第11話 魔法はみんなのために
人の気配はなかったが得体の知れない何かが出てくるわけでもなかった。
4人と共に道なりに進んでいき、少しずつ明るく、風景がみえるようになってきた。
「何ここ……」
「何だよ、ここ……」
全員が声を揃えるように言い、目の前の光景に目を見開いた。
そこは森の中のようであった。
出口から出て後ろを見ると私達は洞窟から出てきたのだと分かった。
「さっきまで渋谷にいたのになんで洞窟に入って森に繋がってるの?」
「——そ、そんなの俺に聞かれても……」
小雪と康介が不安そうな声で話、康介は少し血の気が引いていた。
「今2種類の考えが浮かんでいる。1つは俺がみているのはただの夢。もう1つは俺達5人が別の世界に入り込んでしまった。」
「現実的とは思えないけど、実際に起きてる事だもんね。集団幻覚の可能性もあるわね」
多少は焦りがありながらも、亜紀と穂乃果は冷静さを保っていた。
2人に私は感心してしまった。
この不可解な状況にも関わらず、冷静でいて、非現実的な可能性を複数挙げている。
そんな風に考えていたが、4人から見たら1番平静を保っているように見えるのは私であった。
それを疑問に思う人も当然いた。
「——てか、風山さんは妙に落ち着いているように見えるけど、何か知ってるの?」
突然の千住君からの問いかけに驚き、あたふたしながら誤魔化した。
「ううん、私も何が何だかよく分かってなくて、驚きすぎて逆に冷静になっちゃった、みたいな!」
何言ってるんだろ私と思いつつ、口元を強張らせ誤魔化した。
「そっか。分かった」
何かを察したように見えたが、ただ理解を示すように返事をしただけであった。
私って嘘つくの下手なんだと、恥ずかしくなり、質問攻めされたら全て吐き出しちゃいそうと焦りを感じた。
小雪は慌てるように洞窟の中へ戻ろうとしたが、蜃気楼のように出口は消えてゆき、森の中を進むしかなくなった。
私のマナ感知では周囲に危険を感じなかったため、琳寧の手がかりを少しでも見つけるために先に進みたかった。
しかし小雪はパニックになっていた。
「何これ……もう私お家に帰りたいよ……」
小雪は泣きながら康介にしがみついていた。
あまりにも弱まる小雪の姿に康介は、自分が弱気でいてはいけないという気持ちが芽生え、弱音を吐かずただ励ますように声をかけた。
「絶対無事に連れて帰るから、そばを離れるなよ」
私は何だか羨ましくなった。
「このままここにいても解決しないから何か手掛かり探してみない?」
私はここで時間を無駄にすることはできなかったのでそう提案した。
小雪は行きたがらなかったが、多数決はこちらに傾いたため進む事になった。
私が先頭を進もうとしたが、先陣を切ったのは千住君であった。
男らしさに感心していると、穂乃果の視線を感じ顔を逸らした。
ここがどこなのか、森がどこまで広がっているのかなどは分からなかったが、あの日と同じ場所で発生した事だから、何か得られるものがあると思っていた。
そんな風に考えていると、マナ感知に何かが引っかかった。
固定のなにかなどではなく、小さな塊が大量に動いている。
「何か近づいてくる! 急いでそこの茂みに隠れて!!」
紫伊香の気迫に圧倒され、理由を聞く間もなくみんなで入り込んだ。
数十秒そのままでいると恐ろしい光景が通り過ぎた。
赤みがかった横長の目、鋭い牙、殺傷するためだけの爪、全身が刺々しく燻んだ色をしていて、頭には悪魔のような角が生えている何かの群れが通り過ぎた。
サイズはさほど多くないが動きが早く、恐怖を感じさせるには十分すぎた。
先程まで取り乱しを見せなかった2人を含め、みんなパニックになっていた。
「みんな落ち着いて。深呼吸して」
私はただそう声をかけることしかできなかった。
「紫伊香はどうして近づいてくるって分かったの?」
