第2話 どんな世界でも貴方となら
あれから1週間が経った。
政府の公式的見解としては異常気象による野生動物の突然変異といった訳のわからないものであった。
これを火種にさらにsnsではデマや憶測が溢れかえった。
それに反して現実の世界では何事もなかったような顔で人々が社会の一員として動いていた。
私はそれにムカついた。
琳寧はまだ見つかってないし、何か科学では説明できない現象が実際に起きているのに。
それを全てぶつけるかのように小石を蹴りながら駅から家に向かっていたら5月半ばにも関わらず急に寒気がして、視線を感じた。
怖くなり走り出すと見えない何かに引っ張られ、路地裏に引き込まれた。
恐怖と非科学的現象への無力感で気絶しそうになったが、なんとか耐えた。
その数秒後悲鳴が聞こえた。
「いや! やめて! イヤアアアアアア……」
目の前で血まみれの人の悲惨な姿が見えた。
その次にクマのような大きさになったこの前の謎の生物が現れた。
何が起こっているか分からず息を殺し、通り過ぎるのを待った。
いなくなったのを確認し、すぐに逃げ出したかったが足が動かない。
しばらくはこのままいることを覚悟し、見えない何かの事を考えた。
「さっきのあれは私の事を助けてくれたんだよね? ねえ、もしかして琳寧なの?」
勝手な想像で、何も確証はなかったが琳寧がそばにいて姿は見えないけど助けてくれたと信じたかった。けど呼びかけに対して何も返答は無かった。
目の前で起きた事を警察と救急に話し、具体的内容は何も聞かれず家に帰った。
凄く疲れた。私みたいなただの女の子にできることなど何もなく、ただ時間が過ぎるのを待つのが悔しかった。
何よりも琳寧が何かしようとしているのにそばで支えられないことにムカついた。
次の日ニュースを見たが昨日の事は何も触れられておらず、いつもと同じような日常が始まっていた。
学校に行くのが嫌になり学校をサボる事にした。
「お母さん! 体調悪いから今日学校休むね」
母親は察したようにただ理解を示す表情をして
「分かった」
という返事だけ返した。
私は部屋に戻り、インターネット上でこの前の出来事と似たような体験がないか探していたが、何も見つからずデマや陰謀論のみを目にしていた。
そんな中ある1つの投稿に目が止まった。
"高校生くらいの女の子が謎の生物を一瞬で消していたけどあれ何? 魔法みたいで怖い"
という投稿だった。
もしかしたら琳寧かもしれないと思い、質問したくDMをしたが気づいた時にはアカウントが削除されていた。
もどかしく感じ手足を子供のようにバタバタしていると、突然何もかもが止まったように感じ、声だけが聞こえた。
ただこの世界という1つの絵の中で、私という物だけが動くかのように全てが止まっている。
対照的に私の止まった時間がカチカチと音を立てるかのように動き出した。
「いろいろ心配かけてごめんね」
これは間違いなく琳寧の声であった。
私は抑えきれない感情の嗚咽を堪えながらとても嬉しく感じていた。
「どこに行ってたの! 凄い心配したんだよ」
姿が見えず声だけであったが、そんな事はどうでもいいと会話を続けた。
「話すと長くなるし、信じられないことかもしれない。最後には私の事が嫌いになるかもしれないけどいい?」
琳寧の姿は見えなかったが悲しい表情をしていることが声からも分かった。
「何があっても私は琳寧の味方だよ」
不安がありつつも勇気づけようと本音を伝えた。
「分かった。実は私達はこの星の人間ではないんだ」
琳寧の突然の言葉に理解が追いつかなかった。
私は夢でも見てるのかと思い頬を引っ張ったが痛みが残るだけであった。
「紫伊香なにしてるの! これは夢なんかじゃなく現実であって、嘘偽りもない事実なんだよ。最後まで聞いてくれる?」
琳寧は紫伊香の動作に微笑んだ後、真剣な表情をした。
「分かった」
ただ、私はその言葉を伝えることしかできなかった。
