桑原サイド決着
神風を倒した神楽は自前の光魔導で傷を癒しながら現在手持ちの道具を少女の姿をした神風に渡して、最低限だが刀を修理していた。
理由は単純、神風との斬り合いで刀の刃こぼれだらけになってしまったからだ。
「いやぁ、それにしても流石は拙の切れ味。ご主人様の前のやつはボロボロですね」仮にも指揮官であり、幻葬士としても戦える十二秘奥になった神楽のために開発されたコスト度外視の最高スペックの刀だったが、それにいとも容易く刃こぼれを起こさせた神風は誇らしげに笑いながら作業をしていた。
「ニヤニヤしてないで、少しはマシにしてくれ」「はい」対する神楽は、この後の龍や、援護のために他のPandoraと戦うことになることを思うと憂鬱だった。実際、神風に勝ったとは言え筋肉や魔力、持ち得る全てを全力で使いようやく掴んだ勝利だったのだ。
今の神楽の状態は、奥義の発動によって筋肉痛は勿論、残りの魔力は身体強化も行い、奥義改めで更に使ったため、全快の3割を切っていた。
満身創痍ではないが、足手纏いになりかねないこと、そしてこの軍服少女姿の神風が、自身のロリコン疑惑を引き立てるであろうことにも、憂鬱を感じていた。
「出来ましたよご主人様。向かう先はあちらは如何ですか?」神楽が持ち合わせていた最低限の道具で、目立つ刃こぼれだけを消した刀を鞘に入れて手渡した神風は、神楽に対して提案した。だが神楽が向かおうとしていた真達の方向から僅かにズレていた。
「ありがとう。で、あっちってなんでまた?」刀を鞘から抜き、刀身の刃こぼれを確認した神楽は神風に対して当然の疑問を向けた。
「いえ、あちらで銃声がき」「行くよ‼︎」言うが否や白髪を靡かせ神楽は全力で駆け出した。
「はい、お供させていただきます」後ろを見ると当たり前のように、神楽の後ろに並走して神風が走る。
「……桑原君、巫山戯過ぎずに余力は残しておいてくれよ!」普段は兄貴だがどこかおちゃらけている赤髪の狙撃手が心配になった。
ーー
ドゴン
神風が銃声を聞きつけていた頃。
桑原は自身が魔導で用意した遮蔽物に隠れてリボルバーモードのリロードを行っていた。そして、相手の方へと走ろうとした瞬間。
ヒュン
ドゴン
「本気でやってんのに用意した遮蔽物にヒビを入れられて撃ち抜かれかけるのは笑えねえ」
ドバン
キィン
ニチャリと笑いながら、飛翔した弾丸に桑原は自身の銃弾を当て、弾道を逸らした。神楽や真でも魔導を使った身体補助が必要な弾避けを実戦に基づく勘と持ち前のセンスで桑原はノールックで行える。が、魔導を使った戦闘面の手数で勝てないのでなんやかんやで真には勝てないのである。
つー
そんな桑原の頬を弾丸が擦り、血が流れた。が、受けた桑原はと言うとそこまで焦ってはいなかった。何故なら、先程の弾道からは当てようとしているものではないと気づいているからだ。桑原なりの理由を説明するならば、殺意がない弾道。どちらかと言えば自分のフィールドを作るための下準備だと感じたからだ。
「やっぱり、俺が近接格闘やろうとすると邪魔をする……真氏考案のガン=カタ決めたいんだけど、隙が無いなー」
ドバン
「はいはい、見てから余裕ー」
神楽はおふざけを心配していたが、実際のところ戦闘センスは十二秘奥を基準にした場合でも天才に入る。事実、最高戦力であり、Pandoraとの戦闘経験も一応はある。
「この俺を本気にしてんだから琴音の嬢ちゃんと月葉、後内田辺りも太刀打ちできねえだろうなぁ《戦地作成》」
