第26話 お別れ…?
「…あっ、勇者様!すごい!本物だ!
…まさか、本当に会えるだなんて…。」
…会社の入口に戻ると、確かに、顔は完全に元依頼主と一緒の人がいた。
「…握手してください!…いやぁ、ええと、それで、俺に、なんの用があるんですか?どんな用でも構わないです!」
その人は、手を前に出しながら、そう言った。
「…いや、あの、本当は、用があると言うよりは…聞きたい事があって…一応、返事があったら、トラックさんに話してもらうつもりだったんです…が…。」
俺は、少し躊躇ったが、そっと手を出して、そう言いながら握手をした。
「…?」
その人は、手を離すと、少し不思議そうな顔をした。
「…ハッ…つまり…俺がここに来たのは、早とちりって事…ですか!?
申し訳ないです!帰ります!」
「…ああ!待って待って!…せっかくなら、
その、聞きたい事を、本人から聞こうと思うよ!
だから帰らないで!」
「…本当ですか!?ありがとうございます!」
…俺は、やっぱり、この人って、せっかちなんだな、と思いながら、話を始めた。
「…えーっと、まず…俺は…ツイトです。」
俺は、まあ、この人は『kantsumire』を
見ているだろうし、例え、元依頼主だとしても、
本名なんて既にバレてるだろうし、まあ、
名乗っても大丈夫だろうと思い、取り敢えず礼儀的に名前を言った。
「…はい!『kantsumire』にもあった名前ですよね!見ました!あ…っ!えーっと、俺は……いや、名乗る程の者じゃ無いですね!…モブでも、リーディングシティの人AでもBでも、構わないです!」
「…モ、モブ…!?いや、出来れば名乗って欲しい
んですが…。」
「…あっ…す、すみません!
それなら、え、えーっと、俺は、バイト…です。
…いや、でも本当にどんな呼び方でも構わないので!はい!」
…その人…バイトさんは、「モブでも、なんでも!」と、
輝かしい目でこちらを見ていた。
「あー、じゃあ…バイトさん…。
えっと、聞きたい事と言うのは…。」
「うわー、勇者様に名前呼ばれちゃったよー。
うわー、嬉しいなぁ…。こんな事は、
もう一生無いかもね…。」
「…。」
俺が声をかけた瞬間、バイトさんはそう
言いながら祈るような拝むようなポーズ
をしていた。
「…えーと、そう言うのは、やめてほしいというか…ほら、俺だって普通の人間ですし、そんな拝むような人じゃないですよ。」
「…いえいえ、拝むような人ですよ…いや、
むしろ神ですね。神様です。」
「…ええ…!?」
何だか、話が進まないな…。
…もう、一旦バイトさんの行動にいちいちつっこまずに、話をする事に集中したほうがいいのかもしれない。
…後、この人が元依頼主と同一人物だという可能性はもう、ほぼ、いや、全くないと考えてもいいのかもしれない。
…むしろこれで同一人物だったら、元依頼主は色んな人になりすます事で、どんな役も出来る凄腕の役者になれそうだ。
「…あの、ところで、トラックさんは…。」
…俺は、この後トラックさんが来て、バイトさんを落ち着かせる役になってくれないかなぁ、と思い、そう聞いてみた。
「…あ、社長さんは、息子さんと話をするから
私は行けないというような事を言っていましたよ!
…息子さんとの話ですからね、長くなるのではないでしょうか。」
バイトさんは、嬉しさを声に滲ませ、そう言った。
…つまり、落ち着かせてくれる人はいないという事だ。
…リプラも、バイトさんを落ち着かせる役にはなれないかもしれない。
…いや、でもさっき帰ろうとしていたし、
要件だけ伝えたら、きっと帰ってくれるだろう。
俺はそう信じ、話を始めた。
「…えっと、それで、聞きたい事なんですけど…
モンスターに会ったり、モンスターが居そうな場所に行ったりというか…そう言った心当たりはないですか…?」
「…モンスターに会ったり、居そうな場所に行ったり…ですか!…うーん。」
俺がそう言うと、バイトさんは、そう、考え始めた。
「…まあ、普通にありますよ!
