09
「予想以上に遅くなってしまったわね」
「うん、ゆっくりしすぎた」
教室でやらなければいけないことをしたり、頼まれたことをちゃんと守ったりしている間に十九時近くになってしまった。
「それでも七月とかと九月でこんなに違うんだね」
「そうね」
気温の方はほとんど変わっていないけど暗くなるまでの時間はそれよりは分かりやすく変わっていっている。
このまま生き続けられればあっという間に寒くなって温かい料理がより美味しく感じるようになるだろう。
「あ、コンビニに寄ってもいい?」
「それなら外で待っているわ」
「うん、すぐに済ませてくるから」
スマホを弄るタイプでもないので暗く染まりかけている空を見ていた。
その途中、ふとなんとなく柚木さんともこれで三カ月目かなんて考えた。
なにもなければそっちの方も続いていって、私の人生の中では一番長い友達の誕生ということになる。
「お待たせ、待たせちゃったからポテトを買ってきたよ」
「もちろんあなたが食べるのよね?」
「ううん、真綾にあげるために買ってきたから」
……本当は受け取りたくないけどここで格闘もしたくないから二本だけ貰うことにした。
「まなみは最近付き合いが悪いね」
「私があなたを独占してしまっているからよね」
「違うよ、さやかにしか意識がいっていないということ」
「でも、学校では友達といることが多いじゃない」
違うクラスだから不自然に見られない程度に見にいっているけど大体はそんな感じだ。
姉も考えて動いているからあれからは学校であまり近づいてこなくなったし、姉が関係ないのであればそれしか考えられない。
「中々三人で仲良くは難しいんだね」
「私なんて一人とすら難しかったからいまのこの状態には驚いているわ」
「真綾の場合は壁を作ってしまっていたんだと思う」
まあ、他の部分でマイナス要素が少ないなら結局はそういうことになってしまっていたのかな、と。
ただその場合は自分を客観視できていなかったということだから……どちらにしても情けないことには変わらなかった。
口先だけかと自分にツッコミを入れたくなる。
「もう家か……」
「今日もありがとう、それじゃあまた――なに?」
「あ……離れたくなかったの」
このまま家に連れていくことはできる、だけど最近はこういうことが増えすぎていてそろそろ早織さんになにか言われそうだから一気に不安になってしまった。
そもそも私は一人でごちゃごちゃ考えて悪い方に傾いていたことが多い人間だ、少し変われてもそれが完全になくなったわけではないからこういうことになるのだ。
「ま、真綾が私の家に泊まるのはどう?」
「その場合は早織さんに許可を貰えたらね」
「それならいってくるっ」
元気ねえと他人事のように内で呟くしかなかった。
「大丈夫だって、それどころかずっと泊まってほしいって言ってた」
「はは、早織さんは変わらないわね」
友達はそう言ってくれているけどその友達のご両親からはよく思われていない、というパターンよりは遥かによかった。
許可を貰えたら云々と言ったのは私なので一旦一人で帰って必要な物を持ってきた、あと入浴だけは済ませてきた。
「今日は偶然ご飯を作っていなかったみたいだからなにか食べにいこう」
「なんとなくそういう予想をしていたということ?」
「ううん、なんか凄く忙しくて疲れてじっとしていたらこんな時間になっちゃったんだって」
「それなら早織さんも一緒に――駄目なの?」
「二人きりがいい、真綾はお母さんといるとお母さんとばかり話すから」
早織さんがいるときは彼女が寝ていることも多いわけだけどそこまで間違っているわけでもない。
「いつもは悔しいから寝たふりをしているだけ」
「はは、それなら話しかけてきなさいよ」
「真綾はお母さんが好きなの?」
「人としては好きよ?」
明るくて優しいから。
友達とは仲良くできてもご両親とは普通中々できないわけだからありがたいことだ。
「……私のことを好きになってほしい」
