第25話 似て非なるもの
「…ん?あれ戻ってきたの?
…何だか、ずいぶんガタイのいい
アンドロイドになったねぇ…。」
…イーネさんは、俺達が部屋に入るなり、
そうボケをかましてきた。
…すぐに場の空気は悪くなり、沈黙が流れた。
「…つまらなかったかな、セクタ君。」
「…面白いというのは、所詮個人の感覚…
気にする必要はないですよ!イーネさん!」
…セクタは、すかさずそう言ったが、
褒めていると言うよりは、つまらない、と
遠回しに言っているようなニュアンスだった…。
…まあ、実は俺は割と面白いと思ったのだが、
空気が空気なので、笑ったら、セクタ、カラリ、
ブロックさんに失礼だと思い、グッと堪えた。
「…まあ、笑ってくれようが、くれまいが、
構わないよ。別に、笑わせようと思って
言っているわけではないからね…。」
イーネさんは、俺達から目を逸らしながら
そう言った。
…イーネさん、実は笑ってもらえる自信が
あったのかな…。
「…それで、まだ用があるのかな?勇者様?」
「ああ、いや、用は無いんですけど、リムさんが
リプラと二人で話したいと言っていたんで、
戻って来ただけです。」
「…へぇー、んで、どう?さっき、『もう、
何となく分かったから…』みたいな事を言ってた
けど、何が分かったの?…何に気づいたの?」
イーネさんは、相変わらずの笑みでそう俺に
聞いてきた。
「…だから、つまり、ウイルスを打ち込んだ
のは、リプラだって言いたいんでしょう?」
俺が素直にそう言うと、それを正直に言う事が
意外だったのか、イーネさんは、驚いたような
顔をしていた。
「…でも、まだ何もハッキリとした情報は
ないから、俺はそれまでリプラを信じようと
思ったんだ。」
イーネさんは俺の言葉を聞き、「ほぉー」、
「ふーん」、「はぁー」、と俺の目を見ながら
不満そうにしていた。
「…本当に“信じよう”と思ったの?
“疑いたくない”…んじゃなくて?」
「…!」
イーネさんのその言葉は、俺の頭の中で
何度もこだました。
…信じよう、と思ったはずだ。
…疑いたくないのではなく。
…本当に?
…俺の気持ちの変化を感じ取ったのか、
さっきまでの不満そうな様子から一転、
イーネさんは、満足気な顔をしていた。
「…まあまあまあ、いいさ、いいさ。
…そこの、ガタイのいいアンドロイドは、
話についてこれていないみたいだし、
今回はここまでで終わりにしよう…。」
イーネさん…あまりウケなかったボケを、
もう一度やるなんて…。
と、俺は心の中で思ったが、まあ、
本当かどうかは分からないが、イーネさん曰く、
笑わせるつもりではないらしいので、
取り敢えず、俺は、そういうことにしておいて、
その思いを、心の隅に追いやった。
「………っ取り敢えず、こいつはまだ起きてねぇ
から、2人を待たなければいけない事には、
変わりないよねぇ。」
イーネさんは、一瞬残念そうな顔をしたと
思ったら、突然そう言った。
「…えっ?ああ、そう、だね。」
「……………あの2人は、すぐに戻って来る
だろうし、その後、現状と、これからを
話し合おう。」
…ブロックさんが、冷静に、ドアを
閉めながら話をしていた時、少し遠くから
足音が聞こえたような気がした。
「…ん?待って…ブロックさん。」
「…………………なんだ?」
俺は、ブロックさんを止め、廊下に顔を
出した。
「…トラックさん!?」
俺は、てっきりリプラとリムさんが戻って
来たのかと思っていたのだが、廊下の
向こうに居たのは、トラックさんだった。
「…おや、君は…事情を説明してくれた…
ツイト…君だっけ…。」
トラックさんは、こちらの方へ歩いて来ると、
そう言った。
「あ、はい、そうです…。」
「…君達がどこかに行っている間に、
君が言っていた事を調べていたんだけどね…。
その途中で分かったんだが…君は勇者なんだね。」
