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第23話 変化

「勇者さん、落ち着いて。

…カラリちゃんを、こっちに渡して。」


「…あ、ああ、はい。」


…と、俺が灰になって散る前に、リムさんが、

そう言って、俺と交代してカラリを抱えた。


「…取り敢えず、カラリちゃんは無事に

救出出来たようね…。」


リムさんは、カラリを見つめながらそう言った。


「……。」


加えてその後、リムさんは、またリプラに

鋭い視線を向けた。


「…どうして…カラリちゃんを1人にしたの!!

…あの時、『私が最後までついているので、

安心してください』…って、言ったじゃない!!」


「………。」


リムさんの言葉に、リプラは何も答えなかった。

その様子を見て、イーネさんは少しニヤニヤと

していた。


「…いや、リ、リムさん、おそらく、それは、

イーネさんが…。

…えっと、イーネさんは、

変声の魔法を使えて…それを使って全員を分散

させていたので、その言葉も、リプラが

言った訳では無いと思います…だから、ええと

リプラに責任があるって訳じゃ…。

そ、そうだよね?リプラ…。

…だから、これからは、その、気をつけて

いれば…。」


…俺は、突然の気まずい空気を脱するべく、

リムさんにそう訴えかけた。


「……………リム、その………俺も、状況をよく

考えず、皆から離れてしまった。

……………だから、責任は、俺にもある…。」


ブロックさんも、リムさんにそう言った。


「……………なるほど、イーネさんが、ね…。

…それなら…悪かったわね。…急に大声を

出したりして…。騙された私が悪いわ。」


リムさんは、俺達の言葉を聞いて、冷静に

なったようで、そう言った。


「………………。」


俺とブロックさんはホッと胸を撫で下ろした

…が、俺はリプラが何も言葉を発していない事

に気づき、すぐにリプラの方を見た。


「…えーっと、リプラ、あの…通路で話して

いた事は、まあ、誤解というか、こう…

すれ違いがあったようだし、その…。」


「…ツイト様、お気遣いありがとうございます。

…しかし…私が悪い事には変わりないのですよ。

…私がカラリさんを1人にした事は、事実

ですし…。…それに……。…………………。」


リプラは、複雑な気持ちなのか、段々と

俯いて行き、声も小さくなって行った。


…そして、場に沈黙が流れた。


「…えっと、僕、早く、外に出たいな。」


セクタは、気まずそうに、沈黙を破った。

…話すタイミングを伺っていたようだった。


「…そうだな…取り敢えず、トラックさんの

会社まで戻って…色々と今回の事を考えて

みよう。…い、行こうか。」


…と、俺が先頭を歩き始めると、皆、

とぼとぼと着いてきていたので、安心しながら、

リムさんが仕掛けた罠に気を付けて、来た道を

引き返した。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


…地下から脱出した俺たちは、取り敢えず

トラックさんに、会社の空いている部屋を

貸してもらい、リプラが異空間に収納していた

リムさんが使っているベッドを出し、

カラリを寝かせておいた。


「…地下に設置した罠は全て回収したから

安心して。…それで、これから、どうするの?

…私は…少し…この辺りをうろうろしようと

思うわ。」


「……………私も、そうします。ツイト様、カラリ

さんが目を覚ますまで、そばにいてあげて下さい。」


リムさんとリプラは、そう言って部屋から

出ていってしまった。

…何だか、気まずいな…。…ん?


「………………?」


俺は、ブロックさんと目を合わせ、「追わないの?」

と目で訴えた。


「…………………。」


ブロックさんは、少し険しい顔になった後、

決断したようで、部屋から出ていった。


「…よし、じゃあ、頼まれたし、カラリが

目を覚ますまで………。」


と、俺が部屋にあるイスに座ろうとすると、

セクタと、イーネさんから、さっき俺が

ブロックさんに訴えかけたような眼差しを

感じた。


…なるほど、リプラを追え…と。

しかし、うーん、それなら…。


「…えっと、ゆ、勇者さん…あの、カラリさんは、

僕が見ているんで…。」


…俺が悩んでいると、セクタはおずおずと

そう言った。

…イーネさんとセクタを残すのか…。

…大丈夫なのか?


「…あー、大丈夫ですよぉ、勇者様ぁ?

こいつだけだったら、心もとないかもしれ

ませんけど、私も着いてるんで!」


イーネさんは、白々しくそう言った。

…イーネさんが居ることが、1番の不安要素

なんだけどな。


「…あ、何かあったら……えーっと、お父さん

に連絡するから…。」


…そうか、そう言えば、セクタは、ここの

社長の息子なんだもんな…。なら、まあ、

大丈夫…なのか?