「私達はこの星の人間ではないと言ったけど、正確には潜在する意識だけこの星の人間の物ではないの」
琳寧の言葉は私には難しく感じた。
「地球に生まれて、青瀬琳寧として、風山紫伊香としての17年間は確かに地球でのことで、その意識も地球のもの。全てが分かったのはこの前の渋谷での出来事なんだ。よく分からない空間に飛ばされたでしょ?」
「うん」
「そこは実は巧妙にできた異空間で本来ならこの次元に住む人間が立ち入る事は出来ない場所だったんだ」
琳寧の表情は徐々に暗くなりそのまま続けた。
「そんな中私達は前の星での影響と時間に関する魔法のようなものに触れていたため入ってしまって、あの空間は私が研究していた術式が埋め込まれていた。その中の防御術式が作動し強制的に全てが流れ込んできて、それと同時に姿を消す術式が作動して今に至るって事なんだ」
「そんなのめちゃくちゃだよ! 何がどうなってそうなるわけなの? 意味がわからない……」
琳寧の事を全部信じ味方をするつもりでいた事は嘘ではない。
ただ、琳寧の言ってる意味を処理できずパニックになってしまった。
「落ち着いて」
急に人の温もりを肌で感じ、何も無かったかのように安心を得て、涙が溢れた。
目の前に声だけだったはずの琳寧の姿があり抱きしめてくれたのであった。
「隠れていたとか、騙していたとかではないんだけど、防御術式の解除の仕方がわからなくて、一時的に姿を出すことしかできないんだ。私は正真正銘、紫伊香の可愛い琳寧だよ!」
琳寧は冗談混じりに紫伊香を元気付けた。
「何それ!」
琳寧は普段私を甘やかすことなど無かったが、私の心を理解し甘やかしてくれたんだなと分かり、嬉しくなり、涙を拭った。
「琳寧大好きだよ〜! 私は一生このままでもいいよ!」
ハグしながらからかうように言うと琳寧はあからさまに照れていた。
琳寧の姿を見るとさっきは信じられなかった事がスッと入ってきた。
「それで私達の過去と琳寧の現状は理解したんだけど、この前の異常事態のことについては何か知ってる?」
これまで笑顔と暖かさのオーラを纏っていた琳寧が急に真剣な顔になり、ほのかに怒りを感じた。
「私達の前世にいた星に関する事なんだ。闇を纏った空と、渦のような亀裂、あれは次元開通だと思う」
「次元開通?」
「そう。異なる次元同士を繋ぎ互いに干渉できるようにする事」
「私は琳寧ほど賢くないけど、例えば3次元と4次元があって3から4には干渉できないけど、4から3にはできるみたいな物じゃないの?」
紫伊香が投げた率直な疑問に対して琳寧は熱心に答えた。
「確かに3次元に住む私達は平面に対して触れたりする事はできるけど、必ずしも1つ上の次元からその下の次元に触れる事ができるとは限らないんだ。見る事はできても干渉できるとは限らない」
「凄い難しそう……」
「前世の星から地球を視認はできていたが、干渉はできなかったんだ。けど新たな交流をしたいという議会での話があったから次元開通を生み出した」
「その話を聞いてると琳寧が生み出したみたいじゃない?」
「うん。これは全部私が生み出したことで全ての元凶なの」
「地球と交流をしたかっただけでしょ? 元凶なんて全然違うよ!」
「私は議会に騙されて研究を進め、次元開通を生み出したが本当の理由は地球の中心部にある資源が目的だったの」
琳寧の辛そうな表情に私は胸を締め付けられた。
「それを知った時にはもう私はもちろん、正義感の強いあなたまで命が狙われてしまった。最期はどうなったかは分からない。本当にごめん」
「謝らないで! そんな事どうだっていいの! 私は琳寧がいてくれるだけで嬉しいんだよ!」
本当にどうでも良かった。ただ琳寧を勇気づけたかった。
「苦しい過去でも耐え難い未来でも、どんな世界でも琳寧とならなんだって出来る気がするの」
「ありがとう紫伊香。――ここからの話をよく聞いて欲しいんだ」
琳寧の深刻そうな顔と、これから聞く未知な話に私は身構え、ただ話し始めるのを待っていた。




