第42話 決戦 前編
「…で、ここで右から三番目で、最後に一番右の下から二番目…はい、終わりだよー。」
イーネさんが話した通りにスイッチを押すと、池の水が引き、地面が揺れたと思ったら、水が引いた池の先には、地下への入り口が出来ており、そこに続く階段もできていた。
「…いやー、まさか、こんな事になるとは…。」
俺達はあの後、柄の悪い人達を迎え撃った…事に、結果的になってしまった…のか?
イーネさんが俺を連れて行ったのは、相手を気絶させる能力が便利だから、らしい。
隠れて、イーネさんが様子を伺い、俺が、バレないように『スタン』を放ったので、相手は一体誰に攻撃されたのか、察しが悪いやつは分からないままだろう。
…そして、気絶している間に、相手が持っているメモを全て奪う、これを迎え撃ったと言っていいのだろうか。
…いや、しかし、もうやってしまったのだから、この事をあまり考えるのはよそう。
「…でも、見つけた紙の数にしては、工程が少なかったような…。」
「…ああ、そりゃ、あいつらは、ダミーや、別の何かを発動させるメモも持っていたからな。」
「…えっ?…そんな膨大な数のヒントから、池の底のヒントを見つけられたのか?」
「…いや、別の何かを発動させるメモにかかっていた魔法は、そもそも池の底のヒントとは違うから、一瞬で見分けはついた。
ダミーも、魔法の精度が少しだけ違ったから、分かった。
…それだけだよー。」
「…なるほど…。」
魔法の精度か…俺は、そういった事は一切考えていなかったからな…。
…俺がいつも使っている魔法は、精度がいいのだろうか。
少し考えてみた。
「…で、行くんでしょ?ここにさー。」
「…あ、ああ、うん…。」
俺は、池の先に出来た道を眺めた。
…セクタは、ここからちょっと魔力を感じるって言ってたんだよな。
…と、思いながらセクタの方を見ると、何かを考えているような顔をしていた。
「…セクタ、どうかしたの?」
「…いや、勇者さん、地下で調べた時は、少しって言ったけど…この感じ、少しじゃないかも…。」
「…えっ?」
「…そうですね…私も、この先にただならぬ気配を感じます。」
「…!」
リプラのその言葉を受けて周りを見渡してみると、俺以外の全員が、この階段の先の気配を感じているようだった。
…一体、どういう事何だ?
…この先に、ただならぬ者がいるって事は分かったが、カラリやリムさん、ブロックさんも感じているのに、どうして俺はその気配を感じられないのだろうか。
「…しかし、ここにとどまっているわけにはいきません。
ツイト様、行きましょうか。」
「…う、うん…。」
俺は、自分が感じられない気配に警戒しながら、階段を降りたのだった。
「…全員いますね?」
「…全員いるわ。」
「……ツイト様、おそらく、こちらにいるのが、元依頼主の本体だと思われます。
…作戦は、大丈夫ですね?」
「…う、うん…。」
「…イーネさんも、大丈夫ですよね。」
「…はいよぉー。」
リプラは、俺達の様子を確認したかと思うと、目の前のドアのセキュリティを解除し始めた。
「…開けますね。」
…リプラが、ドアを開けると、その先には、広い空間があった。
…その奥には、驚くほど巨大なスライムがいた。
「…もしかして、あれが、元依頼主の本体…?」
俺達は、恐る恐るそれに近づこうとした。
「…っ!」
すると、少し風を感じたと思えば、目の前に、元依頼主が現れた。
「…チッ…まさかここが見つかってしまうとは…。
地下であれば、分かる魔力だったか…。
ならやっぱりあの時殺しておくべきだったか…。」
元依頼主はセクタの方を見ながらそう呟いていた。
「もしくは…。」
「…?」
元依頼主は、カラリの方もチラッと見ていた。
…やはり、カラリには何かあるのだろうか…。
…いや、今はその事を考えている場合じゃない。
取り敢えず、作戦を実行しなくては…。
…いや、待てよ、作戦を実行する必要があるのだろうか?
