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第43話 決戦 中編

次の瞬間、元依頼主の、バラバラになった本体は、全てバイトさんの姿に変わっていた。


「…わあ…。」


…何だか、少し気持ち悪いと思ってしまい、微妙な反応をしてしまった。

…待てよ、元依頼主がこうなったなら、作戦は実行しなくてはならないよな…。

俺は、イーネさんの様子が気になり、そちらの方を見たが、その瞬間、力が湧いて来たような感覚になった。


「…!」


…おそらく、魔力を奪っている事がバレたので、先程のように、慎重にやる必要は無くなったのだろう。


「…っ…。」


数人の元依頼主が、段々と消え始めた。


「……っ………。」


俺に力が湧いてくると同時に、イーネさんも苦しそうな様子になって行った。


「…!」


「…………。」


俺が、大丈夫か!という目線を送ると、イーネさんは、いいから作戦を続けろという目でこちらを見ていた。


「…フッ、最終的に勇者サンに渡すとはいえ、一旦、膨大な魔力を受け取るから、苦しくはあるだろうな…。

…勇者サンが倒した方が、手っ取り早いよ?」


元依頼主は、その様子を見てわざとらしくそう言ったが、イーネさんは、相変わらず、いいから行けと目で訴えているだけだった。

…しかし…行くにしても、どうすればいいだろうか…。

俺は一瞬、剣をしまおうとしたが、それはやめ、覚悟を決めて近くにいる元依頼主に向かって剣を振った。


「…っ。」


…しかし、やはり剣は当たらなかった。

…いや、落ち着け、こうやっていても、元依頼主を倒す事は出来ない。

…それは自分が一番理解しているはずだ。

…無駄に剣を振っても、焦りが募るだけだ…だから。


俺は、少しだけ目を瞑って、今の状況を変える方法を考えた。


…だから、つまり俺は、人間だとか、モンスターだとか、そういったことじゃなくて、単純に、血と死体がダメなんだろう。

…だから、おそらく、血が…赤い血が出れば、モンスターでもだめで、逆に人間のような、言葉を使うモンスターでも、敵対していて、血が出なければ殺せるのかもしれない。

…そんな訳だが…しかし、俺は血を今まで見た事が無いのだろうか?…そんなことはないはずだ。

この世界に来る前も、友達のケガなどで、多少の血は見たはず。

…つまり、俺がダメなのは、大量の出血であり、少しの切り傷とか、そういったものは平気なのだ。

…しかし、少しの切り傷でも、元依頼主には効果的であり、やってみる価値はあるだろう。


…俺は剣を構えて、元依頼主の顔に切り傷を作った。


「…っ…!」


…って、いや、待て…俺は、自分の手で相手を傷付けることも無理だっただろうが…。

…今、どうして、俺は、元依頼主を斬ったんだ…?

