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絶対守護神ガーディナー  作者: ぶんじ
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第三話 ガーディナー、ここに結成。

 長い山道を経て、ようやく人里へ戻ってきたのが日付の変わる一時間前ほどだった。道中、剣は一睡もすることなく、かと言って大和たちと会話をすることもなく一人窓の外、移りゆく景色を見つめていた。玲一は完全にダウンし、寝入っていた。先ほどの会話以降、誰も口を開くことなく、車内は静まり返っていた。

 窓から街灯の明かりが差し込み始めて数刻。車は静かに停車した。

「お二人さん、着いたよ。すまないが木村君を起こしてやってもらえないか?簡単に説明だけはさせていただきたいのでね。」

 そう言って大和は車を後にする。続いて虎路が降り、剣が眠っている玲一を揺すり起こして後に続いた。一行を乗せてきた車が走り去る。ふと目の前を見上げると、ここ数年で出来たばかりの大型高層ビルが目の前にあった。

 「ここ、テレビでみたような。」

 寝ぼけた玲一がぼんやりとした目つきで、目の前のビルを見上げる。

 「ついてきたまえ。」

 大和はそのビルに向かっていく。虎路も後ろを追う。眠そうにふらふら歩く玲一の首根っこをつかまえて、剣もそれに続いた。

 案内されるがまま入ったその大型高層ビルは、地階に駐車場と食料品売場、下階を商業施設、中階をオフィス、上階を高級マンションに利用している。都心の市街地中心部に位置し、交通の便が良く、観光の一部にもなっている。

 裏口のエレベーターから入り、中階まで上って案内された部屋は閑散としており、一面青白くシンプルなインテリアから、近未来を想像するような作りになっていた。入り口正面、部屋の奥は一面の窓になっており、都心の夜景を一望できた。生活感の無いその部屋を二人はきょろきょろと見回した。中央のテーブルに腰掛け、大和が話しだす。

 「さて、まずは何から話すべきかな。」

 小首をかしげ、目線で二人に問いかける。視線を捕らえ、剣が答える。

 「まず、ここは何処だ。」

 寝ぼけていた玲一がずっこける。

 「いやいや、ここ超有名だし!テレビでよくやってんじゃん。まぁ、オレみたいな一般人は入ってくんな、ってオーラ満載の高級な店がいっぱい入ってる感じだけど。」

 自分で言って自分でへこみだす玲一をよそに、剣は話を続けた。

 「そうじゃなくて。なんでその高級ビルに案内されてんだ、俺たち。」

 玲一はあっ。とした顔をした。その二人のやり取りに、微笑みながら大和はテーブルから降り、窓にゆっくりと歩きだす。

 「さっき、名刺を渡しましたね。このビル、大和グループの持ちビルなんです。」

 大窓の前で振り返り、話を続ける。

 「まぁ、中階のオフィスフロアはほとんどグループの系列会社だし。上のマンションは関係者、もしくは金持ちやら著名人やらが使っているしね。ここのワンフロアだけ、特別にもらったんだよ。『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』の為にね。」

 「がーでぃあん・・・ぷろじぇくと?」

 玲一は聞いたことの無い言葉に眉をひそめる。

 「先ほど車内で聞いたが、その。・・・がーであんぷろぜくと、とはそもそも何なんだ。」

 「鹿蔵君、ガーディアン、プロジェクト。『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』とは、トラ。概要を簡潔に説明してあげて。」

 大和からバトンタッチされ、後ろに控えていた虎路は二人の前に移動し、手元の資料に目を落とした。

 「失礼いたします。『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』を簡潔に説明いたしますと、”地球の平和を守るために、正義の味方を集め、共にがんばる”・・・大和、本当にこれで大丈夫なのですか?」

