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第40話 潜入

「…結構暗い道だな…ん?」


暗い地下をしばらく進むと、目の前にドアが見えてきた。

その先からは、何となく、声が聞こえるような気がする。


「…ここに、元依頼主が…?」


「…おそらく。

…では、作戦は忘れておりませんね?

…行きますよ。」


リプラはそう言うと、その目の前のドアをゆっくりと開けた。


「…元依頼主…!」


すると、部屋の奥には元依頼主と思われる者がいた。


「………は?

…ああ、そうか…なるほどなぁ…。

あいつが…。」


元依頼主は、俺達の方を見ると、驚いたような反応をして、なにかブツブツと呟いていた。

…驚いている…?

つまり、俺たちがここに来るのは想定外だったってことか?


「…それで、何か用かな、勇者サン達。

…今回は、別にだれもさらってないんだけどな。」


元依頼主は、そうとぼけた。


「…私達がここに来た理由は、ご存知でしょう?」


「…まあそうか。

…しかし、よくここがわかったね。

こんな場所に地下があるなんて、思いつかないと思うけど…。

それとも、あのビルで何か気づいたのかな…?」


「まーなぁ、ちょっと君の仲間を脅かし…いや、驚かして、教えてもらっただけだよー。」


イーネさんの言葉を聞くと、元依頼主は、意外だ、という顔をした。


「まさか、勇者サンの仲間に、そんな方法を使うやつがいるなんてね…。」


イーネさんは、ドヤ顔をしていた。

…まあ、確かにそうだよな…。

…普通、イーネさんのような性格の人は、勇者の仲間になろうとはしないよな…。

…そもそも、イーネさんは、未だにどういった理由で着いてきているのか謎だしな…。

…どう言ってたっけ、確か、『運命』とか言っていたような…。


「…で、まあ、今ちょっと忙しいんだよね。

…うーん、そうだなあ、そこの、勇者の仲間らしからぬ手を使った…。」


元依頼主は、イーネさんの事をどう呼ぼうか迷っているようだった。


「…小さいやつ。」


「…!」


イーネさんは、その言葉を聞いた瞬間、ピクッと少し動いた。


「こちらの仲間にならないか?…なんてな。

もし、欲しいものがあるのであれば、なんでもやるぞ。」


元依頼主は、本気なのか冗談なのかは分からないが、フッと笑いながらイーネさんにそう言った。

しかし、俺は多分、イーネさんは乗らないだろうと思っていた。

…禁忌に触れてしまっているからだ。

イーネさんも反応していたし、きっと怒っているはずだ。

例え、欲しいものをなんでもやると言われても、きっと断るはずだよな?


「欲しいものをなんでもって…お前、そんなことできんのか?」


ん…あれ…イーネさん、そんなに怒ってない…?

イーネさんは、予想と反し、意外と冷静な声色で、元依頼主にそう聞き返していた。


…いや待て、『お前』と言っているという事は、結構怒っているな…。

…じゃあ、このイーネさんの態度は、どういうことだ…?

怒ってはいるが、仲間になるつもりで大目に見ているのか、何か違う考えがあるのか…。


「…ああ、出来るさ。

お金も、物も、簡単にな…。」


「なるほどなぁー。」


イーネさんは、元依頼主の話を聞くと、そう呟いて頷いた。

…え、イーネさんまさか本当に元依頼主の仲間になったりしないよな…?


「…じゃあ、いいだろう。

…うん、そっちの仲間になるよ。」


「…えっ?」


イーネさんは、普通に元依頼主の仲間になり、元依頼主の方に移動した。


「…ちょ、ちょっと、イーネさん!?

さ……あれは…。」


俺は、うっかり、作戦は…と言いそうになってしまったが、言ってしまったら台無しになるので、何とか言葉を飲み込んだ。


「……………。」


イーネさんは、不敵な笑みを浮かべて、無言でこちらを見ただけだった。

…これは一体どういう表情なんだ。

リプラの方を向くと、リプラは、イーネさんの事は、作戦に関して問題はありませんが、おそらくこの元依頼主は、分身であり、本体ではないでしょう、という顔をしていた。


…確かに、そうだな。

元依頼主は、俺たちがここに来たのは想定外だ、という風に驚いていたが、まさか、本体がウロウロする程、甘くはないだろう。


「………。」


「………。」


もう一度リプラの目を見ると、本体か分身かはともかく、魔力を回収するつもりではいるようだった。


「…うーん、えーっと…じゃあ。」


俺は、あの時の地下での事を思い出しながら、『エレクトリック』を、放った。


「…………フッ。」


しかし、元依頼主には、余裕そうにかわされてしまった。


「…この前と同じでは食わない…と…この前も言った気がするな。

…まあいい、どうせ、剣は抜けないんだろう?

