↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対守護神ガーディナー  作者: ぶんじ
PR
15/20

第十二話 袴田虎路と、早川俊昭その記憶。

《虎路編》

 デネボラ来襲の翌日。ガーディナー本部のマスタールームに大和、虎路、剣、玲一の四人と、新たに『契約者(リアクタ)』となった恵が集合していた。剣と玲一が把握している情報内で『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』について、改めて説明と確認が行われた。

 先日の詳細については、恵自身が混乱の中で記憶が不確かなこともあり、特段有益な情報を得ることは出来なかった。新しい情報としては恵が『契約(リアクト)』した『門番(ゲート)』が、土を司る『門番(ゲート)』、ジェミヤであるということ。『契約(リアクト)』後も交信することは可能であったが“エネルギー切れ”と言われた通り、その後はどう呼び掛けても応えがないということ。

 ジェミヤの話から、大和、剣、玲一の『門番(ゲート)』もそれぞれ『地球(ホーム)』においての“エネルギー切れ”であると推測された。恵は現役の学生のため、ガーディナーとしての活動は制限されるものの、大和の掲げる『契約者(リアクタ)』の権利として本部に移り住むこととなった。

 「ああいった危険な事に、兄さん共々巻き込まれることは不本意だけど。・・・兄さんが自分の意志でやると決めた事に、ボクは何かを言う立場じゃない。丁度うちで両親が新婚状態で居た堪れないし、母さんの過保護で一人暮らしも諦めていたけど・・・兄さんと同じマンションなら許可も貰えるだろうから。」

 但し、現状『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』について詳細が不明すぎる。その、ガーディナーについても、自身の本格的な参画については返答を待って欲しい。また、兄の身に何かあれば例え世界有数の大企業といえども黙ってはいない――――――と、恵は付け加えた。

 恵とて、個人として何かできるとは考えていない。ただ、自分の持つ『契約者(リアクタ)』という切り札を最大限に主張することで牽制しようとする意図は、剣と虎路以外には充分に伝わった。

 啖呵を切って恵はそのまま大学へ向かった。元々参加を予定していた大学主催の国際ボランティアのため、一ヵ月は不在となる旨を言い残して。

 「・・・ね、いつも気になってはタブーだろうな~と思っていた、素朴な疑問だけどさ。」

 恵の独壇場が終了し、そのまま虎路が淹れてくれた紅茶を口にしつつ玲一が話し始める。

 「恵くん、海外出ても問題ないの?この前、大和さんも海外出てたけど・・・。いやさ、『門番(ゲート)』を求めて『半獣落ち(フォールド)』が現れるなら『契約者(リアクタ)』もターゲットになり得るよね?・・・前々から疑問なんだけど、“世界の平和を守るため”的なヒーローものって、なんでそれぞれの国にしか敵が現れないんだろうって。世界言うなら、なんでこんな狭い島国に敵が集中してくんねん!って、ガキの頃から引っかかって仕方なかったんだけど。」

 「それは大人の事情というやつだろう。」

 「いやいや、それ剣くんが言っちゃう!?」

 玲一は疑問の答えを大体予想しつつ、大和辺りから返ってくると考えていたが、まさかのヒーローを本気で目指していた剣の口から聞くことになるとは思いもよらず、勢いよく突っ込んだ。

 「そうだね・・・。ま、映画や小説、カノちゃんが好きな特撮等の創作物に関しては、大人の事情が絡んではいると思うけど。あぁ、創作と言っても、“人の想像し得る世界は、全て実現し得る世界である。”と言った平行線の世界の可能性もあるから、一概に創り物とも表現し難いが。・・・さておき、『華園(ガーデン)』と『地球(ホーム)』を繋ぐ『通路(ルート)』。その地球側の隣接点がこの界隈のようでね、都合がいいのか悪いのか。現状、国外で彼らを観測した事例はないよ。あくまでも、これまでに前例が無い、だけだけどね。」