…元々、これは、俺が…人の形をしている者を斬れないから、殺さずに済む方法という事で、考えられた作戦だ。
…しかし、本体に関しては、どう考えても、人では無いだろう。
……………。
モンスターなら、斬る事ができる…か…。
俺はそんな事を一瞬考えたが、すぐに考えるのをやめた。
…取り敢えず、作戦はもう…。
と、俺は思ったが、ふと、契約を結んでいるイーネさんの事が気になって、そちらの方を確認してみた。
「……?…………!…………。」
イーネさんは、最初は不思議そうな顔をしていたものの、途中から、まさか契約を破るつもりでは無いだろうな、という目でこちらを見てきた。
…自分にとってはもう必要ない作戦でも、契約を交わしてしまったのだから、契約をした相手が了承してくれないのであれば、実行するしかないよな…。
「…まあ、……っ?」
…と、俺は、元依頼主…ではなく、後ろの本体を目がけて『エレクトリック』を放った。
「…まだ、話している途中なんだけどな、勇者サン。」
しかし、スルッと避けられてしまい、元依頼主の本体に攻撃は当たらなかった。
「…って、本体も、攻撃を避けられない訳じゃないよな…。
スライムなら、尚更か…。」
…でも、今の行動で分かった事もある。
…避けるという事は、攻撃を当てた時に、無効になるという事はないという事だよな。
…それなら、イーネさんが作戦通りやってくれれば、いつかは勝てるはずだ…。
まあ、万が一、作戦通りにやってくれなくても、今回は問題無いという事が分かったが…。
「…『ライト』…!」
俺は、『ライト』を大量に生成して、壁を作った。
…正直、光球で出来た壁だから、物理的な攻撃どころか、魔法攻撃さえ防げるか分からないが、まあ、やってみなくては分からない事もあるだろうし、元々防御の為に『ライト』を出した訳じゃないから、別に結果がどうであろうと構わない。
…俺は、チラッとイーネさんの様子を確認してみた。
…イーネさんは、本体ではなかった元依頼主の時よりも慎重に、魔力をこちらに送っている様子だった。
…よし、それなら、こちらも慎重に、時間稼ぎをしていればいい。
「……。」
俺は、まず光球の壁を目がけて『エレクトリック』を飛ばし、出来るだけ間を置かずに、光球の壁を本体も直線上に入れ、本体ではない元依頼主の方に飛ばした。
…でも、まあ、攻撃が当たるとは思っていない。
…まず、『ライト』も『エレクトリック』も、真っ直ぐ飛ぶ。
『ライト』は、軌道を曲げようと思えば曲げられるが、今『ライト』の軌道を曲げても意味が無い。
…つまり、『ライト』を避ければ、自動的に『エレクトリック』も避ける事が出来る為、攻撃はおそらく当たらないのだ。
…しかし、この行動に全く意味が無い訳では無い。
…先程、元依頼主の本体が、攻撃を避けた時に、少々気になる事があった。
…本体が、攻撃を避ける時に、本体でない方が、一切動いていなかったような気がしたのだ。
…話している途中だったのに、避ける瞬間だけ、少し止まっていたようだった。
つまり、元依頼主の本体が動いている間は、本体でない方は動けないのではないか、と俺は考えていている。
…それを検証するのだ。
「………っ!?」
…しかし、元依頼主は、『ライト』を避けずに、そのまま『エレクトリック』もくらった。
「………ス、スタ……んっ!?」
元依頼主が、バタッとその場に倒れたので、本体を狙って『スタン』を撃とうとしたのだが、目の前に何者かが一瞬現れ、攻撃を阻まれた。
…おそらく、別の元依頼主が、高速移動で即座に現れ、攻撃を妨害したのだろうが…。
…しかし、何故、元依頼主は今、攻撃をくらったのだろうか。
結局検証は出来なかったな…。
「…チッ…。」
さらに、元依頼主は、不満そうな顔をしていた。
…何故だ…?
元依頼主は一体、どこまでを想定して攻撃を受けたんだ…?
検証しようとしたのが、バレた様子でもなかったようだし…。
「…!」
…と、リムさんは、俺が光球や『エレクトリック』を飛ばしている間に、元依頼主の本体の近くまで素早く移動していた。
…元依頼主も、その様子に近づき、リムさんの方に素早く移動して行った。
リプラも、作戦を実行を円滑に進めるために、準備をしていた。
「……………勇者。」
ブロックさんは、大剣を持って、俺の近くに来た。
「…………。」
俺も頷いて、剣を構えた。
…しかし…作戦がバレないようにするには、安易に剣を抜いてしまわない方がいいのだろうか。
俺は、剣を構えた後にそう考えてしまった。
…いや、しかし、ここで剣をしまう方が不自然だ。
…俺は、呼吸を整えて、元依頼主の本体の方へ走って向かった。
「…!」
元依頼主は、その様子を一瞬確認したようだった。
…しかし、こちらにくる様子はない。
…諦めた…訳では無いよな、本体だからな…。
…斬撃は無効に出来る…とか?