…魔法をずっと放っているならいずれは……。」


「…?」


元依頼主が話している時、何故か少し力が満ちてきたような気がした。


「…!」


イーネさんをよく見ると、元依頼主にバレないように魔力をこっちに送っているようだった。

…って事は、やっぱり、イーネさんは、本気で元依頼主の仲間になった訳では無かったのか…。

…と、俺は少し安心した。

…でも、確かに、冷静そうに見えていたが、『お前』と言っていた事もあるし、まず、よく見ると目が笑っていない。

…いや、目が笑っていないというか、もう、目が怒っている。


…池の手前で、説得力がどうのと呟いてしまったが、この状況でこんなに怒るという事は、身長は、かなり本気で気にしているんだろうな…。

…これからは、気にするのはやめておこう。


「…『スタン』!」


「…だから、何回やっても……。」


「…今回は、私達もいるのよ!!」


「……ああ、『ディフェンス』………っ。」


俺がスタンを撃った瞬間、イーネさんが元依頼主を目がけてクナイを放った。

ブロックさんも大剣を持って俺の前に出た。


「…チッ、邪魔だな…仕方ない。

…まだ、あれを実行するチャンスはありそうだからな…。」


元依頼主は、通信機のような物を取り出し、何か、操作をしていた。

…元依頼主が言う“あれ”とは、もしかして、あの地下での、自分を俺に殺させようとしたあの出来事に関する事だろうか。


「『ライト』!」


俺は、そんな事を考えながら、通信を妨害しようと、元依頼主の目を狙って『ライト』を飛ばした。


「…よっと……。」


元依頼主は、俺が飛ばした『ライト』や、リムさんの高速移動での攻撃、ブロックさんの攻撃もササッとかわし、何かを待っているような様子で、俺達が入ってきた入口の方を見ていた。


「…じゃあ…。」


イーネさんは、おそらく、仲間になったという事が嘘だとバレないように、炎をこちらに飛ばしてきた。

…炎を浮かべてから飛ばすまで時間があり、避けやすいから、多分そうだろう。

…しかし、リムさんへの攻撃は、割と本気に見えるというか、間が俺達とは違う。

…一切リムさんと目を合わせることもないし、なんならフェイントまで入れている。


「……っ!」


リムさんはそれに気づき、イーネさんに鋭い視線を送っていたが、イーネさんは、攻撃するなという契約した覚えはないなぁ、という様な顔でリムさんの方を見ていた。

…イーネさん…やっぱり、本気でリムさんを狙っていたのか…。


「………………。」


元依頼主は、イーネさんの様子を確認すると、攻撃を避けるのに集中し始めた。

…しかし、ここからどうするべきか…。

…イーネさんが俺に、完全に魔力を送り終えるまで時間を稼ぐ、それ以外ないのだが…『フラッシュ』は合図なしに撃てるものじゃないし、ワンパターンな攻撃をしていると、作戦がバレる可能性もある。


「……。」


俺は、『ライト』や『スタン』、『エレクトリック』などで時間稼ぎをしていたが、しばらくして、少し冷静になってきた。


冷静になると、時間稼ぎの方法もスッと思い浮かぶ。


…俺は、剣を抜いてみる事にした。


「…そろそろ…っ!?」


元依頼主は、俺が剣を抜いた事に一瞬驚いた様子だったが、すぐにいつもの顔に戻った。

…まあ、前回の地下での出来事や、森での出来事があるから、その反応は想定内だ。

俺に、全力で剣を振れる訳がない、と思っているのだろう。


…実際、全力で剣を振ることはできないし、振るつもりもない。

…ただ、時間稼ぎに使うだけだ。

俺は、剣を構えて元依頼主に特攻した。


「…っ!?」


「………!」


俺が、急に元依頼主に特攻したので、リムさんとブロックさんも、慌てて元依頼主から距離を置いていた。


「……でいやっ!」


俺は、当たりそうだが、ギリギリ当たらない様に剣を振った。

…元依頼主は、一切、避ける素振りを見せなかったので、おそらく、当てるつもりがない事は、元依頼主の中で確定しているだろう。


「………っ!」


しかし、目的は時間稼ぎだから関係ない。

…俺は、続けて当てるつもりのない剣を振った。


「…どうしたの、勇者サン。

全然、攻撃が当たらないけど…?」


「…っ……。」


俺の様子を見て、リムさんとブロックさんは不安そうにしていたが、俺は、瞬きをして、問題ない、という合図をした。


「…まあ、当たらないんじゃなくて、当てられな……っ!?」


元依頼主が話していると、姿が段々と薄くなっていき、話を終える前に消えてしまった。

どうやら、イーネさんが、俺に、元依頼主の魔力を全て送り終えた様だった。


「…こいつ、全然魔力を持っていなかったなぁー…。」


「…やはり、本体ではなかったようですね…。」


「…まあ、元依頼主な事に違いはないしな…。

魔力は貰っておくねー。」


イーネさんは、こちらに近づき、魔力を軽く奪った。


「…結局、元依頼主は何をしようとしていて、本体はどこにいるんだろうな…。

…ん?」


元依頼主の分身が消えた時に、何やら、地上から音が聞こえてきたのがわかった。


「………。」


どうやらリプラにも聞こえているようだった。


「…誰かが来るようです。」


「……確かに、耳を澄ますと、少し足音が聞こえるような気がするわ。」


「……っ。」


…しかも、足音が多いから、割と大勢来ている…?

