第13話 明かされる事実とその先の不安
「どうして……」
私は理解できなかった。
この世界で琳寧を覚えているのは私だけ。そう思っていた。
もしかしたらこの空間ではみんな覚えているのかな。そう考えてしまった。
しかしそんな考えを打ち消すように——
「琳寧? 私の知らない人?」
そう小雪が目をパチパチとさせ聞いてきた。
「何言ってるの? 琳寧だよ、青瀬琳寧」
苦笑いをしながら、穂乃果は言った。
私はさらに意味が分からなくなった。
小雪と琳寧はそこまで仲の良い友達というわけではなかったが、ごく普通に会話をしたりしているのを見たことはある。
——ということはおかしいのは穂乃果の方である。
穂乃果はいきなり立ち上がり、男子の方に向かった。
「2人とも琳寧覚えてるよね、クラスメイトの。青瀬琳寧」
「——そんな奴いたか?」
「記憶にないな」
康介と千住君の返答に穂乃果は青ざめた。
そしてその会話によって確証された。
おかしいのは穂乃果、そして私だ。
「え? 紫伊香は覚えてるよね?」
パニックになるように穂乃果は私に縋ってきた。
穂乃果の気持ちが痛いほど私はわかる。
「もちろん。忘れるはずがない」
「他の人が覚えていないのはなぜか分かる?」
私は困った。誤魔化さずに説明することができない。
しかし、すでに全員が当事者だ。
「みんなに話すね」
話せる事だけ話そうと思い、私は穂乃果にそう言った。
「みんな! ちょっと集まって聞いてほしい!」
そう言うと私に視線が集まった。
「さっき琳寧についての話が出たと思うけどその子は私達のクラスメイトで、私の幼馴染なの」
穂乃果以外の3人は呆気にとられていた。
そのまま私は続けた。
「ちょっと前に空の異常と謎の生物が現れて世界がパニックになったと思うんだけど、そのちょっと前に私と琳寧は今日みんなが入ったところと同じところに入って、そこを出たら世界から琳寧の存在が消えていたの」
「待って、待って、マジでわからん……」
「紫伊香が嘘ついてないのは分かるけど整理がつかない……」
康介と小雪は頭を抱え、困惑していた。
「なるほど。だから紫伊香はこの空間に冷静に対処できていたのか」
千住君は冷静に分析していた。
「待って、それじゃあなんで私は覚えてるの?」
穂乃果が焦るように言った。
穂乃果の疑問は当然である。
「——ごめん。分からない……」
私は本当に分からなかった。
「そっか。紫伊香は悪くないから謝らないで」
沈黙の中で5人は様々な考えを巡らせていた。
その沈黙を破るように小雪は口を開いた。
「1回入ったってことは出方もわかるの?」
至極当然の質問であった。
「前回と入口は同じところだったんだけど、入った先が違うの。前はこんな空間じゃなくて、渋谷の建物の中でただ人がいないだけで入り口と出口が同じだった」
その答えに小雪は悲しそうに俯いた。
私も今置かれている状況が分からなかった。
琳寧への手がかりを求めて飛び込んだものの、進展はない。
「紫伊香はどうしてまた謎の空間に入ろうとしたの?」
穂乃果が純粋な疑問をぶつけてきた。
「琳寧についての手がかりがあると思って……」
「そっか。そうだよね。私達にできることがあれば協力するからね!」
穂乃果は紫伊香を励まし、その言葉に残りの3人も疑問を残しながらも頷いた。
「なんか急に重い話してごめんね! みんな疲れただろうしもう寝よっか!」
紫伊香の言葉に同意し、全員寝床についた。
今が何時かは分からないが、疲れを取り、明日に備えるため眠りについた。
「エリーさん〜今日の任務はなんですか?」
「なんか議会から不安因子を消してほしいとか言われてさ」
「なんですかその変な指示は!」
エリーとローラは今日の仕事について会話をしていた。
そこにサイカが来た。
「それで今回の詳細は?」
