シナリオ4-戦う戦う舞台は
【NO WHERE】
帝国軍全滅の翌日。
近衛騎士兼お目付け役、兼茶飲み友達のイチノとニーノを連れたラシェル姫は、破壊されつくした帝国軍陣地跡を訪れた。そこに広がっていたのは見た事も無いほど凄惨な事件現場であった。
「ほとんどが圧死。たまに真っ二つがあるけど。とんでもないわね」
「……圧倒的な戦力差を覆すとは、なんという武勇!」
「いやいや、戦場のありさまじゃないですよ、これ!」
なんとか好意的に解釈しようとするラシェル姫。しかしニーノが足元を調べた結果を口にする。
「姫、でっかい足跡の種類が四種類ある。勇者様は一人じゃない」
「分身の術でしょうか?」
「それは何を言っているのかわからないけど、前に姫様が言っていた『アクリルミニ X-7』に近い不自然な色の破片がある」
そう言って、ニーノが拾い上げたのは光沢のある緑の物体。
「これは正義の証、アクリルミニ X-23 クリヤーブルーの輝き……」
「それが何なのかはわからないけど、あの巨人が巨大な鎧だとすれば反撃を受けて怪我をしている」
「ニーノ、つまりどういう事?」
塗装をうっとりと眺めるラシェル姫を放置し、イチノはニーノを問い詰める。
「現れたり消えたりする巨人は幻ではなく確かに存在しているという事。そして、それは無敵の英雄ではないのです」
【NOW HERE】
自室の床に広げたカーペットの上に、ジョー先輩の置いた地形タイルに合わせて、城壁のタイルを置く。交互にめくり、地図を広げていく。
「このゲーム、3人から4人でやるものだと思ってたけど、2人も悪くないな」
「箱にちゃんと書いてありますよ、2人からって」
「しかしな、2人だと不確定要素が少ないというか、思い通りに行き過ぎる」
武藤とジョー先輩がやっているのは、城壁や道、平原の書かれたタイルを並べ、その上に探索者を配置して完成した地形の点数を競い合う海外製のボードゲーム、カルカソンヌの日本版。
徹夜でゲームをした後、駅ビル内の飲食店で朝食を食べ、その足で本屋に寄った所で日本版ローカライズされたこのゲームを見つけてしまったのだ。当然その場で買うと、さっそくやってみようという事になり、武藤ハウスにやって来たのだ。
「お前、こういう地図作るゲーム好きだな」
「この間の、アイル・オブ・スカイも面白かったです」
「なら、こういうの気にならないのか? 城から伸びる道が、丁字路でわかれてぐるっと曲がって繋がってるのは……これ何のための道なんだって問い詰めたくなるな」
「まぁ、そこはゲームだからで飲み込んでください」
「気にならないタイプか。そこに物語を見つけだせよ。ルール的にはOKだろうけど、こだわってちゃんと他の街につなげないと点数にしないとか」
城壁のタイルは様々な形があるが、うまく両端を繋げないと配置することはできない。
床に広げた地形タイルの両端に正座しながら、交互に地形タイルを配置していく。
「それは難易度高すぎますよ。だって修道院とか道無い場合あるんですよ」
「お前の作ったこっちの街の修道院、中庭みたいに街の中央に平原があってそこに建ってるもんな」
「城壁で隔離された修道院とか、なんか怖いですね」
「お前は酷いことするなぁ」
「物語を見出せって言ったの先輩でしょう?!」
カードゲームでもボードゲームでも、ルールが許せばOKというのが本来のルールだ。しかし、そこに物語を感じ取るとグッと面白くなる。ゲームの勝ち負けとは別の尺度での楽しみ方というのは確かに実在する。全力で勝ち負けを競うタイプとは相性が悪いのだが。
「こだわれば無限にこだわりたくなりますが、まず勝てるようになってからかなって。先輩はトレカで浪漫デッキ使っても強いですもんね」
「浪漫デッキで勝つのは愉悦だよな」
「エグゾディアは完成させるし、格ゲーでも挑発とかしっかりキメるし」
