6-1.三日間の海
一日目の昼すぎ、レベッカが医療室に来た。
何か症状があるわけではなかった。包帯の在庫を確認しに来た、と言った。それだけのことだった。
「棚の一番上です」と私は言った。
「ああ」と言ってレベッカは棚の前に立った。数を確認した。それから出ていくかと思ったが、少しそこに留まった。特に何かをするわけでもなく、棚の前に立っていた。
「仕事は順調か」と、しばらくしてから言った。
「はい」と私は答えた。
それだけだった。レベッカが出ていった。廊下に足音が遠ざかっていった。
いなくなってから、何かが変わったかと自分に問うてみた。あった。あの人が来て、確認して、少し留まって、出ていった。それだけのことなのに、以前と違うものがあった。秘密があった頃、あの人が医療室に来るたびに、何か張り詰めたものがあった。今はそれがない。代わりに何があるかと言えばうまく言えなかったが、なくなったものがあるのは確かだった。
良い変化だと思った。
夕方近く、レベッカが再び来た。今度は右手の人差し指を少し切っていた。ロープ作業中にやった、と言った。
「座ってください」と私は言った。
レベッカが椅子に座った。傷を見た。深くはなかった。出血も止まりかけていた。消毒してガーゼで覆えば済む程度だった。
消毒を始めたとき、レベッカが傷口を一度覗いた。「ちゃんと自分で消毒しましたか」と聞いた。
「していない。人前でやりにくかったからな」
「次からその場でやってください。化膿しますよ」とレベッカに言った。
何も言わなかった。ガーゼを留めた。「これで大丈夫です」と言った。
レベッカが手を見た。「ありがとう」と言った。
「気をつけてください」と私は言った。
レベッカが立ち上がって、出ていく前に少し振り返った。「お前もな」と言った。それだけだった。
言葉は短かった。でも何かがそこにあった。以前には感じなかった種類のものが。
夜、食堂でみんなと食事をとったとき、アンヌが「セラマは魚が旨いぞ」と言った。エリカが「果物も! 椰子みたいなやつ!」と言った。ビリーが「服もいいのよぉ、色が派手でねぇ」と言った。「目が痛いくらい派手なのよ」
エリカが「シェリーさん、セラマ初めてだよね」と言った。「食べたことないの全部?」
「ないです」と答えた。
「じゃあ全部初めてか。いいなぁ、初めての方が得じゃん」とエリカが言った。アンヌが「そういう考え方か」と言った。「そうでしょ、感動が新鮮だもん」とエリカが返した。
話を聞いているうちに、少し楽しみになった。ポルト・ネーロはずっと石と海と空の色だった。セラマは違うらしかった。
ベネディクトが「そろそろ寝ろ。港に入るときに眠そうな顔をするな」と言った。エリカが「べつにいいでしょ」と言い返した。ベネディクトが何も言わなかったので、エリカが少し得意げな顔をした。ビリーが「あらぁ、強いわねぇ」と言った。
リベルタスの夜はいつもこうだ、と思った。それが今は普通だった。
ーーー
二日目は雨だった。
甲板作業が減って、船内の人の動きが増えた。怪我は少なかった。医療室に来る者もなかった。午前中は薬品の整理をして、午後は患者の記録を見直した。
記録は、この船に乗ってから処置した全員のものだった。まだ数は少なかったが、一つ一つに確認することがあった。処置の内容が正確かどうか。使った薬剤の量が適切だったか。次に似たような症状が出たとき、同じようにできるか。
そういうことを確認しながら書き直していると、ビリーが覗きに来た。
「あらぁ、真面目ねぇ」と言った。
「暇なので」と答えた。
「それ、患者の記録?」
「はい」
「几帳面だこと。ルシルもそうだったわ」
ルシルという名前は知っていた。リベルタスの前の医者だということを、以前アンヌから聞いていた。でも直接は知らなかった。ビリーが少し遠い目をした。「続けてね」と言って出ていった。
雨の音が続いた。記録の整理を続けた。