 「トラ、疑問符を付けて読まないこと。まあ、大まかに言うとそんなところ。」

 大和の用意した文章に不安を感じ、救いを求めるようにふり返る虎路に、大和は簡単にそう答えた。

 「うっさんくっさー・・・。」

 「そもそも、お前達の言うところの”敵”とは一体何者なんだ?今日、山で襲ってきたゴーレムの事なのか?」

 確信づく剣の問いかけに、大和はふっと顔を落として床を見つめ、目を瞑った。

 「それはただの雑魚。」

 大和の言葉に凍りつく二人。腕を頭の後ろに組んで、ぶらぶらと部屋を歩き回っていた玲一は聞き捨てならないとばかりに前に出る。

 「ザコっ!?あれが?」

 剣は複雑な表情を浮かべ、深く息を吐き、再び問いかける。

 「では、敵の正体を問おう。」

 強い眼差しを向けられ、それを受け流すように身をひるがえし、大和は虎路に話しかける。

 「トラ。お二方は疲れているようだ。部屋に案内してまずは休んでいただこう。」

 「ちょっ、剣くんの質問シカトかよ?!それとも答えられねーのかよ!」

 大和の態度に玲一が声を荒げる。剣は静かにそれを制し、眼差しを大和に向けたまま、答えを待っていた。剣の表情に、諦めたかのように大和が口を開く。

 「もう遅いから、先に休んでもらおうって思ったんだけどね。そういう訳にもいかないみたいだな。敵、だったね。我々の倒すべき相手は、『華園(ガーデン)』という世界から地球侵略を企む『半獣落ち(フォールド)』。やつらは『地球(ホーム)』を手に入れんがため、『門番(ゲート)』を探している。」

 大和の言葉に、考え込む剣。玲一は聞きなれない言葉に心底不思議そうにしている。

 「まったく意味わかんねぇんだけど。」

 「だから、疲れているんだよ。今説明しても頭の中に入らないだろう?それに、口で一度話しただけで理解できるような内容じゃない。」

 大和は話しながら二人の横を通り、出入り口の自動ドアを開く。

 「とにかく休んでくれ。このフロアは好きに使って構わないから。明日、頭の整理が出来たら、この部屋に来てくれ。出来る限りの疑問に応えよう。では、トラ。後は頼む。」

 そのまま部屋を後にした大和を見送った三人。

 「やばい、マジやばい。なんかのヤバい思想団体かもしんねぇ。」

 ぶつぶつ呟く玲一と、完全に思考の渦に入り込んだ剣に、虎路は話しかけた。

 「説明不足で誠に申し訳ございません。とにかく今日はお休み下さい。先ほど大和が言っていたように、このフロアに関してはご自由にされて結構です。この作戦会議室の他に、住居スペースが八部屋用意されています。お一人一部屋ございますので、お好きな番号のカードキーをお持ち下さい。」

 そう言って、二人の目の前にカードキーが差し出される。

 「朝起きたら・・・貨物船の中で、内臓売られるとかないよね?」

 「かもつ?内臓は売買されるものなのですか?」

 玲一のブラックジョークにぽかん、と首をかしげる虎路。通じていないらしい。

 「とにかく、休まなければ話が進まないのだな。どれでもかまわんから貸してくれ。」

 差し伸べられた剣の手に、カードキーが一つ手渡された。

 「鹿蔵様。貸すのではありません。これはこれからあなた方の住む場所になります。」

 「へー。噂の高級ビルの一室が、剣くんの部屋に。わぁ、セレブ。」

 他人事のようにほへ~と気の抜けた顔で、二人の会話を見ていた玲一の前に、差し出されるカードキー。

 「木村様、あなたもです。」

 「は?」

 虎路はずいっと一枚のカードキーを押し付け、玲一は思わずそれを受け取ってしまった。確認し、虎路は礼を一つ。

 「部屋は通路沿いにあります。キーの番号の部屋をお使い下さい。ゆっくりとお休みになられて、心の整理がつきましたら、この部屋においで下さい。お待ちしております。」

 それではお休みなさいと見送られ、二人はとりあえず身体を休めることにした。各々のカードキーでドアを開け、別れた。都心の一人暮らしの部屋と考えれば、あまりに贅沢な広さに目を奪われつつも、剣は近くのソファにもたれかかった。一日の疲労が、激しい重力のように圧し掛かる。眠ろうにもあまりの出来事に興奮冷めやらず、瞼を閉じ、これまでの事をふり返り考察し始めた。

 (あのゴーレムが雑魚。いわゆるショッカーのようなものか?しかし、雑魚相手にまったく歯の立たなかった俺や玲一が何故スカウトされているのだろう。大和さんは一番最初に何か言っていた気がするが。

 あの赤い蝶も、肩に止まった後、気がつけばいなくなっていた。あれが探し物だったとしても、いなくなってしまえば何の意味もなくなるはず。合格した理由がわからない。『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』にしてみても訳がわからなすぎる。袴田さんの雰囲気からして、とてもあの人が悪の組織の一員だとは思えない。あの目は嘘をつく人間のものではない。だが大和さんはよくわからない。一体、どうしたものか。)




