第18話 望まぬ遭遇
歩いても歩いてもどこまでも森。そう思っていた。
最初に足を踏み入れた瞬間からここは森なんだと。
しかし実際は違った。
現在の天空のタイマーは3:40を示していた。
あれからしばらく歩いて知った事実は、今私達がいる空間は森ではないということだ。
それを裏付ける根拠が目の前に広がっていた。
「これは……どういう……こと?」
私1人が口を開き、他の4人は目を見開き、目の前の状況に驚き固まっていた。
目の前の自然物の終わりの先に、地獄のような景色が待っていた。
所々崩壊しているようなマンションや、次元の歪みを生み出している球体など、地球のものとそうでないものが混ざった空間が広大に広がっていた。
しかし地獄なのはこの景観のことなんかでは無い。
そこで起きていたことだ。
そこには私達と同じ地球の住民であろう学生、大人、妊婦、老人そして幼児など、様々な層の人間がいた。
数え切れないが確実に数百はいるだろう。
その人間達は先程の私たちと同じように、多種多様な化け物達と戦っていた。
いや、戦っていると言うより一方的な虐殺のように見えた。
不可解な現象に立ち向かう術もなく逃げ回り、最後は悲惨な姿になる。
それが目の前で繰り返されていたのである。
「し、紫伊香……あれ、何?」
小雪が震えながら、私の腕を掴み聞いてきた。
「ごめん……私も何が何だか……」
私もみんなと同じであった。
きっとみんなと同じことを考えている。
私を除いた4人がたまたまこの異空間に入り込んでしまい、そこは謎の高位存在のペットが巣食う森であると。
しかし森はごく一部に過ぎず、人工物や、異物などが広大に広がっており、そこにはなぜか多くの地球人がいて、化け物に襲われていたのだ。
色々考えているうちに天空のタイマーは3:30を迎えた。
私は急いでマナ感知を行い、脅威の接近に警戒した。
目の前の大量のマナが紛らわしかったが、1つ1つが弱かったため無視することができた。
3分ほど経った。集中が切れてきた。
しかし何も現れない。
「おかしい」
今までの法則だと、タイマーの右2つが30になるあたりで非科学的な化け物に襲われていた。
だがいつになっても現れない。
たかが2回続いたからといって3回目以降が保証される訳では無い。
ここに琳寧がいたらきっとそう言うだろう。
私は単純過ぎたのかもしれない。
今回はたまたま3:30になっても来なかっただけだ。
時間を戻せるからと言って、緊張を緩めたことによる犠牲を出したくはない。
毎分毎秒緊張感を持つ必要があった。
「タイマーの右2つの数字が30の時に来る法則性はないみたい。とりあえず目の前の犠牲を防ごう」
そう言い捨て私はすぐに、風と電気を体に纏い飛び出した。
「1人でも多く救わないと」
森とは真反対の謎の空間に踏み入れた。
そこには大量の化け物がいた。
人型のものや、本の中にいるような複数顔が生えている四足歩行の生物など。
しかしそれらのマナ濃度は低く、圧縮電流を指に纏い、濃縮したマナを放つだけで簡単に消し飛ばせた。
私の緊張感を極限まで高めたのは、ただ1人。ゆっくりと地を押し殺すように歩き、誰も近づかせない程の威圧感を放ちながら、私に近づいてくる1人の人間であった。
50m程の距離に入るまで、マナもその威圧感も感知することができなかった。
40m……30m……
と歩速を変えずにゆっくりと確実に地を殺しながら、私に近づいてきた。
20m。
そこまで近づいてきた時はっきりと顔が見えた。
今まで戦ってきたクリーチャーのような化け物とは種類が違っていた。
正真正銘の人間であった。
しかも私の知っている人である。
私がフォールに入る前の、前リーダー、フォリア・ゼフィトルであった。
フォールという名前は、彼の名を基に付けられたものである。
なぜあの時と年齢が変わらずに見えるのか、なぜここにいるのかは分からなかった。
彼は私に優しく指導してくれていたが、突然消えたのである。
その時の私は階級も低く、何も知らなかった。
私は、フォリアさんとの久しぶりの対面に動揺を隠せない。
しかし彼から感じるものは殺気だけである。
私は現状が理解できなかった。
それを解決できるとは思えなかったが対話を試みた。
「フォリアさん。今のこの状況を説明できますか?」
何も返答はない。
当時と年齢は同じで、面影もあった。
ただ違うところもあり、なぜか目が紫と黄色の炎で燃えているようであり、自らの意思で動いているようには見えなかった。
そして見覚えのある紋章があった。
赤と青色の紋章である。
天空のタイマーが動き出してから最初に出会った、トラウマとも言える少女の化け物の右目に刻まれていたものだ。
私はあの紋章をあの少女特有の柄のようなものだと思っていたが、他に意味があるみたいだ。
フォリアさんの右目にあんな恐ろしい紋章はなかった。
あの少女の時はハッキリと見えなかったが、悍ましいデザインである。
その紋章は細長く潰した人間を捻って交差させているようであった。
10m。
すぐに何かが始まる。
そんな距離まで近づいた。
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