俺は、モンスターからのドロップアイテムを売る仕事に関わっているんで、結構、そう言った機会は多いんですよ…。」
「…なら、最近の事や…特別、何かと会ったって事は…。」
俺は、何かしらヒントが無いかと、バイトさんに続けてそう聞いた。
「…最近…特別…。そうですね…まあ、最近って程じゃないですけど、行ったことがあるのは、リカバリー街の池や、ネクステ村とリ・クエスト村の間にある森と、後はこの都市の先の…。」
「…えっ、ちょ、ちょっと待って、そんなに!?」
俺は、まだまだ先がありそうな話を遮り、バイトさんにそう聞いた。
バイトさんは、まだ、二、三カ所…と続きを話したそうにしていたが、これ以上候補を聞いても、きっと、元依頼主の事は、分からないだろう。
…でも、多分、バイトさんが言った場所の中に、
何かしらのヒントはあるとは思う。
…取り敢えず、今まで、行っていない場所に関しては、モンスターの説明や、場所の説明も受けなくてはならないだろうし、行った事のある場所から、説明してもらうか…。
「…えーっと、じゃあ…森では、どんなモンスターと出会ったり、しましたか?」
「…森では、普通に、スライム等のモンスターを見かけたりはしましたが…特におかしいって事は……あ、そう言えば、リカバリー街の池で…。」
「…えっ?リカバリー街の…池で!?」
「…いや、別に、おかしい事があったわけでは無いんですけど…ちょっと、記憶が欠けている所が、あると言ったらいいんでしょうか…。
…まあ、欠けていると言っても、数日間…とかじゃなく、本当に一瞬というか、立ちくらみみたいなものですけどね。」
バイトさんは、困り気味にそう言った。
…一瞬、記憶が欠ける…か。
…そう言えば、リカバリー街の西の池には、
モンスターがいると、リプラに聞いたよな。
…それが、元依頼主っていう可能性が出てきた訳か…。
しかし、はっきり元依頼主である!と言い切れるかどうかは微妙だな。
…まず、元依頼主と戦った時に、バイトさんが言ったような、記憶が一瞬無くなったような感覚にはなった覚えがないからだ。
…何か力を隠し持っている可能性もあるが。
…だが、元依頼主でも、わざわざ遠くの都市にいる者の姿を真似るなんて事はきっとしないと思う。
………もし、リカバリー街の池に居るのが、
元依頼主だとすれば、おそらく、それは、
“本体”なんじゃないか…。だから、立ち入り出来ないように、橋に呪いをかけたとか…。
…そう考えると、しっくり来るような気はする。
…だか、それだと元依頼主は呪いも使える事になるが…。
…まあ、別に、元依頼主本人でなくとも、他の、
柄の悪い男の誰かが、強い呪いをかける事も出来るか…。
…うん。元依頼主かも?くらいに考えておくのがちょうどいいかもしれないな。
「…あ、あの…!もう話はいいんですか…?」
…俺がそう考えていると、バイトさんがキラキラとした眼差しを向けながら、そう聞いてきた。
「…ああ、いや…。えっと、取り敢えずは。」
…バイトさんは、その言葉を聞いても、
キラキラとした眼差しを俺に向けていた。
…何だか、やりずらいな、と思いながら、
俺はリプラに話しかけた。
「…えーっと、リプラ、今の話の…リカバリー街
の池って…西の、通れなかった所だよね。」
「…おそらくは。」
「…元依頼主、なのかなぁ…。」
「…それは分かりませんが、どちらにせよ、
池には行く事になりますよ。
…魔王の影響を受けたとみられるモンスターを
放置して、次の場所へは向かえません。」
「…なるほどな…。」
…元依頼主であろうがなかろうが、結局、池には向かう事になるのか…。
……元依頼主であれば、元依頼主の、本体であれば、俺は………今度こそ…………。
「ツイト様?」
「…あ、ああ、大丈夫…えー、それで、
池に…向かうの?」
「…そうですね、こちらの薬屋での用事を
済ませ、池の橋にかけられた呪いが解かれて
いた様子であれば、ですが。」
…それを聞いた俺は、バイトさんの方をちらっと見た。
「…そっか。じゃあ、取り敢えず、戻って、
カラリが目を覚ますまで…待とう。
…えっと、それで、バ、バイトさん…。」
「…はい!」
「…えーっと、その、お話が、終わりましたので…。」
「…はい!」
「…か、帰っても、構わないですよ。」
俺が、恐る恐るそう言うと、バイトさんは一瞬真顔になったが、すぐ、さっきのキラキラとした眼差しに戻り、はい!
と言って俺に背を向け、歩いて行った。
…その背中は、どこか、寂しそうだった。
…ぐっ、何だか、申し訳ないな…。
「…ツイト様、あの様子を見る限り、
彼はあの元依頼主さんとは別人のようですね。」
…バイトさんが、去っている途中、リプラは
小さな声で俺にそう言った。
「…あ、ああ、まあ、そうだね。
うん、俺も、最初から、そうなんじゃないかって思っていたから…。」
「…しかし、元依頼主さんと同じ姿をしているので、もし冒険に着いてくるのであれば、どちらが本物か分かりませんし、間違えて攻撃してしまうかもしれませんので、ここでお別れするのが1番いいでしょう。」
「…ああ、うん、そう、だね。」
…リプラは、バイトさんの感情を見透かしたようにそう言った。
…リプラが言っている事が、本当にバイトさんの感情なのかは分からないが、バイトさん…申し訳ない。
俺は、そう心の中で謝罪をしながら、バイトさんを見送ったのだった。
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「「…あ。」」
バイトさんと別れ、カラリがいる部屋へ向かう途中、俺達は廊下でセクタと出くわした。
「トラックさんと話をしていたんだよね?
