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青春アレルギー男、恋愛脳女を嘲笑う  作者: 十日兎月


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12/23

十二話 カラオケという名の拷問



 あれから……光守たちと無為としか言い様のない時間を過ごしたあの日から数日が経った土曜日。

 半日授業でもあった今日、俺は今、カラオケ店に来ていた。

 ついでに言うと、すでにカラオケは始まっており、初めて見る黒髪ロングのギャルと大空が、お立ち台の上で肩を寄せ合いながらアップテンプな曲を歌っていた。

 そんな中、俺から見ると対面のソファーに座っている水連寺と光守──そして初対面であるツーサイドアップのギャルが、時折三人で会話を交わしながら曲に合わせて手拍子をしている。テーブルの上には注文済みの料理が並べられており、まるでなにかの打ち上げのような様相になっていた。

 なんつーか、もはやどこから突っ込んでいいのかわからん。



「……ちょっとあんた。黙ってばかりいないで、少しは会話に参加しなさいよ」



 と、あまりの異空間にただ圧倒されてばかりいた俺に対し、それまで正面に座っていた光守が隣に寄って来て、小声で囁いてきた。

 そんな光守に、俺はじろりと無言で睨み付ける。

「……なによ、その目は? なんか文句でもあるの?」

「むしろ文句しかないわ。学校が終わって家でのんびり過ごそうかと思っていたのに、帰宅中にお前から『今すぐ地図で指定した場所まで来い』って連絡があって、仕方なく道を引き返してわざわざこうして来てみれば、まさかのカラオケだぞ? しかもなんでお前らだけじゃなくて知らない奴まで二人もいるんだよ」

 いくらなんでも説明不足すぎる。ただでさえカラオケというだけで気が引けるというのに。知らない奴の前で歌えってか? この俺が? 冗談も休み休み言いやがれ。

「前に話したじゃない。手当たり次第に女の子を紹介して、あんたに惚れさせるって。そうしたら、あんたも好意を持つかもしれないでしょ?」

 ああ、そういえばそんなことも言っていたか。

 だが、まさかこんなに早く実行してくるとは思わなかった。余計な行動力を発揮しおってからに。

「それなら先にそう言え。もしも事前に準備がいるようなことだったらどうするんだ」

特にこういう知らない奴がいる場合は前もって説明しておけよ。おかげでここに入る時、めちゃくちゃ躊躇ったわ。

 もっともカラオケに来いって言われた時点で、なんとなく嫌な予感はしていたが。

「準備のいる物があるならさすがにちゃんと伝えるわよ。それに正直に話したところで、あんたのことだからサボるかもしれないじゃない」

「サボらねぇよ。こっちは先生に脅されているんだぞ?」

 ドアを開ける前は途中で何度も帰ろうかと迷いはしたけどな。

「だとしても、どうせ嫌々ながら来ていただけでしょ? まあ今だって十分嫌そうな顔をしているけれど、最初からそういう顔をされるくらいなら、いっそなにも知らない状態で来てもらった方がマシだって思ったのよ。不機嫌そうなあんたを、ウチから紹介するわけにもいかないし」