 「・・・それって守る側のオレらには都合が良くても、逆にこの周辺が一番危険って事じゃん。まぁ、自分の大切な人たちだけ国外に避難させるなんてこと、倫理的にも現実的にもできねーし。“正義の味方(ヒーロー)”となれば、全てを守るためにも戦うしかないってことね。」

 真面目な顔のまま静止していた剣が大和を見やる。

 「大和さん、以前から気になっていたのだが。話の感じから『華園(ガーデン)』と『地球(ホーム)』を同等の世界観で考えていたのだが、華園(はなぞの)、と称する場所が地球規模とは想像し難い。ついこの間まで知りもしなかった隣接点というのも、いつ発生したかなどはわかっているのですか?」

 大和はおどけた表情で剣に視線を返す。

「だよねぇ、それ僕も気になるところ・・・と、言う訳で。その辺も解明されていないんだ。ご期待に沿えず申し訳ない。」

 そう答えた直後、呼び出しの電話が入り大和はそのままマスタールームを後にした。解散と言うことで剣はトレーニングルームへ向かい、特に用事が無かった玲一は、虎路を手伝いお茶の片付けで給湯室へ向かった。




 「デネボラのやつ、大口を叩いておきながら『地球(ホーム)』のヒヨッコどもにしてやられるとは。全く、情けない!」

 ぶつぶつと苛立ちをふりまきながら巨体を揺らし、のしのしと周囲の花を散らしながら突き進む。陽光に晒されたその姿は、東西にて若干の相違はあるものの、根底的な造形は近しい・・・ギョロリと眼光鋭い瞳、鼻穴の横から流れる髭。頭上の二つの逞しい角に、首筋には風になびくたてがみ。堅く丈夫な鱗に覆われた皮膚―――。神話や伝承で語り継がれるその姿は、事実誰一人実体を目にしたことがない筈だが、殆どの人が様々な形で知っている龍そのものであった。

 「御前様の指示では次回の襲撃手はニハルだったが、あんなひ弱なやつに任せられるものか!儂が直々に出向いてやろう!!」

 「こらコラァ、トゥバンちゃん。そんな勝手が許されるとおもっテ?」

 トゥバンと呼ばれた、その龍の出で立ちをした『半獣落ち(フォールド)』は、声の方向をがばりと見やる。華園の先、少し離れた場所に生えた樹の上から蛇の『半獣落ち(フォールド)』、サビクが舞い降りる。

 「・・・サビクか。止めても無駄だ。今回、『門番(ゲート)』の欠片は儂が使わせてもらう!」

 怒りを露わに、尾で辺りの花を撒き散らしトゥバンは言い切る。その怒声に全く動じることなく、頭を左右に振りながらサビクは歩み寄る。チロリと赤い舌を覗かせ、楽しそうに。

 「止めないワ。むしろ、トゥバンちゃんに提案・・・というか、相談?があるノ。アタシから次の襲撃手をトゥバンちゃんに変更するよう、御前様にお願いしてア・ゲ・ル。その代わりなんだケど、今度の『来訪(ワタリ)』を一回お休みシて欲しいのヨ。で、欠片の回復を待ってその次の『来訪(ワタリ)』にアタシを一緒に連れてイって欲しいの。」

 「なんだと、そんな方法が可能なのか?・・・いや、毒蛇。貴様、一体何を企んでいる。」

 警戒の色を見せるトゥバンの姿を、サビクはニタニタと表情を歪ませて見つめる。

 「ヤだわぁ・・・。企むだナんて、そんな♪トゥバンちゃん、冷静に考えても見てヨ。アタシたちの手中に『門番(ゲート)』はひとつだけ。ホントなら、その門ぶち壊してサッサと『地球(ホーム)』に侵攻して制圧したいじゃナい?・・・けどケド。壊しちゃったら、こ(・)っ(・)ち(・)もあ(・)っ(・)ち(・)もどうなるかワかんないっテ。御前様が言うからさァ、ちまちま『門番(ゲート)』の欠片を使って隙間から『地球(ホーム)』に渡っているじゃナい。それって、非効率甚だしいワ。」

