シナリオ4―発進、未完の超兵器
ゲーム会が終わり、近所の揚げ物がおいしい定食屋に皆で食事に出る。広い店内の四人掛けテーブルを陣取って、料理が来るまでは感想戦だ。
「武藤は地図の道を繋げるのに夢中になりすぎた、な?」
「……自分の城まで繋がってる道にコインが沢山あって、基礎収入が高いのに……なんで金欠でヒィヒィ言ってたんでしょう、俺?」
「気が付いてないのか」
「武藤さん、収入が多くなるにつれて、ジョーさんが高い値段付けたのを買わされて、良いように手玉に取られてましたよね?」
「貢いでるのかと思った」
「良い地形が来たら買う。その為に所持金増やすんだから、ジョー先輩が良い地形放出したら買わなきゃって」
武藤、痛恨の視野狭窄。お金を増やすのが目的では無い。お金は手段でしかないのだ。
「武藤さんは綺麗に地形並べたけど、点数が伸びなかったですね。俺も船に固執して負けましたけど」
「地形ガタガタだったのに、建物とか羊とかで凄い点数伸ばしてましたよね?!」
「誰かさんが高く買ってくれたから、その資金で欲しい地形買えたよ」
「勝利点を取る方法が沢山あるから、つい目移りするけど……ジョーさんは最初から目標絞ってたんですか?」
「手を広げすぎると、終盤で点が伸びないからな」
勝ちの理由、負けの理由がそれぞれ並んだあたりで、注文したメニュもテーブルに並び始めるので、手分けして水や割りばしを配る。
「先輩はカキフライ定食ですか。牡蠣怖くないですか?」
「当たらなければどうという事は無い」
「そりゃそうですけど、そのセリフを日常で使う事ってあります?!」
「でも実際、当たるのを恐れてて旨いメシは食えんだろ」
有名なロボットアニメのセリフを引用してカキフライを注文するジョー先輩。食事もゲームのプレイスタイルも好戦的な彼女に対して、デッキ構築ゲームでは浪漫砲に引かれがちな武藤は、今回ミックスフライ定食を選択。揚げ物の戦力としては引き分けか。
「前にカキ当たって、腹痛でバイト休んだ時に店長に『何か変な物拾い食いしたんじゃないの?』とか言われて、それ以降何かっていうたびに拾い食いするキャラにされたのがうっとおしかったんで腹痛にならないように気を付けてるんですよ」
「店長はウザいけど、腹痛を気にするのは良い事だから何とも言えないな。数か月前の武藤君はモヤシしか食って無かったろ」
「武藤さんは、前は拾い食いしそうなほど痩せてたってのもありますよね。最近は健康的ですけど」
「ボドゲにはまったら健康になりました」
「いいことだな!」
「そうなのかなぁ」
腕を組んで感慨深げに頷くジョー先輩。ゲームで健康になる。ゲームで事件が解決する。こういうゲーム全肯定の話は琴線に触れるらしい。
「しかし、バイト先の店長がうっとおしいのは嫌ですね。私もシフト変更凄く嫌がるバイト先でゲンナリです」
「あ、拾い食いってしつこかったので『そうなんですよ、鳩に混じってパン屑食べたくらいしか思い当たる節ないんですけどね』って言ったら絶句してました」
「武藤君ならやりかねないと思われた……?」
「その後も『おいしいパン屑投げてくれるおじさん知ってるんですけど、今度一緒にどうですか』って店長誘ってたら会話無くなったので、今は平和なんですよ、おススメです」
「会話デッキが火力たけぇ」
「狂気トークン積み上げるタイプの異常者デッキだな。普通の好青年っぽい外見から繰り出すのがいいフェイントになってる」
「え、そういうデッキ構築ゲームがホントにあるんですか?」
「無いよ。妄想のゲームだよ!」
うっかり信じてしまいそうになる暮石さんの純粋さが胸にいたい。三食うどんのジョー先輩の食糧事情も酷いと思うのだが、モヤシの何がいけないのだろうか。