…ありえない話ではないな…。
「………………。」
…ブロックさんは、ちょうど元依頼主の本体を斬ろうとしている所だった。俺も、ブロックさんの元へ駆け寄った。
「………。」
「………。」
俺は、確認のためにブロックさんと調子を合わせて元依頼主の本体を斬ろうとした。
…もし、これで元依頼主を倒す事が出来てしまったら、作戦は失敗に終わる訳だが…。
ん?いや、待てよ…。
…イーネさんとの契約を守るために、作戦を実行する必要は無いんじゃないか?
…元々、モンスターを倒せば、魔力は俺の周りに集まって来るのだから、おそらく、魔力を渡すという条件さえ守れば、問題ないはずだよな…?
俺はそういった考えに至り、安心して剣を振った。
「………。」
斬った後の元依頼主の本体は、無事ではないようにも、無事のようにも見えた。
…というのも、斬撃の痕はしっかり残っているのだが、リムさんと戦っている元依頼主に、一切影響があるように見えないのだ。
…やはり、斬撃は効かないのだろうか。
「…っ…!」
と、思っていると、リムさんの攻撃が元依頼主に当たっていたようだった。
…しかし、今のは普通に攻撃を受けただけで、斬撃は関係ないという可能性もある。
…どちらにせよ、まだ分からな……あっ。
そんな事を考えているうちに、リムさんが飛ばしたクナイが、元依頼主の心臓を貫いていた。
…俺は思わず目を背けてしまったが、覚悟を決めて少しだけチラッと見てみた。
「…っ!?…消えている…。」
俺が見た時には、元依頼主の死体は、そこにはもう無かった。
…また、別の元依頼主が、死体を運んで行ったのか…?
…しかし、血も消えている。
…いや、まあ、そうか、いくら人間を擬態しているとはいえ、モンスターなんだもんな…。
別の地下で、イーネさんが魔力を奪っていた時、段々と薄くなって消えていたから、おそらく、そういう事なのだろう。
「……勇者サン。」
と思っていると、背後から、元依頼主の声が聞こえた。
…また別の元依頼主が…と、俺は振り返ったが、元依頼主はいなかった。
「…ん?…何だ、一体どこから…。」
俺は目の前のスライムを見たが、そこからでは無さそうだった。
「…レベル、って、知っているかな…?」
「…どういう事だ?」
元依頼主は、何やらよく分からない事を聞いてきた。
「…確かめようじゃないか。」
俺の問いを無視して、元依頼主はサッと目の前に現れ即座に攻撃を仕掛けてきた。
「…!?『スタン』…っ!」
俺は、一瞬の間で『スタン』を撃った。
…元依頼主には、当たったようだった。
「…なる、ほど…『スタン』か…しかし、分かった…。」
元依頼主は、ふらふらとその場に座り込んだが、何故か笑みを浮かべていた。
「…?」
「…勇者サン…レベルは、体力や、魔力…とにかく、身体能力を、色々と計測して、平均と比べて、算出されるものだ。
あいつらの一人が、勇者サンの事をレベル99だと言っていたが…魔力の影響で、おそらくそれはもうとっくに超えているんだろう。」
「…何だ?…何が言いたいんだ…?」
「…勇者サンの、攻撃力、防御力は、全て魔力依存のもののはずだ。
…つまり、魔力を得たらレベルが上がり、魔力を失ったらレベルが下がる、という訳だ。
…レベルと同じく、攻撃力や防御力も、な…。」
『スタン』を受けた元依頼主は、そう語ると、自分の本体を指さした。
…しかし、レベルって、勝手に、上がり続けるものだと思っていたから、俺の場合、魔力を使い続けると、レベルが下がる、という事もあると知って…結構、驚いた。
…という事は、今はイーネさんに魔力を送って貰っているから、レベルは上がっているという事か…?
……元依頼主の、確かめるという言葉…。
…もしかして、元依頼主は、イーネさんが俺に魔力を送っていた事に気がついたのだろうか。
…なるほど、それなら、さっき『ライト』や『エレクトリック』を避けなかったという事も、本当にレベルが上がっているか確かめた、と考えれば、筋は通る。
…作戦が、少しバレているな…。
…俺は、そう思いながらイーネさんの方を見たが、イーネさんは、問題ない、という顔をしたので、俺は取り敢えず、元依頼主が指さした方向を確認する事にした。
…元依頼主の本体は、先程と何ら変わりのない状態に見えたが、よく見ると、小さく震えている事が分かった。
…何だ、一体、何が起こるんだ…?
…俺がそう思っていると、元依頼主の本体は、段々とバラバラに、細かくなり始めた。
「…?」
俺は、次に何が起こるか分からないまま、身構えたのだった。
今回も読んで下さりありがとうございます。
バラバラになったらやる事はひとつですね。
そうとも限らないですか…。
次回も良かったら見てください。




