第19話 琳寧に恥じる選択はできない
一縷の望みをかけて、私は攻撃をせず相手の行動を待っていた。
しかしそれは愚かな判断であった。
私との距離を5m、4mと徐々に詰めてきたが、次の瞬間一瞬で消えた。
マナの濃い反応は遥か遠く後ろにあった。
「まずい!! そっちはだめ!!!」
4人のいる方向であった。
時間を戻そうとしたが、なぜか戻らない。
何かによって相殺されていた。
お願い、間に合ってと切願しながら全身に強力な光を帯び、光速の速さで向かった。
何とか4人の元へは私の方が早く着いた。
なぜ私ではなくこっちに向かったのかは分からなかった。
「みんな気をつけて、かなり強いから」
今誰かが死んでしまったら、取り返しのつかないことになる。」
そんなことを伝える暇もなく、強力な殺気を向けられた。
私ですら怯んでしまうほどのもので、4人は立っていられないほどだろうと後ろを見た。
しかし違った。仲間を見くびってしまっていた。
4人は重くのしかかる圧力に、震える足を押さえ何とか耐えていた。
ここにいた時間が長いからなのか、なぜか4人の体内にマナ回路が開いていた。
私は今上級魔法を使うことができないため、空間静止を行うこともできない。
この前の分裂した敵のように作戦などを立てることはできない。
「なるべく私から離れないで!」
全員の生存確率を上げるためにはそう言うしか無かった。
私が魔法を防ぎ反撃する。それ以外は浮かばない。
マナ回路ができたからといって魔法が使えるわけではない。
「頼んだ! 康介は俺の肩に捕まっとけよ!」
千住君は相変わらず状況把握が早かった。
フォリアさんの形をした化け物は、フォリアさんと同じ元素を使って攻撃してきた。
「最悪な悪夢みたいだ」
そう紫伊香は吐き捨てた。
次元ゲートを用い、火を纏った電撃を放ってきた。
当時同じ戦場で見た時は幻想的で美しく、安心感のある強さだと思っていた攻撃手法。
本人はフラッシュダウンウィルと呼んでいた。
何もない空間にいきなりゲートが生まれ、灼熱の電撃が意思を持ったように追尾してくる。
相手に到達すれば即座に、焼き尽くされる強力な混合魔法である。
私はそれをゲートが出る前に、相殺した。
師匠の術式は何度も目に焼き付けていたため、今の私でも相殺が容易であった。
「何が起きてるの……これ?」
「すげえことはわかるけど、マジで何も分からねえ……」
穂乃果と康介は目の前で起きていることを理解できなかった。
小雪はただ目を丸くし唖然としており、亜紀はただ願っていた。
過去の仲間は表情を変えずにただ攻撃を続けていた。
無限のように感じていた攻防は、全身にかかる威圧感の消失と共に終わった。
魔法の相殺によって起こった火花と、電気によって視界が隠れていたためどこに行ったのか分からない。
周囲に強力なマナは感じられなかった。
警戒するのは忘れないが、とりあえず何とかなったと安堵した。
「まだ安心はできないけど、一旦は大丈夫そうかも」
私の一言に、4人はほっと息をついていた。
ひんやりとしたビル風が、元素魔法により高められた熱を冷ますようで心地良く感じた。
ひと段落ついたと思ったと同時に、私が助けた人々の一部がこちらに向かってきた。
20人ほどである。
「——さっきはありがとうございました」
代表するように60代ほどのおじいさんが感謝を伝えてきた。
周りにいる人達はそれと同時にお辞儀をしていた。
中には震えている人や軽度の怪我をしている人、そして康介と同じような重症者もいた。
感謝を伝えるためだけに来た訳ではないと言うことは分かっていた。
目の前で理不尽な現象が起こり、ただ逃げるしかできない自分達とは違った人間を見てしまったのだから。
私が上級魔法を使い化け物を始末したのも、師匠の見た目をした何かとの戦闘も当然見られてしまっている。
私の知る魔法に記憶を抜き取るようなものはない。
「何が起きているのかご存知でしょうか?」
同じ老人が尋ねてきた。
「私達いきなり変な砂漠のような場所に飛ばされて、何とか水を確保しながら歩いていたらここで変な妖怪に……追われてしまって……」
この老人の言葉に頭を悩ませた。
私達がたまたま森のようなところに飛ばされただけで、他の人は違うのかもしれない。
世界中でこれが起きている可能性も……
「私から言えることは、ここは異常が発生している空間です。皆様のお気持ちを察しますが、私にはどうすることもできないんです」
魔法について話してもかえって混乱するだろうし、そもそも魔法というものが伝わらないであろう層もいた為控えた。
「私達今の状況がよく分からなくて不安なんです。あなたは戦う術を知っているみたいなので、ついて行ってもいいですか?」
今度は子供の手を握る母親が尋ねてきた。
隣の子供は、泣くことすらなく表情が暗かった。
答えにくかった。正直な話、これ以上負担を増やしたくない気持ちがある。
そして目の前で命の選択が生まれてしまうのを恐れた。
しかし私はそんな薄情な人間では無い。
琳寧に誇れる自分でいたかった。
今の人生をここまで頑張れているのは琳寧のおかげであり、好きな人のためであった。
そんな人間の回答はただ一つである。
「分かりました。私達が皆さんを元いた場所に安全に返します!」
その一言が全員の絶望を上書きした。
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