6-4.ドワーフ
まず溺水の確認をした。
口腔内を開いて確認した。水が入っていた。気道に残っている量を判断した。少なかった。それでも楽観はしなかった。飛び込んで子供を抱えた時間を考えれば、肺に水が届いている可能性はある。胸に耳を近づけた。呼吸音を聞いた。左右で差があった。右側がわずかに湿っていた。
処置をした。体位を整えて、気道を確保した。水が出た。アンヌの眉が少し動いた。意識の反応だった。良い兆候だった。
次に外傷を見た。
服を切った。右の側腹部から腰にかけて、広範囲に赤みと腫れが出ていた。皮膚の裂傷は二箇所。深さは中程度だった。出血は多くなかった。だが問題はそこではなかった。
触診した。
ドワーフの体は人間と構造が違う。骨格の密度が高い。同じ衝撃を受けた場合、人間なら肋骨が折れているところを、ドワーフは折れていないことがある。折れていない分だけ外から見えにくい——しかし内側には確実に衝撃が伝わっている。
右の下肋部に指を当てた。押した。
「……っ」とアンヌが声を出した。薄い意識の中でも身体が引いた。それだけ痛みの信号が強かった。
「アンヌさん、動かないでください」と言った。「今確認しています」
返事はなかった。でも身体は動いた。聞こえている。
内臓への影響を考えた。右の側腹部への直撃。この位置で強い圧痛。最初に疑うのは肝臓と腎臓だった。内出血が起きているかどうか。今の状態では断言できなかった。だが出血が続いているなら、時間が経つほど状態は悪化する。
脈を再度確認した。速いが、弱くはなかった。血圧の著しい低下は今のところない。
判断した。
内臓への重篤な損傷があるとすれば、今の私にできる手術は限られる。レオノーラが戻るまで安静を保ちながら経過を見るか、今できる処置を全部やるか。
レオノーラが戻るのを待つ時間はない、と思った。根拠はなかった。でも確信があった。今動く。
裂傷の縫合から始めた。
ーーー
縫合の途中で、アンヌの意識が少し戻りかけた。
「……何が、あった」とかすれた声がした。
「桟橋が崩れました」と答えた。手は止めなかった。「子供を抱えているとき、上から角材が落ちてきました」
「……子供は」
「全員、引き上げられています」と言った。「今は動かないでください。まだ縫っています」
低いうなり声がした。了解の意味だと受け取った。それからアンヌは黙った。
縫合を終えたとき、アンヌの呼吸が少し深くなった。
体位を変えながら、圧痛の範囲をもう一度確かめた。最初より反応が小さかった。悪化していない。内出血が進行しているなら、今頃腹部全体が硬直し始めるはずだった。そうなっていない。
「アンヌさん」と声をかけた。
まぶたが動いた。
「聞こえますか」
うなる声がした。聞こえている。
「右側を打ちました。処置は終わっています。動かないでください」
またうなる声がした。アンヌらしかった。意識が戻りかけていても、指示には従う。
痛み止めを使った。量を計算した。ドワーフの体重は外見より重い。骨の密度のぶんだけ、同じ体格の人間より重くなる。薬剤の量も比例して調整が必要だった。これは以前アンヌ本人から聞いていた。「薬は人間用の計算で出すと少ない」と、何でもないような顔で教えてくれた。今そのことを思い出した。
処置を続けながら、状態の変化を見ていた。
腹部の硬直が出ないか。脈が弱くならないか。呼吸が荒くならないか。どれも今のところ変化がなかった。
そのとき、扉の向こうで声がした。
「……まだかな」というエリカの声だった。くぐもっていた。「しゃべっちゃだめよぉ」とビリーが返した。「しゃべってないよあたしは」「しゃべってるわよぉ」という声が続き、またすぐ静かになった。
一時間ほどかけて、できることをすべてやった。
ーーー
扉を開けたとき、エリカが壁にもたれて立っていた。ビリーが床に座っていた。二人とも顔を上げた。
「処置が終わりました。意識は戻っています。今は安静が必要です」と私は言った。
エリカが息を吐いた。長い息だった。一瞬目を閉じた。それから「中に入っていいか」と言った。
「少し待ってください。安定を確認してから」
エリカが頷いた。唇を結んだまま頷いた。
「ありがとう」とビリーが言った。静かな声だった。いつものビリーの声と少し違った。「本当に、ありがとうねぇ」
廊下に出て壁に背をつけた。手が少し震えていた。気づかなかった。処置している間は気づかなかった。今になって出てきた。
レオノーラがいなかった。確認できる人間が誰もいなかった。自分が出した判断が正しいかどうか、誰にも問えなかった。
それでも、やった。
正しかったかどうかはまだ分からなかった。でもアンヌの呼吸は今、規則正しく続いている。脈はある。意識がある。
それだけは確かだった。
ーーー
夕方、アンヌが目を開けた。
「シェリーさん」と言った。かすれた声だった。
「はい」と答えた。
「子供は」
「全員助かっています」と私は言った。
アンヌが少し目を細めた。安堵の表情だった。それから「痛いなぁ」と言った。
「打ちましたから」
「どのくらい安静にしなきゃいけないか」
「一週間は動かないでください」
「……長いな」
「アンヌさんが飛び込んだんです」
アンヌが少し笑った。かすかな笑いだった。「まぁそうだな」と言った。
エリカが扉から顔を出した。「話してる!」と言った。声が裏返っていた。入ってきて、アンヌの顔を見た。それから「バカか、飛び込んだりして」と言った。
「誰かが行かなきゃならなかっただろ」とアンヌが言い返した。
エリカが黙った。しばらく黙ってから、「……まぁな」と言った。低い声だった。
ビリーが「あらぁ、よかったわぁ」と言いながら入ってきた。アンヌが「うるさいなぁ」と言った。「うるさくないわよぉ」とビリーが返した。全員の声が重なった。
私は少し後ろに下がって、その様子を見ていた。
ーーー
翌朝、桟橋に人が来た。
昨日の子供たちの親たちだった。五人か六人いた。礼を言いたいということだった。ダニエルが「うちの者がやったことだ、気にするな」と答えた。それでも彼らは下がらなかった。
子供が一人まじっていた。昨日水に落ちた子の一人だと思った。親に背中を押されて、小さく前に出た。「……ありがとうございました」と言った。声が小さかった。
長老のような老人が前に出た。「あの先生が処置してくれたそうですね」と言った。目が私の方を向いた。後ろの人たちが頷いた。「本当に、ありがとう」という声がいくつか重なった。
「子供が元気なら、それで十分です」と私は言った。
老人がしばらく私を見た。それから深く頭を下げた。後ろの人たちも続いた。
何か言うべきかと思ったが、言葉が出なかった。ただ頷いた。
帰り際、老人が振り返ってもう一度言った。「セラマに来たら、また寄ってくれ」
そういうものなのか、と思った。助けると、また来てほしいと言われる。港町の挨拶なのかもしれなかった。でもそれだけではない何かが、その言葉にはあった気がした。
うまく言えなかったが、悪い感じではなかった。




