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青春アレルギー男、恋愛脳女を嘲笑う  作者: 十日兎月


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十一話 後輩が光守たちとつるんでいる理由



「──あれ? 先輩だけっスか?」

 俺の気配に気付いたのか、それまでワクワク顔で列が進むのを待っていた大空がおもむろに背後を振り返った。

「ああ。あいつらなら俺に金だけ渡して別の店に行ったぞ。なんかアイドルショップみたいなところにな」

「そっスか。まあお金だけ払ってもらえるなら、自分はだれでもいいっスけれど」

 割とドライな返答だった。

 こいつ自身、実はそこまで光守たちを慕っているわけじゃないのかもしれないな。

「で、あと何分くらいで買えそうなんだ?」

 問いかけつつ、俺は大空の横に並ぶ。

「二十分ってところっスかね。焼き立てを待っている人もいるんで、けっこう待たなきゃいけないんスよ」

「二十分か。思っていたより長いな……」

「美味しいドーナツを食べられると思えば、二十分なんてすぐっスよー」

「お前みたいな食欲魔人と一緒にするな」

 別にこっちはドーナツが食いたくて、こうして並んでいるわけじゃねぇんだよ。

「じゃあ、暇つぶしに自分と話すっていうのはどうっスか? 光守先輩の代わりとはいえ、こうして自分に付き添ってくれているわけですし。話し相手くらいになら、自分がなってあげても構わないっスよ」