 サビクは足元の花を摘み、その香りを嗅ぐ仕草をひとつ。まるで舞台上の演者のように大きく身振りを振舞い、一つ一つの言葉を魅惑的に紡ぐ。

 「『地球(ホーム)』で『門番(ゲート)』を手にシ、明確な意図を持ってアタシたちに歯向かっている連中―――“ガーディナー”と名乗るニンゲン。こちらが把握している『門番(ゲート)』は、全てあいつラの手に落ちたワ。それってつまり、今後は直接闘って奪わなきゃいけナいってコト。

 そしてあいつラは、大体群れて行動をしているワ。誰かがピンチになれば、誰かが助けに向かウ。それが、あいつラの戦術。

 対し、アタシたちはどうかしら?個々の『結界(フィールド)』が無いと活動できない不慣れな場デ。一人で闘っているノよ?そもソモが不利なのよ、アタシたち。トゥバンちゃん、よく聞いて。あいつラ、群れないと何も出来ない弱い存在よ?デモね、だからこソ。完膚なきまでに叩き潰してこその、強者・・・でショう?」

 サビクは言葉に抑揚をつけ身振り手振りで語る。まるでそれは、舞台上の役者のように。トゥバンは先ほどまでの怒りをすっかり忘れ、サビクの言葉に、その立ち振る舞いに釘付けになっていた。

 「貴様の言いなりになるつもりはない。が、その提案・・・乗らせてもらう!!」

 「うふふ、ありがトう。早速、御前様に進言してくるワ♪・・・次の『来訪(ワタリ)』までに。とっておきの準備を、完成さセる。“ガーディナー”、弱くて脆いニンゲンのアナタたちは。どんな素敵な絶望をアタシに魅せてくれるのかしラ?・・・うふふふふ。待ってなサい?とっておきの夢ヲ、魅せてア・ゲ・ル。」

 一陣の風に、花びらが舞う。納得し、『巣(ネスト)』へ戻るトゥバンの背を見送り、サビクはその場で楽しそうに嬉しそうに空を仰ぎ、口角を釣り上げた。




 「木村様、カップはそちらの戸棚にお願いします。」

 「あいよー。・・・ね、袴田さん。オレさ、ずっと気になってたんだけど、聞いてもいいかな?」

 先ほどの話し合いで使用したティーカップを片付け終え、玲一は思い出したように虎路に問いかける。

 「袴田さんの服装、それって制服なの?最初に会った真夏日から、ずっと黒のハイネックだよね。・・・暑くないの?」

 「いえ、制服ではありません。暑い、暑くないと言いますか、訳あってこの服しか着られないと言いますか・・・。」

 「んん?着られない・・・とは。あとさ、あとさ。基本的にガーディナーって完全オフないじゃん?一応待機状態ってことで。大和さんはいつ寝てるのかわかんない状況な気もするけど、袴田さんって大和さんの本業にはあんまり関わってないですよね。一人の時、どこか息抜きで出かけたりしないんですか?」

 玲一はここぞとばかりに、矢継ぎ早に質問を繰り出す。虎路は拭き上げたカップを給湯室の棚に片付けつつ、ゆっくり考えながら返答する。

 「そうですね・・・。『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』に関わる情報管理、開発部の補助、その他の雑務。日々やるべき事や課題が山積みですので・・・基本的に、大和の付き添い以外でこのビルから外出することは無いですね。」

 「―――マジで?!そんなの勿体ないですよ!」

 玲一の反応に虎路はきょとんとした表情を向ける。

 「折角、こんな都心に住んでいるというのに。仕事漬けの引きこもりだなんて、精神衛生上よろしくないっ!そりゃ、たしかに衣食住がこのビル内でまかなえてしまうけれども・・・やっぱ人間、日光浴びるのも大事だし!青春の無駄遣い!!」

