鬼の首『月葉サイド』
「いやぁ、鬼さんは夜闇の陽炎にしてやられましたか」鬼の着けていた籠手を手に着けた月葉が籠手を弄りながら、戦いを思い出していた。
鬼に投げられたことで内臓が傷ついて吐血した月葉は、眼前の鬼武者相手にどうにか足掻こうと、速く深く真剣に策略を練っていた。
……うん、相手は純粋な体術が優れている。事実、腰に刀は無い。召喚するなんて真似は魔力的にも出来ないから問題なし。それに、甲冑を着てあんな戦いを可能とする体術なんて、A以上の幻葬士クラスが閲覧できる古武術系統、特に魔導複合甲冑組討『楓月流』くらいのものだった筈。
よって、私が警戒するべきなのは、甲冑に隠されている可能性のある暗器、仕込み武器だ。それだけの可能性は100とは言えないが、そこは対処出来る程度には、幻葬士をやっている。何より暗器、仕込み武器ならウチには真くんっていう誰よりも血塗られた13歳がいる。個人的にはあの子は元々かなりイカれている気がする。いや、イカれているというより精神的年齢が特にチグハグがすぎている。
ま、何はともあれ、スパイの真くん曰く、『暗器って言うのは大体仕込める場所が限られているんです。暗器や仕込み武器の目的、メリットに斬り合いや殴り合いで相手の裏をかいて被害を与える。って言うのを着眼しています。そうですね……例えば、月葉さんが使う籠手なんかにも仕込めますね。布地の所に刃を飛び出す仕掛けを仕込んでおいて、チャンスやピンチにその仕掛けを起動させて相手により大きな被害を与える。他にも何かを飛ばせるっていうのもあります。俺の時計もそうですしね。後は……毒もありえなくはないです。そういう暗器とかには気を付けてくださいね。アレは……自分が言うのもあれですけど弱者も強者も、全て須く静かにされど強かに確実に殺すためのものです。殺すことに特化している物は、掠るだけでも大変ですからね。俺ですか?俺は毒を幻影から受けて耐性を付けようとしていますし、科学系の毒は解読できるように口の中に薬剤を仕込んでます。いいですね、もう一度……。』
私がここで暗器を警戒して出来ること、それは見に徹して躱すこと!なんて言わない。コチラも同じことをする。冷徹に、徹底的に……余力を残して余裕で、首を獲る。
「《陽炎》」「Seァァあ!」
鬼武者の籠手が月葉に突き刺さった。だが、何を思ったのか鬼武者は月葉を蹴り飛ばして距離を取った。
「Mう、これHa」
「《夜闇》」蹴り飛ばされた方向とは別のところから月葉の魔導が発動した。周囲を暗黒の霧が多い、周囲を月明かり、この場合は太陽の光さえ入ることの無い夜を作り出した。
「Gunぅあ⁉︎」鬼武者の体に、暗黒で構築され、光を吸収しそこの空間が歪んだように感じるほど漆黒の苦無が脇腹に突き刺さっていた。
「ひとーつ」耳元で囁かれる。
「ZeAァァ!」籠手に仕込んでいた刃を突き出し、それは月葉の頬を掠め赤い線を作った。
傷をつけた。
「ふたーつ」下から聞こえた。
「Gegゥ⁉︎」喉仏にグローブに包まれた手刀が命中した。ご丁寧に闇に紛れるように黒の迷彩色だ。しかも、一部の色は明るくなっており距離感をズラす仕掛けになっていた。
避けられなかった。
「みっーつ」夜闇の深淵から、それもより昏く深いところから聞こえる仄かに高い声が響いた。
「Gァ」鬼武者の体を守る甲冑の上から、足の腱を切られた。焔で焼き切られており、肉が燃えた、嫌な匂いが漂う。
動けなくなった。
「よっーつ」背中合わせに聞こえた。
「Ooォぉお⁉︎」甲冑の中から、焔の刃が飛び出し甲冑と身体を溶断する。さらに肉が焼ける匂いが漂い、炭の匂いへと変わりはじめる。
重症を負わされた。
「いつーつ」頭上から聞こえた。
「Aaaaaaァあ‼︎」鬼武者の視界が、黒に染まった。お優しいことに焔を纏ってはいなかった。
五感を一つ潰された。
「お終い」
首が、離れ
「危なかったっすね。《陽炎》を途中で見切られて、しかも《夜闇》の中でも本体の私を突き刺さそうとするなんて……ま、そういうのを刈り取る技だったのが運の尽きってやつです」
夜闇の霧が消え去り、そこには月葉しか居なかった。
地面に落ちている籠手を拾う。
「お、Pandoraって奴っすね。えと、可動域を阻害せず寧ろ助ける。拡張性は……無し。暗器とかは……分からないな。じゃあ何かの仕組みは、お、有った!」
籠手の中に付いていた何か細い神経のようなものが付いた紐を腕に括り付ける。「うわっ、気持ち悪い」自身の腕にピタリとついた紐は、不思議と不快感は無かった。ピタリとつく過程は神経の様な物を這わせると中々に気持ち悪いが……。
「鬼武者さんが出していたように刃は…おっ!」紐に意識を向ける。すると、刃が手の甲に当たる部分から指にかけて飛び出した。
他にも、手首の付近から長い刀のようなブレードが出てきたり、ワイヤーなどが飛び出してくるあたり、Pandoraは魔法を用いた複雑な仕組みで作られているのが分かる。
弄るのを終えて、元に戻るように魔力を込めると最初の姿へと変わった。
「いやぁ、鬼さんは私という夜闇の陽炎に討ち取られましたか」鬼の着けていた籠手を手に着けた月葉ながら思案する。
「どっちに行けばいいんでしょう」