 そうこう考えている内に疲れからか、いつの間にか意識を手放してしまった。ふと眩しさに目を開けると、大きな窓から昇りきった太陽の光が差し込んできていた。

 「・・・いつの間にか眠ってしまったのか。」

 あわてて飛び起き、腕の時計を見ると、ちょうど昨晩このビルに到着した時間から、半日が過ぎた時間を示していた。

 「こんな時間に目覚めたのは、どれだけぶりかな。・・・じゃない。」

 剣はソファから立ち上がり、そのまま玄関まで一直線に歩き、ドアを開けた。するとドアの向かい側に玲一がしゃがみこんでいた。ドアの開く音に反応し、ばっと頭を上げ剣の姿を確認する。

 「剣くん!ってことは・・・。やっぱ夢じゃなかった。」

 嬉しそうにしたかと思えば、現実を確認してがくりと肩を落とした。

 「すまない。寝坊をしたのは久しぶりだ。」

 立ち上がり、剣の肩をぽんぽんっと叩き、声を掛けようとした玲一の動きが止まった。不自然な動きに疑問を感じ、尋ねようとしたら、先に玲一の口が動いた。

 「あのー、剣くん昨日、あの後どっか出かけた訳ないよね?」

 剣は玲一の質問に小首をかしげた。

 「いや。考え事をしていたら、そのまま眠ってしまっていた。出かけられる訳ないだろう。」

 「あのですね、剣くん。なんか左肩に、刺青のようなものがあるのですが。」

 玲一に指差され、ふと左肩を見ると、身に覚えの無い刺青のような痣があった。部屋に戻り、玄関横の姿見鏡の前に立ち、鏡に映る自分の姿を見てみると、その痣は蝶のようにも見えた。

 「昨日はこんなもの、なかったぞ。・・・左肩。まさか、昨日の?」

 右手で肩を押さえ、足元に視線を落とす。消えたと思っていた蝶が、ここにいる。剣の頭に、先日の記憶がよぎる。

 (「リアクタがいる」・・・確か、確か大和さんは一番最初にそのようなことを言っていた気がする。俺も玲一も、動転して気が付かなかったが、この左肩の蝶。これのことだったのか?)

 「剣くん、とにかくそろそろあの部屋にいかない?」

 後ろから様子を覗き込む玲一の声に、はっとする。剣はふり返り頷いた。

 「ああ。」




 二人は昨日案内された部屋のドアの前に立ち、扉が開くと踏み出した。部屋の中央テーブルの椅子に大和、傍らのモニターの前に虎路が座っていた。

 「おはようございます、鹿蔵様、木村様。ゆっくりお休みいただけましたか?」

 虎路が立ち上がり、二人に大和の向かい側の椅子に座るよう促す。二人は挨拶を交わし、席に着いた。

 部屋を見渡すと、先日の夜景に照らされていた雰囲気とがらりと変わり、太陽に照らされ、白く輝いていた。特撮モノにありがちな基地、という感じだなと剣は感じた。

 「おはよう。こんにちは、かな?大分落ち着いたみたいだね。」

 大和が二人の様子を伺いながら、話しかける。

 「質問!」

 玲一がびしっと右手を上げ、大和を見据えた。彼は微笑み、右手を軽く出し、促した。

 「昨日はぼんやりしててまったくスルーしてたんだけど。この名刺、このビル。もしかしなくても、白スーツのあんた・・・大和グループのお偉いさん?」

 玲一の言葉に大和は苦笑し、答えた。

 「無反応だなぁ、とは思っていたけど。良かった。気づいてもらえてて。」

 「大和は大和グループの最高責任者です、肩書き上は。」

 虎路が横から口を挟む。大和は左手でそれを制した。

 「トーラ、面倒くさいことは言わなくていいの。そう、こんな若造ですが。先代が急逝されて、僕が代表取締役をやっています。だから雇用保障に関しては心配すること無いよ。一応、書類が必要だからこれにサインしてもらえるかな。」