…そういえば、さっき、元依頼主が通信機のような物を使おうとしていたな…まさか、あれで応援を呼ばれたのか…?

…しかし、今ここに元依頼主はいない…これは…どうなるのだろうか。


「…フッ…もう逃げ場は…あれ?」


予想通り、俺達が入ってきた場所から、柄の悪い人達が、やって来たが、元依頼主が居ないので、全員、どうすればいいか分からず、困惑している様子だった。


「…お、おい…一応ここに呼ばれたんだから、戦っておいた方がいいんじゃねえか?」


「…そ、そうだな…。」


「おー、ちょうどいいんじゃない?

…この人達に、あいつの場所を聞こうよー。」


イーネさんは、困惑しつつも戦闘態勢を取ろうとしている柄の悪い人達に、目線を送った。

…あれっ、何だか、既視感があるな…。

スライムの時と、状況が似ているぞ…。


いや、でも、今回は…いや、前回も姿が人間だった時はあったけれど、正真正銘の人間で、おそらく、魔力を奪ってもこぶしは使えるだろう。

…本人には絶対に言えないけど、かなり体格差があるから、不利なはずなんだけどな…。


「…なぁ…ちょっと教えて欲しい事があるんだが…。」


しかし、イーネさんは余裕そうだった。

…一体その自信はどこから来ているんだろうか…。


「…は?…何だこのガキ。」


「………っ……おっと、お前ら、そいつは仲間だ。」


イーネさんは、子供だと思われた事がかなり癪に障っているようだが、手を握って頭につけ、腕で口元を隠したと思えば、突然、元依頼主のような声を出し始めた。

…これは、もしかして、イーネさんが、薬屋で俺達をバラバラにしたという能力か…?


「…えっ?ど、どういう事…ですか?

…一体どこから話しかけてんですか?」


「……ああ、今は一時的に身を隠しているだけだ。

とにかく…まあ、こいつは、優秀だったから、仲間にならないかと誘った…その返事が、了承だった。…それだけだ。

…それと、こいつはこう見えて、22歳だそうだ。

…仲間だからな、間違えるんじゃないぞ?

…という訳で、新しく仲間になったそいつに、色々と教えてやれ。」


イーネさんは、歳の部分を少し強調して、柄の悪い人達にそう言った後、元の声で、宜しく、と挨拶した。


「…仲間…?

仲間になったと言っても…。」


柄の悪い人達は、仲間になったという事も、22歳だという事も信じられないようだった。

しかしまあ、柄の悪い人達に、嘘は着いていないよな。

本気なのかは結局分からずじまい…いや、これから分かるかもしれないが、一応、仲間になるかどうか聞かれて、なると答えたんだからな。


「……まあ信じられねえだろうな。

…勇者…サンの仲間だったやつが、急にこちらの仲間になったと言っても。

…だが、こいつはこうやって……通信する能力を持っている。

…お前らを呼んだのは、こいつの能力を見せるためだ。」


なるほど、イーネさんは、声真似の能力を、通信だと誤魔化すつもりらしい。


「…え、あ………えっ?」


「…勇者サン達は取り敢えず放っておいていい。

どうせ本体を見つける事は出来ない。

…元の場所に戻って構わない。」


「…わ、分かりました…?」


「…じゃ、私も着いて行くからー。」


イーネさんは、柄の悪い人達と一緒に、地上へ戻って行った。

…戻って行く直前に、目でこちらに合図をして。


「…つまりは、イーネさんが色々調べてくれる。

…という事でしょうか。」


イーネさんが居なくなった後、カラリは不安そうにそう呟いた。


「…おそらく、そうだと思われます。

一度、スパイになり、情報を手に入れたら戻ってくるつもりなのでしょう。」


「なるほど…じゃあ、それまで…?」


「…地上で待っていましょう。

…地上でも、できる限りのことはするつもりですが。」


リプラは、来た道を戻ろうとしていた。

…俺も、リプラに着いて行った。


…しかし、若干、疑問というか、気になる事が出来たかもしれない。

あの人達の、元依頼主への態度だ。

…元依頼主に、急に、リーダーのような事をされたら、不満や疑問があるはずだ。

…しかし、あの地下でも、今も、柄の悪い人達からは、そういったものは一切感じなかった。

…感じたのは、探るように元依頼主に話しかけているという事だ。

…何か、恐れる事でもあるのだろうか。


俺はそんなことを考えながら、地上に出たのだった。

今回も読んで下さりありがとうございます。


潜入者、イーネ


次回も良かったら見てください!

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