第22話 戦闘 後編
「…気づかれたんなら、仕方ないな。
…勇者サンに、俺を殺してもらう事が重要
だったんだけどな…。
…こうなったら…。」
元依頼主は、そう言うと、フッと意識を
失った。
「……!ツイト様、上です!」
「…おわっ!」
リプラの声を聞き、俺が素早く、横に
避けると、元依頼主が天井に穴を開け、
さっきまで俺がいた場所に降ってきた。
「……まあ、バレていたみたいだし、不意打ち
に成功するとは思ってはいなかったよ。」
…元依頼主はそう言うと、さっき意識を
失った、満身創痍の元依頼主の方へ歩き…
思いっ切り、首を吹っ飛ばした。
「…………っ!『フラッシュ』!」
…思わず目を瞑ってしまったが、もう
元依頼主は満身創痍ではないので、隙が
出来てしまう…と思った俺は、即座に
フラッシュを撃った。
「……くっ……。」
「『スタン』っ!」
…とにかく、元依頼主の動きを止めようと、
俺は、続けてスタンを撃った。
「…無駄だよ、勇者サン。」
「…ツイト様!先程の感覚を思い出しながら…。」
「…おっと、助言しようったって、そうは
いかないよ。」
リプラが、俺に何かを言いかけた時、元依頼主
は即座にリモコンを取り出し、素早く操作を
した。
「……!?」
するとその瞬間、リプラがいた地面の真下に
穴が開き、リプラは、落ちて行った。
…そして、開いた場所は、リプラが完全に
居なくなると、床はもう一度閉じ、通常の床に
戻っていた。
「……………!…………!?」
俺は、リプラ!と叫ぼうとしたのだが、
声が出なかった。…これは、あの森での…。
「…はぁ、ちょっと手間取っちゃったよ。
…うん、『沈黙』は上手く発動したようだね。」
…やはり、『沈黙』か。
「……………!」
俺は、先程柄の悪い男達に撃ったように、
『ライト』を発生させ、元依頼主に
放とうとした。
「…………っ!?」
しかし、『ライト』は出てこなかった。
…さっきは撃てていたのに、何故だ?
…もしかして、さっきまでの恐怖感が
色々左右していたのか?
…と、俺は考えたが、答えは出なかった。
「…なるほど、反応から見て、無詠唱は
出来ないようだね。…なら、問題ない。」
元依頼主は、余裕そうにそう言った。
「…………っ。」
俺は、剣を構えたが、やはり、少し手が
震えてしまう。…森の時は、なんとも
無かったのに…。やはり、自覚してしまうと、
途端に感情は襲ってくるものなんだと、
俺は思った。
…俺は、剣をしまい、リプラが言っていた
言葉の意味を考えてみることにした。
…きっとそこに、この状況を抜け出す方法が
あるはずだ。
「…じゃあ、今度はこっちの番だ。」
「…………!」
元依頼主はそう言うと、俺の近くへパッと
飛び、俺にストレートを打ってきた。
「……………っ。」
俺はとっさに防御をした。
………なるほど、まだ魔力で防御は出来て
居るみたいだが、もうまともに食らったら
少しの間立てなくなりそうなレベルだ。
…やはり、この戦いは長く続けるべきではない。
まず…リプラが言っていた言葉を思い出して
みよう。確か、「先程の感覚を思い出しながら」
…だったっけ。
「…うーん、やっぱり効かないか。
…それなら…。」
…そんな呟きが聞こえた後、元依頼主の手には
魔法陣が浮かんでいた。
「……………っ!!」
俺は、直感的に、少し前にリプラに聞いた、
『貫通』が来るのではないかと思い、
防御をやめて、攻撃をかわすことに集中した。
「……………っ。」
攻撃をかわし、その合間に少しずつ考えを
進めた。
…「先程の感覚」というのは、いったいいつの
感覚なのだろうか。…心当たりがあるのは、
1つだけ…さっきの、謎の感電だ。
…感電した時の事を思い出して、いったい何を
するべきなんだ…?
