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第39話 池

「池って、こんな池なんだ…。」


壊された橋を進むと、目の前には、青々とした池が広がっていた。

…俺は、池はもう少し小さくて、緑がかっているものを想像していたから少し意外だと思った。

この池はどちらかといえば湖に近いような池だな。


「…でも、魔王の影響を受けたモンスターどころか、普通のモンスターもいないようだけど…。」


しかし、池にも、池の周りにも、モンスターの気配はなかった。


「…それはおかしいですね、バイトさんからは、この池にも生態系があり、モンスターが現れるという資料を貰っています。

モンスターは普通にいるはずです。」


「…えっ、そっか…なら、何でだろう…。」


「…姿を見せていないだけかしら…。」


「…姿を見せていないだけ…。」


姿を見せないのなら、それはいつもと状況が違うということだよな…。

…取り敢えず、気をつけておこう。


「えーっと、それで、元依頼主っぽい者はいないようだけど…。」


「私達が来る事が、バレたのでしょうか…?」


「いえ、それなら、モンスターが何もいないという事は、きっとないでしょう。

それに、元依頼主がいないのであれば、わざわざ呪いをかけておく必要はないかと思います。」


「…そうですか…。」


「…もうどこからか狙われている可能性もあるわね…。」


「…!」


リムさんのその言葉で、少し空気がピリッとした。


「…あ、そ、そうだ、セクタ、『サーチ』で何か分かったりしないか?」


「…ああ、えっと、一応ここに来てからすぐ使ってみたけど、大きな反応はないよ…。

小さな反応なら、少しあるけど…。」


なるほど、それならやはり他のモンスターは姿を見せていないだけか…。


「あっ、ちょっと待って、そこの茂みに…少し大きな反応がある…。」


「えっ?」


セクタは、池から少し離れた所にある茂みを指差した。


「…元依頼主がいるにしては、小さめの茂みだな…。」


と、茂みに近づくと、茂みはガサガサと音を立て始めた。


「…っ!?…って、何だ、ただのスライムか…。」


茂みから出て来たのは、何の変哲もないスライムだった。


「…って、待てよ?

なんだか様子がおかしいぞ…。」


しかし、出てきたと思えば、スライムはピタッと動きを止め、プルプルと震え始めた。


「…リプラ、爆発したりしないよね…?」


「…スライムが爆発…という事は、一切聞いた事が無いので、問題ないと思います……………多分。」


「…えっ、リプラ今多分って言った?」


思わずリプラの方を向いてしまったが、リプラは無言で笑みを浮かべていただけだった。


「…えっ、ちょっと待って、大丈夫…だよね?」


と、俺は身構えてしまったが、しばらくするとスライムは動きを止めた。


「…よかった…。」


俺が安心した瞬間、スライムは形を変え始めた。


「…えっ!?ちょっと待って、大丈夫…だよな!?

…大丈夫だよね!?…………っ、て………え?」


俺は怖くなり目を瞑ってしまったが、何も起こらないようだったので、目を開けると、スライムは人の形を作っていた。


「え、もしかして…これって…俺?」


そのスライムは、俺が今来ている服で、俺の身長の半分くらいの、ちょうど、幼少期のような姿になったが、少し溶けているため、完全な人には見えない。


「………ん?なんだ…?