「サイカは今日もやる気すごいね! とりあえずこの資料読んどいてよ!」
サイカが配属されてから半年がすぎていた。
彼女は優秀なため、短期間でフォールのリーダー補佐官になった。
「なんかこれ曖昧ですね。大丈夫なんですか?」
「ん〜上に聞いてみたんだけど確かな情報だからとしか言われなくてさ……」
サイカの疑問も当然だ。
作戦詳細には場所と目的と処理についてしか書かれていない。
相手の規模や戦力については何も分からなかった。
「まあ最強のフォールのリーダーエリーさんと、それを負かした天才補佐官サイカさんがいるから大丈夫でしょう!」
ローラは誇らしげな顔をしてそう言った。
それを見て2人は声を上げて笑った。
「ローラには調子狂わされちゃうな!」
「えぇ、ほんとですね」
「まあ指示が出された以上完遂するだけだね!」
「ですね」
エリーとサイカは会話を終え、任務内容をチーム全体に伝え、出動準備をした。
フォールは総勢18名で、基本5人1チームで行動している。
各チームにリーダーがいて、サイレントノードと呼ばれる3人組の精鋭チームにはエリー、サイカ、ローラがいた。
このチームは少し特殊であった。
サイカは全チームを俯瞰できる位置で、自分のチームだけでなく全体の指揮を取る。
エリーは単騎で行動しつつ全チームに対する危険を排除する。
ローラは攻守どちらも得意だが、光属性魔法に特化しているためサイカとエリーのサポートをする。
「よし出撃するぞ〜!」
エリーの合図とともにゲートを通りテレポートをした。
着いたのは小さな町のような場所で、あたりは静かで人の気配を感じなかった。
ただ目の前に大きな廃墟のようなものが見えた。
本当にここであっているのかと思った矢先に殺意を感じた。
すかさずサイカは音の魔法を使い情報を共有した。
「敵にすでに気づかれている。注意して」
それと同時くらいに他チームから通信が来た。
「こちらチームA、負傷者発生! 攻撃を受けています!」
「敵の人数や、攻撃手法は?」
「わかりません。ただ魔法によるものです」
サイカは焦った。
6ヶ月の時を経て、フォールのメンバー全員が強いことを知っていて、今まで苦戦することはなかった。
「了解。全チーム待機。サイレントノードが動きます」
そう全員に伝達すると今度は、エリーとローラの方を見た。
「ベンジャミンさんは少し待ってて私が行く、ローラさんは遠距離サポートをお願い。姿は見せないように」
そう言うと姿を消して、一瞬で感知できないほどの距離に行ってしまった。
私は悔しかった。
しかし彼女の方が強いのは事実だったので周囲を警戒し、報告を待った。
「2人とも、入口付近の敵は始末した。警戒しつつ入ってきて」
サイカはエリーとローラに連絡した後、全体にも連絡した。
「今から、3分後廃墟にA,B,Cチーム各方位から突入して」
「了解」
各チームのリーダーがそう返した。
サイカは敵の動かなくなった姿を見ながらため息をつき、独り言をこぼした。
「何が起きているんだろう。この魔法は私だけが使えるはずなのに……」
相手が時間操作魔法を使っていた。
そこまで使い慣れはしていなかったが、間違いない。
もしベンジャミンさんが相手していたらと思うと背筋がゾクゾクとした。
被害が出ないよう、いつもエリーがしているように単独で危険因子を排除した。
サイカと同じ系統の魔法を使っていたが、サイカには及ばなかった。
危険と思われる敵は全てサイカが処理し、後はエリー、ローラ、他チームが処理した。
「ナイスだよ〜! サイカ! 今日は祝杯だ〜!!」
誰もフォールから死人が出ず危険な任務を終えることができエリーは浮かれていた。
それとは対照的にサイカは暗い表情をしていた。
「近いうちに2人で話したい。私の魔法と私の出生についてもその時」
サイカは暗く俯き、悲しげな表情で、か細くそう言った。