「小キックでトドメとかはしないな。できる限り超必当てたい。勝ち負けに絡むなら小キックも仕方ないが」
舐めプレイと言うわけではない。できる限り魅せるプレイをしたい、そんな縛りを入れてなお強いのだ。武藤は格闘ゲームだと勝率2割もない。
同じ制限の上で挑む事も考えたが、それだとおそらくコテンパンに負ける。まずは勝とう。
そう考えて、修道院を三つ固めて建てると周囲を道で囲み着実に点数を重ねた。
「そう言えば武藤」
「なんっすか。そこ三叉路だから道が途切れてますよ」
「ほんとだ。うん、この間やった『アーグルフェルトの救世主』な?」
「はい」
あと少しで城壁を閉じられる所で妨害にと城のカードを置かれて顔をしかめる。
「海外のサイトとかでも検索してみたけど、どこにも情報が無い。個人製作でもここまで情報が無いのはちょっと珍しい」
お返しにジョー先輩が育てている街にややこしい地形を放り込む。
「アーグルフェルトって言えば、第四シナリオが変なんですよね」
「第四っていうのは、この間の大軍VSロボ四体でやったの、次のシナリオになるのか?」
「本来はソロシナリオでしたけど、はい。それです」
「……あれの、次のシナリオ?」
怪訝そうな顔をしながら、武藤が作り出した巨大城塞に、自分の小さな城を繋げる。これで城の点数は山分けになるので、武藤が城を育ててきた手番がすべて無駄になった。
「そうです。シナリオシートを開いてみると、『勝利条件:王国の平和』で『敗北条件:王国の崩壊』としか書いてなくて、敵も一体しか指定されていないんです」
「いや、そうじゃなくて、次のシナリオあったか? 白紙だったよな」
「白紙? いえ、普通にありましたよ」
「この間見た時はシナリオ3までしかなかった気がするが」
「このゲーム終わったらシナリオ見てみます?」
「そうしよう」
そう言うと、武藤が妨害のつもりでおいた地形をうまく利用して複数の小型城砦を作り上げ、大差をつけての勝利をもぎ取った。
「いやぁ、二人対戦だとガチ勝負になっちゃうな」
「先輩強すぎでしょ……」
「これな、地形の種類覚えてると、このタイプはあと何枚ってのがわかるから有利なんだよ」
がっくりと肩を落とし、カルカソンヌを片付けてローテーブルの下に仕舞いこむ。本棚はボードゲーム棚になりつつありもう入るスペースが無いのだ。
その棚からアーグルフェルトの救世主のシナリオシートを取り出して開くと、確かにシナリオ4が記載されていた。
「ページ数的に、このシナリオで終わりか」
「です。で、倒して終わりって事なら、最初のターンに特殊移動して終わりなんですよ」
「……敵を倒せ、ではなくて『王国の平和』っていうのがよくわからんな」
「地形タイルで侵略者側の侵入してくるへクス全部潰しちゃいますか。天然地形での要塞化って事で」
「そんなに近いタイル大量に無いだろ?」
「アイルオブスカイとか、カルカソンヌくらいあればマップが埋まりますけどね」
机の上に出しっぱなしになっているマップと、その上の九龍攻具のフィギュアの隣に、『アーグルフェルトの救世主』の箱を出してマップ以外の付属品を全部だしていく。地形タイルや源泉を示すマーカーと、キャラクターフィギュア。
「おいおい、本来の自ユニットはこんな小さいのか。ロボットと違ってちゃんとへクス内に収まるじゃないか」
大きさを比べる為、九体合体の巨大機の隣に、フィギュアを立たせるジョー先輩。初めて、アーグルフェルトのマップの上に主人公ユニットが乗った事により、ゲームの箱とマップが柔らかな光を放ち始めた。
「おい、武藤、なんだこの光」
「先輩、先輩の体もなんか光ってますよ!」
「お前もだぞ」
マップの上に三×三の魔方陣があらわれ、その全てに異世界の文字と陣が現れると、閃光と共に二人の姿を飲み込んだ。