「…えっ、ああ、や、やっぱり、分かりましたか。」
ちょっとぼかしたのだが、やはり、バレて
しまったようだった。
…まあ、トラックさんが調べている過程で、
『kantsumire』を見て、俺の事に気づいても
おかしくは無いよな…。
「…やっぱり、変装していても、バレる
ものなんですね…。」
俺がそう呟くと、トラックさんは、不思議そうな
顔をしていた。
「…そりゃ…『kantsumire』に、写真が投稿
してあったらね…。」
「…ん?」
…俺は、トラックさんが部屋の前まで来た
ので、廊下に顔を出すのをやめ、冷静に
考えてみた。
「…ああ、そうか、そりゃそうだよな…。」
…よくよく考えてみると、この世界に来た時に、
顔は隠してはいるが、リプラとの写真も
投稿して、トラックさんに、本名を名乗って、
連絡先を渡せば、そりゃ、バレるよな…。
…これに関しては、変装は関係なかったな。
…もう何度も変装がバレているから、頭が
回らなかった…。
…なんか、ただ自惚れたやつみたいになって
しまった。
…って、待てよ、そう言えば俺、『kantsumire』
に、普通に本名で登録したよな…。
…この世界に来たばかりで、まだ状況が
よくわかっていない時に流れるように本名
で始めてしまったが、大丈夫なのだろうか。
…今からでも変えた方がいいのだろうか。
…いや、しかし、今更変えても遅いだろう。
…むしろ、『kantsumire』に登録した
名前が偽名だというスタンスで、乗り切る
しかない。
…これから、名乗る、となったら、気を
つけなければならないな。
「…それで、君達の方は大丈夫かい?
…なるほど、こんな感じか…。」
トラックさんは部屋に入り、眠っている
カラリを見ながら、そう呟いた。
「あ、お父さん…。」
「…セクタ…後で、少し話をしようか。」
「…う、うん…。」
セクタは、トラックさんを見て、
そう答えた後、少し寂しげな表情を
浮かべていた。
「…?」
俺は、その表情に、疑問を持ったが、
少しするといつもの様子に戻っていたので、
気にせず、トラックさんの話を聞く事にした。
「…それで、先程言った通り、私は、
君が言っていた事を調べてみたんだ。
…私の会社に、不審な人物が居るかもしれない、
という可能性だが…ここの社員、全員の
情報を調べてみた所、明らかに怪しい
者は居なかったのだが、消去法的に、
完全に白とは言えない人が、複数人いる事が
分かった。
…勇者さんには、その人の写真を確認して、
見覚えがあるかないか、どういう事をしていた
のか、という事をを教えて欲しい。」
トラックさんは、そう言って、部屋に置いて
あったテーブルに、紙を置き始めた。
「この人達なんだが…。」
「…!」
俺は、紙に印刷してあった人の中に見覚えがある
者を見つけた。
「すみません、トラックさん、この人は…。」
その人は、完全に、元依頼主だった。
「…やはり、見覚えがあるのか…?」
「…見覚えも何も…さっきまで、戦って
いましたから…。」
「…戦っていた…!?」
「ああ、ええ、はい…つまり…。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺は、さっきまでの出来事を、トラックさんに
簡潔に説明した。
「…うむ…しかし、私が知っているこの人は、
そんなに武闘派では無かったような…。
それに、魔法もあまり使えなかったような
記憶が…。」
トラックさんは、そう呟きながら、
悩んでいるような仕草をしていた。
…トラックさんの話が本当であれば、
考えられる可能性としては2つ、元依頼主が、
トラックさんの前では猫を被っているか、
元依頼主が、この写真の人になりすまして
居るか、だな。
…まあ、一応、まだトラックさんが黒幕な線も