「…結構、しぶといんだねぇ!」
…と、考えていたからか、俺の動きに隙が
出来てしまったようで、間合いに入り込まれ
てしまった。
「……………っっ……!!」
俺は、とっさに次にくる攻撃を、腕で防御した
が、痛みは思っていたよりなかった。
…どうやら、貫通ではないようだが、攻撃の威力を
上げる魔法を使っているようだったので、
このまま攻撃を受け続けていれば、いつかは
限界が来るだろうと、俺は思った。
…早く考えないと、早く、早く、はやく…。
リプラが言っていた言葉の意味は……。
「……………。」
…と、ある程度攻撃をかわしながら考えていると、
突然俺から焦りや不安がスッと抜け落ちた。
…そして、頭に様々な考察が飛び交った。
…この感覚は…もしかして、さっきと同じ…。
俺は、ふと、『ライト』が撃てないか確かめて
見たが、『ライト』を放つことは出来なかった。
…どうやら、さっきの状態と、今の状態では、
何かが違うようだ。
「………………。」
…とにかく、もし、元依頼主の想定外が
あるとしたら、無詠唱なはずだ。
リプラもきっと、それを考えた発言をした
はず。
…先程の…“感覚”…か。…感覚、もしかして。
「……………っ!」
俺は今、多分、リプラが伝えたい事を
理解できた気がした。
…しかし、それを成功させるには、元依頼主に
気づかれ、防御されてしまってはいけない。
………気づかれないためには、さっきのように
防御する………ように見せ掛けて、間合いを
詰めて、元依頼主に避けられないようにする
しか…ない。
「…これで、終わりだ。」
…来る、チャンスは1度だけ…。
…これに賭けるしかない!
「………………っ!」
俺は、さっきの感覚を思い出しながら、
魔力を元依頼主の方に放った。
「……な、に………?」
すると、俺の周りからバチバチと電気が
発生し、元依頼主の方へと飛んで行った。
「………………がはっ!」
…元依頼主は、その場に倒れた。
…簡単な事だったんだ、無詠唱を成功させるコツ。
…“感覚”。…つまり、実際の体験が重要だったんだ。
…確かに、魔法に限らずとも、物事は、想像する
よりも、実際に体験してみた方が、分かりやす
かったりする。
…感電した時も、必死に感電していない状態に
戻る事を考えていたので、『状態異常治し』
が発動されたと思われる。
…ありがとう、リプラ。
………もっと、やり方があったのではないかとは
思ったが。
「……………っ。」
…どうやら、まだ『沈黙』は解けていないみたい
ようなので、俺は、『状態異常治し』を使った
後に、元依頼主の様子を確認した。
…元依頼主は、完全に気を失っているようだった。
…きっと元依頼主は、他の場所にも待機している
だろう。…すぐにこの部屋に来るかもしれない。
と思った俺は、元依頼主が持っているリモコンを
探した。
「………ん?リモコンが2つあるな…。確か、
元依頼主が見せびらかして来たリモコンは、
こっちだった気がする。えーっと、このリモコン、
スイッチが3つあるな…。」
俺は、少し悩んだが、元依頼主が戻ってくる
事を考えると、どれを押すか迷っている暇は
ない。…俺は、思い切って全て押してみることに
した。
…すると、リプラが落ちた辺りの床が再び開き、
警報が鳴り始めた。
「…ん?ん?何が起こっているんだ?」
俺は、取り敢えず、万が一まだ電気が流れていた
としても、『状態異常治し』で治せるだろうと、
思い切って電気が流れていた檻に、触れてみた。
「………流れていない。」
「ツイト様、どうやら、上手くいったようですね。」
檻に触れていると、落とし穴に落ちたはずの
リプラが、こちらに来てそう話しかけてきた。
「おわっ!…ああ、リプラか…よかった。」
…おそらく、あの3つのボタンのどれかが、
落とし穴の昇降を操作するボタンだったのだろう
…もしかしたら、全ての床の操作のリセットボタン
なのかもしれない。
…待てよ、3つのボタンのうちひとつが電流の
オンオフ、もうひとつが落とし穴の操作だと
したら…最後のひとつはなんだ?