 だからウチたちだけ先に入っておいたのよ、などといけしゃあしゃあと宣う光守に、思わず「ちっ」と舌打ちを漏らした。一理あるだけに反論しづらいのがまた腹立たしい。

 まあいい。いや、決してよくはないが、この際甘んじてこの状況を受け入れようじゃないか。

 しかしながら、どうしても受け入れがたいものが目の前にある。それは──



「なんであいつ、俺と同じ格好っていうか、男子の制服なんて着てんだ? そういう趣味があったのか?」



 今も抑揚のない声で歌う大空を指差した俺に、光守は「そんなわけないでしょ」と呆れたような口調で言って、

「男があんただけだとバランスが悪いから、鳴には男子として参加してもらったのよ。一応、知り合いの男の子を紹介するって話だったから」

 向こうは二人もいるのに、男を一人だけ紹介するわけにもいかないでしょ? と光守。

「……言い分はわかるが、だったらお前の男友達を紹介したらよかっただけの話なんじゃないのか?」

「それだと、その男友達にもあんたのことを教えなきゃいけなくなるじゃない。マジでありえないから」

「なるほど。それに関しては俺も同意見だ」

 俺としても、こいつとの関係を周囲に知られたくはない。

 まして、こんなわけのわからない勝負をしているとなったら、なおのこと。

「だから、これ以上あんたとの関係を知られないためにも、鳴に一芝居打ってもらったってわけ。今日来てもらった二人だって、別の学校から呼んだ子たちなんだから」

「ほーん。二人共、お前の知り合いか?」

「片方はね。もう一人の子は同じ女子高に通っている友達らしいわ。ウチの頼みで、向こうの学校の子を紹介してもらったのよ。今回のためにね」

「それ、大丈夫なのか? 女子高ってことは、男との交遊関係も厳しいんじゃないか?」

「そこまで厳しくはないから問題ないわ。それよりも、あんたはどうなのよ? あの二人を見て、いいなって思うような子はいないの?」

「いないな」

 即座に答えた。もはや迷う時間すら必要ない。

「ていうか、ギャルっていう時点でないな。アウトオブ眼中だわ」

「あんたはまた、そんな上から目線で偉そうに物を言って……。そもそもあんた、人を選べる立場でもじゃないでしょうが。自分が底辺だってことを自覚しなさいよ」

「お前こそ、勝手に人を底辺扱いしてんじゃねぇよ。俺にだって選ぶ権利はあるし、合わない人間を選ぶほど、物好きでもない」

「だいたい──」

 と俺は溜め息をこぼしながら、半眼になって続ける。

「俺はなにも知らされずにここへ来たんだぞ。ちょっとはこっちの方も配慮しろ。まだ二人の名前すら聞いてないっていうのに」

「いやいやいや! 最初に紹介したでしょうが! あんた忘れたの!?」

「知らん。そんな覚えはない」

「あんたって奴は、どんだけ非常識なのよ……。はあ~。ほんとありえない……」

 なにやら、盛大に溜め息を吐かれた。失礼な奴め。

「お前にだけは言われたくないっつーの。そもそもお前らの話を聞いている余裕がなかったんだよ。状況を理解するのにやっとな状態だったんだからな」

「だからって限度ってもんがあるでしょうが。まったく、もう一度教えてあげるから、今度こそちゃんと覚えなさいよね。まず、あっちの黒髪の子だけど──」



「ねえ~。さっきからなんの話をしているの~?」



 と。

 呆れ顔で黒髪ギャルを紹介しようとした光守を遮る形で、おもむろにツーサイドアップのギャルがテーブルに身を乗せて話しかけてきた。

「あ。ごめんね、姫奈ひめなちゃん。二人だけで勝手に話し込んじゃって……」

 なるほど。このツーサイドアップのギャルは「姫奈」って名前なのか。

 できるなら名字の方を知りたかったところではあるのだが──親しくもない相手の名前を、たとえ心中でも下の方で呼びたくないため──無理に訊き出すのも不自然でしかないし、今はこれで妥協しておくか。

「ううん。ヒメも単に気になっただけだから~」

 言いながら、俺の右隣──光守とは逆の位置に座る姫奈。

 こうして見ると、光守ほど派手ではないが、それなりに整った容姿をしているのがわかる。少し小柄ではあるが、制服越しでもスタイルの良さが窺えるし、動作がおっとりとしているところなども、男心を擽りそうな女子ではある(俺の好みではないが)。

「えっと、こっちの子は影山くんでいいんだっけ~?」

「あ、うん。ウチと同じ学校に通っている影山。って、最初会った時に紹介したとは思うけれど」

「そうだけど、こっちの子とは全然話せなかったから~。ウラランや他の子たちとはすぐに仲良くなれたけれど~」

 ウララン? ああ、光守の渾名か。ていうか、もう渾名で呼び合っているのか。すげーな、陽キャのコミュ力。

「モエモエから聞いたんだけど、みんな同じ部活なんだよね~? 男の子一人で寂しくない~?」

 モエモエというのは水連寺のことだろう──というのはこの際置いといて。

「同じ部活……?」

「え~? 違うの~? みんな、同じ部活で知り合ったって聞いたよ~?」

「そうそう! そうなのよ! 恋愛研究部って部活のメンバーなの! もう影山ったら、なに初めて聞いたみたいな顔になっているのよ~!」

 いや、実際初耳なのだが?

 そもそも、俺は文芸部なのだが?

 という疑心たっぷりの目で光守の方を見たら、口パクで『こっちの話に合わせて』と指示してきた。

 このやろう。さては俺との関係を隠すために、適当な嘘をでっちあげやがったな?