 「日照でしたら部屋やマスタールームでも十分に可能ですが・・・。」

 「違うんだよ、袴田さん。自然と触れ合うとか、風を感じるとか、いや、別にそういうんじゃなくってもいいんだけど。・・・よしっ、百聞は一見に如かず。ちょうどオレ、今日出掛けるつもりだったし。一緒に街に行きましょう!」

 虎路は、キラキラと目を輝かせて一人盛り上がっている玲一を目の前にして、どうしたものかと小首を傾げた。本来であれば大和に指示を伺うところであったが、楽し気な玲一の勢いに押され流れで付き添う事となった。

 (あれ?そういえば、袴田さんって・・・前に記憶喪失って言ってたような気が。んで、訳あってハイネックしか着られない?・・・んー、まぁいっか。出かけついでに、気になること聞きまくればいいや!)

 片付けを終え、簡単に身支度をすること数分。玲一は虎路を連れて本部を後にする。元々、リアルダンジョンさながらの複数の路線が集中する、乗降客数が世界一と言われる駅周辺に出かける予定だったが、外出ビギナーである虎路を連れて迷宮駅を散策するのは得策ではないと判断し、本部から一駅離れた若者が集う街へと行き先を変更した。

 本部のある高層ビルを離れ駅へ移動すると、虎路が電車に乗ったことがないことが判明し、玲一は乗り方から何から質問攻めに合う。目的地に向かう電車に乗り込む頃には、さながら雛鳥を連れた親鳥になった心境であった。

 「電車の存在は知ってはいましたが・・・。こんなに複雑に線路が絡み合い、複数の路線が行き交い、分刻みのスケジュールで運行しているのですか。人が行っている事なのに、まるで機械の所業のようです。」

 ドア付近の側に立ち、窓から流れゆく風景を見つめながら虎路はしみじみ感想を漏らす。『守護者(ガーディアン)計画(プロジェクト)』の説明を行う時、玲一にとってはチンプンカンプンな話をしている虎路が、自分の生活する日常に対し、まるで小さな子どものように新しく見る物への興味関心が尽きない様は不思議な光景であった。

 「そうだね、オレにとっては日常茶飯事で当たり前のことだったけど・・・。改めて考えると、これだけ路線がたくさんあって、絶え間なく運行し続けて、それを運転してるのが人間ってすごいことだよなぁ。ある程度、機械的な制御とか有りはするんだろーけど。」

 「・・・『地球(ホーム)』は、不思議ですね。」

 車窓から流れゆく、自身にとってありきたりな風景を弟妹のように、興味深く見つめていた虎路の横顔をぼんやりと眺めていた玲一は、そのぽつりともれた呟きに対し、ふと疑念が胸に沸き思うままに言葉を紡いだ。

 「袴田さん・・・は、オレらと同じ、地球の人間・・・ですよね?」

 その質問に虎路はハッと目を見開き、玲一に視線を移す。目を合わせ、それから気まずそうに足元に目線を落とした。その暗い表情を吹き飛ばすように、玲一は明るい声を上げる。

 「あっ、もう着きますよ!ここで降りましょう。今日は袴田さんの気分転換が最優先事項です!その辺ぶらついて、旨いもん食ったりしてパーっと楽しみましょ!!」

 きっと、聞いてはいけない事だったのだろうと瞬時に察した玲一は、何事もなかったかのように虎路の背中を押して電車を降りる。戸惑いつつも、玲一の気遣いを理解した虎路もまた、何事もなかったように電車を降りた。




 「袴田さん、オレより身長高いし、意外とガタイもいいから絶対こーゆー服似合うと思うんだけどなぁ。ハイネック必須でも、シンプルなジャケット合わせたり小物でオシャレできるし。あぁ・・・オレも180cm欲しかったなぁ。」

 通りがかりのメンズファッションのショーウィンドウを見ながら玲一は呟く。先ほどの神妙な空気を吹き飛ばすように玲一は明るく努め、虎路を連れてあちこちと街を散策した。見た事のない風景に、右に左に視線を移しポカンとする虎路の様子を伺いつつ、購入した軽食を食べ歩きながら他愛のない会話を交わした。

