちろんこの家の家主も不在であるため怒られる心配はない。
何かいることは分かったが、それが普通の人間であるはずがないため、孤独感が消えるわけではない。
ただ、行き詰まった状況の手掛かりにはなるはずだ。
物陰に身を隠しながら、通過するのを待ち、隠密魔法を使い追跡することにした。
見た目は紫色のモヤのようなもので、宙に浮いて進んでいるように見えた。
生き物なのかどうかは分からなかった。
そのモヤを追跡して5分ほどが経過した。
すると人の声がした。
「誰かいないのか〜! お〜い!」
30代くらいの男性であった。
その声に反応したかのように紫色のモヤは形状と速度を変え、声のする方に飛んでいった。
モヤのような姿から、人型に変わり男性の元へ行き、悲鳴を上げられる前に気絶させ丸呑みした。
私は気持ち悪くなった。
モヤが人の姿になり、人を丸呑みする瞬間、全身が口になったレベルで口を開き丸呑みしたのだ。
気絶させた後に丸呑みしたので、生死は分からない。
ただ、何かの目的があってあのモヤは動いている。
そう確信した。
そのモヤが向かった先は私が昔通っていた中学校であった。
当然のように人の気配のない学校がただそこに存在していた。
それとは関係なく、紫色のモヤは校舎に向かっていた。
校舎の目の前にモヤがたどり着いた時、渋谷の時のゲートと比べてもはるかに大きく、歪なゲートが現れ、吸い込まれるように入っていった。
私も後を付けようと思ったその時、急に腕を掴まれた。
全く気配を感じなかった。
しかし誰かはすぐに分かった。分からないはずがない。
安堵が私を包み込んだ。
「琳寧!」
私の喜びを静止するように音を遮断した。
そして、琳寧は転移魔法を使った。
気づいた時には、私の部屋に飛んでいた。
「琳寧〜!!! 会いたかったあぁぁ〜!」
私は今度こそ止められず琳寧に抱きつき、泣き喚いた。
突然の事態に途方に暮れていたが、思いもよらない救世主が駆けつけてくれたのだ。
世界から琳寧が消えた時の悲しさは耐えられるものでは無かった。
この先一生会えないという絶望が、私の内側を侵食している感覚であった。
しかし今は違う。
琳寧とその他が逆転し、今度は世界から人々が消え、ただ琳寧のみが残った。
ここに絶望はない。琳寧の存在は、私にとってそれだけ大きなものであった。
もちろん人々が消えた原因を究明することを諦めたわけじゃない。
ただ、今は、琳寧に再び出会えた幸せを噛み締めている。それだけのことだ。
「心配かけてごめんね紫伊香」
「ほんとだよ! すごい心配だった!」
「そういえば、もしかしてすでに思い出した?」
その一言で何のことかわかった。
思い出すことなんて1つしかない。
「もちろんだよ! お待たせ、サイカ」
琳寧の綺麗な目から涙がこぼれ、震える声で私の名前を呼びながら謝ってきた。
「エリー。ごめんね。本当に、ごめん……」
「ちょっと待ってどうしたの! 何を謝ってるの?」
「サイカだった私はあなたを死に追いやってしまい、そして、琳寧である私もまた、あなたを……こんな……」
琳寧は言葉を詰まらせた。
前世の記憶を思い出したが、全部を詳細に思い出したわけではない。
きっと議会の裏切りが原因で、私が死んだことに対しての謝罪だろうが、私はそれが分からなかった。
とりあえず琳寧に落ち着いてもらおうと思い、話題を変えることにした。
「一旦落ち着いて! えっと、サイカと琳寧どっちで呼んだほうがいいかな?」
本人を目の前にしてどっちで呼べばいいか分からなくなった。
「私にも分からない。サイカでもあるし琳寧でもある感覚で……」
「私も同じ!」
2人だけの空間で小さな笑いが起きた。
この悩みを持つ人なんて他にいるはずがない。
2人はそう考えおかしな気持ちになった。
「じゃあ戦闘の時はリカネアの時の名前で、日常では今の名前にしよ?」
「そうしよっか」
私の提案に琳寧は小さく頷き同意した。
少しの間が空いた後、私は琳寧に問いかけた。
「そろそろ本題に入ってもいいんじゃない? 琳寧ちゃん」
突然の異常事態と琳寧との再会だ。何か理由があるに決まっている。
「何でもお見通しだね、紫伊香お嬢ちゃん」
なぜか琳寧の煽り性能が上がっていて、少しムカついたがスルーした。
「どこから話せばいいかな……」
琳寧は戸惑っていたので、私が質問して情報を引き出すことにした。
「じゃあ、この街に人がいない理由わかる?」
少しの沈黙の後、口を開いた。
「この街だけじゃない……」
その一言に私は驚きを隠せなかった。
それはつまり、世界中に人がいないということになる。
「世界中の人々は一部を除いて全員がリカネアの収容空間に連れて行かれた。さっきの紫色のやつは人を運搬する役割のマナ人形だよ」
スケールの大きさにあまりついていけなかった。
私が寝ていた1時間で、世界から人が全員連れて行かれたなんて信じられない。
「信じられないみたいな顔してるね」
見透かされていた。
「だってたかが1時間だよ? そんなの時間を止めない限り……あ、」
「気づいたみたいだね。上級魔法を使える存在の介入によって地球から人類は消えた」
そう話す琳寧の顔からは感情が読み取れなかった。
きっと私が知らないことをたくさん知ってしまっているんだろう。
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