第10話 新たな発見と予想外の遭遇
前世の記憶が流れ込んできた影響は夢にまで及び、懐かしい記憶、思い出したくない恥ずかしい記憶、そして様々な後悔などが押し寄せてきた。
私とサイカはこの星再び、紫伊香と琳寧として出会うことができた。
今世での琳寧との幼馴染としての関係は既に幸せであったが、前世の記憶があるおかげでさらにそれを特別なものにしてくれた気がした。
「この気持ちを伝えるためにも、まずは琳寧に会いに行かなきゃ」
今琳寧がどうなっているか、そしてどこにいるかは分からなかった。
しかしこの昂る気持ちを抑えきなかった。
まずは行動と思い、母親に今日学校は休みだと嘘をつき
「友達に会いに行ってくる!」
とだけ伝え、勢いよく家を飛び出した。
何をすればいいか検討もつかなかったが、まず最初に事の発端となった渋谷に向かう事にした。
あそこで2人は巻き込まれ、琳寧と私はバラバラになってしまった。
「流石にそう簡単にはいかないと思うけど、まずは行ってみないと」
1発目で成功するとは思っていないが向かうしかなかった。
渋谷はいつきても人混みであった。今は平日の昼にも関わらず。
今日の天気はあの日と違い雲ひとつなく、少し日差しが暑いくらい天気が良かった。
また同じ現象が起こり手がかりを見つけられると信じ、建物の中に入った。
「そう上手くいかないか」
ただ楽しそう賑わっている空間に入り込んだだけであった。
このまま心当たりある場所をしらみつぶしに探し回ってもいいが、時間は有限である。
もしかしたら無限にできるかもしれないが、そんな事にマナを消費できないと思った。
「——もしかしたらマナを追跡したり、感知したりすることできるんじゃないかな?」
紫伊香だけの記憶ではそんなことを思い浮かべもしなかったが今は違った。
ただこの体になってからまだ魔法を使っでいない。
使う事による自分と周りへの影響がどれほどのものかを理解していなかったので躊躇っていた。
今琳寧が危ない状況であることはあの手紙から理解していたので、今はそんなこと言っている場合ではないと思い、人通りが少なく建物がないところに向かった。
「よし、ここなら色々できるだろう」
エリーの記憶があるため魔法を使うことは初めてではない。
ただ紫伊香の体で、紫伊香の意識の方が強く感じられているため緊張した。
まず最初に下級魔法の元素操作を行うため近くに木を集めた。
下級魔法は簡単である。
それを想像し、マナを操作し元素の特定術式を作り出力するだけである。
思ったよりスムーズにできた。
集めた木は勢いよく燃え上がった。
「やった!!」
簡単な魔法であったが新鮮な感覚で面白さを感じた。
火事が起きないようすぐに水を生み出し消火した。
「下級レベルの操作はどうってことなさそうだ」
体への違和感や寿命が縮まったような感覚はなかった。
次に中級魔法を試してみる事にした。
自分でマナ痕跡をつけ、それを感覚で認知することができるか試した。
「これもそんな難しいもんじゃないか」
前世の知識を持っている紫伊香からすればどうってことなかった。
下級と同じく、体に異変はなかった。
「あれ〜? これじゃあなんでも使えちゃいそうだけど」
あまりにも単純すぎて調子に乗ってしまった。
「上級魔法もせっかくだし試してみよう!」
そう言い放ち時間操作を行う事にした。
「――サイカズ・エンドタイム――」
無詠唱でも使えるが久しぶりにカッコつけたくなってしまった。
目の前に生えていた小さな植物の芽生えに向けて行った。
すると瞬く間に大きくなり綺麗な花を咲かせた。
「やった! 久しぶりでもできた!」
感動のあまり飛び跳ねて喜んでいたら体の異変に気づいた。
寿命が縮むとか、血を吐き出すとか、そういうものではなかった。
「え、何これ?」
想像していたのと違う異変が起きていたのである。
下痢が出そうな腹痛であった。
レディとしては寿命が縮んだ方が良かったレベルで今にも出そうである。
恥を承知でお腹を抑え、足をガクガクブルブル震えさせながら公園のトイレに駆け込んだ。
「確かに上級魔法はリスクが酷いね! しばらく控えよう!」
琳寧の手紙を読む感じだともっと大きなリスクがあると思ったが、あまりにも間抜けなリスクに拍子抜けしてしまった。
「今使うのは中級魔法でマナ追跡するくらいで良さそうだね」
色々と試して成果は大きく得られたため、中級以下のみを使い琳寧を探しに向かう事にした。
人通りの多い街に戻り、恐る恐る中級魔法を使用した。
単純にマナの動き、痕跡などを見たり、感知したりしているだけなので、誰も私が魔法使いだと知る由がなかった。
エリーの意識では魔法は科学と同じく日常的に感じていたが、紫伊香の意識では魔法はあり得ないものであった。
そのため、渋谷の中心で魔法を使っている私は主人公気分であった。
街を見て回ったが何も見えず、何も感じなかった。
最初に行った例の建物にまた向かってみた。
そこの角を左に曲がると見える。そんなところに来た瞬間寒気がした。
今日最初に行った時は感じなかった悪寒。
周りの人に怪しまれないよう慎重に向かい、角を曲がった。
するとそこには信じられない景色が待っていた。
「何これ……」
そこは所々に小さなブラックホールが侵食しているようで、でたらめな構造をしていてほのかに全体があの日の空のような闇を帯びていた。
これが琳寧につながる痕跡だとは思わなかった。いや、思いたくなかった。
みるからに気持ちが悪く近づきたくなかった。
しかし少しでも可能性があるならと思い、ブラックホールのようなゲートに近づき、害は感じられなかったため、通過した。
そこはあの日と同じような空気感であったが、空間自体があの日のものではなく、別のどこかであった。
注意深く奥に進んでいくと、何か音が聞こえた。
下級元素魔法で音を操作し、周囲を遮音し近づいた。
「雪が悪いんだろ! 学校サボって渋谷行くとかいうから!」
「こう君だってさっきまでウキウキにしてたじゃん! 酷いよ……」
「まあまあ、2人とも落ち着いて!」
「そうだよ今は喧嘩している場合じゃないよ」
カップルが喧嘩しているのを他2人が止めている場面であった。
さらに近づくと知っている顔であった。
紫伊香は突然の遭遇に自然と出ていってしまった。
「あれ? みんな何してるの?」
この4人は紫伊香のクラスメイトであった。
左から白亜小雪、藤城康介、千住亜紀、飯島穂乃果である。
「あれ! 紫伊香じゃん!」
小雪が少し嬉しそうな顔をして近づいてきた。
「やっほ〜! それでみんなはどうしてここに?」
「全く同じ道を歩いてきたなら風山と同じ理由でここにいるんだよ」
あからさまに康介は苛立っていた。
「そんな言い方ないだろ康介」
「そうだよ藤城君」
亜紀と穂乃果は落ち着いていた。
私は小雪と藤城、千住君と穂乃果がそれぞれカップルで、ダブルデートで学校をサボってきたのだと確信した。
「スマホで助けは呼ばないの?」
私は至極当然の質問をした。
「そうしたいんだけど、電波が届かないの」
そう穂乃果は言っただけであった。
私はここは地球と切り離された空間だったことを思い出した。
この場で正体を明かすわけにも、魔法を使うわけにもいかず、成り行きに任せるかと思い話を合わせながらついていく事にした。




