警視庁にて
清水達が10年前の事件の再調査を始めた頃、警視庁内ではある殺人事件の調査が行われていた。10年前の事件とどう関係していくのか。
どうぞお楽しみください。
登場人物
枝野章平:警視庁捜査一課の刑事 梶宏人:枝野の部下
「たっく近頃の若者は善悪の区別もできんのか。闇バイトに引っかかる奴の頭の中を覗いてみたいね」
警視庁捜査一課の刑事である枝野章平は吐き捨てるように言った。「何じいさんみたいなこと言ってるんですか。
まあ、闇バイトの事件が多いのは事実ですけど」そう言ったのは枝野の部下の梶宏人だ。
「誰がじいさんだ、梶。お前例の事件で何か掴めたか?」
「いえ、ただ被害者が働いていた職場の同僚と連絡が取れました。今から向かうところです。」
「よし、俺が運転する。さっさと準備して行くぞ!」「はい!」枝野と梶は先日、
都内のアパートで起きた殺人事件の調査を行っていた。被害者は森慎吾36才、
部屋の中で死亡しているところを大家により発見された。隣人は仕事から帰宅したときに、
横の部屋から強烈な腐敗臭がするのを不審に思い、大家に報告。その大家が部屋に入ったところ、
腐敗している遺体を発見、すぐに警察に報告した。鑑識によると背中に3箇所の刺し傷があり、そのうちの一つが致命傷となり、また1箇所は非常に浅い刺し傷だったという。
死後三日ほど経っており、夏場なので腐敗が速かったということらしい。被害者は睡眠薬を服用しており、
そのため抵抗した形跡はなく即死だったという。また犯行時刻は朝10時から夕方2時の間という報告があった。被害者は建築業の現場作業の仕事をしており、二週間ほどの長期休暇をとってアメリカ旅行に行くと話していたらしい。「この家です」梶がそう言うと枝野は車を止めた。インターホンを鳴らし自分達の名前を告げると返事があり、しばらくしてドアが開いた。家に伺うことは事前に連絡していた。「警視庁捜査一課の枝野です。森慎吾さんの件でお話しを伺いに参りました。」出てきたのは30代くらいのずんぐりとした体格で無精髭が生えている男だった。「どうぞ中にお入りください。何かお飲み物でも飲まれますか。」こう話すのは被害者の同僚で被害者とも親しかったという田中哲平である。「お気持ちだけで結構です。早速ですが森さんとはどのようなご関係で」枝野が問う。「彼とは同期で15年ほど一緒に働いてきました。とても親切な人でよく仕事でもプライベートでも相談に乗ってもらいました。」「なるほど。森さんとトラブルを抱えた人などはいませんでしたか?」「いないと思います。彼は親切だったので。」「森さんはかつて金銭面でトラブルがあったらしいのですがご存知ですか?」「そうなんですか。彼は私にそんな話はしなかったなあ。」そう話す田中の声が少し震えていることに気づきながら枝野は電話番号を書いた紙を田中に渡した。「ありがとうございました。近々またお話しを伺いにくると思いますのでその時はよろしくお願いします。」田中は返事をせずにドアを閉じた。それは彼の機嫌が悪かったからでないことを枝野は見抜いていた。
「梶、お前どう思う?」「確かに怪しいなとは思いました。ただ彼には立派なアリバイがあります。ですが、田中さんについてはもっと詳しく調べるべきかと」「立派なアリバイねえ」枝野は鼻で笑いながら不満そうな顔をした。
田中は森にお金を借りていた。それゆえに金銭面のトラブルから魔が差して殺した可能性も十分ある。だが田中は当時事件が起きた三日前から一週間福岡へ出張をしており、そこでの進捗情報を名古屋にいる課長へ1時間おきにテレビ電話で作業風景を映しながら進捗報告をするよう指示されていた。犯行時間は平日の昼間、田中には完璧に近いアリバイがあった。
今回は前回までとはがらりと変わり、警視庁である殺人事件の捜査をしている場面です。もちろん10年前の事件と深く関係しています。続編をお楽しみに。