「…じゃあ…信じよう!」


俺は、悩んだ結果、リプラを追うことに決め、

2人にそう言い残して、部屋を出た。

…きっと、まだそんな遠くには行っていないはずだ。

探せば、見つかるような場所にいるはず。

…俺が追いついて、何かかけられる言葉があるのかは

分からないが、取り敢えず今は追いつく事を

考える事にした。


「…取り敢えず、近くにある場所を見回って

いれば…。」


俺は、ビルを飛び出した後、取り敢えず

その周りを回ってみた。…が、リプラは

見当たらなかった。

…その後に、レベルアップ施設や、薬屋など

にも回ってみたのだが、リプラはどこにも

いない。


「…追うはずだったのに、見失ってしまった…。」


…俺は、取り敢えず、来た道を引き返し、

ビルに戻ろうとした。

…その時、少し遠くに、リプラのような

人影が見えた。


「…あっ…リプラ!」


「………私は、ツイト様の居場所が分かり、

避けて移動していたので、追いつかれる

はずが無いのですが…。」


リプラは、不思議そうにしていた。


「…それで、何か話したい事があるの

ですか?」


「…あ、えーっと…。」


そう言えば、追ってみたものの、

追いついた後何を話すか全く考えて

いなかったな…。


「えっと…ど、どうしたの?」


俺は、曖昧な聞き方をしてしまった。


「…どう、とは。」


リプラは、暗い声色でそう答えた。


「…ああ、えっと…。」


…俺は、落ち着いて、考えをまとめることに

した。…俺がリプラを追いかけた理由は、追えと

言われたから、というだけでは無いだろう。


…そうだ、何となくだが、リプラの様子が、

少し変に感じる。


…何がと聞かれたら、ハッキリとは分からない

のだが、リムさんの言葉を受けて、リプラは

何かを感じているのかもしれない。


…そう、それだ…。…なら、俺が聞くべき事は…。


「…リプラ、えー、何か、気にしているの?」


俺は、リムさんの言葉を気にしているのかと、

ハッキリとは聞ききれず、また、漠然とそう

聞いてしまった。


「…………………意地の悪い事をしてしまいましたね。

…お気遣い、ありがとうございます、ツイト様。

…そのよう、なのです。…私は、リムさんの言葉を

気にしている、みたいなのです。」


「…気にしている、みたい?」


「…ええ、私は、アンドロイド…。

人間のような、感情は、持っていないはず

なのです。

…それなのに、私は…気にしているようなの

です。」


リプラは、困惑した様子だった。


…もしかして…これは、感情が芽生え始めている…

という事なのか…?

…そういえば、前、カラリが、そんな話をしていたような…。


「…リプラ、その…もしかして、感情が…

芽生えたんじゃない…のかな?」


「…感情が芽生え始めている、ですか。

…今までの歴史で、そんな事は……ああ、そう

言えば、1度だけ…。」


リプラは、小さな声で意味深な事を

言った。


「何故なのかは分かりませんが…

カラリさんは、絶対に、護らなくてはならない。

…という気がして…。

…リムさんの言葉を聞いた時に、

何だか、すごく、申し訳なくなってきて…。

…もやもやするのです。」


リプラは、自分でも自分の感情が分かっていない

ようだった。


「…リプラ、それなら、カラリの元へ行こう。

…申し訳ないと思うんなら、1人で悩んで

いても仕方ないよ。…俺も、謝らないといけない

からさ。『護る』って、約束をしたのに…

全然護れなかった…から。

…だから、リプラも、一緒にカラリの元へ

戻って…カラリの気持ちを聞きに行こう。」


俺は、リプラを傷付けたりしないように、

出来る限り言葉を選び、そう言った。


「……………、……。…………そう、ですね。」


リプラは、悲しいような、安心したような

声色でそう言った。


「…戻りましょう。…きっと、皆に心配を

かけていますよね…。

…ツイト様、先を歩いてください。

…私は後ろを着いて行きますので…。」


「…あ、うん…。」


…と、俺は来た道を引き返そうとしたが、

後ろを振り向いた時、リプラが居なく

なっていたりしないだろうか、と少し

不安になり、時々後ろを振り返りながら、

歩いていた。


「…私が居なくなるかも知れない…と、

不安なのですか?ツイト様。」


俺が結構な頻度で振り返るので、リプラは

何かを察したように、そう言った。


「あ、いや…。」


「…大丈夫ですよ。…先程のツイト様の

1人で悩んでいても、仕方ない、という

言葉は、本当にその通りだ、と思いました

ので…。

…カラリさんに会う前に、逃げたりは

しませんよ。」


「…そっか…うん、そうだよね…。」


俺は、少しホッとして、前を向き、再び

歩き始めた。


「…それとも、まだ不安であるならば、

手を繋ぎましょうか?」


「…そっか、うん………うん?」


俺は一瞬言われた事が理解できなかった。


「な、なんで?」


反射的に、リプラの方を振り向いてしまった。


「…冗談です、しかし、ツイト様は、お姫様

抱っこは出来るのに、手を繋ぐのは出来ない

のですね…。」


「…いやあれはその、たまたまというか、

ついやってしまったというか、冷静じゃ

なかったというか…冷静だったというか…。」


…焦りすぎて言葉がおかしくなってしまった。


…リプラは、すっかり元の様子に戻った

ように見えた。

…元気になりすぎているくらいだ。

…あまりからかわないで欲しい。


「…大丈夫です、分かっております。それも

冗談です。」


リプラは、嬉々としてそう答えた。


「元依頼主さんの事も、考えなくては

なりません、気持ちを切り替えていきましょう。」


…リプラは、突然、真剣な声色になり、話を切りかえた。

俺は、もう一度前を向き、一体誰のせいだと

思っているんだ、と、思いながら、また歩き始めた。


しかし、確かに元依頼主の事は、少し違和感が

残っている。


リプラが、元依頼主に切り札があるかもしれない、

と言った時、元依頼主は、気づかれたなら仕方ない、

勇者さんに俺を殺してもらう事が重要だったが…。

的な事を言っていた。

しかし、切り札と見られるものは、あの、リプラ

が簡単に解除してしまった爆弾か、落とし穴

くらいしか無かった。


…本当に、あれが切り札だったのか…?

