第37話 決行
「…なんか、かなり疲れたな…。」
そして、俺達は宿屋に戻ってきた。
「…そうですね、ツイトさん…。」
「…うん…。」
「…っていやちょっと待って。
どうして俺の泊まる部屋に二人がいるの?」
…俺は、さっそく、暗号の解き方を覚えようと、自分が泊まる部屋に向かったはずなのだが、何故リプラやカラリも着いてきているんだ?
「共有スペースで暗号の解き方を見るわけにはいきませんからね…。」
「いや、そっか…その、まあ確かに……そうなんだけど…うん。」
少し疑問はあったが、確かにリプラが言っていることは正しいので、まあいいか、と、気にしない事にして、暗号を覚える続きを始めた。
「そして………ずらして…………五十音で、アの音が…。
…………これで句読点が……。
………。
…なるほど、何となく分かった、けど…。」
俺は心の奥に少し不安を抱えていた。
…俺は暗号を打てるのだろうかということだ。
いや、暗号の翻訳も、日本式になっていて、『kantsumire』でも日本語が打てるから、文字が打てることは確定しているが…。
…俺が暗号を打ったら、俺にはどう見えるのだろうか。
意味の分からない日本語の羅列に見えるのか、翻訳ソフトに入れた時のようにだんだん、日本語に見えてくるのか、どちらだろうか。
…後者だったらものすごく困る。
…試しにやってみるか…?
俺は『kantsumire』を開き、暗号を試し打ちしてみた。
「…なるほど、暗号は、意味の分からない日本語の羅列に見えるのか。」
…そこに表示された文字は、解き方が分かっていなければ、到底読む事は出来ないような文字の羅列だった。
「ん?」
と、思っていると段々文字が普通に読めるようになってきた。
…という事は、暗号を打つと、書き切るまでは暗号に見えるが、書き終わるとすぐに、読める日本語に翻訳されてしまうということか。
…まあ、書いている時に翻訳されてしまう訳じゃないなら、問題ない、のか?
「…取り敢えず、暗号に関してはこれで大丈夫そうだ。
…次は、元依頼主が能力を使えないようにする方法か…。」
…暗号に関しては問題なく覚えることができたが、元依頼主の能力を抑え込む方法は、全く思いつかない。
…しかし、そんな方法があるのだろうか。
…何か、能力を抑え込む道具があるのなら別だが、何も無い状態だったら、どうするのだろうか。
「…リプラ、元依頼主の能力を抑え込む方法に関しては、無策なんだよね…?」
「はい、しかし、方法がないわけではないということに、先程気付きました。」
「だよね、やっぱり……って、えっ!?
方法が無いわけではない…!?」
「…ええ、ツイト様や、カラリさんも見たでしょう。」
「…見た…ってことは、イーネさん?」
「…ええ。」
…方法が無いわけではない…見た…イーネさん…。
もしかして、あの、魔力を奪う魔法…か?
…まあ、確かに、魔力が無ければ魔法は放てないしな。
「…うん、多分…何となくどんな方法か分かったよ。
いい方法なんじゃないかな…。」
「…?」
俺がリプラにそう言った時、カラリは、分からない、というような顔をしていた。
「…説明するならば、何とかしてイーネさんの協力を仰ぎ、イーネさんに元依頼主の魔力を奪ってもらい…。」
…何とかイーネさんの協力を仰ぐって、何だか言葉にすると、すごく不可能なことのような気がする。
…どうにかすれば、出来ないことはないのだろうけど。
「…その魔力をひたすらツイト様に送ってもらうのです。」
…何だって?