 暫らくして、慣れない環境に疲労の色が見えだした虎路の変化に気付いた玲一は、本部に戻るべく駅へ引き返した。

 「折角外出されたのに、ご用事はよろしいのでしょうか。」

 「あー、もう。そんな申し訳なさそうな顔しないの!申し訳ないのはオレなの。袴田さんを無理やり連れだした、オレ!・・・用事も何も、まぁ。腹ごしらえも済んだし。いきなりこんなごちゃごちゃ人の多い街に連れて来ちゃって、むしろごめんね。次はもっと年齢層の高い、落ち着いた街にするわ・・・。てな訳で、帰ろ帰ろ。」

 玲一がそう言い、目的地である駅と併設した商業施設に入ろうとしたその時。

 「早川?」

 虎路の腕を掴み、顔を覗き込むように、一人の女性が進路を塞いだ。

 「・・・早川じゃん!なに、あんた、やっぱ生きてたんじゃん!!」

 胸の下あたりまで伸びた、亜麻色のロングヘア。色白の肌に、細身の体系。ラインがわかるシンプルなトップスに、Aラインのふんわりとしたシルエットのスカート。ローヒールのパンプスで、一見すると可愛らしい、幼さの残る外見のその女性は、鈴を転がしたような声を上げ、つぶらな瞳で虎路を見上げた。

 「早川?いや、人違いですよ。この人は袴田って名前で・・・。」

 玲一が女性に向けて口を開くと、一転して目の前の人物はギロリと玲一を睨み付け、打って変わった刺々しい口調で声を上げた。

 「はぁ?!お前、誰だよ。私は今、早川に話しかけてんだよ!引っ込めよ、チビが!!」

 その言葉に玲一は驚きと怒りとが同時に沸き起こったが、目の前の女性の、蛇が獲物を見るような目つきに、あの日の記憶がフラッシュバックした。父親が連れてきた、汚く、相手を傷付ける為の、挑発する為の言葉をわざと選び使った、あの女。決して、あの手の人間のペースには呑まれてはならない―――と、当時の記憶が甦り、スッと自身の荒ぶる感情が沈静化するのを感じた。

 玲一は冷静になり、落ち着いて虎路に視線を移し、その表情に息を呑む。虎路は全身強張ったままカタカタと震え、顔は一切の血色を感じさせない程に白く、目線は足元に落ちているが焦点が定まらず泳いでおり、額には不自然な程の脂汗が滲んでいた。今にも倒れそうなその異常な様に、玲一は進路を塞ぐ女性に向き直る。

 「早川ぁ~、大輔たちも寂しがってたよ?アンタが居ないと、みんなつまんないってさぁ。あーんなに、可愛がってあげたのにィ、ホント恩知らずだよね。ねぇ、私たちのトコに戻ってくるよね?・・・アンタの父親、まだ大輔んトコいんじゃん。ね、わかるよねぇ?」

 女はニタニタと、明らかに様子のおかしい虎路に構わず、蛇のように絡みつく。玲一は、ずい、と背に虎路を庇うように力ずくで二人の間に割って入る。

 「・・・申し訳ないけど。コイツ、オレのダチで袴田っつーの。いい加減、わかってくんねぇかな。」

 言葉での牽制が無意味な相手と判断し、有無を言わせないような静かな威圧を以って、玲一は冷たく女を一瞥する。挑発にのらず、冷静に対処してきた玲一に対し、女はチッ、と大きく舌打ちを一つ。

 「ウゼェよ、このチビが!!・・・早川、アンタさぁ、元カノに対して失礼なんじゃない?前みたいに一緒に楽しく遊んであげるからさぁ、連絡待ってるね!・・・私も大輔も、気が短いの知ってるよね?シカトしたらどうなるか。・・・わかるよね?」