とか、疑問が浮かんでは来る…。


………。


いや、無理だな、そんな簡単に切り替え

られない。

…何だか、突然冷静な思考をしたのが、

少し恥ずかしくなってきた。


「…リプラ、その…。」


俺は、リプラの方を向き、切り替えるなんて

そんなに急に出来ない、といった

ニュアンスの事を訴えようとしたのだが、

リプラの顔を見て、その言葉が引っ込んで

しまった。


「…何でしょうか?」


…リプラは、すぐにいつもの様子に戻ったが、

さっきは…確かに、不安そうな顔をしていた。


…もしかして、さっきの、冗談は…

不安から、か?

…やっぱり、リプラには感情が芽生えている

のでは無いのだろうか。


…確認する方法がないな…取り敢えず、

俺よりもこの世界のアンドロイドに詳しい

と思われる、リムさんや、ブロックさん、

カラリや………セクタ…にも、後で、見解を聞いて

みよう、何かわかるかもしれない。


…そう思っていると、目の前に見覚えがある

ビルが見え始めた。


「…あ、リプラ、着いたみたいだ。…行こうか。」


「…ええ。」


俺達は、静かにビルに戻った。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「……………。」


ビルを進み、俺達は、カラリを休ませている

部屋の目の前まで来ていた。


俺は、やっぱり、なんか気まずいな…

と、中々部屋に入れないでいた。


しかし、それはリプラも同じ事…。

ここでリプラにドアを開けさせるなんて、

そんな事をさせる訳にはいかない。


「……………よし。…………おし…おりゃああ!」


俺は、ドアに手をかけ、迷わずに開け放った。


「……っ…。」


「わぁ、ビックリしたな。」


ドアを開け放つと、セクタとイーネさんが

部屋を出る前と、変わらない様子で

佇んでいた。

…カラリも、まだ目を覚ましていない

様子だった。


…俺は、少しだけホッとした。

…リプラも、ホッとしていた様子だった。


「………………なるほど。」


イーネさんは、そんな俺たちの様子を

見ると、笑みを浮かべながらそう言った。


「…ん?な、なんですか?」


「いやぁ?なんでもないよー。」


「…ハッキリして欲しいですね。」


「……うんうん、ふむふむ、はぁ〜。」


リプラの言葉を聞いたイーネさんは、

わざとらしくそう言いながら、辺りを

キョロキョロと見た。

すると、イーネさんは、元々部屋に置いて

あったソファーに乗り、俺たちの方に

向き直った。


「…薬屋での話の続きをしてあげよう…

って、おいなんでまたしんみりとした表情を

浮かべている…。」


「いやぁ、なんでもないですよ!」

「いや、なんでもないですよ。」


俺とリプラは打ち合わせをしたかのように

綺麗に声がハモった。


「私の真似をするな!…いいのか?勇者様が

感染しているウイルスについて、今なら

無料で教えてあげると言っているんだぞ?

知りたくない?知りたいよね?よし、知ろう!」


イーネさんは、突然そう言って、1人で説明を

始めようとした。


…まあ、知れるなら、知りたくないことは無いが、

疲れるテンションだな…。


「あ、今面倒なテンションだと思っただろ。」


イーネさんは、図星?図星?といった目で

こちらを見てきた。


「…思いました。」


「…正直に言うんじゃない。」


俺が素直にそう答えると、イーネさんは

不満げな表情になった。


「聞かれたので…言ったんですが…。」


「…なるほど、じゃあ、セクタ君に聞いて

みようか。」


「…流石ですイーネさん!

まるで、心が読めるような洞察力!

憧れます!」


「…!?」


イーネさんが、セクタにそう振ると、

セクタは、違和感たっぷりにそう言った。

…また、新たな人格が出てきたのか?


…それとも、もしかして、2人でいる間に、

何かあったのだろうか。…後で、話を聞ける

なら、聞いてみるか。


「…うん、ありがとう。

…じゃあ、本題に移ろうかなぁ。」


イーネさんは、そう言うと不敵な笑みを

浮かべた。


俺は、きっとまた、ここからは有料だとか

言われるに決まっている、と、内容にあまり

期待せずに、話に耳を傾ける事にした。

今回も読んで下さりありがとうございます。


(…感情の芽生えの見解を聞く人の候補から、ちゃっかりイーネさんを外すツイト。)


次回も良ければ見て下さいませ。

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