第35話 対策 後編
「…それで、ビルの地下で再会…。
まあ、このくらいだよね。」
…こうして、俺達は三人で、元依頼主の行動、言動、魔法をまとめ終えたのだった。
「…リプラさんが、サラッとまとめてくれたので、案外早くまとまりましたね!」
「…そうだなあ…。」
…俺は、主にリプラが紙にまとめてくれた情報に目をやった。
…しかし、こうして情報をまとめてみると、やっぱり、謎が残る部分があるというか、元依頼主の行動には、気になる部分がある。
まず、森で、カラリが何かを言おうとした時に、元依頼主はスライムを見つけたということを俺に伝え、その言葉通り周りを見渡してみると、一瞬だけスライムが見えたんだよな…。
元依頼主が沈黙をかけたタイミングから見て、偶然現れた訳ではないだろうから、その時見えたスライムが何者なのか、元依頼主が召喚したものなのか、という事が少し気になっている。
…後は、簡単に解除できるような爆弾を設置することもそうだが、まず、根本的に何故、森では下っ端のような事をしていたのに、地下で再会した時は、リーダーのような事をしていたのかが気になっている。
…元依頼主が、何とかして、他の柄の悪い男達を言いくるめたとしても、難しい事だろう。
「…って、そうだ、地下で元依頼主と戦った時、俺は、電撃を放ったけど…。」
「…安心しました、『電撃』を放つ事ができていたのですね。
無詠唱に成功したという事は分かっていましたが、他の魔法を撃っていないかと少し不安だったのです。
…その魔法は、おそらく、『エレクトリック』。
『スタン』よりも上位に位置する魔法です。
…あの牢屋の電流をイメージしたのであれば、その位の魔法を習得したはずです。」
「…なるほど、『エレクトリック』…。
……リプラ、それも気になっていたんだけどさ…あの時の…無詠唱のコツ、もっと他に教え方があったんじゃ…。」
「…それは、確かに、私からある程度の威力がある電流を、出すことも可能でしたが…。
悟られては行けなかった事と、牢屋の電流の方が威力があったので、つい、あのような事をしてしまいました。
…そういえば、何か、症状が残っていたりはしませんか?」
「…ああ、症状は無いよ。
…うん。」
リプラの真面目な返答に、思わず変な声を出してしまった。
…もっと、冗談のような事を言われるかと思ったのに。
…やっぱり、リプラも、元依頼主を倒す事は、本気で考えているんだな。
………。
「ツイトさん、大丈夫ですか?」
「…えっ?ああ、うん、大丈夫だよ。」
…二人とも、せっかく、対策を考えてくれているんだ、俺も、上手く活かさなくてはならないだろう。
「…えーと、それで俺は、この情報の中の、一瞬現れたスライムについて、特に気になっているんだけど…。
…リプラ、何か、心当たりのある事とか…ない?」
「…そうですね、スライムを一瞬だけ出すという限定的な魔法では無く、幻術などの類だと思われますね。
…もしくは、どこかにあるものを一瞬だけ持ってくる事ができる能力を持っているか…。」
「…なるほど…。」
リプラは、元依頼主が召喚した、という発想の他に、幻術、という考え方もあるみたいだ。
「カラリは…何か、心当たりはある?」
「…私は…あまり、魔法に詳しい訳では無いので、よく分かりませんが…依頼が、ずっとスライムの生態調査という事に、何か関係しているんじゃないかと…思いました。」
「なるほど…。」
…そういえば、カラリが受けた依頼も、スライムの生態調査だったよな…。
…能力に依頼を合わせている、という可能性もあるのか。
「…では、今の話も踏まえて、この、細かい情報から、元依頼主が使えると見られる魔法をまとめてみましょうか。」
リプラは、そう言うと、異空間から別の紙を取り出した。
「…確かに、対策を取る上で、そこは大切だよな…。
…使えると見られる全てか…なら、かなり時間を…って、早っ!」