 二人の目の前には契約書らしき書類が数枚と、ペンが並べられた。

 「ちょっと待ち。説明は?!」

 右手をずいっと差し出し、玲一が食いかかる。

 「あ、やっぱりしなきゃだめ?」

 大和はにっこりと笑って誤魔化した。その様子を黙ってみていた剣が、口を開いた。

 「さすがに一晩だけでは頭の整理がつかなかった。だが、袴田さんは嘘をつく人間に見えない。」

 ちらっと虎路のほうに目線を配り、大和の目を見る。

 「正直、大和さんは何を考えているのかよくわからない。・・・だが、俺は信じる。」

 そう言うと、用意されたペンを持ち、書類にサインをした。剣の様子に玲一は呆れながら、でも嬉しそうに同じくサインをした。

 「どーせ、剣くん書いちゃうだろうっては思ってたよ。」

 二人はサインし終えた書類を大和の前に出した。

 「ありがとう。」

 大和は書類を受け取り、確認する。すると玲一がもう一つ、と質問をした。

 「サインしちゃってからあれなんだけど。ちなみにお給料って、あの求人誌の通り貰えるの?てか仕事内容自体、ぜんっぜん意味わかんないんだけどね。」

 「そうだな。地球を守るとか、敵と戦うって言っても、具体的に何をするんだ?」

 確認し終えた書類を虎路に渡し、大和は姿勢を変え頬杖をつき、二人の質問に答えた。

 「まず、給料はとりあえずの金額を出してただけ。二人は重要機密を知ってしまっているから本採用。一応、大和グループ傘下の企画担当者という肩書きで、社員扱いにするよ。まぁ、雇用形態は正社員でも契約社員でも何でもいいし、給与も月給でも時給でも二人の都合のいいようにできるから。好きに言ってくれて構わない。」

 大和は手元の紙にすらすらっと書いた文面を二人の目の前に出す。

 「月給で最低これくらいは出せる。三倍くらいまでなら出せると思うから、給与に関しては希望を虎路に申し付けてくれ。」

 目の前の”最低額”に玲一の目が飛び出る勢いだった。

 「ぬわ・・・っ?!」

 見慣れない金額に、いちじゅうひゃく・・・と数えている玲一の横で、剣はいたって冷静に頷いた。

 「業務内容もわからないのに、いきなりそんな金額貰えるか。少なくとも状況把握できるまでは、アルバイト扱いで構わない。」

 「剣くん、勿体ない。」

 きっぱり言い切る剣の姿を、切なそうに見つめる玲一。視線に気が付き、「俺は、構わない。」と付き足した。

 「ん、よくわからないけど。別にこれくらい貰っても安いと思うよ?『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』は遊びじゃない。命の危険を伴うんだから。」

 二人のやり取りに目を細めていた大和だったが、真剣にそう言い切った。その顔に、二人は昨日の山での出来事を思い出していた。まったく歯が立たなかったあの土人形を雑魚呼ばわりした、大和が“命の危険”という言葉を発したことに、急に不安が芽生えた。

 「わかった。給料はやっぱりそちらが決めてくれ、不服があれば申し立てる。」

 剣の言葉に、玲一は頭を縦に振った。心のどこかでは、勿体無いという気持ちと戦いつつ。

 「わかった。君達の命を預かる訳だからね、納得してもらえるようがんばるよ。それと、業務内容か。僕達のやるべきことはね、シンプルだよ。当面は敵さん『半獣落ち(フォールド)』より先に、『門番(ゲート)』を探し出すこと。トラ、モニターもらえる?」

 大和の声に頷き、虎路は手元の操作盤を動かした。先ほどまで太陽を取り込んでいた、前面の窓が急に暗くなり、部屋全体が薄暗くなった。彼がカチャカチャと音を立てると、窓だったところに画面が映し出された。どうやらスクリーン機能があるらしい。二人は感嘆の声をもらしながら、画面を見つめた。

 「とりあえず、僕らがプロジェクトで使用している言葉を一覧にしてみた。まぁ、僕が便宜上適当に作った造語を含むので、真面目には考えないで欲しい。まず、『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』。地球の平和を守るため、始動した計画。メンバーは今のところ、この場の四人だけ。次に『地球(ホーム)』。守るべき、我らの地球だね。」

 「何故“ちきゅう”、ではなく“ホーム”と読むのか?」

 剣の質問に、大和が頷く。

 「“ホーム”とは、敵さん方の地球の呼び名、と捉えてもらっていい。そして『華園(ガーデン)』。その敵さん達の住む世界だね。この地球の、一番近くて遠い場所にあると考えているけど。何分情報が少なくてよく把握できていないんだよね。その『地球(ホーム)』と『華園(ガーデン)』を繋ぐ唯一のパイプラインを守るのが『門番(ゲート)』。」

