4-4.認める
レベッカが、口を開いた。
「あなたの母と私の母は、姉妹だった」
廊下が静かだった。
私はその言葉を聞いて、最初、何が起きたか分からなかった。意味は分かる。でも意味が分かるのと、受け取れるのは別のことだ。
姉妹。母親が。つまり——
「私たちは、いとこだ」とレベッカは続けた。
声は平坦だった。感情を押しつぶしているような声だった。でも声の奥に、何かがあった。長い時間をかけてここまで持ってきた何かが、今ここで出ていた。
「……そうですか」と私は言った。
それしか出なかった。
もっと聞きたいことがあった。いくつも。でも全部が一度に押し寄せてきて、どれから言えばいいか分からなかった。喉が動かなかった。
いとこ。
その言葉を、頭の中でもう一度確かめた。血がつながっている。同じ祖母か祖父を持つ。そういう関係だ。知識として知っている言葉が、今、自分のこととして来ていた。
この人と私は、血がつながっている。
「近い」という感覚の正体が、そこにあった気がした。医療上の説明でも、記憶の断片でもなく、もっと根本的な何かが、ずっとそう言っていた。知っている。近い。この人との距離が、他の誰かとは違う。
それは、そういうことだったのか。
レベッカが窓の方を見た。海はもう暗くなっていた。水平線が消えていた。
「竜国の城にいた。あなたの護衛として」とレベッカは言った。「母親同士が姉妹だったから、幼い頃から知っていた。あなたが竜国に生まれてから、ずっと」
竜国。城。護衛。
それらの言葉が、私の中で落ちていく場所を探していた。でも記憶がないから、落ちていく穴がなかった。ただ宙に浮いていた。
「覚えていない」と私は言った。「あなたのことも、竜国のことも、城のことも。何も、ない」
「分かっている」
「あなたが私の記憶を——」
「レオノーラに頼んだ」とレベッカは言った。「私が頼んだ。あなたの素性が分かれば、命が危ない。あの船を下りた後、どこに行くか分からなかった。安全な場所に着くまでの間だけ、と思っていた」
間だけ、という言い方だった。
でも間が、ずっと続いた。私はその言葉の意味を考えた。レベッカがそれを言うときの声が、平坦ではなかった。わずかに下がった。
「安全な場所に、着かなかったんですか」と私は聞いた。
レベッカが答えなかった。
それが答えだった。
私は少しの間、その沈黙の意味を考えた。安全な場所に着いたなら、記憶は戻っているはずだ。戻っていない。だから着かなかった。あるいは——着いたと思っていたが、着いていなかった。
その続きを、私はまだ知らない。
ーーー
「あの傷跡の夜に、何があったんですか」
私が聞くと、レベッカが少し間を置いた。
「暗殺者が城に入った」とレベッカは言った。「私が単独で鎮圧しようとした。でも数が多すぎた。重傷を負いながら退けたが、数人を通してしまった。あなたの部屋へ向かった」
声が平坦だった。でも平坦な声で語られることが、かえって重かった。感情を削ぎ落として語っているのに、削ぎ落としてもまだ残るものがある。
「侍女が、かばったと聞きました」
レベッカが静止した。
聞きました、と私は言った。誰から聞いたのか、記憶の中にない。でもその言葉が口から出た。知っていた気がした、というのと同じ感覚だった。体のどこかが、知っていた。
「……ああ」とレベッカは言った。たった一音だったが、その一音に何かが詰まっていた。押しつぶしても押しつぶしても、消えないものが詰まっていた。
「今も、眠っているんですか」と私は聞いた。
レベッカが頷いた。
私は何も言えなかった。
眠っている。誰かが。誰かのために毒を受けて、今も眠っている。その誰かのことを、私は知らない。でも喉の奥が、締まった。涙ではなく、何か別のものが来た。胸の内側が収縮するような感覚が、静かにそこにあった。
知っていた気がする。
その人のことを。その人の存在を。記憶はないのに、体のどこかが知っていた。ずっと、何かを失っている感覚があった。埋まらない穴の感覚があった。それがどこから来るのか分からなかった。
でも今、その穴に名前があるのかもしれない、と思った。
まだその名前を、私は知らない。
廊下の壁に、背をついた。立ったまま、少し時間が必要だった。
この会話の中で、私は多くのことを知った。でも同時に、知ったことで、知らないことの輪郭がくっきりした。城があって、夜があって、誰かがいた。その誰かのことが、今、胸の中に引っかかったまま出てこない。
情報ではない。もっと別の何かが、来ていた。
ーーー
「なぜ、今まで言わなかったんですか」
私が聞いた。責めているつもりはなかった。でもその問いは、どうしても出てきた。
レベッカが窓の外を見たまま、答えなかった。
しばらくして、口を開いた。
「……言えなかった」
「危険だから?」
「それもある」
「それだけじゃない?」
レベッカが、初めて私を正面から見た。
目が合った。
なんという顔をしているのだろう、と思った。無表情ではなかった。何かがある。言葉にならない何かが、その目の中にあった。後悔なのか、それとも別の何かなのか、私には分からなかった。
「言えなかった」とレベッカは繰り返した。「それだけだ」
それ以上は出てこなかった。
私は少しの間、その答えを考えた。言えなかった、というのは、禁じられていたからではない。言葉が出てこなかった、ということだ。何かが邪魔をした。感情なのか、後悔なのか、それとも別の何かなのか。
私には分からない。でも、分からなくてもいいと思った。
今、この人は言った。それで充分だと思った。
私もそれ以上は聞かなかった。
言葉にならないものを、言葉にさせる必要はなかった。
海の音が続いていた。廊下が暗かった。二人の間に、さっきとは違う種類の静けさがあった。問いが終わった後の静けさではなく、何かが始まった後の静けさだった。
私はレベッカを見た。
疲れている、と思った。怪我のせいだけではない。ずっと、何かを一人で運んでいた人間の疲れ方だった。それがこの顔に出ている。無表情の下に、ずっとあったものが。
この人は、ずっとこの船で私の近くにいた。最初から知っていながら、名乗らなかった。どんな気持ちでそうしていたのか、私には想像できなかった。
でも、今日、言った。
それだけのことがあった。
レベッカが少しの間、海の方を見ていた。それから、息を吸った。
「もう一つ」と言った。「あなたに話しておかなければならないことがある」
私は顔を上げた。