…多分、この警報が関係しているのだろうが…。
俺がそう思っていると、まるでその疑問に
答えるかのように、放送が流れた。
『…10秒以内のキャンセルが無かったため、
爆弾を起動します。…残り時間、5分。』
放送が終わると、どこからか、ピッピッと
いう規則正しい音が聞こえ始めた。
「…これは……まずいやつだ!これも作戦の内
だったりするのか…?早くカラリを連れ………ん?」
俺は、この地下は位置的に、トラックさんの
会社の真下にあるんだよな、という事を思い
出した。
…もし、このまま爆弾が爆発してしまったら、
会社が…崩れてしまうよな。
「……………。」
俺は、壁に耳を当て、音が聞こえてくる
方に進んだ。
「…ここだ。」
「…ツイト様、まさかご自分で爆弾の
解除をなさるつもりですか?」
リプラは、不安そうにそう言った。
「…え、う、うん、だって、そうしないと…。」
「…私に、任せてください。」
「えっ?えっ、ちょっと…。」
リプラはそう言った後、壁に穴を開け、
仕掛けられていた爆弾を取り出した。
…かと思うと、すぐに時間が表示されている
パネルを外し、中から出てきた数字が
書いてあるパネルを躊躇なく押し、
出てきたコードを躊躇なく切った。
「解除できましたよ。」
リプラは、そっと爆弾を地面においてそう言った。
「…えっ、そ、そんな簡単に?」
「たまたま分かりやすい仕組みの爆弾だった
だけですよ。…では、一応ここで気絶している
元依頼主さんを拘束しておいて……カラリさん
を連れて、ここを出ましょう。」
リプラは、冷静に縄を取り出し、そう言った。
「カラリさんを連れて、先に行って下さい。」
「…わ、分かった。」
…俺はカラリに近づいて、そっと抱きかかえた。
「…じゃあ、先に行ってる!」
…と、この部屋に来た時の通路に向かおうとすると、
通路の出口が思いっ切り閉まった。
「…おっと…やっぱり罠か…。部屋に入る前に
出入口を削っといて良かった…。」
俺は、削った隙間から、まず初めにカラリを
通路に出し、続いて俺も隙間から通路に
出た。
「…よし、もう少し進めば、あの部屋に
出るぞ…。……ん?」
…通路の出口に差し掛かると、見えない壁
にぶつかり、通れなかった。
「…そう言えば、元依頼主が、この部屋に
皆を閉じ込めたって言っていたよな…。
…何とかここを通る方法はないだろうか…。
…『ライト』!」
…俺は、『ライト』を見えない壁に
ぶつけたが、『ライト』は俺の方へ返ってきた。
「…うーん…どうすれば…。」
「…ツイト様、避けてください!」
と、見えない壁を抜ける方法を考えていると、
後ろからそんな声が聞こえてきた。
「…えっ!?」
俺は、カラリを落とさないよう注意しながら、
その声の通りその場でしゃがんだ。
…すると、俺の上の方を何かが飛んで行き、
おそらく、見えない壁にぶつかり、爆発音
が響いた。
「…こ、これは…。」
俺は、壁があった辺を見たが、そこには
何も無く、変わらない通路があるだけだった。
「…よかったです。…この薬があって…。」
そこには、安心した表情の、リプラが居た。
…もう、拘束を終えたのか。
「…薬?もしかして、あの時行った薬屋で
買ったの?」
「…ええ。…買っている途中で、このような
事になってしまったので、買えたのは
ごく1部ですが…。」
「…これって、何の薬なの?…もう何も
残っていないんだけど…。」
俺は、薬品を使えば、何かしらはその場に
残るのではないかと思い、リプラにそう
聞いてみた。
「…先程使った物は、自身の魔力を込めて
から、衝撃を加えると、その場にある魔力を
強制的に吸収して、爆発するという効果を
持った薬品です。そのため、使った薬品は
跡形もなく消えたんですね。」
リプラは、平然とそう言った。
「…劇薬じゃん!!厳重に保管しておかないと!」