桑原の地面を中心に、魔導陣が転写され眩く光り、幻影の眼も同時に潰した。
「⁉︎」
幻影が目を慣らすと、そこには戦争によって荒廃したこの世界の荒野そのものが転写されていた。ご丁寧にも周囲に生えていた植物はすべて、枯れるか土へと変えられている。
「足元がお留守だぜ!」戦地作成の光で距離を詰めていた桑原は、幻影の背後へと気配を極力、それこそただの風のようなレベルで周囲へと自然に溶け込み相手に意識を向けさせなかった。
パァン
狙撃手にとって、移動の要であり作戦の要である足を射抜いた。
射抜かれた幻影の体は傾き、倒れ込みそうになる。
「終わらんぞ?」地面に倒れる直前に地面から生えた金属柱によって腹を叩かれ、宙に浮く。
空に浮いた幻影に対し、絶対零度の声で桑原は幻影に己の最期を伝える。
「Checkmate」
ドバァァン
桑原が両手に持ったリボルバーが火を吹き、ほぼ同時に全弾を打ち込んだ。
全身を撃ち砕かれた幻影は体を塵に変えて、風に運ばれて消えた。幻影が消えた場所には、幻影が持っていた白銀の銃が遺されていた。
「ふう、ありがたく使わせて貰う。でも、あの状態で、……撃つ、か」桑原の下半身からは血が滴っていた。幻影は体が中に浮く瞬間に桑原の腹部、正確に脇腹を、撃ち抜いていた。幸いにも真の軽装備とは違い中装備だったこと、撃ち抜かれる直前に片方の銃で逸らそうとしたことが、桑原の体に向こう側が見えるなんて事にはさせなかった。
「やべえ、真氏考案の回復キット龍に壊されてたやん、インカムは⁉︎……しまった、最初に龍に吹き飛ばされた壊されたか……チッ原初的だが止血するか。」
勝ったのにも関わらず真達、十二秘奥が見たら呆れるような失敗をした桑原は、自身の装備の内側に縫い付けてある針と糸、予備のサバイバルナイフを使い、弾丸の摘出を始める。
……何分、いや何十分かかったかもしれないが撃ち抜かれた場所から弾丸を摘出し傷口を糸で縫い付け発砲した銃口を肉に当てて強引に止血する。
「ぐぅっ。はあっはあっはぁ、後は外套に付いている当て布外して傷に当たるか」麻酔無し、自分だけという手術を終えた桑原は何者かが近づいて来ることを感じた。
(だるっ!2回戦はだるいよ、まぁいい。気づかず死ね)
ドバァン
キン
「桑原くん、真くんみたいに上司に攻撃しないでくれるかな?」「ご主人様のお仲間様ですね?」「あ、ああ。神楽さんすまん」チラリと神楽へと桑原は視線を向けて質問をする。
(アンタ、そういう趣味の人間か?)(NO!シャラップ!そう言う機能持ちのPandoraなの!)早速ロリコン疑惑をかけられた神楽は全力で反論した。殺意が僅かに篭った視線を向けられ、桑原は、こりゃホントだな。と悟った。
「桑原様の脇腹、かなりの傷ですね……」「あんがとよ嬢ちゃん。ま、止血した以上激しく動かなきゃ大丈夫だ。神楽さん、琴音なりなんなり合流しないか?」「勿論だよ。……走れる?」「拙が桑原様を運びますか?」「いや、走るの位なら」
「で、嬢ちゃん。すまないが名前は?」「拙の銘は神風!桑原様が持つPandora『零/EID』祈りの銃と同じPandoraでございます」
「……このエイド?」「いえ、EIDと書いてアイト。祈りです」
「アイトは一体どんな銃なんだ?」「持ち主の祈りで変わります」「祈り?」「本来ならば、です。それは零を冠する銃系統最初のPandoraです。その祈りは世界への宣告になり貴方の願いを世界へと伝えます」
「……チートやん、それ」ポツリと神楽が呟いた。