 そう、吐き捨てるように言うと、女は雑踏の中に消えていった。堅く握り絞めた左手に込めた怒りを緩めると、玲一は直ぐに振り返る。虎路の様子は先ほどと変わらず、むしろ悪化しているように思えた。とにかく、人目もあるこの場を離れなければと、玲一は駅ビルの脇へ虎路を連れて移動し、宥めながらプロテクターを操作する。一度目の呼び出しに反応は無く、二度目の呼び出しをかける前に折り返しの通信が入った。

 「大和さん?!すみません、木村です。今時間大丈夫ですか?」

 「あぁ、会議を中座したところだけど。君から僕に連絡が来るってことは、余程の事だよね。何があった?」

 「すみません、あの、今、袴田さんと一緒に街に出かけてたんすけど、袴田さんを早川って呼ぶ女に絡まれまして。その女と会ってから、袴田さんの様子がおかしくなって、今にも倒れそうなくらい具合が悪そうなんです。血の気が完全に引いて、震えが止まらない状態で。で、前に妹が世話になった病院に連れて行こうと思ったんですけど、一応報告しなきゃって思いまして・・・。」

 一言一言を、たどたどしく伝える玲一の様子に、大和は事態の緊急性を理解する。起こって欲しくなかった事態が、起きてしまった。壁にもたれ右手で額を覆い、深く息を吸い込む。

 「木村君、すまないが病院は止めてくれ。どうにか本部に帰還して欲しい。・・・頼む。一時間ほどで、必ず戻るから。」

 「っ・・・。了解、しました。但し、様態が悪化したらこちらの判断で行動します。・・・大和さん、戻ったら、ちゃんと説明してくださいね。」




 プロテクターの通信を切り、大和が今日のスケジュールを脳内で組み直そうと瞼を閉じると、カツリと革靴の着地音が通路に響いた。

 「会議を中座してまで、お遊びに夢中ですか?貴方は、ご自分の立場を未だに理解できていないようですね。」

 「・・・立野。」

 大和は目の前の声の主を鬱陶しそうに見つめる。かっちりとしたシンプルなビジネススーツに、清潔感のある整った髪型。細身のフレームが支えるレンズの向こう側には、温度を感じない冷酷な眼差しが潜む。立野と呼ばれたその男は、ため息と共に言葉を続ける。

 「貴方の人生は、貴方のものではない。会長の恩情で多少の自由を許されたからと言って、生かされている役目を疎かにする事を、私は赦しはしませんよ。」

 「お前の言い分は、後で聞く。今から会議に戻り、その後に数刻ほど時間を貰う。本日、中断するスケジュールに関しては三日内に時間を作ってリカバリーを行う。異論は認めん。」

 大和は言いながら立野の横を通り過ぎ、会議室へ戻って行った。立野はその後姿を忌々しそうに見送り、スケジュール調整の為にその場を後にした。

 玲一は大和との通信の後、震えたまま強張った身体で動けずにいる虎路をどうにかタクシーに乗せ、車内で剣に通信を取り協力を仰いだ。車が本部の裏口に到着すると、出入り口の前に待ち構えていた剣が合流し二人で左右から身体を抱え、剣の部屋へと移動した。

 「玲一、後は俺がベッドまで運ぶ。さすがにこのまま寝かせる訳にはいかんから、上だけ着替えさせたい。バスルームでタオルと、湯の準備をしてくれないか?」

 「わかった!袴田さんを、お願いね。」

 タクシーから降車後、嘔吐しそのまま気を失った虎路を介抱する為二人はテキパキと行動した。

 「剣くん、洗面器にお湯準備したけど―――。」

 「わかった、取りに行くからテーブルに置いておいてくれ。」

 剣は着替えさせるために手をかけた虎路の上着を元に戻し、眉間に険しくシワを寄せその場で頭を抱え込んだ。

 「確か以前、袴田さんは記憶喪失だと話していたが・・・・・・これは。」

 剣が目にしたもの、それは――――――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。