今まで元依頼主が使ったとみられる魔法を全てまとめるのだから、割と時間がかかるよな、と思っていたのに、リプラは紙とペンを出した瞬間、バババッと紙にまとめ終えてしまった。
「…簡単にですが、まとめてみました。」
リプラは、そっと俺に紙を渡した。
「…何々…。」
そこには、『召喚系、もしくは幻術系の魔法』『沈黙』『浮遊系の魔法』『加速』『分身』『擬態』『呪い』『空間系の魔法』…と、元依頼主が使える可能性のある魔法が確かに書き綴られていた。
「…こちらの紙に、元依頼主が使えるとみられる全ての可能性を書き留めてみました。
…呪いなどは、元依頼主が使っているところを見ていないので、他の方が持っている可能性もありますが、今まで見た魔法を全て使えるとするのであれば、こうなりますね。」
「…あっ!ちょっと待って、例の地下で、リプラが居なかった時に、元依頼主は、攻撃力を上げる魔法のようなものも使っていたんだ。」
「…なるほど、そうですか…。」
リプラは、俺の言葉を聞くと、サラサラと『攻撃力を上げる魔法』と紙に書き足した。
「…うーん、地下での様子を見る限り、貫通系は持っていないようだから、防御面は、元依頼主の攻撃をできるだけかわして、攻撃をモロに喰らわなければ、問題ないかもしれないな…。」
「…まあ、貫通系以外にも、勇者様に攻撃を通す方法が無いわけじゃないけどねー。」
…俺が、リプラが書いた紙をじっとみていると、突然背後の方から声が聞こえた。
「…えっ?それは一体………って、イーネさん!?」
振り返ってみると、そこにはイーネさんがいた。
「…いつの間に…。」
「…一度は素通りしたようですが、ツイト様が紙を見ている時にこちらに近づいていました。」
「…あー、あまり言うなよ。
…それよりも、いいのか?聞かなくて。
貫通じゃない、勇者様に攻撃を通す方法…。」
イーネさんは、どうやら、話をしたかったようだ。
…それなら、一旦通り過ぎなくともいいのに…。
……しかし、貫通じゃない、攻撃を通す方法…。
それは確かに気になるな…。
イーネさんも話したいようだし、聞いておくか。
「…えーっと、聞きたいです。」
「………よし、じゃあ教えよう。」
俺がそう答えると、イーネさんは一瞬フッと、嬉しそうな顔をした。
「…魔力を奪う魔法があるんだよ。」
「…そういえば、そうでしたね。
イーネさんも、使っていましたし…。」
「…何の事かな…。」
「………ああ、リーディングシティで、イーネさんと初めて出会った時に、視界が奪われる程の魔力を一瞬で消していたような…。
…あれが、魔力を奪う魔法だったって事か?」
「……何の事かな。」
「…………。」
イーネさんが、何の事かな、としか言わなくなってしまった。
…あまり触れられたくないのだろうか。
もしくは、その奪った魔力の使い道を聞かれるのが嫌なのだろうか。
「…まあ、とにかく、魔力を奪う魔法があるって事か。
…確かに、あれだったら、攻撃が通るようになりそうではあるな…。
…イーネさん、情報、ありがとうございました。」
「…では、ありがとうございました、イーネさん。」
「…あっ、ありがとうございました。」
俺に続き、リプラとカラリも、イーネさんにお礼を言った。
その様子を見たイーネさんは、えっ?と困惑していたようだったが、そっか…と、去っていった。
「…イーネさん、もしかして、もう少し話したいことがあったのかな…。」
「いえ、いいのですよ。
…おそらく、魔力を奪う魔法が使える者は、元依頼主の仲間にはいませんから。」
「…えっ?そうなの?」
「…はい、もし、魔力を奪える者がいれば、わざわざ、それを使わずにいる必要はないからです。」
「…手の内の晒さないために、わざと使わなかったっていう可能性は…ないの…?」
「…ない事はないですが、少々回りくどいと思いませんか?