しばらくしてアンヌが顔を出した。「何か手伝えることあるか」と言った。「記録の整理中なので大丈夫です」と答えると、「そうか」と言って入ってきた。入ってきておいて何もしなかった。雨が続く甲板を小窓から見て、「雨は嫌いじゃないんだがなぁ、仕事の邪魔になるのがなぁ」と独り言のように言った。
「アンヌさんは、雨の日はどんな仕事を」と聞いた。
「縄の点検。でも全部終わったんだよなぁ」とアンヌが言った。「暇だと落ち着かない」
「それでここに来たんですか」
「うん」と素直に言った。それから「邪魔したな」と言って出ていった。
この人はいつもこういう人だ、と思った。悪い意味ではなかった。ただそこにいる、という感じが、この人にはあった。
夕方近く、レオノーラが通りがかって「雨の日は退屈ね」と声をかけた。「私もそう思います」と答えたら、「一つ覚えておくといいわ——退屈は贅沢よ」と言った。それだけ言って行ってしまった。
後からその言葉を思い返した。退屈は贅沢。この船に乗ってから、退屈を退屈と感じた日はまだ少なかった。だとしたら今日は贅沢な一日ということになる。そう思うと、少し違う感じがした。
ーーー
三日目の朝、目が覚めたとき、自分がどこにいるかをすぐに分かった。
以前は少し間があった。船の上だ、という認識が一呼吸おいてからやってきた。今はそれがなかった。揺れの感触で、波の音で、帆のはためく音で、すぐに分かった。身体が覚えたのだと思った。
朝食のあと、レオノーラが医療室に来た。頭痛がする、と言った。珍しいことだった。「昨夜、少し書きすぎたのかもしれないわ」と言った。手紙のことを言っているのだと思った。薬を出して、少し横になるよう勧めた。レオノーラが「ありがとう」と言って出ていった。
その後、甲板に出た。
三日目の夕方、日が傾いてきた頃にも出た。
雨は昨夜のうちに止んでいて、今日は朝から風が安定していた。波が穏やかで、船の揺れが一定だった。
レオノーラが甲板の隅のベンチに座って、何かを書いていた。紙が数枚あって、ペンが動いていた。書いては止まり、また書いた。何かを選ぶような動き方だった。
通り過ぎようとしたとき、目が合った。
レオノーラが少し笑った。「邪魔してごめんなさいね」と言った。
「いいえ」と答えた。「手紙ですか」
少しの間があった。「そう」とレオノーラは言った。「少し遠いところへ」
それ以上は聞かなかった。レオノーラが手紙に目を戻した。ペンがまた動き始めた。
私は手すりの方へ歩いた。
遠いところへ、という言葉が頭に残った。どこへ宛てた手紙かは分からなかった。レオノーラについて、まだ知らないことが多かった。この船の人たちは、みんなそれぞれに、外に出してこない事情を持っている。それが普通だと、今はもう思っていた。
海が夕焼けの色に変わり始めていた。オレンジと赤が混じって、水面がそれを映していた。きれいだ、という感想が自然に出てきた。以前、こういうものを見て何かを感じていたかどうかは分からなかった。でも今の自分はここにいて、この色を見ていた。それで良かった。
ーーー
水平線に影が見えたのは、日が傾ききった頃だった。
最初は小さな盛り上がりだった。エリカが監視塔から「見えた」と叫んだ。アンヌが「おっ」と声を上げた。ビリーが「あらぁ、着くわねぇ」と言った。
甲板の空気が少し変わった。どこかへ向かっていた三日間が、終わりに近づいているということだった。
影がだんだん形になっていった。木が見えた。白い建物のようなものが光を反射していた。ビリーの言っていた派手な色はまだ見えなかったが、確かに島だった。
レベッカが隣に来た。
「セラマだ」と言った。
私は頷いた。
三日間、海の上にいた。何か大きなことは起きていなかった。でも積み重なったものがあった。食堂での話も、雨の日の記録整理も、レオノーラの言葉も、レベッカの「お前もな」という一言も、全部がまだここにあった。消えていなかった。
「行きましょう」と私は言った。
レベッカが頷いた。
島が近づいてきた。