「早織さんのことを好きになっているのにあなたのことが好きじゃないわけがないでしょ?」
拒絶しないようにしているけど好きではないのならここまで二人きりの時間を増やしたりはしない。
強いメンタルの持ち主なら嫌いな相手に対してもにこにこ笑みを浮かべて対応をして正に違いというやつを見せつけてくれるだろうけど。
実際にそういう子は過去にいた、そしてすごいと言っても「そんなことはないよ」と絶対に受け取ろうとはしなかった。
「でも、最近はまなみの方が上手くやれている気がする」
「私的にはお姉ちゃんや柚木さんに興味があると考えているけどね」
「あ、さやかに興味があるのは間違っていないと思うけど」
「そうでしょ?」
「だけど私に興味を持っているわけじゃないよ」
まあ、それなら羽根さんは姉に興味を持っていると絞りやすいからいいか。
「それよりまたファミレスでよかったの?」
「ええ、安くて美味しいは正義よ」
「ご飯を作るときでもそうなの?」
「あまりお金を使わずに美味しい物を作れたのならそうね」
自分だけが満足できたわけではなく姉や両親にもそう言ってもらえると笑みがこぼれる。
お客さんである彼女達が同じようにしてくれるならもっと最高だ、身内の場合は家族目線で見すぎて甘々すぎてしまうからね。
「お母さんはいつも美味しいご飯を作ってくれる」
「ありがたいわよね」
「真綾が作ってくれたときもそうなんだよ?」
「食べてもらう以上、低いレベルの物は出せないわよ」
実は相手が一口目を食べるまでは心臓が慌てて――いや、食べている間はずっと普段通りとはいかなくなる。
食べている最中はあまり話さなくなる彼女の場合は影響度が大きかった、冬だったら余計に心臓が疲れて限界値が低くなってしまうから気を付けたいところだった。
「美味しかったわね」
「うん、あとはお風呂に入って真綾と話すだけでいい」
「それなら私はあなたの部屋で待っているわ」
「うん、そんなに時間をかけずに出てくるから待ってて」
部屋で待ちつつ、最初から外で食べることが分かっていたら入浴の時間をずらしたのになんて考えていた。
自分の部屋ならもう入ったということで気にせずにいられるけど彼女の部屋だとそうもいかない。
ま、いまから出ようものならお風呂上りの彼女が付いてきてしまって湯冷めする可能性があるからできないけど。
「お待たせ」
「早かったわね」
「真綾がいるときに長く入ったりはしないよ」
もうあとはゆっくりして寝るだけなのになんかハイテンションだった。
落ち着かせるために首にかけてあったタオルを取って拭いていく。
「慌てる必要はないの、私ならちゃんといるから」
「うん」
「あと、早織さんの相手もしてあげてちょうだい、さっき寂しそうな顔をしていたわ」
「分かった、もう少ししたらいってみる」
「ええ」
それから十分ぐらいが経過した頃に「いってくるね」と彼女は出ていった。
正直、やらなければいけないことを済ませて眠たくなってきている身だから全部付き合えないのもあって他に意識を向けてくれるのはありがたいことだ。
少し足を伸ばしてうとうととしていると「床で寝たら風邪を引いちゃうよ、ベッドで寝ようね」と私を……。
「って、あなたすごいわね」
姉でも苦戦しているぐらいなのにひょいと持ち上げてベッドまで運んでしまった、流石にこれには眠気もどこかにいってしまう。
「お母さんを部屋まで運ぶことがあるからこういうことには慣れているんだ」
「ただ……いいの?」
「ベッドで一緒に寝ること? うん」
「そう、あなたがいいなら一緒に寝ましょう」
問題だったのはここからで、ベッドが柔らかすぎてゆっくり喋っていられるような余裕がなかった。
彼女の声の高さ、話し方も問題だった、その気はないだろうけどいまの私からすれば全力で寝かせようとしているようにしか考えられなかった。
そういうのもあって泊まったのにも関わらず彼女の家ではほとんどなにもしないまま終わってしまったという……。
