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19.今日も明日もランカ・ライカ

 セルフリッジ達が泊まっている部屋。

 そこに入るなり、アンナ・アンリはセルフリッジの服を掴むようにして握り、顔を隠しつつ体重を彼に預けた。

 その行動をセルフリッジは不思議に思う。

 「どうしたんですか? アンナさん」

 と、それでそう問いかける。しかし、彼女は何も返さない。その後で、今度は彼はこう問いかけた。

 「もしかして、まだ怒っていますか?」

 それには答えず、アンナは代わりにこう返した。

 「セルフリッジさんは、わたしを馬鹿だと思っていますか?」

 それに彼は首を横に振る。

 「いいえ、思っていませんよ」

 それから少しの間の後で、アンナはゆっくりと顔を上げた。責めるような、それでいてどこか媚びた表情。じっとセルフリッジの事を見つめている。

 「今回、一番危険だったのはセルフリッジさんです。ずっと、自分の命を狙っている敵に囲まれていたのですから。わたしが、それを分からないとでも思ったのですか?」

 それから彼女は再び顔を隠した。セルフリッジはその彼女の言葉に戸惑った。やっぱり気付いていたのかとそう思う。その後で彼女は再び声を発した。顔を隠したまま。

 「どうして、あなたはわたしに自分を護れとは言わなかったのですか? 万一の事があった場合、王子達の事を護れとは言いました。ですが、自分を護れとは言わなかった。それはどうしてですか?」

 セルフリッジはそれに何も返さない。アンナは続ける。

 「今回の作戦の要は、わたしの魔法です。決して、わたしがフルで魔力を使える事を、グロー達に悟られてはいけなかった。だからあなたは、それを隠すように言いました。そしてだから、あなたは自分を護れとは言わなかったのではないですか? 自分を護れば、わたしの魔力が抑えられていない事がばれてしまうかもしれなかったから。わたしに作戦の内容を詳細に伝えたのも、だからでしょう? 自分が殺された時に、わたしに自分の役割を引き継いでもらう為…… じゃなきゃ、いつもは作戦内容を黙っているあなたが、今回に限って、わたしにそれを詳しく伝えるはずがありません。書状を盗むくらい、作戦内容を知らなくても簡単にできます!」

 セルフリッジはそれにこう返す。

 「いえ、それは飽くまで、万が一の事を考えてで…… それに、今回のこれは、あなたとの約束を果たす為の布石でもあってですね」

 「冗談じゃありません。あなたの言う事なんて、信用できません!」

 そこで彼女は再び顔を上げた。少しだけ、涙ぐんでいた。

 「わたしがどれだけ怖かったか分かっているのですか? あなたが殺されたらどうしようってずっと不安だったんですよ。

 良いですか?

 今度からは絶対に作戦の内容をわたしに伝えてください! もし、自分の身を危険にさらすような内容だったなら、わたしがあなたをぶっ飛ばします!」

 それを聞き終えると、セルフリッジは小さく「すいませんでした」と言って、アンナの頭を撫でた。

 ……どうやら、酷く怯えさせてしまっていたようですね。

 「やさしくしないでください。わたしは怒っているんです」

 彼女は少し震えながらそう言った。

 セルフリッジは思い出していた。書状を盗み終え、もうアンナが魔力をフルで使える事を隠さなくても良くなった後で、彼女が矢鱈と強い結界を自分の周囲に張っていたことを。そして、メイロナの攻撃に対する、彼女のあの過剰な反応。

 ……あれは、恐怖の裏返しだったのですか。

 もう一度、セルフリッジは「すいませんでした」とそう言うと、アンナの顔を手で優しく上げ唇にそっと自分の唇を重ねた。彼女は抵抗をしない。そしてそれから彼は、彼女の事をやや強めに抱きしめると、そのままベッドに倒れ込んだ。

 

 シロアキは山を下っていた。山賊団の面々はヘトヘトに疲れているだろうから、今なら普通の登山道でも問題なく逃げられそうだったが、一応は、脇に逸れた見つかり難いだろうルートを選択した。

 ランカ山賊団が全員アジトから抜け出している間で、彼は魔法で縄をネズミに切らせて脱出していたのだった。そして、自分の予想に反して無事に事が済んだのをこっそりと見届けると、それから彼は山を下りたのだった。

 山を下りながら、彼は独り事を言う。

 「待ってろよ、ランカ・ライカ… 今回の件は、いつか返してやるからな」

 ただし、それから少しの間の後で、こう疑問に思ったが。

 “しかし、この場合、一体ボクは、あいつに借りがあるのか貸しがあるのか、どっちなんだ?”