そんな馬鹿会話を繰り広げていると、おかずの半分で米を食べきった面々からおかわりを頼み始める。そして大盛りのご飯がどんどん届く。
「しかし、ここのエビフライデカいっすね。俺もそっちにすればよかった」
アジフライ二枚の定食にメンチを単品追加したフグさんがエビを見て驚く。彼は保守的なプレイスタイルで堅実に勝ちに行くのだが、武藤の浪漫砲に振り回される傾向がある。
「当たらなければ……で思い出したんですけど、スパロボの次回作の参戦ユニット発表来ましたね。武藤さんの好きな九龍攻具DIYは当然ですが参戦無しでした」
「残念過ぎる」
「それ、同じことを言ってた九龍攻具のデザイナーさんがSNSでイラストをUPしてましたよ」
「何それ、見たい」
「これです」
フグがスマホで画像を見せるが、そこに映っていたのは武藤の持っているフィギュアとは塗装パターンが違う機体だった。
「あれ、なんか違くないかな」
「純粋に塗り間違えた、とか?」
「まさか。後期のパワーアップ機体とか追加機体のカラーリングなんじゃないか?」
「打ち切られてなければこいつが出てきてたのかなぁ……」
「せっかくだからそのカラーリングに塗ってみたらどうだ」
話しながらも米はどんどん胃袋に収まり、二杯目のお代わりをしたフグも漬物できっちり食べきった。
「ここ、コメがやたら美味しくないですか?」
「コシヒカリ使ってるって書いてある」
「家で炊いてもこんなに食えないもんな」
「なんか、満腹度の上限を上げる成分が入ってるんだろ」
失礼極まりない物言いだが、店員のおばちゃんもよく食べる四人の若者をニコニコと見守り、今日はおかわりもういいの? などと聞いてくるのだった。普段どれだけ食いだめしているのやら。
この日は、徹夜ゲームになる事も終電を逃すこともなく、珍しく早めにゲーム会が終わったので、自宅に帰った武藤は寝る前にフィギュアの塗装を試してみる事にする。
ジョー先輩によるルール改変で、勝利条件を満たしたものの一体が敗北した前回のゲーム。あの始末の付け方を思いついたのだ。
「ゲームとしては勝ちと負けを同時に満たしちゃってるからモヤっとするんだけど。物語としては敗北してパワーアップするイベントだろ、これは。打ち切りになった九龍攻具の、存在しないエピソードをここに作っちまえばいいんだ、燃える」
まず、敵の攻撃を受けてしまったサンダードラゴンに、ダメージを受けた印として黒く塗っていく。
続いて、先ほどフグに見せてもらったカラーリングに上からぬっていく。普段、プラモデルも素組みだけで塗装までやっていないので下手くそではある。だが、足りない技術は愛情でカバー。思い入れ、ともいう。
そうして、丁寧にダークブルーのサンダードラゴンを、ライトブルーに塗り直していくうちに、奇妙な事に気が付いた。
「脚を畳んだときに、ここ、パチンって収まるのは工具に変形する時に使うギミックだけど、こっち側にもあるな。なんでだ? 使わないだろ」
他の機体も確認していくと、変形で使わないアタッチメントをほぼ全ての機体が持っていた。
胴体の大きいサンダードラゴンの脚を畳み、下に二体のドラゴンを装着。高さの同じアイロンドラゴンとニッパードラゴンの腕を収納してその下に取り付ける。
「まさか、合体するのか? 打ち切られてなかったらそういう構想もあったって事か……」
いろいろと試していくと、強度の問題から動かすことは出来ないものの、九体が無理やり合体した巨体になった。
「うん。不格好だな! サポートパーツとか本来なら必要だったんだろうな。初期から設定上はあったから、合体できる形にはなってるんだ。あのカラーリング違いは匂わせだったのか」
崩さない様に、そーっとテーブルの上に置いて写真を撮る。テーブルの上の、アーグルフェルトのゲームボードの上に。




