第36話 暗号
「…ここが、自警団か…。」
俺達は、一応皆に軽く声をかけ、自警団がいる所までやってきた。
「…なんか、今までも、入る事や呼んでおく事を提案したけど…。
やっぱり、いざ、行くとなると、ちょっと緊張するな…。」
「…そ、そうですね…。」
「…って、えっ?」
俺とカラリは自警団の前で少し佇んでいたが、リプラは構わずに建物の中に入っていった。
「…すごいな、リプラ…。
……って、もしかして、俺がもっと頑張らなきゃならない…?」
「…いえ!大丈夫ですよ!」
「…あ、ありがとう、カラリ…。」
…カラリは、真剣な眼差しで、俺にそう言ってくれたが、やっぱり…自警団の前でしり込みしては居られないよな…。
…よし、リプラのように行かなくてはな…。
「…えっと…失礼します…。」
俺は、そう言いながら恐る恐る自警団に入ったのだった。
「…あっ、リプラ…。」
俺が入った時にリプラはもう既に自警団の人と話をしていた。
「………。」
何だか話しかけづらかったので、俺は何食わぬ顔でリプラの横に移動した。
…カラリも、俺の後ろを着いてきた。
「…ちょっと、それは難しいでしょうね。」
「…なるほど、そうですか…。」
…リプラは、俺が来ると、話をやめ、一瞬だけ俺の方を見た。
「…………。」
その後に、笑みを浮かべてもう一度自警団の人の顔を見た。
「………?………まさか、勇者様……。」
「…あっ、ああー、ああ…。」
場所が場所であまり声も張れないので、申し訳程度の声で、勇者である事を誤魔化した。
「…なるほど、では、少々お待ちください。」
自警団の人は、そう言うとどこかに行ってしまった。
「…えっと、リプラ、さっき自警団の人と話していたのは、やっぱり、宿で話していた事なんだよね…。」
「ええ、そうですね。」
「…でも、やっぱり…上手くいくのかな…。
…自警団の人にだけに伝えられる文章を作る…なんて。」
「…いえ、ここで使われている暗号さえ分かれば、あとは問題ないのですよ。」
…その暗号を教えて貰えるかが、一番の問題なんだよな…。
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「…まず、自警団に行き、自警団で使われている暗号を教えてもらいましょう。」
「…ん?それってどういう事?」
「…自警団の方々は、おそらく、内部、もしくは外部の組織の方々と、暗号を使ってやり取りをしていると思われます。
…その、暗号を教えてもらい、『kantsumire』でつぶやく事で、元依頼主にバレないように、自警団の人に言葉を伝える事ができるのです。」
「…でも、それなら、元依頼主が自警団にいた時に、バレちゃうんじゃ…。」
「…ツイト様、例えば…万が一にも起こる事はないと思いますが、自警団の方が、森などに重要な書類を落とし、元依頼主のようなモンスターが拾って、もし、暗号を解読されたりしたら、大変ですよね?
…その為、魔王軍に暗号を解読されないように、暗号は紙に記し、魔法で魔王軍などのモンスターには読まれないようにされています。
…つまり、モンスター用の対策もしてある、という事です。
…魔法は紙にしか刻めないようになっているので、重要なことは紙に記す事が多いのです。」
…なるほど、それで、デュアルさんが持っていたあれは、紙に記されていたのか。
…ハッ!…いや、内容は覚えていないが、うん。
「…つまり、魔法の力で、暗号はそもそもモンスターには解読する事ができないから、元依頼主が居たとしても、暗号がどういったものか分からない、例え、ガラの悪い男のうちの誰かが暗号を解くことができたとしても、暗号自体を元依頼主は知らないから、伝わるのにも時間がかかる…って事?」
「…はい、そうです。
…ガラの悪い方が自警団に居るのであれば、かなり信頼される立場にいるとみられるので、元依頼主に届くまでに時間がかかるでしょう。
出発するギリギリに『kantsumire』で暗号を呟けば、自警団の人に言葉を伝える事ができる、つまり、もみ消されないくらいに事態を広げる事ができる、という事です。」
「…なるほど…でも、つぶやくなら、モンスターにも見ることが出来るし、解読もできるって事だよね?」
「…はい、ですが、暗号自体も魔法がなくとも難しい解き方になっていると予想できますので、すぐには…。」
「いや、まあ、それもそうなんだけど…そうじゃなくて…。
えっと、それはつまり、自警団の人が使っている暗号を晒す事になるんだよね…?