無くなった訳ではないのだが…。
…ここまで手伝ってくれたり、色々考えて
くれているとなると、もうその線は薄い
というか、ほぼほぼ考えなくてもいいだろう。
…思い切ってトラックさんに
全てを打ち明けたのは、悪手ではないはずだ。
「…えっと、その、元依頼…じゃなくて、
えーと、この写真の人って…何者なんですか?」
「…何者…?…いや、何者かと聞かれたら…
普通の…人だが。」
「…えーと、この人…では無いかもしれませんが、
この写真の人が、モンスターかもしれない、
または、モンスターと出会ったかもしれないと
いう心当たりというか…記録はありますか?」
…俺が、トラックさんにそう聞くと、
トラックさんはまた考えるような仕草をした。
「…連絡してみようか。」
「…ん?え!?連絡!?」
…トラックさんの言葉に、俺は思わず
大袈裟な反応をしてしまった。
…連絡か…。…でも、トラックさんに連絡を
してもらって…そこから、分かる事もあるかも
しれないしな…。
「…えっと、じゃあ、ちょ、ちょっと…
1回だけ…あの、連絡…ま、まあ、うん、
お願いします。」
俺がそう、トラックさんに頼むと、
トラックさんはスマホを取り出し、
操作し始めた。
「…お、もう返事が来たようだな…。」
…操作を始めて、少し経つと、トラック
さんは、ふと、そう呟いた。
「…!」
トラックさんがそう言った瞬間、この場の空気が、
少し、ピリッとした。
「…なるほど、えー、これが、届いたメッセージ
なんだが…。」
トラックさんは、そう言うと、スマホを
こちらに見せて来た。
「…なになに…?」
…トラックさん側からは、『勇者が
君の事を気にしているみたいなのだが、
何か心当たりないか?』というメッセージが
送られていて、元依頼主側からは、『あの、
勇者様がですか?会社ですよね、今すぐ向かい
ます。』というメッセージが来ていた。
…ん?
俺は、メッセージを見終わった後、
ゆっくりとトラックさんの方に向き直った。
「…えーと、どうやらここに来るみたいだ。」
「…ええっ!?」
…この人、かなりせっかちなんだな…。
…まあ、気持ちは分からない事はない。
…俺も、この世界に来る前は、ある一定の条件で、
似たような状態になったからな…。
「…えーと、じゃあ、来るまで…また、
少しここで待っていて欲しい。
…あ、セクタ…ちょっと話があるから、
来てくれ。」
「…あ、うん…。」
そんな事を考えていると、トラックさんは
そう言ってセクタを連れて去っていって
しまった。
「……………何だか、大変な事になってしまったな。」
「…う、うん…。」
…しかし、あのメッセージを見る限り、元依頼主
とあの人は、全くの別人のような気はする。
…何だか、ネクステ村で、出迎えてくれた
住人達と、同じ匂いがする。
「…って、何をしていたんですか?イーネさん…。」
そんなことを考えながら、ふと、イーネさんの
方を見ると、イーネさんは何故かニヤニヤと
しながらセクタを見送っていた。
「…いやぁ?何でもないよー?」
イーネさんはそう言ったが、そんなはずは無い。
「…というか、さっき…俺がこの部屋を出てから、
リプラを連れて戻ってくるまで、一体セクタと何を
話していたんですか…。いつの間にか、名前も
呼んでいたし…。」
「…いやぁ、ただ、色々話を聞いてね。
セクタ君が、解離性同一性障害かもしれない
っていう話を始め、様々な話…をね。」
イーネさんは、自らの意思でしているのかは
分からないが、ドヤ顔でそう言った。
「…かいりせい…ああ、多重人格の事か。
…って、何と言うか…話して貰えたんですか…。」
俺は、少しだけ翻訳機能に不満を抱きながら、
イーネさんにそう言った。
「…まあまあ、勇者様の気持ちも分からない
訳じゃあない。…こんな、明らかに怪しい人に、
自分の事を相談してくるはずがない…そう言いたい