「なんで上から目線なんだよ」

 こいつ、ちょいちょい失礼な物言いをする時があるよな。仮にもこっちは上級生だというのに。

 にしても、話か。正直スマホでもいじっていた方が有意義な気もするが、まあこれを機に訊いてみたいことがなきにしもあらず。話をしてみるのもありと言えばありか。

「そういえばお前、恋愛研究部に入る前はどこに入部する気だったんだ? あいつらに誘われる前はまだどこにも所属してなかったんだろ?」

「部活っスか? 最初はオカルト研究部にでも入る予定だったっスねー」

「オカ研? お前、オカルトに興味があったのか?」

「いえ。適当に過ごせて早く帰れそうなところって基準だけで選んだだけっス」

「早く帰れそうなところって、バイトでもするつもりだったのか?」

「バイトっていうか、家の手伝いっスね。自分の親、漁師やっているんスよ」

「あー。だからそんなに日焼けしているのか」

 てっきり屋外競技でもやっているのかと思いきや、漁の手伝いをしている内に肌が焼けただけなのか。

「漁師、か。ということはお前、けっこう離れたところに住んでいるのか? ここから海って、割と遠いよな?」

「そうっスね。学校に通う時も自転車で片道四十分以上はかかっているっスよ」

 だよな。俺はこの町の出身ではあるが、漁師をやっている家なんて、この辺りじゃあまり聞いたことがないし。

「言っても、今日はバスで来たんスけどね。汗臭い体でお店の中に入るのは、ちょっと抵抗があるので」

 へえ。見た目は体育会系なわりに、案外女子らしい一面もあるじゃないか。

「それと家の手伝い以外に空手道場にも通っているんで、あんまり部活動に時間を取られるのは嫌だったんスよ」

 空手の方は週一でしか通ってないんスけどね、と大空。どうやら屋外競技ではなく屋内競技の方を嗜んでいたようだ。競技というか、格闘技と言った方がいいような気もするが。

 それにしても、妙に体が引き締まっているように見えたのは、空手をやっていたからだったのか。漁の手伝いだけでなく空手も習っているとは、ずいぶんと活発なことで。

「じゃあお前、存外忙しい身の上だったんだな」

「まあ、漁を手伝う代わりに小遣いを貰っていたりもするので。空手に関しては親の教育方針ではあるんスけども」

「親の教育方針? 容赦なく人を殴れるようになれとか?」

「そんな狂気じみた理由じゃないっスよ。先輩じゃあるまいし」

 別に俺だって人を殴るような趣味なんてねぇよ。

「そうじゃなくて、護身術代わりに習わされているだけっスよ。女の子はいざっていう時に自分で身を守れないといけないとかなんとかで」

「話を聞く限り、けっこう厳しそうな親御さんだな」

「そうかもしれないっスね。どちらかというと厳しいのは父親の方なんスけども。だから門限も割と厳しくて、いつも夕方の六時までには絶対帰るように言われているんスよ」

 夕方の六時か。確かに今どきの女子高生にとっては、少し早い方かもしれないな。

「だったら、部活動にもあんまり良い顔はしなかったんじゃないか?」

「確かに良い顔はしてなかったっスけれど、校則で決まっているのなら仕方ないって感じだったっスねー。その代わり、体育会系みたいな拘束時間の長いやつは禁止だって言われちゃったんスけれども」

 ほほう。それはなかなか良いことを聞いた。



「それならお前、今からでも文芸部に入る気はないか?」



 俺からの誘いが意外だったのか、きょとんとした顔をする大空。

 なにげに初めて見るな。大空が微細とはいえ驚いた顔をするところなんて。

「自分が、文芸部に?」

「だってお前、ぶっちゃけ部活にはさほど興味ないんだろ? それなら幽霊部員として文芸部に入ってくれたら、学校が終わってすぐ帰宅できるぞ。佐伯先生なら黙認してくれると思うし」

「うーん。せっかくのお誘いっスけれど、丁重にお断りするっス。光守先輩と水連寺先輩を裏切るような真似はできないんで」

「そうか。それならしょうがないな」

「ていうかそれ、実は先輩自身のために言ってるっスよね? 自分を誘うことで恋愛研究部を作れないようにしてやろうとか、そんなあくどい理由で」

 ばれてーら。

「あ。その顔、さては図星っスね? どうりで変だなあって思ったんスよ。妙に自分に対して優しいことっていうか、気味の悪いことを言ってくるので」

「気味が悪いとか言うなや」

 文芸部に入った時のメリットを明示しただけだろうが。

 にしても、本当はこれで光守たちとの不毛な争いに終止符を打ちたかったところだったのだが、なかなか自分の思った通りには進まないもんだな。

自分の思い通りに進んだことなんて、片手で数える程度しかないけれども。

 なんて話している内に、列が少しだけ進んだ。言っても一人分だけなので、距離的にはさほど大差はない。

 これは長丁場になりそうだなと人知れず辟易していると、大空がなにげない感じでふと俺の横顔を見て、



「──先輩って、なんか変わってるっスよね」



「あ? なんだよ、藪から棒に」

 ていうかそのセリフ、お前にだけは言われたくないのだが。

「いや先輩って、目付きも口も性格も悪いっスけれど、思っていたよりちゃんと会話してくれるじゃないっスか。見た目は陰キャなのに」

「一言どころか三言くらい余計な発言だが、まあそこは聞き流しておいてやる」

 ここで怒鳴れば、ドーナツ屋に迷惑がかかるだけだしな。

「昔から口は達者な方だったんだよ。で、それがどうしたっていうんだ?」

「単純な疑問なんスけど、どうして光守先輩の時だけは粗暴になっちゃうんスか? こうして自分と接している時みたいに普通に話していれば、少なくとも険悪なムードにはならないと思うんスけれど」

「なんでもなにも、あいつが上から目線かつ暴力的に突っかかってくるからに決まっているだろうが。俺だって好き好んであいつと衝突しているわけじゃない」

「でもその割に、けっこう好戦的ように見えるんスけれど。なんていうか、人をバカにしたような態度になる時があるっていうか」

「俺が人をバカにする時は、相手が失礼な真似をしてきた時だけだ。特に自意識過剰で常に自分を上としか見ていないような奴にはな。だからああいう手合いは徹底的に愚弄し、心底軽蔑し、遠慮なく嘲笑するって決めているんだよ。いっそポリシーと言っていい」