…暗号を使う許可なんて、もらえるのかな…?」
「…ええ、そのため、ツイト様の力にかかっているのです。
…勇者であるツイト様が、訴えかければ、何とかなるかもしれません。」
「…ええ…?」
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いやあ…心配だなあ…。
もし俺だったら暗号なんて教えられない。
…今までの文書もそれで書いている、という事なら、暗号を教えて、もし、解き方が判明してしまったら、今までの文書の情報も流出してしまう事になる。
…普通に考えて、教えて貰えるわけが無い。
…でも、もしかしたら…。
と、俺の心は、もしかしたら、という期待と、いや、絶対に無理だ、という否定の気持ちで溢れた。
「…お待たせしました、確認したところ、やはり難しいという事ですね。」
希望は一瞬にして失われた。
…というか、普通そうだよな。
…まあ、予想はしていた事だ。
「……じっ。」
…リプラからの視線を感じる。
…まさか、この状況から、勇者の力で、何とか暗号を教えて貰えないかと期待しているんじゃないだろうな…。
…えー、でも、無理でしょ…。
「…この街の西の池にいる、魔王の力の影響を受けたモンスターの事をご存知でしょうか。
…そのモンスターを討伐するために、必要な事なのです。」
「…ああ、えっと…お願いします。」
「…しかし、暗号を、第三者に教えるのは、勇者様といえど、さすがに難しいのです。」
俺の様子を見たリプラは、自警団の人に、何とか暗号を教えて貰えないかと訴えていた。
カラリもその様子を見て、リプラと一緒にお願いしていた。
だが、やはりダメだったようだ。
…というかもうせっかくした変装の意味が無くなっているな。
…これ、絶対池に行く時にお見送りがいるって。
「…では、暗号以外の方法で、他の自警団にも伝える事ができる、モンスターには分からないものはないでしょうか。
…もしくは、新しい暗号を作るか…。」
「…うーん…それも、難しいですね。
新しい暗号を作るのは、時間がかかりますし…他の方法というのも…すぐには…。」
…リプラは、何とかできないかと自警団の人に訴えていたが、やはり、どうしても、ダメなようだ。
…しかし、リプラや自警団の人が言っている、暗号とは、どういったものなのだろうか。
スマホで打てるという事は、文字に対応している記号があってそれを打っているのか、俺がこの世界でやったような、ツイト、をテウナ、のように五十音順で一文字ずつ下げる、といった、何かしらの法則で文字を読む方法か…情報技術がものすごく発展しているこの世界なら、もしかすると、何か、俺では想像がつかないような、解読しづらい暗号を生み出す方法があるのかもしれない。
「…とにかく、いくら勇者様といえど、他の自警団にも通じるような暗号を公開するのは…。
…ここだけで通じる、内部の暗号の内の一つが限界ですね…。」
…本当はその暗号もダメなのだろうが、自警団の人は、リプラの必死の説得で、少し妥協してくれたようだった。
…カラリも、その言葉を聞き、バッとリプラの方を向いた。
「…いえ、申し訳ないですが、それではダメなのです。
…ああ、その暗号の解読方法を、今すぐ他の全ての自警団に伝える事は可能でしょうか?」
「…今すぐ、ですか。
…新しい暗号を作るより、手間はかからず、可能ではありますが………ええ……まあ、そう、ですね…問題は、あります。
しかし、必要な事なのですよね?
勇者様……の、力に…なるのですよね…?
それなら…いいでしょう。…やってみましょう!」
自警団の人は、とても深刻そうな顔になり、かなり、悩んでいた様子だったが、突然真剣な顔でこちらを見て、頷いた。
「…勇者様、必ず、絶対に!確実に!!お願いします!!!
…お願いします!!!!」
と思うと、しつこいくらいに念を押してきた。
…まるで火を放っているかと錯覚するくらいの熱意を感じる。
…そうだよな、暗号も、無料でポンポン生み出せるものじゃないからな…大袈裟に言えば、俺の行動に、運命が握られている、俺の行動次第で、取り返しのつかない事になってしまうかもしれない、という事…。
…そう思うと、途端にドキドキとしてきた。
…いや、今までもドキドキしていなかった訳ではないが、なんというか、やはり、自分だけの問題でも、自分達だけの問題でもなく、皆の問題だと言ったらいいのか…とにかく、責任は重い、という事…それが、何となく分かってしまったから…今まで以上にドキドキとしているのだろう。
「…ツイト様、取り敢えずは、上手く行きましたね。」
「………まあ、そう、か…。」
自警団の人が去って行った後、リプラは笑みを浮かべてこちらの方を見ていたが、俺はおそらくそれとは逆の顔をしている。
…これから、どうなるか…。
「…ツイトさん、大丈夫です、一人で背負う必要はないんですよ!