 ちっ。とてつもなく癪ではあるが、ここは光守に合わせた方が無難か。ここで全部暴露したところでなんのメリットにもならないし、それ以前にあれこれ詮索されるのも面倒だ。

「ほんと~? 影山くん、実際どうなの~?」

「……はあー。まあ、こいつの言った通りではあるな」

「そうなの~? でも、そのわりにすごく不満そうな顔だよ~?」

「あ、あはは。影山ったらこういうのに慣れてないから緊張しちゃっているだけなのよ~。そうよね? か、げ、や、ま?」

 と、お互いの額がぶつかりそうになるほどの距離で光守に凄まれた。

「……ていうかあんた、合わせるのならちゃんと合わせなさいよ。なによ、あの隠す気のない溜め息は……!」

「……しょうがないだろ。自然に出てしまったものは。むしろ不本意ながらお前らに合わせてやったんだ。こっちとしては感謝してほしいくらいだっつーの……」

 至近距離を保ったまま小声で囁いてきた光守に、俺も声量を抑えながら言葉を返す。

「……それよりお前、顔が近すぎ。くっさ。お前の口臭、シュールストレミングくさ~」

「……だれの息が世界一臭い缶詰か! 少し前にブレスケアしたばかりだし! 臭いなんて絶対ありえないから……!」

「あ~。また二人でこそこそお喋りしてる~。二人って、もしかしてそういう関係だったりするの~?」

 姫奈の勘繰るような眼差しに、光守は慌てて首を振って俺から瞬時に離れた。

「ち、違うし! こいつとは本当にただの部員同士だから! そもそも彼氏をこういう形で紹介なんてするはずないでしょ!?」

「あー、それもそっか~。ごめんね~。変なこと訊いちゃって~」

「ううん。わかってくれたならいいの……」

 こんなゴミ男と付き合っているなんて絶対思われたくないし、と最後に小さく独り言を漏らす光守。

 てめえコノヤロー。他の奴には聞こえなかったかもしれんが、俺は一字一句聞き漏らさなかったからな? あとで犬のフンでも踏む呪いをかけてやる。

「でもウラランと影山くん、仲はいい感じだよね~」

「そ、そうかしら……?」

「うん。きっと和気藹々とした部活なんだろうな~って」

 実際は殺伐としているけれどな(主に俺と光守が)。

「けど、今日はよかったの~? みんな同じ部活なら、こうしてサボるのはまずいんじゃないの~?」

「大丈夫。これも部活の一環だから。こうして男女で集まった時のみんなの反応を見たかったのよ」

「へ~。それでカラオケに行けるなんて、いい部活だね~」

 現実には存在しないけどな。そんなふざけた部活。

 ていうか光守の奴、さっきから平然と嘘を吐きやがるな。陽キャってそういうところあるよねー。その場のノリで嘘を吐く時ってあるよねー。

「そういう姫奈ちゃんは、なにか部活に入っていたりするの?」

「ヒメはどこにも入ってないよ~。あんまり部活って興味がないから~」

 いいなそれ。うちの高校みたいに部活が強制じゃないなんて。実に羨ましい。

「じゃあ、紗雪さゆきと同じなのね。紗雪もどこにも入ってないって言っていたから」

「そうそう~。ヒメもサユも、こんな風に遊んでいる方が楽しいし~」

 紗雪ってだれだ? と一瞬首を傾げてしまったが、すぐに大空の隣で熱唱しているギャルだと思い至った。

 そんな黒髪ロングギャルこと紗雪ではあるが、つい先ほど曲が終わったようで、持っていたマイクを元の位置に戻したあと、ふうと一息つきながら水連寺の横──俺の正面に座ってきた。