 「ゲートって門って意味じゃないの?何で門番なんだよ。番ってつくなら、人の事でしょ。」

 玲一の声に大和は手を振って答える。

 「この『門番(ゲート)』は、“門”であり、“門番”である。これも詳細はわかっていないんだよ。最後に、『半獣落ち(フォールド)』。『華園(ガーデン)』で罪を犯した罪人が、消えることのない罰として、獣に成り果てるみたいなんだ。こいつらが『門番(ゲート)』を開き、『地球(ホーム)』を手に入れようと画策しているって訳。それを阻止するのが、僕らの仕事。」

 大和が二人に向き直ると、虎路は先ほどのように部屋を戻した。

 「その『門番(ゲート)』と言うのが、これか?」

 剣は己の左肩の痣を指差す。大和が腕を組み、それを見た。

 「そう、それが探し物。もう一つあったね・・・その『門番(ゲート)』に選ばれ『契約(リアクト)』した人間を『契約者(リアクタ)』って呼んでる。」

 「それは・・・」

 「お話の最中、申し訳ございません。」

 剣が口を開くと、虎路がそれを遮った。

 「大和、そろそろ出立しないと会議の時間に間に合いません。」

 「あれ、もうそんな時間か。・・・立野にどやされる前に行かないと。あ、すまない。ちょっと本職の予定が入っていてね。この後は虎路に任せるよ。」

 言うや否や、大和は席を立ち上がり、部屋を後にした。残された二人は消化不良のまま、唸った。

 「ううう、さっぱりわかんねぇ~。」

 頭を抱え込んで、机に突っ伏す玲一。剣は今の大和の説明を脳内で整理しようとしたが、頭を振った。

 「いかん、考え切れん!」

 そんな二人の姿を見かねてか、虎路が話しかける。

 「申し訳ございません。大和は一応責任者ですので、忙しいのです。私が代わりに説明できたら良かったのですが。」

 無表情なりにしゅん、とした虎路を見て、二人は立ち上がる。

 「いやいや、袴田さんのせいじゃないし。」

 「そう、この二日で脳が許容オーバーしただけです。・・・身体でも動かしてくるか。」

 剣の言葉に、虎路が食いつく。

 「それならば、丁度いい部屋があります。このフロアは全て皆さんの自由にされてよいので、説明いたしますね。まず、このマスタールーム、八つの住居スペース、トレーニングルーム、温室プールとサウナルーム、フリールーム、それと保管庫に空き部屋が複数ございます。食事はこのビルの六階フロアにある大和グループ共通の社員食堂か、二階と三階のフードコーナーをご利用下さい。こちらのパスをお見せいただけば、全て無料で自由にご利用いただけます。」

 そう説明し首から下げる、ストラップの付いた二種類のパスカードを二人に手渡した。

 「うーん。なんか、色々と聞き捨てならない、アホみたいなサービスを説明されたような気がする。」

 玲一は顎をつかみ、険しい表情で呟いた。

 「部屋にシステムキッチンが付いていましたが、あれは利用してもよいのですか?」

 剣はパスを受け取りながら虎路に問いかける。

 「はい。あの部屋は鹿蔵様のものですので、全てご自由にお使い下さい。」

 微かに口角を上げ微笑み、丁寧にお辞儀をする。そんな虎路の様子を見て、二人は顔を見合わせる。

 「これでこの人、実はめちゃ性格悪いとかだったら。オレ、人間不信になるかも。」

 「それは無いと思うがな。」

 二人が何を話しているのだろうと、虎路は首をかしげる。そんなやり取りを繰り広げている中、後ろでドアが開閉する音がした。ふり返ると大和が手を振って近づいてきた。

 「それじゃトラ。あ、ついでにカノちゃんにキムっち。ちょっと出かけてくるから。」

 「キムっちィ?!」

 「カノちゃん・・・。」

 予期せぬ言葉に剣と玲一はすっとんきょうな声を上げた。

 「こうして無事に、『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』、通称『ガーディナー』が発足したわけだし。一つ、円陣みたいなの、やってみたかったんだよね。」

 二人の反応を完全に無視し、大和は右手を前に出し、視線で三人を促した。剣はふっと笑い、大和の右手に自分の右手を重ねた。いきなりの馴れ馴れしい呼び方に玲一は口の端を引き上げつつも、ため息一つ、さらにその上に右手を乗せた。

 「トラ。」

 正面の大和の声に、虎路は左右二人の表情を確かめ、右手を乗せた。それを確認して大和の声一つ。

 「ガーディナー、ここに結成!」



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