…何だか、血さえなければ平気だ…って、考えていたような…。

そんな事はないんだけどな…。


元依頼主は、俺が剣を振って攻撃を当てる事が出来た事に驚いていた様子だったが、俺も、自分自身の行動に驚いた。


「…え、えーっと……っ!?」


俺が、次にどんな行動を取ればいいのか考えていると、俺の横を矢が飛んでいた。


「…っ。」


元依頼主は、俺の行動の驚きが消えていなかったようだったが、矢が飛んで来たのが見えると、サッとかわした。

…矢が飛んで来た方向を見ると、そこには、おそらく、弓矢を使うアドバイスしていたと見られるリプラと、弓を持ったカラリがいた。


「…ツ…ツイトさんが…頑張っているんです…。

…ツイトさんは忘れないと言ってくれましたが…。

…私は…あの約束を忘れてもらう覚悟でいたんです…。

だから…私だって…私だって…!」


カラリは、手が震えないように、深呼吸をしていたようだった。

…元依頼主は、そんなカラリの様子を、鼻で笑っていた。


「…まあ、やってみるといいさ。」


元依頼主は、そう言い捨て、こちらに攻撃を仕掛けてきた。


「…!」


さっきまで俺には、全く攻撃なんて仕掛けてこなかったのに…。

やはり、先程の攻撃が、元依頼主にとって…まあ、俺にとってもだが、想定外だったという事だろうか。


…………。


…さっき、元依頼主を斬った時…。

……………。


…俺は、もう一度剣に力を込め…右に目線をやり、右にいる元依頼主を狙ったと見せかけて、左にいる元依頼主を…斬り捨てた。


「………。」


「お前…斬れないんじゃ…。」


…かなり返り血を浴びたが、意外に、何ともなかった。

…自分で自分のやった事に驚いてしまって、分からなかったが…さっきも、傷つけた事自体には、何とも思わなかった気がする。

…いや、これは、意外に何ともなかったんじゃなくて…。


…。


…俺は、続けて、周りの元依頼主を斬ろうとしたが、さすがに、元依頼主も、俺が、本気で斬れる事が分かったからか、動きが機敏になっていた。


「…チッ…仕方ない…。」


元依頼主は、俺の攻撃を全てかわすと、未だ魔力を奪い続けているイーネさんや、カラリ、セクタの方を狙い始めた。


「…っ!」


すると、ブロックさんはセクタを、リプラはカラリを、リムさんはイーネさんを護るように立っていた。


「あ…ありがとう…。

か、回復は、任せて…。」


「……………ああ。」


「…大丈夫ですか?」


「はい!…大丈夫ですよ。

私も、が、頑張ります…。」


皆様々な反応をする中、イーネさんだけは、黙ったままだった。


「…何よ?」


「…いや、別に護った所で、何も教える事はないよーって。

…別に護る必要はないよー。」


「………。」


リムさんは、何とも言えない顔をしていたが、はぁ、とそのままの状態で、護るのをやめなかったようだった。

…つまり、俺が、元依頼主を倒せ…と、そういうことだろう。

俺は、迷いなく元依頼主に斬りかかった。


…さっきの元依頼主の様子を見て少しわかった事がある。

…俺は、少し考えていた。

こういった状態になっても、分身が動いている間は、本体は動けないのか、と。


…まず、このたくさんの元依頼主は、本体から分裂したように見えたが、本体では無いのだと思う。

…いや、もっと明確に言えば、おそらく、増える前の元依頼主の本体も、明確に本体と言える場所…というか、本体の弱点的な物が隠された状態だったのだろう。

…つまり、この増えた元依頼主は、その弱点的な物以外の部分であり、倒しても、本体を倒した事にはならないと、俺は予想している。


…そして、この中の一人に、中心となる元依頼主が居ると思われる。

…その中心となる元依頼主を倒せば、他の元依頼主は、消えるか動かなくなるかするのでは無いか、さらに、他の元依頼主が動いている間、その中心となる元依頼主は、動けないのではないか…と、予想している。

…さっき、本当に分身が動いている間、本体が動けないのか確認する事は出来なかったが、今考えている事は、どちらでも、実行する分には問題ない事だ。

…俺は、出来るだけ高く跳び、『エレクトリック』を放った。


「…くっ…。」


…魔力のお陰か、思ったよりも高く跳ぶ事が出来た。

…そして、おそらく、“本物”は分かった。

…動いていない者が一人いた。


「………。」


「…っ!」


俺は、その元依頼主に向かって斬りかかった。

大丈夫だ、見失っていない。


「………?」


…しかし、目の前の元依頼主を斬ることは出来ず、いつの間にか、俺の腕に傷ができていた。


「…フッ…考えは読めていた。

少々、想定外だった事もあったが…その時の為の対策もあったからな…。」


目の前の元依頼主は、笑いながらそう言うが、俺の中には、ある一つの感情しか無かった…なんといったらいいのか…これは…。

…痛いのではないか?…いや、痛くないわけない。


……痛いな。……………痛いなぁ!


