08
「ロケットパンチ」
「いたっ、なんで私は叩かれたんだ?」
少し大袈裟な反応だったけど確かにそう言いたくなる気持ちは分かる、なにか言いたいのなら物理的に攻撃をする前に直接言ってくれればいいと思う。
「あそこに暇そうな加藤先生がいるからいってきなよ」
「どこかに移動している最中だろ、だからできねえよ」
「それなら放課後に連れてくるからちゃんと相手をしてもらうこと」
「どこ目線からの発言だよ」
余計なお世話かもしれないけどこのことを姉に連絡しておくことにした。
とはいえ、禁止されているわけではないにしてもなんとなく教室では使いづらかったから空き教室まで移動してからに、
「誰に連絡するの?」
しようとしたのに本人に話しかけられてあまり意味もなくなった形となる。
教科書なんかを持っているから先程羽根さんが言っていたようにどこかに向かわなければいけないのになにをしているのか。
「意地が悪いわね」
「気になったんだから仕方がないでしょ、それで?」
「羽根さんの相手をしてあげてほしいの」
ただ話し相手になるぐらいなら姉だって拒んだりはしないだろう。
「それなら今日の放課後に家に来てもらうしかないかな」
「分かった、言っておくわね」
それでも学校ではしづらいのか、それとも忙しいからなのかは分からないけど家でとのことになった。
羽根さんはあれから何回も家に来ては三時間ぐらいゆっくりしていくタイプだから悪くない場所選択だと思う。
「それよりさ、こうしてこそこそと隠れてぎゅっと抱きしめたりしたら――」
「やめた方がいいと思いますよ、この学校じゃ姉妹と分かっている人が多いわけじゃないですからね」
「ありゃりゃ、真綾ちゃんがいなくなれば心ちゃんはすぐに探しちゃうね」
「学校では加藤さん、柚木さんの方がいいと思います」
「はーい。じゃ、また放課後にね」
今更だけど羽根さんがここにいたら「余計なことをしやがって」と言われる件だった、だから一緒に付いてきていなくてよかったぐらい。
もう用もないから戻ろうとしたところで後ろから抱き着かれて足を止める。
「邪魔をしておいてごめん、だけどなんか急にこうしたくなったというか……」
「別に構わないわよ? でも、後ろからより普通にしてくれた方がありがたいわね」
夏だから臭わないか心配になるし、冬なら心臓に悪そうだから正面からがいい。
まあ、夏云々に関しては正面からでも変わらないからお風呂から出た後ならいいかも。
「こんなところでなにしてんだよ……」
「あ、羽根さん、余計なお世話かもしれないけど姉に言っておいたからね。放課後に家に来てちょうだい」
「いやまあそれはありがたいけどいちゃいちゃするのはどうなんだ?」
「これはただのスキンシップよ、同性同士なら普通のことじゃない」
「本当に加藤って意外なやつだよな、冷たい顔で『ベタベタ触れないちょうだい』とか言いそうな顔なのに」
どんな顔よ……。
「まなみもしたい?」
「いや別に」
「素直じゃないね」
そうか、これは考えなしだった。
羽根さんは彼女に興味があるのだからこそこそ二人でこんなことをしていたら面白くないに決まっている。
嫌ではないから受け入れたけどこれは考えなしだった、これは後に響くかもしれない。
「心にするぐらいなら加藤にするわ」
「最初からそのつもりで聞いていたんだけど、あれ? もしかして本当は私にしたかったの?」
「あーこいつうざいから捨ててきてもいいか?」
「や、優しくしてあげて」
先程と違ってもうくっつかれていないから授業の準備をしたいからなんとかと言い訳をして空き教室を離れる。
最初からこれでよかったのだ。
「真綾ー」
多分、相手のそういう行動に敏感な彼女に何回も話しかけられたけど二人でこそこそ~みたいなことにはしなかった。
