表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

研究者の娘11

両親が旅立ちレティに日課が増えた。

両親の様子を三日に一回親切な役人が手紙に書いて送ってくれ、楽しそうに研究していることに喜ぶべきか生活、特に食事を疎かにすることに嘆くべきかわからなかった。

両親の後見になり面倒をみてくれている役人には感謝をこめて魔石とお礼の手紙を送るのがレティの新たな日課である。

両親からは手紙はなく、誕生日に贈られる花とカードだけ。研究に夢中な両親が元気で夢に向かって進むならいいかと笑う。


フォンと旅立つ時に一つ約束をした。

レオの金の瞳の色は珍しく人攫いに合いやすいので村に行くときは必ず魔道具の腕輪をつけて瞳の色を変えること。

それを聞いたレティはレオの運動不足の解消にクロードの毎日の訓練に付き合わせる。


「私よりもクロードのほうがレオと兄弟みたい」

「色が同じだけど顔立ちは似てないよ」

「そうだね。綺麗な瞳を持つと大変ね。おばさんみたいに追いかけられるかな?」

「さぁね。でも人に囲まれなくなければ帽子を被ったほうがいいよ。年上のお姉さんは怖いから」

「姉さん、疲れた。もういや」

「訓練が終わったらお部屋で好きにしていいよ」

「クロード、早く!!早く終わらせて」

「研究が絡むとやる気が出るのか」

「お昼は私が用意するよ。クロード、レオをお願い」


レティは庭で訓練する姿を見ながら、トメの嫌いな男同士の野蛮な遊びも悪くないと楽しそうに笑う。

レティにとっては女の子とのおしゃべりやお茶よりも追いかけっこのほうが楽しい。

同世代の子供達と遊ぶなら小さい子供と遊ぶほうが楽しいと思っても口には出さない。それでもクロードとレオとディーネと遊ぶのが一番楽しいのは変わらない。



レティはトメに呼ばれて村の祭りの手伝いをしている。

トメはいくつになってもローブしか着ないレティにまた同じ問いかけをする。


「レティ、そろそろローブを卒業しない?」

「駄目?」


首をきょとんと傾げるレティは可愛らしい。フードを脱げばさらに可愛いのにとトメは残念に思っている。


「素敵な出会いがあった時に困るわよ。女の子はどんな時も可愛くしていないと」

「その時に考えるよ。それにこのローブお気に入りなの」

「勿体ない」

「これで終わりだね。トメさん、またね」

「明日の祭りには来ないの?」

「準備は村のお付き合いでしょ?」

「恋人の一人でも作らないと」

「よくわからない。焼き立てのパンが焼きあがる時間だから帰るね!!今日のお夕飯は木の実のパン!!」


元気に手を振って帰るレティにトメはため息を溢す。

レティが焼き立てのパンを買って村を出ようとすると倒れている男を見つけて慌てて近づく。


「大丈夫ですか?」


声をかけても反応しない男の額に手を当てて目を閉じる。魔力で悪い所を探っても見当たらないのでゆっくりと目を開きため息をつき、道端で眠っているだけの迷惑な男の頬を思いっきりつねる。


「起きてください。ここで眠ると馬にひかれますよ」

「何するんだよ!?相手してほしいなら」

「道端で寝ないでください。邪魔なのでさっさと移動してください。それでは」


レティは男が目を開けたので、立ち上がる。

男を見て、レオをきちんと育てようとさらに決意を固めて足を進める。

素っ気ないレティの背中を男がじっと見ていることには気付かずに。

男は美しい瞳の少女のあとを追いかけるも途中で霧に覆われ追い付くことはできなかった。



レティは庭でレオを見つけて真剣な顔で肩に手を置く。


「レオの教育頑張らないと」

「迷惑だよ」

「将来困るよ。きちんと人に迷惑をかけないように育てないと」

「迷惑って、」


クロードは迷惑そうなレオと真顔で言い争いを始めるレティに笑う。

冷やしていたゼリーを二人に見せるとレティはゼリーを凝視して、ニコッと笑う。


「おやつにしよう!!お茶を淹れるね。レオは机の上を片付けて」

「食い意地が」

「レオもそろそろ覚えようか。きちんとした言葉を」

「必要ないよ」

「お嫁さんをもらえないよ。片付けて」

「姉さんがお嫁にいってから考えるよ」

「私は結婚に興味がないもの」

「喧嘩はそこまでにしようか。レオ、手伝うから片付けるよ」


もうすぐ12歳になるレティの周りの少女達は恋に夢中である。

会えば好きな男の子の話。

一番人気は隣町のイケメンのお金持ちの少年。次は役人。村の男よりもよその男に夢中だった。

レティは男の子の話よりもレオとクロードと過ごす時間が好き。そして何度聞いても恋の話の意味がわからなかった。

高鳴る胸の鼓動と聞き、病気を連想するレティには難しい世界だった。




****



レティは久しぶりに父から手紙が届いた。

魔法講習免除の書類が入っていた。

レティはレオを残して王都に行くのは心配だったので父に感謝の手紙を書く。

野原に敷き布を広げてごろんと寝転んだ。

食事の当番はレオとクロードなので日向ごっこをして待っていた。

バスケットを持ったクロードとレオがレティを囲んで座る。


「おばさん達全然帰ってこないけど、寂しくないの?」

「うん。親切なお役人さんが報告書?を送ってくれるから寂しくないよ。きちんと生活できてるみたいで良かった。いつでも遊びにおいでってお役人さんも社交辞令で書いてくれるけど、魔法なら母さんのおかげで使えるから王都にお勉強に行く必要ないもの。クロードはどうするの?」