…魔力を奪う魔法を覚えているのであれば、魔石の力でモンスターを集めた時に、使っておいたほうが良かったと思います。
そうすれば、カラリさんを攫った時に、ツイト様を長く足止めできていたのに…。」
「…まあ、確かに…そうだな。
…なら、魔力が奪われるという事は、考慮しなくとも…いいのか?」
「…そうですね。
…その魔法を持ったイーネさんが何もしないのであれば、考慮しなくとも問題ないでしょう。」
「………。」
ああそっか、イーネさんは、持っていたんだもんな…。
…考慮しなくていいのかな。
…イーネさんの行動も割と不安要素なんだよな…。
…いや、考慮しなければならないとしても、今考えているのは元依頼主の対策だからな…取り敢えず、置いておこう。
「…取り敢えず、防御面は大丈夫…という事で…問題は…。」
「攻撃面ですね。」
俺が言葉を詰まらせていると、リプラがそう言葉を付け足した。
…カラリは、大丈夫なのかと不安そうな顔で俺の方を見ていた。
「…うん、えっと…まあ、一番の問題が…。
…その、元依頼主に…攻撃が…出来ないって事…だけど…。」
「…上手くいくかはツイト様にかかっていますが、実は、元依頼主を傷つけずに問題を解決する方法は、ない事はないのです。」
「…えっ?」
俺は、申し訳なくなって目を逸らしたが、その言葉に釣られて、もう一度リプラの方をバッとみてしまった。
「…自警団がどうなっているかを調べ、待機してもらい、元依頼主の能力を、なんとか抑え込んで、魔法を使って相手を気絶させて、自警団に連れていってもらう、という方法です。」
「…えっ?でも、自警団では…。
…トラックさんの会社に入る前も、意味は無いって…。」
「…そうです。元依頼主らを自警団に連れていってもらったのに、何故か、カラリさんの言っていた大きい事件は明るみに出ていないようでした。
…つまり、何者かがもみ消している…。
私はその、何者かは、あの、ガラの悪い方々のうちの誰かか、元依頼主の分身だと思っています。
…その、何者かが自警団の…そうですね、もみ消せるのですから、取りまとめている人…もしくは、その先の…。
とにかく、多少状況が不自然でも、誤魔化せるくらい、信頼される立場にいるのだと思われます。」
「…う、うん。」
「…あの時は、トラックさんが、あの集団のボスだった場合、連絡を入れても、すぐにもみ消されるか、ガラの悪い方々が集まってくる可能性がありましたので、迂闊に連絡を入れるのは良くないと思ったのです…。
今回は、少々対策をしてから、自警団に行き、ツイト様の力でもみ消されないようにできる方法が、あるかもしれないので、一応、ツイト様に確認を取ってみようと思ったのです。」
俺の力で、もみ消されないようにする方法…?
それは、一体、どういう方法なんだ?
「…その方法を話しますね…。」
俺がそう思っていると、それを察したのか、リプラは方法を話し始めた。
「…まず…。」
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「…なるほど…それなら確かにやった方がいいかもしれないけど…。
でも、そんなに上手くいくかな…。」
「…ツイトさんなら、大丈夫ですよ。」
俺が不安を漏らしていると、カラリは優しい声で、俺にそう言ってくれた。
「…カラリ…ありがとう。
…えっと、それで、方法は分かったんだけど…。
リプラ、最初に、“元依頼主の能力を、なんとか抑え込んで”…って言っていたよね。
それは…どうするか、作戦はあるの…?」
「…そこは、今のところ無策ですね…。」
「……えっ?」
…今のところ…無策……?
そこは、自警団の話より、重要だったりするんじゃないのか…?
…場合によっては、遅らせることも出来るのかもしれないけど…明日の朝、なんだよな…。
…大丈夫、なのか?
「…では、早い内に、自警団に行きましょう。」
「…………………そっか、よし、うん…!」
俺はかなり不安を覚えたが、リプラが提案した“方法”を実行する為に、自警団の元へ向かった。
今回も、読んでくださりありがとうございます。
ガラの悪い方々という表現は、合っているのだろうか…。
次回も良かったら見てください!