「うわー。ゴミみたいなポリシーっスね」

 やかましいわ。ゴミとか言うな。

「まあでも、おかげで先輩のことが少しわかったような気がするっス」

「あん? 今の会話だけで俺のなにがわかったって言うんだ?」



「そうっスねー。たとえば、他人に全然興味がないところとか?」



 チリンチリン、と奥の方でベルが鳴る音がした。

 焼き立てのオールドファッションが出来上がりましたー、という店員の快活な声を聞き流しながら、俺は簡素に「ふうん」とだけ相槌を打つ。

「おっ。否定はしないんスねー」

「あながち的外れな意見ってわけでもないからな。ちなみに、その根拠は?」

「だって先輩、ただの一度も名前で呼んでくれたことがないっスもん。名前は覚えているかもしれないっスけれど、どのみち名前で呼ばないってことは、自分たちのことを一人の人間として見ていないのも同然だと思うんスよねー」

「………………」

「あと、こうして話している時もそうなんスけれど、先輩って基本、人を探るようなことしか訊いてこないっスよね? 虎視眈々となにかを狙っているように見えるっていうか。ブックカフェで水連寺先輩と話していた時も、なんだか弱点を探っているように聞こえたんスよね~」

 へえ。

 食べることしか興味がないのかと思いきや、意外と抜け目ないところもあるじゃないか。



 微塵も興味がなさそうな顔をしつつ、俺と水連寺との会話をさりげなく耳に入れていたあたり、案外こいつの方が一番油断ならない相手なのかもしれない──。



 ともすると、こいつが名前で俺を呼ばずに「先輩」という敬称だけにこだわるのも、お互い様とはいえ警戒されているせいなのかもしれない。

「それで? お前はどうするつもりでいるんだ?」

 大空の方には目を向けず、ばたばたと忙しなく動き回るドーナツ屋の店員を見るともなしに眺めながら、俺は抑揚なく訊ねる。

「さっきまでの会話をあいつらにチクる気か? 言っておくが、なんの変化もないと思うぞ。俺がろくでもない奴だっていうのが改めて証明されるだけのことだ」

 ろくでもないっていう自覚はあるんスねー、と大空は苦笑しながら、

「光守先輩たちに話すつもりはないっスよ。確かに食べ物を驕ってもらうのを条件に、恋愛研究部の一員にはなったスけれど、あくまでも数合わせみたいなものなんで。だから別に味方をしているわけじゃないっス」