だからあまり疲れることもなく放課後になって約束通り羽根さんを家に連れていく。
「で、なんで当たり前のように心もいるんだ?」
「真綾がいるところには私もいると思った方がいいよ」
あくまで形だけ、言っておかないと落ち着かないだけだろう。
自宅だけど「なんで加藤もいるんだ?」と言われた方がよかったぐらい。
「でもさ、心がいたら加藤先生はそっちにばかり意識を向けるだろ」
正しいような……正しくないような。
他の子がいるところでも「真綾ちゃん」とこちらに意識を向けてしまうことが多い姉だからたまに申し訳なくなる。
そういうのもあって一番の邪魔者はやはり私なのだ、かといってお客さんだけを放置するわけにもいかないのが現実で。
「んーそれならそれで嬉しいけど私は真綾一筋だから」
「姉妹から気に入られているってずるくね?」
「ふふーん、羨ましいでしょ?」
彼女も煽っていないでちゃんと相手をしてあげてほしい。
羽根さんはどうしても姉に対してだけは普通でいられないみたいなので協力してあげてほしかった。
そこで手を握っておくとかどうだろうか? 側にいてくれるだけよりも遥かにパワーになりそうだけど。
「まあまあ、姉からはともかく私から気に入られていたってなにも価値はないわよ」
「それは駄目な発言だろ」
「真綾、それは駄目だと思う」
え、なんか急に結託してこちらに……。
ま、まあ、どんな形であれ仲良くしてくれているのならそれでいいか。
上手く片付けられたおかげでダメージなんかもなかったから姉が帰ってきてしまう前にご飯を作り終えることができた。
「ただいまー――お、羽根ちゃんもちゃんといるね、偉い偉い」
「ふぅ、お邪魔しています」
「ようこそ加藤家へ」
盛り上がっている二人を見ていたら急に袖を引っ張られて意識を向ける、するとどうやらお腹が空いてしまったみたいだった。
食べるかどうか聞いてみても話がしたいようだったので二人で食べてしまうことにした。
「わんたんもお腹空いているんじゃない?」
「もうお母さんが帰ってきているからご飯をあげていると思う」
「そ、それなら早織さんはあなたに食べてもらいたくてご飯を作っていると思うけど」
「真綾のご飯を食べてからお母さんのご飯も食べるから大丈夫だよ」
もう食べ始めてしまっているから取り上げるなんて酷いこともできないので少し不安になりながらも見ておくことしかできなかった。
「よし、これから毎日きみはここに来なさい」
「ありがとうございますっ」
「敬語はよしてよ、私ときみの仲じゃないか」
「わ、分かり――分かった」
「あと私のことはさやかと呼ぶといい、きみのことはまなちゃんと呼ぶからね」
ほらね、姉はこんなものだ、怖がったり緊張するだけ無駄なのだ。
これもまたいい方に働いてテンションは高くなった。
それでも一人で浮かれているわけにもいかないから食べ終えたら洗い物をして二人が食べ終わるのを待つ、そして新たに増えた食器をなんとかする前に送るために外に出た。
「やばい、さやかさんのことめっちゃ好きになったわ」
「まなみは単純」
「いやあんないい先生っていないだろ、やばいわマジで」
自分のことでもないのに嬉しく感じている私がいる。
あれだ、私はこうやって自分が言われたわけではなくても喜んだり、嬉しがったりしておけばいいのだ。
高校を問題なく卒業し、社会人になったら限界まで働いて両親にお金を返していければいい。
「真綾には私がいるから、さやか教は放っておけばいいからね」
「ふふ、寂しいどころかお姉ちゃんが褒められて嬉しいから大丈夫よ」
「あ、なんでいつもお姉ちゃんって言わないんだ? たまに姉って言うよな」
「別に恥ずかしいからとかじゃないけど」
早織さんの前ではそうしたくなるというだけ。
今更だけど少し格好つけたいのかもしれなかった。