なんか…友好的だな…。」


そのスライムは、笑顔で俺の手を握った。


「…お、おお…。」


俺は少し警戒したが、そのスライムは何をするでもなく、笑顔で手を握っているだけだった。


「…あ、そうだ、そういえば、リプラは、ここに居るモンスターは、元依頼主でなくとも、元依頼主の下位互換的なものだと思われるって言っていたよね…。

…このスライムが、そうなんじゃないかな…?」


「…元依頼主は、ここにはいないって事ですか?」


カラリも、首を傾げながらリプラにそう聞いた。


「…そうですね、その可能性がない事はないと思います。

…しかし、このスライムには、少し疑問が残ります。

先程の、セクタさんの言葉なのですが…。」


「…セクタの言葉?」


「…はい、セクタさんは、このスライムに、“少し大きな反応がある”と言っていました。

…しかし、魔王の影響を受けたモンスターは、魔力をかなり持っているんです。

リカバリー街で噂になっているのであれば、少し大きな反応という事はないと思うのですが…。」


「…う、うん、このスライムは、普通のスライムよりは魔力を待っているけど、そんなに沢山持っているん訳じゃないよ。」


セクタも、リプラの顔を見ながら、そう言った。


「…ええ、魔王の影響を受けたモンスターであれば、もっと魔力を持っているはずなのです。

…このスライムは、能力で考えるのであれば、元依頼主に魔力を貰ったとのではないかと思います。

元依頼主に、何かを頼まれた可能性もありますね。

もし、このスライムから魔力を回収して、擬態が解除された場合、この考えは、ほとんど正しいという事になりますが…。」


リプラは、イーネさんの方を見て微笑んだ。


「…はいよ、魔力を回収ね。

まあ、こいつは元依頼主じゃないが、契約通りにやってくれるんなら、構わないよー。

はーい、なかよしなかよしぃー。」


微笑まれたイーネさんは、仕方ない、といった様子で、少々、友好的とは言い難い態度で、スライムと握手しようとしていた。


「………!」


スライムは、イーネさんと目を合わせると顔色を変え、手をはたいた。

リプラはその様子を見て、何かを察したような顔をしていた。


「ほーお?」


一方、手をはたかれたイーネさんは、リプラとは違った笑みを浮かべながら、手に炎も浮かべて、スライムににじり寄っていた。


「…なぁ、えーと、なんて呼べばいいかは分からないが…スライム…。

…分かっているよなぁ?」


スライムは完全に怯えきっていた。


…なんだかな、姿が、幼少期の俺のようだからかな…。

自分が酷い目に遭っているようで、複雑な気分だ。


「…はーい、よろしい。」


イーネさんが強制的にスライムから魔力をぶんどると、スライムは、普通のスライムの姿に戻っていた。


「…なるほど、擬態の能力は、やはり、魔力の影響だったようですね。

…そうすると、元依頼主が、このスライムに力を渡したという線が、やはり一番濃厚ですね…。

…元依頼主も、私達がここに来るんじゃないかという事を予想していたのでしょうか?」


「…うーん…。」


「ああ、誤魔化そうと思ったんだが無理だったようだな…。」


俺達が、元依頼主について話し合っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「…元依頼主…!」


「…いえ、少々待ってください。

元依頼主が、こんなにあっさりと姿を表すはずがありません…。

これは、何かの罠かもしれません。」


「…罠…?」


「はいはーい、回収しますよぉー。」


俺がリプラと話をしている間に、イーネさんが、元依頼主の背後に周り、魔力をぶんどった。

すると元依頼主に見えていた者は、普通のスライムになった。


「…このスライムは…偽物だった…って事?」


「…そのようです…。

ところで、ツイト様、元依頼主がいると考えられる場所の見当はつきましたか?」


「…えっ?

…元依頼主がいると考えられる場所の見当…?」


リプラが、あまりにも唐突にそんなことを聞くので、驚いてしまった。

…もしかして、リプラは、さっきのスライムの様子から何かに気づいて、もう見当がついているのだろうか。


「…いや、俺は…全く。」


俺は、リプラの問いにそう答えた。


「…リプラは、何か見当がついているの?」


「…ええ、まだハッキリと分かったという訳ではありませんが…。」


そう、リプラと話していると、リムさんが、ねえ、と話しかけてきた。


「…私、少し気になっている事があるのだけれど…。

さっきの二体のスライム、なんだか、カラリちゃんの方を向いているような気がするのよね…。」


「…えっ…た、確かに…。」


二体のスライムの方を見てみると、確かに、擬態が解除された時より、少しカラリの方に寄っている気がする。


「…………。」


俺がスライムの方に近づくと、スライムは素早く俺から距離を取ったが、俺が離れると、ゆっくりカラリの方に近づき、ある程度距離を置いたところで止まった。


「これは…カラリに何かがあるのか…?」


「…わ、私ですか…?」


「…そういえば、確かに、元依頼主は、カラリさんを毎回さらっていましたね。」


「…で、でも、それは、私の昔のことが関係しているだけで…そんなに重要なことでは無いのではないでしょうか…。」


「いえ、しかし、一度目はそうだったとしても、二回目まで、カラリさんをさらう必要はないはずです。

…それに、元依頼主は、森で、カラリさんの昔のことについてを周りの人に話したり、借金を踏み倒そうとした人は、もう皆この世には居ない、と言っていました。

つまり、さらえるのであれば、その脅しを実行する事も可能だったはずです。

…わざわざさらうのであれば、一度目にさらった時に、元依頼主は、何かに気づいたのではないでしょうか。」


「な、何か…ですか。」


カラリは、全く心当たりがないという顔をしていた。


「…先程は、ハッキリ分からない、と言いましたが、元依頼主がここのどこかにいるという事が、確定しつつあるかもしれません。」


「…えっ、そうなの?」


「…はい、ツイト様。

…元依頼主が、何らかの理由で、カラリさんをさらおうと思っているのであれば、近くにいるはずです。

ここに来るためには、呪いを解かなくてはならないので、元依頼主が居ないのであれば、わざわざ普通のスライムに力をわけて、スライムにカラリさんの事を教えておく必要は無いはずなのです。」