俺は思わずそうツッコミを入れた。
…そんなもの売ってていいのか?…もし、
店頭で魔力を込めて、衝撃を与えて
しまったら、大爆発するのでは無いのだろうか。
「…問題は無いですよ。あの薬屋では、
そういったことをされないように、棚によって
魔力を遮断したり、そうでなかったり、
さまざまな対処をしていますから。
…購入後も、第三者に魔力を投入されないよう、
保護されているので…よっぽどの事がない
限りは問題ないですよ。」
「…うーん、そう、か…。」
よっぽどの事があれば、大変な事態に陥る
こともあるのか…。と、ちょっと引っかかったが、
まあ、この世界では、店頭で売られているのだから、
問題ないんだろうと思うことにした。
「…よし、それなら、元依頼主が、何か行動を
してくる前に、早く外に向かおう。」
「…あの、ツイト様…。」
俺が皆が居るであろう部屋に戻ろうとすると、
リプラが、なぜか申し訳なさそうにそう言って、
俺を止めてきた。
「…?…!………分かってるよ。」
俺は、リプラが言いたかった事を、何となく
察して、そう言った。
…AI化病の事だろう。…おそらくだが、
治らないとまでは行かなくとも、ある程度
取り返しのつかないところまで、進んでいる
気がする。
………このような事が続くのであれば、
いつかは治らない所まで行ってしまうだろう。
…その事も、考えないとな。
…覚悟を決めないといけないのかもしれない。
俺はそう思いながら前を向いた。
「………そう…………ですか。
…分かりました。…では、行きましょう。」
リプラは、困惑した様子でそう答えた。
…俺は、リプラより先に、ゆっくりと
歩きながら、部屋に戻った。
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部屋に戻ると、柄の悪い男らは、全員気を
失っている様で、ピクリとも動いていなかった。
「…おっ、お姫様抱っこだねぇー!
ヒューヒュー!!」
そして、いつの間にか戻ってきていた
イーネさんに、そう、からかわれた。
どこかに行っていたくせに何を言っている
んだと言いたかったが……。
…………確かに、よく考えてみたら、この体勢
って、お姫様抱っこだよな。
…と、俺は冷静になって…いや、冷静では
無くなって?…そう思った。
「…あっ、いや…。」
俺は、思わずキョロキョロと周りを見渡した。
…リムさんは、何をしているんだという目で、
セクタは興味ありげに、さらに、ブロックさんは
何故か悔しさを顔に滲ませて、こちらを見ていた。
「…え、リ、リプラ…もしかして、気づいていた?」
「………ええ。」
リプラは不自然な間を開けた後、消え入る
様な小さな声でそう言った。
「………………。」
…あ、あれ、まさか、リプラが、ここに
戻ってくる前に、申し訳なさそうにしていたの
は、「このまま部屋に戻ると、からかわれる
だろうが、いいのか?」的な意味だったのか?
…おかしいな…なんか、勝手に、勘違いして、
覚悟を決めるだとか、よく考えるだとか、
なんか……………なんか……思って…自分だけ…。
俺は、あまりの恥ずかしさに時間を止められた
かのように、皆の前で硬直した。
「…やっぱり勇者様は違うねぇー!…ん?」
「…やめてあげなさい。もう、勇者さん
には聞こえていないわ。」
「…わぁ、いかにも、灰になって散りそう
な雰囲気だね。」
…そんな声が、俺の耳に届いた。
…へー、俺、今、灰になって散りそうな
雰囲気なんだ…。
…ああ、なんか、意識が遠くなっていく…
目が覚めたら、全部夢だったとか、
無いだろうか…。
俺は、少しだけ、現実逃避をした。
今回も読んでくださりありがとうございます。
自分と同じ顔の首を飛ばす元依頼主。
…中々にシュールだと思います。
私は無理ですね。出来ません。
次回もよかったら見てください!