「味方じゃない? あくまでも中立ってことか?」

「どちらかというと、光守先輩寄りの中立っスけどね。だから先輩が不利になるようなことはしないっスよ。助けもしないっスけどね」

「あっそ。ま、いつになく長々と話してくれたわけだし、お前だけは敵じゃないって認識にしておいてやるよ」

「それはどうもっス。相変わらず、言い方はあれな感じっスけれど。ていうか自分、そんな無口キャラに見えるっスか?」

「少なくとも、口数が多いタイプには見えないな。大食漢のくせして」

「? それ、なんか関係あるんスか?」

「……ただの言葉遊びだ。気にするな」

 口数は少ないわりに、食の回数は多いんだなっていう皮肉のつもりだったのだが。どうやらこいつには皮肉が通じなかったようだ。純粋な奴め。

「でもそれ、先輩にも言えることだと思うんスけれどねー。正直、こんなに喋ってくれるとは思ってなかったス」

「俺だって話題を振られたら普通に応えはするぞ。もちろん相手にもよるけどな。特に光守みたいな奴は、いっそ無視するまである」

「うわ~。先輩って、ほんと光守先輩には辛辣っスよね~」

「親切にする理由がないからな。向こうから屈服しない限りは、こっちも態度を変えるつもりは一切ない」

「じゃあ、敵じゃない自分には親切にしてくれるんスか? たとえば明日、ラーメンを驕ってくれるとか」

「それのどこが親切なんだ。おら、列が進んだぞ。さっさと行け」

 ほーいと能天気に返事をする後輩に溜め息を吐きつつ、俺も前列の人に付いて行く。

 その後、大空が大量にドーナツを購入したせいで俺まで奇異な視線を向けられてしまったのだが、思い出したくもないので詳細は割愛させていただく。


 ●  ●


 さて。

 食い意地の張った後輩の付き添いもどうにか終わり、アイドルショップに行っていた光守たちとも合流したあと、俺たちは再びモール内を巡っていたわけではあるのだが──



「んもう! 本当にあんたって奴は~!」



 時刻は午後四時──フリースペースみたいなところで休憩がてらベンチに座った途端、光守が我慢の限界とばかりに、突如俺に対して怒りを露わにしてきた。

「どこに行ってもつまらなそうな反応だし! 全然会話も盛り上がらないし! ちょっとはウチたちに合わせる努力をしなさいよ!」

「はあ? なんで俺がお前らに合わさなきゃいけないんだ。こっちは無理やり付き合わされているだけでしかないっていうのに」

 しかも、なんだかんだやっている内に、すっかり夕方になってしまったじゃねぇか。貴重な休日をくだらないことで潰してくれやがってコノヤロー。

「あんたねえ、そんなことばかり言っていたら、いつまで経っても彼女なんて作れないわよ?」

「だから元から作る気はないって言っているだろうが」

「それじゃあウチたちが困るの! 今日だって少しでもあんたの好みを知るために、こうしてわざわざ休日を使ってまで付き合ってあげているのに、わかったことはと言えば、あんたが無気力無関心無愛想の無い無い尽くしってことだけじゃない!」

「それだけわかれば十分だろ。いい加減諦めたらどうなんだ?」

「嫌よ! ここで諦めたら、部活が作れなくなっちゃうじゃない!」

 まったく、強情な奴め。

「そんなの、俺の知ったことか。どうしても部室が欲しいって言うなら、校長にでも直談判してみたらどうだ? ま、どのみち無駄だろうけど」

「無駄とわかっている方法を勧めるんじゃないわよ! まったく、だから友達の一人も作れないのよ……」

「はい出ましたー。陽キャにありがちな、さも友達がいない奴をダメ人間扱いするような風潮~。ほんと陽キャって害悪だわ~。差別主義者のゴミでしかないわ~」

「なんでそこまで言われなきゃいけないのよ! 事実を言っただけでしょうが! だいたい、あんたはさっきから──」

「う、麗華ちゃん、いったん落ち着こう?」

 と、だんだんヒートアップする光守を見ていられなくなったのか、水連寺が困り顔で間に入ってきた。

「確かに影山くんの言うことに腹を立てるのはわかるし、そっちなんてゴミどころかゴキブリみたいな存在のくせにって罵りたくなるのもわかるけど……」

 いや、そこまで言われてねぇわ。

 こいつ、本当に俺に対して容赦がなくなってきているな。毒舌キャラにジョブチェンジでもしたのか?

「けど、今はそういう趣旨じゃないよね? これからどうしたらいいかっていう話のはずだよね?」

「萌……。ごめん……。ウチ、ついカッとなっちゃって……」

「ううん、気にしないで。悪いのは全部影山くんなんだから……」

「おいこら。責任転嫁はやめろ」

「うんうん。丸く収まったみたいでよかったっス」

「お前はお前で勝手に話を終わらすな」

 しかも能天気にバクバクたこ焼き食いながら言いやがって。さんざんパンケーキやらドーナツやらたらふく食っているはずなのに、こいつのどこにこれだけの量の食い物が入る胃袋があるのやら。

「──でも、全然収穫がなかったわけじゃないわ」

 萌に励まされて調子を取り戻したのか、伏せがちだった顔を上げて光守は毅然と言う。

「今日までずっとこいつをイメチェンさせることだけを考えていたけど、今回の件でよくわかったわ。この朴念仁を真っ当な男に変えることなんて、土台無茶だってことが」

 できたら少しでも矯正したかったところだけど、と嘆息混じりに漏らす光守。いや、お前に矯正される覚えなんてないのだが?

「じゃあどうするの? このままだと影山くん、女の子と普通に話すことすら難しいと思うよ? 絶対相手を怒らせちゃうよ……」

「考えを逆転させるのよ。こいつを変えるんじゃなくて、手当たり次第に女の子たちを対面させて、こいつを面白い男だとウチたちが認識させるの。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってやつね」

 つまり、と人差し指を立てたあと、光守はドヤ顔でこう続けた。



「ここからはぶっつけ本番──食事会をたくさん開いて、影山を好きになってくれそうな女の子を徹底的に探すわよ!」



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