「…………………っっっ!」


…あまりの痛みに、大声で叫んでやりたい気分だったが、今俺が目の前の元依頼主を見失ってしまったら、面倒な事になる。

俺は、自分にそう言い聞かせて痛みを押し殺した。


…しかし…これ結構…傷、深いんじゃないの?

…だって、血が…ずっと出続けているような感覚があるし…。

ああ、そう言えば今まで、レベルアップ施設でも、モンスターと戦う時でも…斬撃をこんなにしっかりと受けた事はなかったよな…。


…というか、魔力はどうしたんだ魔力は。

魔力が俺の周りに集まっていて、密度がどうのこうので、とにかく、攻撃が通りにくいんじゃなかったっけ?

…まさか、斬撃には適用されないとか?

…いや、そんな事はないよな…だとしたら、元依頼主が何かの魔法を使ったのだろうか?

…まあ、どんな魔法か…あるいは、魔法でないのかは、後で考えよう、今は、考えていられない…。


…それにしても、セクタは、今どうしているのだろうか。

…出来れば、回復を…して欲しいのだが…。

今、回復出来ない状況にでもなっているのだろうか…。

それなら、大変だ、しかし、今元依頼主から目をそらす訳には…。


「…ゆ、勇者さん…『ヒール』!」


…と、色々な事を考えていると、そんな声が聞こえてきた。

それと共に、今まで感じていた痛みも、スッと引いていった。

その瞬間、元依頼主の本体も素早く目の前から消えていった。

まだ、見失ってはいないから、大丈夫だが…。


「…?」


俺は今、この状況に、少し違和感を覚えた。

…対策をとった、と、言ったあとの元依頼主に、動きが見られなかったのだ。


高速移動で、すぐ退散出来るのであれば、俺が色々と考えている間に動けばいい事だ。

…まさか…もしかして…。

俺は、セクタが回復してくれるまでの短い間で、あれだけの事を考えた、という事だろうか…。


…まさかな。


…俺は、目で追っていた元依頼主の本体に、『スタン』を放った。


「…っ!」


しかし、すぐに分身が立ちはだかり、本体をスタンさせる事は出来なかった。


「…っ、イーネさん…!」


俺は、何とかイーネさんに本体の元依頼主から魔力を奪ってもらおうと、身振り手振りでアピールした。


「…!」


イーネさんは、その様子に気づくと、言いたいことが伝わったのか、狙いを俺が示した元依頼主に変えた。


「…。」


元依頼主は、苦しげな表情を浮かべていた。

…対策…何故だろうか。

元依頼主は、対策があると言って、俺には攻撃を仕掛けてきて、当たったのに、イーネさんに対する策…というか、俺と同じ方法で

攻撃をする事は不可能なのだろうか。


「…仕方ないか…。」


そう思っていると、元依頼主はそう呟き、分身を全て、イーネさんとリムさんがいる方にやった。


「…ちょっと!?さすがに全員倒すのは無理よ…!」


「…チッ…『イグニション』…。」


リムさんと、イーネさんは、何とか全ての元依頼主を倒していた様子だった。


「…………………リム…!」


「リプラさん、私達も行きましょう!」


「…ええ。」


「…ちょ、ちょっと、待って…。」


他の四人も、リムさんとイーネさんに加勢しようとしていた。

…俺も、行かなくてはならないよな…。

と、剣を構えたが、何だか、感覚がさっきと違うような気がした。

…いや、違うと言うよりは、さっきよりも前と同じ…。


……………。


俺は、剣をしまって、本体の動きに気をつけながら、元依頼主の方へ向かっていった。


「…もう、大丈夫そうね…。」


しかし、俺が向かう頃には、もう、分身の元依頼主は、全て倒されていた。


「…うっ…。」


俺は、目の前に出来た血溜まりから、思わず目を背けてしまった。

…今更だが、どうして、そんな所まで擬態するんだろうか…。

スライムだったら、性質はスライムのままの方が、得する事も多いだろうに…。


「…取り敢えず…後はあなただけよ…。」


リムさんは、そう言いながら、元依頼主の方を見た。


「………………ちょっと待て、何か…。」


「…………?」


しかし、ブロックさんとイーネさんは、何か不思議そうな顔をしていた。

…確かに、俺も、この状況に少し違和感があるような気がした。

…しかし…一体どこに違和感があるのだろうか…?