 

 翌朝。

 遅く起きると、ゆっくりと皆は少し豪華な朝食を取り、それからナセとフレイに別れを告げた。別れは意外な程に淡白だった。

 一人ずつ、よくナセとフレイと一緒にいた山賊団の面々が挨拶をする。ヌーカが「今度来た時は、石の投げ方を教えてやるよ」と言い、ハットは矢尻で作ったお守りを渡す。ライドは「今度は一緒に空を飛ぼうね」と言って、ランカから軽く叩かれていた。それからダノが無言で確りと二人に握手をし、ナゼル・リメルは「今度来た時は、ちゃんと薪を割れるようになろうね。それと、料理も教えちゃう」と言ってから頭を撫で、ナイアマンは「王子であってもなくても、君達は既に団員の一人だからな」とそう言って握手をした。そして、最後にランカ・ライカが「何処に居ようと、お前達は可愛いわたしの子供達だからね」とそう言ってから二人を抱きしめる。

 誰も泣かない。会おうと思えばいつでも会える。本当の別れではない。或いは、皆はそう思っているのかもしれなかった。やがて、彼ら二人は、セルフリッジとアンナに連れられて、山を下って行った。驚いた事にランカ・ライカは少しもそれを渋らなかった。

 どうしたの? と、目で訴えるナゼル・リメルに、彼女はこう返す。

 「セルフリッジの馬鹿を困らせるのは、別に構わないのだけどね、あの子達を困らせるのは嫌なんだよ」

 それを聞いて、ナゼルは“なるほど”とそう思った。特にフレイは困りそうだ。

 ただし、そう言い終えたランカが涙を流すのを、ナゼルは見逃さなかった。恐らく、ずっと堪えていたのだろう。そして、“やっぱり、泣いたか”とそう彼女は思った。

 その時、ランカが涙を流した事を察したかのように、遠くの方で、もう見えなくなりかけているフレイとナセが振り向いた。

 そして、

 「きっと、また来ます」

 と、フレイは小さくそう呟いたのだった。

 

 それから数日後、飽くまで噂だったが、こんな話がランカ山賊団に届いた。

 「マカレトシア王国で、僕らの山賊認定が取り消される案が出ているらしいよ、母さん」

 ランカ・ライカの部屋。ナイアマンがそう彼女に報告する。これが事実なら、真っ当な商売も随分とやり易くなる。ランカはそのニュースには、あまり興味がなさそうだったが、それがフレイとナセの働きかけの結果である事は明らかで、その点については大いに喜んでいるようだった。それからナイアマンが言う。

 「セルフリッジさんが僕らを騙したのは事実だけど、やっぱり、今回も、報酬以上に良い事があったね」

 マカレトシア王国の王族との太いパイプ。それはランカ山賊団にとって、大きな無形資産になるはずだった。様々な活用方法が考えられる。

 それにランカはこう応えた。

 「そうだねぇ… ナセもフレイも可愛いかったしねぇ」

 そうじゃなくて、とナイアマンはそれを否定しようかと少し思ったが、結局はそれを止めて代わりにこんな報告をした。

 「それから、やっぱり、脱走したシロアキは見つからなかったよ。あいつはうちの事も知っているし、少し不安だね」

 それにランカはこう返す。

 「そうだねぇ…… 夜中に山を下りたりして、怪我していないか心配だよ」

 「いや、だからあいつは、本当は子供じゃなくって、タンゲア帝国、暗黒街の悪党なんだよ、母さん」

 呆れてナイアマンがそう言うと、ランカは声を大きくしてこう応えた。

 「確かにシロアキは不良だけど、あの子だって、うちの可愛い子供だよ!」

 そして、シロアキからまたフレイとナセを連想して思い出したのか、それから彼女はこう呟くように言った。

 「ナセとフレイ、また遊びに来てくれないかねぇ……」

 実は、彼女は二人がいなくなってから、ずっとこんな調子なのだ。よほど、二人の事を気に入っていたのだろう。

 “こりゃ、あと二、三日は駄目かな?”

 その様子を見て、ナイアマンはそう思った。しかし、そんなランカが彼が見ている前でいきなり顔色を変えたのだ。そして、ギラリとした視線を急速に取り戻すと、近くに置いてあった金棒を握る。

 「どうしたの? 母さん」

 そうナイアマンは問いかけはしたが、実を言えば、大体は予想が付いていた。

 「子供が、泣いているよ」

 そうランカは答える。この山中の何処かで、誰かが子供を泣かしたのだ。そして、そう答え終ると同時に、彼女は部屋を飛び出していた。

 山中をランカは駆ける。やがて、子供を泣かしてしまっただろう不運な悪党共の姿が彼女の目に入った。いつもなら、まずは話を聞くところだが、明らかにその子供は一方的な犠牲者だった。叱られているのでも、転ぶかどうかして泣いてしまっているのでもない。悪党どもは、その子をいたぶって楽しんでいたのだ。

 彼女は叫ぶ。金棒を振り上げながら。

 

 「うちの子供に、なにするんだい!」

 僕は幼児虐待をしてしまう親に必要なのは、基本的にはケアだと考えています。責めたり、罰したりでは状況は改善しないだろうと。

 ……ですが、それはそれとして、やっぱり大人が子供をいじめたってな事件なんかを見ると、腹は立つのです。理性と感情は違いますからね。なので、子供をいじめる悪い大人を懲らしめる”逆なまはげ”なキャラを考えたのです。

 それで、そのキャラを元に短編でも考えようかな? で考え始め、構想段階で中編になり、書き始めたら楽しくて色々と書きたくなって、気がづいたら長編になっていました。


 この話の次があるかどうか分かりませんが、もし、あったら、また読んでいただけると嬉しいです。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


 では、また。

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