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-新-猫少女と竜の海賊  作者: u-nyu
3章:海戦
14/31

3-5.0820――レベッカ、倒れる

side レベッカ



 単独で動くのは、指示じゃない。判断だ。


 甲板制圧の担当として動いていたが、状況が変わった。敵の動きを見ていると、一点に集中している方向があった。船の中程だ。乗り込んで、船内に侵入しようとしている。制圧ではなく、侵入が目的の集団がいる。


 だから動いた。


 右舷はダニエルが抑えている。左舷はビリーがいる。中程の甲板は私が担う。作戦にそういう担当はなかったが、必要だから動く。ベネディクトなら分かる。エリカなら上から見える。説明はいらない。


 0800を過ぎたところで、右舷の状況が落ち着いた。左舷の動きも鈍っている。残った敵が中程に集まってきた。


 私は動き続けた。


 銃で二人止めた。弾を入れ替える時間がない。短刀を抜いた。近接に切り替える。右から来た男の腕を取って後ろに流した。左から来た女の剣を刃で受けて、足を払った。


 十人を超えたあたりで、気づいた。


 囲まれていた。


 囲まれた状態で戦うのは慣れている。問題ない。ただ、今日の敵の動き方が少しおかしかった。殺しにくる動きではなかった。捕縛目的なのは知っていた。でも、それにしては——。


 焦っている。何かを急いでいる。


 敵の目が、私だけを向いていた。


 三名の懸賞首のうち、私が最も優先度が高い。昨夜ベネディクトが言っていたことが頭をよぎった。「レベッカは特に注意を」。捕縛されるだけじゃない。私が何かを知っているとか、私をどこかに連れていく理由がある、と鋼爪は判断している。


 理由は分からない。


 今は分からなくていい。


 七人を同時に相手にしながら、私は動き続けた。左の脇腹に何かを感じた。切られた、とすぐに分かった。深さはまだ分からない。ただ、浅くはない。


 手を当てなかった。当てると動きが鈍る。


 まだ動ける。動けるうちは動く。


 そう思っていた。



ーーー



 まだ動ける、と思っていたとき、音が変わった。


 自分の呼吸の音が、大きく聞こえるようになった。これは知っている。出血が多くなると、身体が音を変える。大丈夫だ、とまだ思っていた。実際、動けていた。


 正面の男を止めた。左の男を払った。


 脇腹から熱が来ていた。切られたときの鋭さとは違う、もっと深いところから来る熱だった。じわりと広がる。皮膚の下を何かが満ちていくような感覚だった。出血だと分かっている。でも身体が受け取るのは、痛みよりも熱さの方が先だった。


 右から来た男が、腕を掴んできた。振り払おうとして——動きが一瞬、遅れた。


 ここで遅れたのは初めてだった。


 指先から力が抜けていた。握っていた短刀が、わずかに滑った。


 もう一人来た。腕を押さえられた。私は肘を入れた。外れた。力が、少し抜けていた。


 甲板で、誰かが走る音がした。


 大きい足音だった。ダニエルだ、と分かった。あの足音は分かる。三年一緒にいれば、分かる。別の方向からも足音がした。ビリーだ。こっちも分かる。


 二人が来る。間に合うかどうかは、分からない。


 男が私の肩を押した。


 膝が折れた。


 折れた、と気づいたのは少し遅れてからだった。身体が勝手にそうしていた。膝が甲板についた。衝撃よりも熱さが先に来た。膝の冷たい板の感触と、脇腹の熱とが、同時にあった。


 倒れる、と思った。踏ん張った。踏ん張れた。でも、次が来たら分からない。


 自分の中身が、少しずつ外に出ていく感覚があった。温かかった。それが少し、怖かった。


 シェリー。


 声には出なかった。頭の中だけで呼んだ。


 お前のことを守るために動いていたのに、という思いが来た。そうじゃない、と打ち消した。今日のこれは、そういう話じゃない。ただ私が踏み込みすぎた。それだけだ。


 でも、それだけじゃなかった。


 あの夜のことを、私はまだ引きずっている。焦って、一人で行こうとする。誰かに任せることが、どうにも苦手だ。あの夜から、ずっとそうだ。


 側にいるのに、名前を呼べない。


 教えた手技を、別の場所で使っているのを見る。医者として動くお前を見る。名乗れないまま傍にいる。


 それが正しいと決めたのは私だ。


 だから後悔じゃない。


 ただ、少し——。


「レベッカ!」


 ダニエルの声だった。


 腕を掴む大きな手の感触が来た。同時に、左側からビリーの気配がした。引き上げられる。自分の体重が誰かの手に持ち上げられる感覚は、思っていたより遠かった。甲板から離れる。体が宙にある。自分の重さが、もう自分のものではないような気がした。


 甲板が、遠くなった。


 近くなっていたはずの甲板が、また遠くなった。視界の端が暗くなり始めた。


「意識、あるか」とダニエルが言った。


「ある」と私は言った。声が出た。ちゃんと聞こえる声だったかは、分からない。


「医務室に運ぶ」


 誰かが私の体を持ち上げた。


 重い、と思った。自分のことを重いと思ったのは初めてだった。


 シェリー、とまた思った。


 今度は少し違う意味だった。


 頼むから、いてくれ。

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