「ごめんなさい、これでは満足できないわよね」
「え、全くそんなことはないよ、真綾がいてくれただけで嬉しかった」
「そ、そう――あっ、一旦家に帰ってお姉ちゃんを起こしてくるわね!」
「しー」
「ご、ごめんなさい」
……姉の方は自分で起きられるからいいとして、一度家に帰りたかったのは歯を磨きたかったからだ、荷物とかのこともあるけど主な理由はそれだ。
「はぁ……」
今回はいつものアレで付いてきたりしなくてよかった。
ただ、聞かれた場合のときに合わせてもらいたくて歯を磨いてから姉の部屋にいく。
「お、帰ってきたんだ、おかえり」
「ただいま」
「それなのに起こしに来てくれたんだね、お姉ちゃん嬉しいよ」
「必要ないと思ったけど顔を見たかったのもあるのよ」
百パーセント嘘をついているわけではないから気にする必要はないはずだ。
家族の顔を見たくなるのはある程度の仲の家族なら当たり前のことだろう。
「んーもうそんなに可愛い真綾ちゃんは私の物にしちゃう!」
「ふふ、私は物じゃないわよ。それに――」
「心ちゃんがいい?」
「え? あ……」
どう答えたらいいのか……。
「ちょっ、そこでマジな反応をされたらお姉ちゃん困っちゃう!」
「ふぅ、落ち着いてちょうだい」
「ふっ、この話の続きは帰ってからにしよう」
こちらもそうゆっくりはしていられないから固まるのはやめにした。
だけどどうすればよかったのか、何故いつものようにできなかったのか。
「はぁ……」
「大きなため息だな」
「羽根さん、聞いてくれる?」
「ま、いいぞ」
姉一筋と片付けているからできることだ。
本当は柚木さんに対して内側になにかあるのなら悪い行為になってしまうけど。
「んー私は加藤じゃないから本当のところは分からないけど、前とは変わったってことなんじゃないか? えっと、加藤の中でそれだけ心の存在がでかくなっているってことだ」
「そういうことなのかしら、それならそれでいいことよね」
「ああ、私もさやかさんと仲良くなりたいぜ」
それなら何回でも来ればいいと言っておいた。
いますぐにどこかに寄ってなにかを買って受け取ってもらうことはできないからそのまま学校まで歩き、教室がある階に着いたら別れた。
教室が違うから仕方がない、あとは柚木さんと違って私に興味があるわけではないから自然とこうなっていく。
「真綾」
「来たのね――あ、少しじっとしていて」
はねているところがあったから少し撫でてみたら簡単に直った。
別にそういうつもりはなかったけど「頭を撫でられた」と言って嬉しそうな――これは願望だからやめておくとしても嫌そうな顔はしていなかったと思う。
「真綾、そろそろ名前で呼んでほしい」
「心……でいいの?」
「うん、嬉しい。だけどまなみと一緒に登校していたのは残念だった、あれならすぐに近づけばよかった」
「はは、見られていたのね」
「む、笑いごとじゃないから、私からすればやばいことなんだからね?」
それは……よく分からないけど。
あと考え事をしていた間にこちらの手を掴んでずんずんと歩いていく彼女がいる。
好都合とばかりに空き教室に入ってすぐにこちらを抱きしめてきた。
「こういうことをさせたら駄目だよ?」
「ふふ、あなたにも?」
「私はいいの」
「あら、すごい発言ね」
私もこれぐらい大胆でいられたら彼女以外にも安定して一緒にいられる友達がいた気がする。
ただその場合は彼女だけを優先することができなくて拗ねられていたかもしれないから彼女的にはよかったのかもしれない。
「また今度あなたの家に泊まらせてもらうわ」
「うん」
「今度はすぐに寝ないようにしたいわね、そのためには食事の時間をずらす必要があると思うの」
「だけど遅くなると太っちゃうよ?」
「泊まる日に少しずらした程度でそんなに変わったりしないわよ」
少なくともあれで終わりにはしたくない。
連日は相手のことを考えると無理だけどそうしたくなるぐらいには悔しい結果と言えた。