んだよね?」
「…え、いや…うーん、そうなるのかな。」
「…正直に言うなよ…。」
俺が、戸惑いつつもそう答えると、イーネさんは
ボソッとそう言った。
「…ま、まあ、とにかく私はセクタ君に聞いた
のさ、今までの“冒険”の話をね。
…その流れで、自分が、多重人格なんじゃない
かとか、不安とか、そう言った事も漏らして
いたから、利用出来そ……じゃなくて、
私はそういった事にたまたま詳しかったから、
聞いてあげたのさ。」
…うわ、この人9歳の子まで利用しようと
している…。
と、俺は内心そう思ってしまったが、
顔には出さないようにし、話の続きを聞いた。
「…で、まあ、結果は、解離性同一性障害とは、
似て非なるものだったんだが…その辺を詳しく
聞きたいなら、本人が帰って来てから聞くと
いい。」
「…あー、って、まあ、内容も気になるけど、
もっと気になるのは、さっきの…『すごい
です!イーネさん!』…みたいな、セクタの
態度というか…。」
「…うん、ありがとう。…まあそれは、
ちょっとした返礼みたいなものだよ。」
「…ふーん、そっか。」
俺は、まあ、イーネさんが言う通り、詳しい
事は本人に聞くか、と納得しかけた。
…って、待てよ、今、セクタの真似をしたのだが、
それをナチュラルに俺が言った事にされて
なかったか?
「…ちょっと、イーネさ…。」
「…ただいま戻りました。」
「…待たせたわね…。」
俺は、イーネさんに少し文句を言ってやろうと
思っていたのだが、その時、まるで狙ったか
のようにリプラとリムさんが帰ってきた。
「……っ、えっと、話は終わったんですか?」
俺は、イーネさんへの不満を飲み込み、
2人にそう聞いた。
「…ええ、そう…ね。」
「…はい。」
…2人は、どこか落ち着いたような表情に
なっていた。
「………。」
俺は、ブロックさんの方を見た。
「………。」
「「………。」」
すると、ブロックさんも俺の方を見ており、
俺たちは2人で頷きあった。
「…あ、そうだ、2人が話していた時に、
トラックさんと話をしていたんだけど…。」
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俺は、さっきまでのトラックさんとの話を
2人に説明した。
「…そうなのね…それにしてもびっくりしたわ。
私がカラリちゃんを追っている間に、ここの
社長と話をしていたなんて…。
…セクタ君が息子に当たるのなら…。
…いえ、なんでもないわ。」
リムさんは、小さな声でそう言っていた。
…リムさんは、一体何を考えていたのだろうか。
「…ツイト様…その方と会って大丈夫なのですか?」
一方リプラは、冷静に、俺にそう聞いた。
「…まあ、問題は無いとは思うんだけど…。」
「…分かりました。…では、私も着いて行きます。
その人が、大丈夫な様子か確認しますね。」
「…あ、ああ、ありがとうリプラ…。
…ん?」
…と、俺がリプラと話していると、スマホに
メッセージが来ていた事が分かった。
「…あー、なんか、その人が、来たみたい。」
「…では、行きましょうか?」
「…うん…。」
リプラが俺にそう声をかけた時、俺は思わず
カラリの方を見てしまった。
「…カラリちゃんは、私とブロックが見ているわ。
だから安心してちょうだい。」
その瞬間、リムさんが、俺にそう声を
かけてくれた。
…イーネさんは、遠い目をしていた。
「…ありがとうございます。…行こう、リプラ。」
「…はい、ツイト様。」
こうして、俺たちはおそらく元依頼主に
なりすまされていたと見られる人の元へ
向かったのだった。
今回も読んでくださりありがとうございます。
この元依頼主は、元依頼主なのでしょうか?
そのうち分かります。
次回も、お時間ありましたら、是非、続きを読んでみて下さい。