「歌った歌った~。久しぶりに激しめな曲を歌っちゃったわ~」

「紗雪さん、お疲れさま。はい、ジュース」



 甲斐甲斐しくコップを差し出す水連寺に、ありがとうと笑顔で受け取る紗雪。

 姫奈の時もそうだったが、こいつもちゃんと見てみると、美人と言っていいくらいには綺麗な顔立ちをしているのがわかる。

 しかも光守や姫奈と違ってクール系のギャルと言った雰囲気なので、見た目だけなら紗雪の方がマシではある。あくまでもマシというだけで、好感度が高いわけじゃないけどな。

「ぷは~。冷たいジュースが熱唱したあとの喉に染みるわ~。しかも炭酸じゃなくてオレンジジュースっていうのがいいわね。萌ちゃん、本当に気が利くいい子系だわ~」

「そんなことないよ~。私は単にそばにあったオレンジジュースを渡しただけだから」

「でも、だれも口にしてない方を選んでくれたじゃない? それって普段から周りを見てないとできない系だと思うわよ?」

「そ、そうかな?」

 紗雪の言葉に、まんざらでもなさそうに頬を掻いてはにかむ水連寺。

「そうよ~。ていうか萌ちゃん、けっこうモテる方なんじゃない? 可愛いし気も利くし、こんな子が身近にいたら、男も放っておかないでしょ~」

「そ、そんなことないよ~。私なんて全然……」

「謙遜しちゃって~。だって萌ちゃん、いかにも男が守ってあげたいって言いそうな女の子だもん。わたしなんて一人で生きていけそうなんて言われちゃう系だし、今まで付き合ってきた男もみんな同じようなことを言って勝手に離れていっちゃったし。はあ~。どこかにいい男はいないかしら~。具体的に言うと、目と鼻の距離くらいの位置に~」

 言いながら、ちらちらと左隣に目線を寄越す紗雪に俺は「ん?」と眉をひそめた。

 あの意味深な目配せ……もしかしてアプローチしているのか? 隣にいる奴に?

 マジかと内心驚きつつ、件の人物──先ほどから紗雪の隣でフライドポテトや唐揚げなどを次々口に放り込んでいる大空に目をやる。

「ん? なんスか先輩? じーっと自分の方を見て」

「いや……」

 本当にこんな奴に気があるのか? 口元がベタベタの油まみれな状態なのに?

 とはいえ、外見だけなら文句なしのイケメンではあるし、見た目で惹かれても不思議ではないか。

 まあ実際は紛うことなき女子ではあるのだが、俺と同じ男子用の制服を着ているのもあって、疑いの目を持つ奴はほとんどいないだろう。パッと見は日焼けしたスポーツマンって感じだし。

 もっとも本人は普段通りというか、食べ物にさえありつけたらそれでいいと言った感じではあるが。男装していようが、どこまでもぶれない奴だな、この後輩は。

「もう鳴ったら、口元がベタベタじゃない。だらしがないわね~」

 と、テーブルの上に置いてあるティッシュを取ろうとした光守の手を、紗雪がすぐさま遮って、

「わたしに任せて麗華。そこだと拭きにくい系でしょ?」

「え? いや、ウチはティッシュを渡そうとしただけで、別に拭こうとまではしてないけど……?」

「そうなの? まあいいわ。わたしが代わりにやるから、麗華はなにもしなくていいわよ。ていうか鳴くんのことは全部わたしがやるから。だからこっちのことはなにも気にしなくていい系でよろしく☆」

 などと、ほぼ強引に押し切ろうとする紗雪に、光守は一瞬当惑したような表情を浮かべつつも「そ、そう……?」と最終的に自ら手を引っ込めた。

「そこまで言うのなら、鳴のことは紗雪に任せるわ」

「おけまる♪ さあ鳴くん、お姉さんが口を拭いてあげるから、こっちの方を向いて?」

「ん? こうっスか?」

「そうそう! は~。やっぱりイケメンだわ~。見ているだけで視力が上がる~♪」

 俺からしてみたら、視力よりも変態度が上がっているようにしか見えないのだが。

 なんかこいつ、見た目に反して全然クールなタイプじゃないな。今だってゲヘゲヘと不気味な笑みを浮かべながら鳴の口元を愛おしげにティッシュで拭いているし。まるでエサを目の前にした肉食獣のようだ。ぶっちゃけると怖い。

「はあ~。まったく、紗雪は相変わらずイケメンには弱いんだから……」

「あ、そっか~。ウラランとサユって、中学生の頃からの付き合いなんだっけ~。二人って、昔はどんな感じだったの~? ヒメとサユは高校の時に知り合ったから、昔のことはあんまり知らなくて~」

「中学生の頃と言っても、学校は別々だったけれどね。通っていた塾でたまたま隣の席になって、そこから仲良くなったのよ」

 へえ。そいつは驚きだ。

 なにが驚きかって、いかにも勉強嫌いそうな光守が塾に通っていたという事実に。

 今はこんなデコトラみたいな格好だが、昔はまだ真面目な方だったのかもしれないな。それこそ高校デビューってやつか?




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