「…ツイトさんに…!?」
「はい、そうです。
普通、人が持てる魔力には限界値があり、森で魔王の影響を受けたとみられるスライムをツイト様が倒した時に分かったように、魔王の影響を受けたモンスターは、かなり魔力を持っています。
…イーネさんに協力してもらえたとしても、イーネさんだけの力では、相手の全ての魔力を奪う事は、不可能に近いのです。
…しかし、ツイト様であれば、魔力をほぼ無限に持つ事ができるので、イーネさんが奪った魔力をツイト様に渡し続ければ、相手の魔力を枯らすことができる、というわけです。」
「ほぼ無限……というか、まあ…確かにほぼ無限のようだけど…。
…視界は………まあいいや。」
…しかし、そんな策だったとは…いや、確かに、魔力的な問題で、イーネさんだけでは不可能だが…。
…いや、でも、あの状態って、大丈夫なのだろうか。
この作戦を実行して、魔力が集まった影響で、爆発が起こったりしないのだろうか。
さっきはいい方法なんじゃないかと言ったが、それなら少し躊躇ってしまうな…。
「イーネさんに協力してもらうのは、意外と簡単かもしれませんし、難しいかもしれません。
ツイト様、頑張りましょうね。」
「…あー、でも、リプラ…。」
「いい方法だと思って下さり、ありがとうございます。」
「…っ、それは…よかった。」
リプラは、いつもよりニッコリと爽やかな笑みを浮かべてこちらを見た。
…何だろう。
…リプラのこの表情に、どんな意味があるのだろうか。
躊躇っているのを見透かされたのか、ただ、いい方法だと思って貰えた事が嬉しかったのか…どっちだろう。
…意味は無い可能性もあるが…リプラの様子を見る限り、意味が無いようには見えない。
…まあいいか、もしかすれば、考えない方がいいのかもしれない。
「…じゃあ、今からイーネさんの所に、行くの?」
「ええ、取り敢えずイーネさんが泊まっている部屋に向かい、居た場合は頼んでみましょう。」
リプラは、イーネさんが泊まっている部屋に向かい始めた。
「…大丈夫かな…。」
俺は、絶対に一筋縄ではいかないだろうと思った。
…カラリも、不安そうな顔をしていた。
「ツイト様、カラリさん、こちらです。」
「ああ、ちょっと待って。」
リプラのその声に、俺とカラリも、リプラの後に付いて行った。
「ところで、リプラ…無策って言ってたのは本当だったの?
…いや、何だか、最初から決めていたようなスピードだったから…。」
「…どうでしょう?」
「…えっ?」
…リプラは、また先程のような笑みを浮かべていた。
…これはまた考えない方がいいものだろうか。
「…こちらの部屋ですね。」
…そんな事を思っていると、リプラが止まり、目の前の扉を示した。
「…ここか…。」
「…では、居るかどうか、確かめてみましょう。」
リプラは、コンコンと、静かにドアをノックした。
「…はい…ん?
…なんだ、どうしたんだー?」
イーネさんは居たようで、部屋を開けると少し困惑した様子で出てきた。
「イーネさん、有料です。」
「は?」
「「えっ?」」
イーネさんが部屋から出てくるや否や、リプラは、イーネさんにそう声をかけた。
「…それは一体どういう…。」
「イーネさん、お願いしたいことがあるんですが…。」
変な空気になってしまったが、リプラは冷静に説明を始めた。
「…なるほどねー、うん………。
だから……有料、そうか……………。」
イーネさんは、何か呟いたと思うと、笑顔でこちらを見た。
「…何ですか?」
何となく察してしまったが、俺は一応イーネさんにそう聞いた。
「…分かってるよね?これだよこれ。」
イーネさんは、お金だよ、という様にジェスチャーをした。
…分かっていたよ。…そうだろうね。
俺は、おそらく苦い表情になっている。
カラリも苦い表情になっていた。
「…ツイト様、イーネさんは、協力には前向きなようですね。」
「…えっ?どこが!?」
リプラが唐突にそんな事を言い出すので、思わずツッコミを入れてでしまった。
「…つまり、お金さえ払えば協力して貰えるという事でしょう。
…イーネさんも、作戦自体が嫌だとは言っておりませんし…。」
「…いや、でも具体的な金額が…少しならいい…いや、ダメだけど…。」
「…いいんですかね…。」
「…イーネさん、金額は具体的にどのくらいですか?」
「……えっ!?マジで払おうと………じゃなかった。
…具体的にこの位かなー。」
イーネさんは、一瞬驚いたような表情になったが、すぐにいつもの表情に戻り、スッと指を四本だした。
…もしかして、本当に払ってもらえるとは、思っていなかったのだろうか。
「四………四円……?