…一体、何の話をしていたの?」
「……まあ、色々だよ。…ほら、お父さん、
勇者さんが、勇者だって、気づいたから…。」
俺がそう聞くと、セクタは、俺から目を逸らしながら、ぼそぼそとそう呟いた。
…まあ、そうだよな。トラックさんからすれば、
自分の息子が、勇者と一緒に冒険している訳だからな…。
…そりゃ、安全とか、そういった事は気になるか…。
「…って、そう言えば、セクタ、どうするんだ?
もう、リーディングシティに着いたというか…。
確か、お父さんに会いに行く…って、言っていたような…。
…これからの、冒険は…。」
…よく考えてみたら、セクタは、ここが最終的な目的地にあたるわけだよな。
まあ、森では、冒険がしたいという様な事は言っていたが、それが本心なのか、そして、セクタはまだ着いてくるつもりなのか、…セクタはどうするつもりなのだろうか、と思った俺はそう聞いてみた。
「………!……………、……………。」
セクタは、不安そうにキョロキョロと周りを見渡した後、俯いたと思えば、次の瞬間、真剣な顔で俺の目を見ていた。
「…僕は、今でも冒険して…あわよくば、僕の名を知れ渡らせたい…とは、思ってるよ……勇者君。」
そして、そう言い残して、カラリがいる部屋の方へ向かおうとしていた。
「…。」
俺が、リプラの方を見ると、リプラは頷いた。
「…………待って、スライム!」
俺は、セクタに向かって、ついそう呼びかけてしまった。
「…っ、誰がスライムだ!!」
セクタは一瞬止まったが、すぐに振り向き、そう言い返した。
…このキレ、何だか、懐かしい気がする…
じゃなくて、きちんとセクタから話を聞かねば…。
「…セクタ、その、詳しく聞きたい事があるんだけど…俺がリプラの所へ行っている間、イーネさんと、どんな話をしていたの?」
俺は、取り敢えず、セクタと俺達の、3人のこの状況が一番都合がいいと思い、セクタに、今1番気になっている事を聞いてみた。
「…え、なんでそんな事を聞くの?」
「…え、いや、イーネさんとちょっとその話をして、その時に、詳しい事は、本人に聞くんだな…って、言っていたから…。
聞いてみようと思って…。」
「…ああ…。」
セクタは、一旦黙ったが、ゆっくりと話を始めた。
「…なんだっけ、イーネさんに、僕のこの…今の状態は…たる…たる何とかだって…。
なんだっけ、タルディスコ?」
「…樽…?ディスコ…?」
「あれ、違ったっけ…。とにかく、多重人格に近いけど、割と狙って自分で違う人を作った…ようだって…聞いた。
…ちょっと不安もあった。…それだけだよ。」
セクタはそう言って、戻ろうとした。
「…あっ、待って!それで、結局冒険には…。」
「…着いていけない。…ここでお別れだよ。
だから、これから皆にも、別れの挨拶をしてくるよ。」
セクタは、そう言いながら、カラリがいる部屋の方へ歩いて去って行った。
…着いていかない、じゃなくて、着いてい“け”ないなのか、と俺は密かに思ったが、とにかく、セクタとはここでお別れのようだ。
…しかし…。
「…どうするべきなんだああ!」
「…ツイト様、どうされましたか?」
「…ねえさあ、セクタを止めるべきかなぁ?
…トラックさんと話をしてみるべきかなぁ?
何か、今までのセクタの様子を見る限り、
止めた方が良いような気もするけど、
それは結構余計なお世話かも知れないし…。」
俺は、リプラに、そう訴えた。
「…ツイト様は、どう考えているのですか?
セクタさんに、居て欲しいですか?」
リプラは、少し考えた後、そう言った。
「…居て欲しいか…?」
…うーん、しかし、居て欲しいかどうかだと、
もっと考える羽目になるんだよな…。
…居て欲しくない訳では無いけど、はっきり、
居て欲しい!…ってわけでもないからな…。
…いや、でも、何だか、このままはっきりと状況が分からず、セクタと別れても、もやもやが残るな。
「…と、取り敢えず、トラックさんに話を聞いて
みたいと思っている。」
「…なるほど、セクタさんにはまだ着いてきて
欲しい、と。」
「…っ、まあそういうことになるのかな?」
「…分かりました。…では、カラリさんの様子をもう一度確認した後に、話をしてみましょうか。」
「…そうだ…ね。」
俺は、リプラと結論を出し、セクタと同様に、
カラリがいる部屋へ向かったのだった。
今回も、読んでくださりありがとうございます。
タルディスコの正体が何者なのか、明かされる日は来るのか…!?
次回も、良かったら、見て下さい。