「そうだよ風山! どういうことなんだよ!」
穂乃果と康介は問いただした。
無理もない。不可解な現象に奇妙な生き物の群れ、それに気づいていた私。
そしてあれをみても冷静である私。
どう考えても怪しさMAXである。
「——わ、私耳が良くてさ、何か近づいてくるって肌感覚でわかったんだよね!」
どうにか誤魔化そうとしたが、追い打ちをかけるように康介は責めてきた。
「あまりにも冷静すぎるし、1人でこんなとこに迷い込んでるし怪しさ満点だろ!」
「もういいだろ康介! 風山さんのおかげで無事で済んでるわけだし争っていても仕方がない」
また千住君は私を庇ってくれた。
「それもそうね。今は寝泊まりできる場所をさがしましょう」
亜紀と穂乃果の言葉に康介は押し切れられ、5人は森の中で夜を越せる場所を探しに行った。
時間が分からずただひたすらに歩き回った。
手持ちの飲み物も残りわずか、空腹も感じ始め限界が近づいてきていた。
私はマナで体を囲っていたため、口渇感や空腹感に悩まされなかった。
原理はよく分からなかったが、エネルギー消費量が少ないように感じた。
そんな風に歩いていると先頭にいた千住君が嬉しそうに声を上げた
「みんな見てくれ! 洞窟が見つかった!」
そこには5人で入っても少し余裕があるほどの洞窟が見つかった。
宿泊地は決まったが、食料の問題は解決しなかった。
魔法を使えば水くらいは出せると思うが、食料は多分無理だ。
そもそも魔法を見せるわけにはいかない。
「食料はどうする? 狩りでもする?」
穂乃果が疲れ切りながらも口に出した。
「穂乃果って狩りできるの?」
目を丸くして小雪は聞いた。
「したことないけど、他に選択肢ある?」
少し怒り混じりに答えた。この都会育ちの中に経験者がいるわけもなかった。
「動ける人いるか? 誰か俺と行こう」
そう千住君は言うが、みんな疲れ切っていた。
「私がついていくよ」
「じゃあ私も」
紫伊香と亜紀を2人きりにはさせまいと穂乃果も立ち上がった。
私は穂乃果に千住君を狙っていると思われているんじゃないかと頭を悩ませた。
「よかったらこれ使って!」
そんな考えを吹き飛ばすように、小雪がコンビニのビニール袋をくれた。
「ありがとう!」
穂乃果の視線に注意しながら食料調達に出た。
「近くに川とかあれば魚を取って食べれるんだけどないかな?」
「風山さんの耳の良さで水の音とか聞こえない?」
「ちょっと待って」
私はそう言い放ち、沈黙の中、マナを耳に集中させ水の音を探した。
波紋状の捜索網に1箇所ヒットした。
「ここからこっちの方に真っ直ぐ進めば2,3分で見つかると思う!」
「風山さんって超能力者みたいだね!」
「そんなんじゃないよ!」
笑いながらそう言う千住君にバレたんじゃないかとドキッとした。
まっすぐ歩くと川があり、持ってきたペットボトルにまず水を入れた。
その次に魚がいないかと水中を探した。
もしまた奇形の謎の生物が出てきたらどうしようかと思ったが、そんなことは起こらず鮎が数匹泳いでいた。
「ねえ見て鮎が泳いでるよ!」
「本当だ。けど少し心が痛むね」
「命に感謝しないとね」
命を奪うことに心を痛める穂乃果は優しい子だなと思った。
暗くなってきたため、簡単に捕まえられそうになかった。
「ちょっと今からする魚を捕まえる方法恥ずかしいから、あっち見てて!」
何を言っているんだと自分でも思ったが、2人に少し離れてもらった。
「よし! これで魔法を使える!」
魚の群れを囲う大きな、木の網を展開させゆっくり掬い上げた。
ちょうど5匹ほど取れた。
すぐに小雪が渡してくれた手持ちのビニール袋に移し替え、木の網を消して2人の元へ戻った。
「人数分取れたよ〜!」
「本当だ! 風山さん凄いな」
「昔から紫伊香は運動神経が抜群にいいんだよね」
2人に褒められて嬉しくなり、洞窟に戻った。