…じゃないですね、すみません。」
俺がボソッとふざけた事を呟くと、イーネさんに鋭い視線を貰った。
…本気だったようだ…。
「…千…………万…?」
カラリが、悩みながらそう呟いていると、イーネさんは静かに頷いていた。
…万…万なのか…?
リプラは、イーネさんの様子を見てニコッとした。
「ってちょっと待って、四万って割と多い額だよね…。
…それに、そのお金って…この世界の人達から集めたものなんだよね?
…流石にここで使うのは…。」
「…ツイト様、まだ払うとは言っていませんよ。
大丈夫です、何とか、交渉してみましょう。」
リプラのその言葉を聞くと、イーネさんはニヤリと笑った。
「…交渉?…そんな簡単には乗らないけどー?」
「いえ、問題ないですよ、イーネさん、少々よろしいでしょうか?」
リプラは、イーネさんの言葉を聞いても一切動じずに、イーネさんが泊まる部屋に入ろうとした。
「…えっ、あー、うん。」
イーネさんは、その様子に驚いたようだったが、リプラを部屋に入れようとしていた。
「…リプラさん、どうするつもりなのでしょうか。」
リプラとイーネさんが部屋に入った後、カラリは不安そうにしていた。
「…うーん…あ、ちょっと声が聞こえる気がする…。」
部屋の方に耳を澄ますと、二人の会話が少し聞き取れそうだった。
「…えっ?…どんな声が聞こえるんですか?」
カラリも、壁に耳を当て、二人の会話を聞こうとしていた。
「……………で、魔力を…………。」
「なるほどねぇ、でも…………。」
「……いいえ…………………。」
「…ふーん…………。」
「…まず………………だからです。」
「…そうか……………うーん……。」
…何だか、魔力がどう、と聞こえるな…。
「…この条件で………。」
「…仕方ない。」
…おっ、なんだかうまくいっているような気がする。
「…あ、リプラが戻ってくる。」
「…えっ、そうですか?」
会話が終わったようなので、俺は素早く部屋から一歩離れた。
カラリも同じように部屋から離れていた。
「…おや、ツイト様、どうしました?」
「…いやあ、何でもないよ、ところでうまくいったの?」
俺は、リプラにそう聞いた。
…しかし、かなり白々しいな、俺。
「はい、上手く行きましたよ。
…安心してくださいね、お金の取引はしていませんよ。」
「…えっ、そっか…それはよかった。」
…リプラの言葉に、安心と、少し不安も覚えた。
なら、一体何の取引をしたのだろうか。
魔力と聞こえたけど、本当に大丈夫なのだろうか?
「…大丈夫ですよ、こちらから何かを渡す事はありませんから。」
俺は不安そうな表情をしていたのか、リプラは笑みを浮かべながらそう言ったが、それはそれでもっと不安になる。
渡すものがないなら一体何の取引をしたんだろう。
「…まあ、リプラさんがそう言うのであれば、きっと大丈夫なんでしょう。」
カラリも、微妙に納得がいっていないような表情を浮かべていた。
「…元依頼主の能力に関する問題も、無事解決したので、後は少々作戦を確認すれば、問題ないですね。」
「…うん、そう…だね…。」
「では、確認しましょう…。」
その後、俺達は作戦を細かく確認し、夜になったら、また、宿屋で見知ったご飯を食べた。
…皆で集まった時に、作戦の内容を全て話し、セクタや、リムさんやブロックさんにも了承をもらった。
…三人とも、少し納得がいっていない様子だったが、最終的には、その作戦で問題ないと言ってくれた。
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「………しかし…本当に上手くいくのだろうか…。」
夜、泊まる部屋に戻った時、俺は思わず不安を口にしてしまった。
「…いや、この作戦が成功するか、失敗するかは、俺にかかっているんだよな。
…上手くいくと、信じるしかないか…。
…よし。」
充電などのやる事を確認した後、俺は、宿屋のベッドに入り、寝た。
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…朝が来た。
窓から入る日光も、いつもと違ったように見える。
俺は、『kantsumire』を開き、昨日のうちに用意していた暗号を呟いた。
「…ここから、だな…。」
俺は、部屋のドアに足を向けた。
今回も読んで下さりありがとうございます。
四万円は、高いのでしょうか…。
次回も良かったら見てください。