「…うーん、まあ、そうなのかな…。

でも、ここのどこかに…といっても、見渡して分かるような場所にはいないみたいだけど…。」


「そんなに考える必要無いんじゃないかなー。

このスライム達に聞けばいいじゃない、ねえ、勇者様?」


俺とリプラが話していると、イーネさんがニッコリとしてこちらを見ていた。


「…え、聞く!?

いや、確かに、リプラが言ったことが正しいなら、このスライム達は、元依頼主の場所、もしくは隠れられるような場所を知っているのかもしれないけど…。

…でも、元依頼主の仲間なら、聞いて教えてくれるような…。」


「…分かっているよなぁ…?」


イーネさんは、また手に炎を浮かべながら、スライムとゆっくり距離を詰めた。


「あ、聞くってそういう…いや、何でもない。」


スライムは、イーネさんに気がつくと、素早く、茂みの後ろに隠れたり、距離を取ったりした。…しかし、二体とも、俺達が見えなくなる距離までは離れようとしなかった。


「…ダメか…まあ、さすがにそんなに簡単には行かないか…。

うーん…あ、そうだ………『イグニション』。」


イーネさんは、スライムに背を向けて少し距離を置いたと思ったら、炎を飛ばし、一体のスライムの周りを囲った。


「…さあ、もう一体のスライム……このスライムを助けたいなら、居場所を教えるんだな…。」


イーネさんは、茂みに隠れたスライムに、そう捲し立てた。


「……………!」


スライムは、茂みから出ると、イーネさんの方に近づいた。

…どうやら、場所を教えてくれるような雰囲気だった。

…このスライムは、何らかの理由があって元依頼主に協力していただけで、根は優しいスライムなのかもしれない、と俺は思った。


「…なるほどねぇー、ほぉ…。

…じゃあ、ほら、火は消したよー。」


イーネさんは、スライム達に手を振りながらこちらにやって来た。


「…いやぁ、親切なスライムが、身振りを使って場所を教えてくれたよ。」


…親切なスライムが…。

と、俺は思ったが、上手く行ったのであれば良しと…。

………やっぱり、良しとは思えないな…。

…取り敢えず、心の奥底で、スライムに感謝しておこう。


「…場所は、やっぱりここなんですか?」


「…うん、そうみたい。

…スライムが示していた場所は、地下っぽいんだよねぇ。」


「…地下?」


地下…。ここでイーネさんが言っている地下は、あの、リーディングシティのビルで見たような地下なのだろうか。

…こんな池のどこかに、地下があるというのはだいぶおかしいから、意図的に作られたものには間違いないだろうけど…。


「…それで、その地下がどの辺にあるかも分かったんですか?」


「まあね、うーん、それでねぇ、追加二千でどうかな?」


…どうやら、こんな状況でも有料らしい。


「…え、お金とるんですか?」


「…まあ、言ってみただけさ、ダメなら千でいい。」


「…結局お金取るんじゃないですか…。」


「…ツイト様、大丈夫ですよ、地下だという事が分かれば、探す事は可能です。」


「…えっ、そうなの?」


「…はい、ツイト様、周りを見渡してみてください、不自然な所があるはずです。」


「不自然な所…?」


俺は、リプラの言葉通りに、周りを見渡してみた。


「…あ、リプラ、もしかして、あの茂み…?」


池の周りには、茂みが生えているのだが、不自然に茂みが生えていないところが一箇所あった。


「…確かめてみましょう。」


…俺達は、すぐに茂みが生えていない場所の前まで行った。


「…少々お待ち下さい。」


リプラは、茂みが無い部分を、よく確認して、ここですね、と呟いたと思えば、地面を物理的に切っていた。


「…うわ、本当に地下っぽい扉が出てきた…。」


リプラが切った場所からは、潜水艦のような入口が現れた。


「…では、皆さん、作戦通りに行きましょう。」


リプラは、そう言って地下に続くと見られる場所のドアを開けた。

…もし、ここに、元依頼主が居るのであれば…いよいよ、戦う事になるのか。

俺は、緊張しながらリプラに続いた。

今回も読んで下さりありがとうございます。


回収者、イーネ。


次回も良かったら見てください!

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