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…っ!?…消えている…。」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


…そういえば、リムさんが、分身の元依頼主を倒した時は、死体どころか、血も消えていたよな…。

…という事は、分身の元依頼主は、まだ生きているという事か…?


…俺がそう思っていると、血溜まりが、少し動いたような気がした。


「……!」


ブロックさんは、その様子に気がつくと、さっとリムさんの腕を掴んで、自分の方に引いた。


「イーネさん!」


「…は…?……っ!」


イーネさんは、俺の声を聞くと、即座にその場から離れようとしたが、足が動かなかったようで、その場で思いっきり転んでいた。

…その時、血溜まりの色が段々と、最初に見た、スライムの色に変わっていき、イーネさんを巻き込み、元の姿に戻ろうとしている様子だった。


「………あ、これはちょっとまずいかもしれないなぁー。」


流石のイーネさんも、この状況には、焦りを覚えている様子だった。


「…『イグニション』…!ダメか…。」


イーネさんは、『イグニション』を放とうとしていたが、腕ももう動かせない様子で、なおかつ、炎だったので、スライムにはあまり効かなかったようだった。


「…!」


俺は、『エレクトリック』を連発したが軽く避けられてしまった。


「…………。」


「…効かないわね…。」


ブロックさんや、リムさんも、攻撃を試みていたが、全く効いていない様子だった。

…そうだ、本体の方を攻撃したら、こっちの動きは止まるんじゃないか…?


と俺は、本体の方へ走って向かおうとしたが、急に体に痛みを感じて、床に手をついてしまった。


「…?」


どういう事だ…?と一瞬思ったが、理由はすぐに分かった。

…ああ、そういえば、俺が…元依頼主を斬った時に着いた返り血も、消えてなかったよな…。

セクタは、俺の様子を見た瞬間『ヒール』をしてくれて、痛みはすぐに引いたが、これもおそらく一時しのぎに過ぎないのだろう。


…そんな事を考えているうちに、イーネさんが完全に飲み込まれてしまった。


「…っ!」


「…イーネさん…。」


「…………………。」


「…あまり気に入らなかったけど、けど、こういうのも、あまりいい気分じゃ無いわね…。」


「「……。」」


…場に、重い空気が流れた。


「…ん?」


…と思っていたら、イーネさんは、気を失っている様だったが、すぐに帰ってきた。


…あれっ…………何だろうか、良かったんだけど、良かったんだけど…うーん。


「…あれ…?」


イーネさんはすぐに意識を取り戻したが、イーネさん自身も不思議そうにしていた。


「…えっ?」


…しかし、スライムに戻った元依頼主の前に、何やら、人影が見えたのが分かった。


「………ん?」


「………そいつは、偽物だよー。」


…その人影は…イーネさんだった。


…なるほど、擬態って、そうやってやるのか…。

確かに、バイトさんも、池で一瞬意識を失った…と言っていたような気がする。

…しかし…。


「…えっ?…偽物じゃないよー?」


「…何言ってるのさ、私が本物だよ。

…ほら、勇者様、私がした契約の事を覚えているだろ?」


「…いや、それなら、私だって魔力の契約の事をした事を覚えているよー。」


…これって、どっちが本物なんだ?


「…ツイト様、恐れていたことが起こってしまいましたね…。

何か、本物を見分ける方法があればいいのですが…。」


「…うーん…。」


俺は、リプラの言葉を受けて、本物を見分ける方法を、考えたのだった。

今回も読んでくださりありがとうございます。


元依頼主の、名前が判明するタイミングを完全に失ってしまいました。いつかは分かるはずです。


次回も良かったら見てください!

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