クロードはレティに王都に行って欲しくなくても口には出さない。

土属性の認定を受けたクロードも学園に興味がなかった。


「私も学園には行かない。父さんは好きにしろって言うけど、跡を継いでもいいかな」

「おじさんの蜂蜜は絶品だもの!!とても素敵なことだけど、クロードの意思が一番」


レティも村長達に学園入学を進められうんざりしていたのでクロードの選択にニッコリ笑う。


「姉さんは蜂蜜が食べたいから残ったんでしょう?」

「ち、違うわよ。家が、村が好きなの。レオは知らないけど洞窟生活は大変なのよ。それに村長の腰を揉んであげるの私くらいでしょ?レオもきちんと食事をする習慣がついて、家事が一通りできるようになったら母さん達を追いかけてもいいわよ」


レオの呆れる声にレティは体を起こして、首を横に振る。

クロードは料理を敷布の上に並べる。


「魔道具を使えば簡単なのに。非効率だよ」

「人と生きていく上で必要なことよ。それに魔法は万能ではない。頼りすぎは良くない」

「食べようか」


クロードが料理を取り分け、手のかかる二人に渡す。

三人で他愛もない話をしながら食事を食べはじめると風が吹き、クロードが結界で周囲を覆った。

竜巻と砂嵐が起こっても三人は気にせず食事をする。

嵐が止むと結界が壊れ、ローブを着た美女が立っていた。


「おばさん、お帰りなさい」

「久しぶり!!身長が伸びたね。私はもう帰ってこれないからお願いがあるの」


クロードはパンを手に取り笑顔で口に運んでいる半年振りに会う母親に苦笑する。


「母さん、その言葉は何度目ですか?」

「運命・・。うん。私は遺言を叶えるよ」

「レティ、気にしなくていいから。母さんの遊びだから」


クロードは母親の遊びに悲しそうな顔をしているレティの肩に手を置く。砂嵐とともに現れる母親はいつも遺言を残して消えていく。


「クロードは頭が固い。私がいないとクロードが天涯孤独になるのよ。レティ、もらってくれない?」


レティはニコリと笑って頷き、レオは気にせずミルクを飲む。


「うん。いいよ。クロード、お母さんって呼んでもいいよ」

「レティ、ち」


クロードは母親の言葉を慌てて遮る。レティへの突っ込みよりも優先だった。


「母さん、やめて」

「クロード、明日が必ずあるなんて思ってはいけないわ。ましてや可憐な花を求めるのは」

「姉さん、クロードはうちにお嫁に来たいんだよ」

「レオのお嫁さん?クロードは料理も上手いし、レオの面倒見てくれるから反対しないよ」


見当違いに笑うレティとニヤリと笑う母親、呆れた顔でパンを食べるレオを見てクロードは悩みながらも、決意を固める。

ここできちんと言わないと幼馴染が勘違いするのはわかっていた。

思い込みの激しい幼馴染の起動修正が大変なことも身をもって知っていた。


「違う。レティ、昔の約束覚えてる?」

「どれ?」

「レティより大きくなったらお嫁さんになって傍にいてくれるって」

「懐かしいな。そんな約束したね。クロードにいい人がいないならいいよ」

「本気?」

「私は家、ううん、村から出たくないもの。レオも心配だし、クロードも抜けてるし。人気のお金持ちのお兄さんの良さはわからないもの」

「私と家族になってくれる?」

「レオ、いい?」

「姉さんに任せる」

「ようこそ、我が家に。歓迎するよ!!」

「おめでとう!!これで私も思い残すことはない。じゃぁ、元気で幸せにね!!」


クロードはパチンとウインクをして空に飛び立ち消えていく母親を見送った。飛んで行くのは父のもとだろうと思いながら。

クロードはそっとレティの手を握ると自分を見つめてニコっと笑う顔に照れ笑いを浮かべる。


「ごちそうさま。先に帰るよ。じゃあね」


食事を終えたレオが勢いよく立ち上がり走り去る。

レティはきちんと食事をした弟を手を振って見送り、背中が見えなくなるとふぅっと息を吐く。弟の姉離れに寂しさを感じながらも成長かと思い直し、クロードに握られた手を見つめる。


「最近はあの子は手を繋いでくれないから寂しい」

「レオもお年頃だから。私がずっと握ってるよ」

「レオは父さんに似たのよね。また変な発明品を作って・・。家を壊しても魔法で直してくれるからいいけど」

「手に負えないなら私が直すよ。おじさん達に挨拶したいけど、いつ帰ってくる?」

「わからない。クロードなら反対しないでしょ?まぁクロードが成人してから考えようよ。それまでにいい人が見つかるかもしれないし」


クロードは冗談と思っている鈍い幼馴染に苦笑する。

母親にお膳立てされての求婚は情けないのでいいかと訂正はやめた。

クロードはレティとレオと三人で過ごす時間も気に入っている。

そしてレオが家を爆発させレティが叱るのを宥め、クロードにとってのもう一つの日課が待っているのは気付いていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