私達や…皆さんもいます!」
そんな事を考えていると、カラリがそう言葉をかけてくれた。
「ああ、ありがとう…。」
…一人で背負おうとしている訳では無いのだが…。
…カラリの優しさが身に染みるな…。
「…そうだ、リプラ、カラリ、自警団の人が戻ってくるまで、元依頼主の能力を何とか抑え込む方法を考えてみない?」
「…そうですね、それももう必要なことですからね。」
「…では…考えてみましょう、まず…。」
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「…通知はしました、後は、返事が来れば、相手の状況も分かります。」
…俺たちが話している間に自警団の人は戻ってきた。
「…通知は…しました…?」
「…はい、簡単に文書を送ったので、すぐに気がつけば、早い段階で暗号を理解できるようにはなると思いますね…。
ああ、文書は共通の暗号で、こちらだけで使われている暗号の解き方が書いてあり、モンスターには読めないように魔法がかけてあるので、問題ないですよ。」
「…あっ、ああ、そっか…。」
…つまり、暗号の解き方を別の暗号で記して、魔法もかけてあるから問題ないよ、という事か。
…まあ、そこもちょっと気になっていたが、俺は…文書をどうやって送ったのかが…一番気になった。
…こんなに早く文書を送る事ができるなんて…もしかしてFax…?
…しかし…そうなると…魔法は印刷しても効果がある事になるな…。
刻まれた魔法は、印刷されたものでも、効果があるのだろうか。
…個人的には、魔法は印刷されたもので発動して欲しくはないが、おそらくこの人の様子を見る限りは、発動しそうな気はする。
…そうか…。
「…では、こちらが勇者様に用意した暗号の解き方の説明です。
一応、モンスターが読めないように魔法はかけてありますが、暗号で書かれてはいないので注意してください。」
「あ、ありがとうございます。」
俺はそっと紙を受け取った。
…しかし、おそらく暗号で書いてあったとしても…俺は多分読めるんだよな…。
…まあ、それは今いいか。
…取り敢えず、暗号の解き方を覚えよう。
俺はそう思いながら紙に目をやった。
…なるほど、まずは五十音の図で見て、文字を…ってちょっと待てよ。
…暗号の作り方が思いっきり日本仕様なんだが…。
翻訳されているとはいえ、五十音という言葉が出てくるなんて、少し不思議だな…。
…この文書に書かれている通りに暗号を、打てば、書けることに違いはないだろうが…本当に、翻訳の力はすごいな…。
「あ、そういえば…ここで解き方を覚えていても大丈夫ですか?
…自警団の迷惑になったりしないですよね?」
「…ええ、どちらにせよ、他の自警団から連絡が来るまではここで待っていることになりますよね…?
…その間は、暗号の解き方を覚えていても構いませんよ。
…では、失礼しました、連絡がありましたらまたこちらに参ります。」
「…ああ、ありがとう…ごさいました。」
自警団の人は、紙に何の問題もないという事を確認したのか、俺の言葉を聞くと、また去っていってしまった。
「…よし、それなら、連絡が来る前に暗号の解き方を全て覚えないとな。」
俺は、紙を見て、暗号の解き方を目に焼き付けようとした。
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「…文書を送付した全ての自警団から、連絡が返ってきました。」
「…えっ、早……いですね?」
…暗号を完全に覚えきれてはいないのだが…。
「…問題ないそうです、勇者様のためなら何とか…と、考えていた様子でした。」
「…なるほど…。」
「…ツイト様、上手くいったようですね。
…では、私達も行きましょう。」
「…えっ、でも、暗号は…。」
「…紙を持ち帰って、宿屋で見ましょう。
…自警団の方々に迷惑をかけてしまうかも知れません。」
「…そうか…それなら…ありがとうございました。」
俺は、自警団の人にお礼を言って、この施設を出ようとした。
「…ありがとうございました。」
リプラとカラリもお礼を言い、施設を出ていった。
「…よし、じゃあ、後は、暗号を覚えるのと…何とかして、元依頼主の能力を抑え込む方法を考える、続きだな…。」
「…そうですね。」
俺は、二人と様々な話をしながら、宿屋へ戻ったのだった。
今回も読んで下さりありがとうございます。
朝が…来ている…。
次回も良かったら見て下さい!




