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18.セルフリッジの策

 セルフリッジはランカの前にまでやって来ると、彼女に抱きついて甘えている二人の王子を見つめながら、やや言い難そうに言った。

 「さて、ランカさん。王子達の安全は確保できました。これで僕があなたにした依頼は完了です。王子達には、城に戻ってもらいますよ」

 すると、フレイとナセの二人を抱き上げながら、ランカはこう返す。

 「分かっているよ、セルフリッジ。仕合せな気分に浸っている時に水を差さないでくれ。お前は本当に、嫌な奴だよ」

 それにセルフリッジは困った表情を作る。

 「そう言わないでください。僕だって憎まれ役は辛いんですから」

 「はっ どうだかね」

 そう言うと、ランカはフレイとナセを抱きかかえながら谷底の坂道を上がり始めた。

 「何処へ行くのですか?」とセルフリッジは問いかける。

 「アジトに戻るんだよ。城に行くのは明るくなってからでも良いだろう? 二人とも、もう眠っちまいそうだし、夜の山道は危険だよ」

 ナセとフレイの二人は、安心をした所為か、ランカに抱かれながら目を半分閉じかけていた。

 セルフリッジはこう答える。

 「もちろん、構いませんよ。僕らもアジトに泊めてください」

 「図々しいね。まぁ、いいか、わたしゃ興味ないが、今回のお前の言い訳を聞きたがっている奴もいるだろうしね」

 そう言ってランカは崖の上にいるナイアマンを見上げた。そして、こう思う。

 “ある意味じゃ、今回のセルフリッジの策の最大の被害者は、あの子かもしれない。あの子には気苦労ばかりさせているねぇ”

 それからセルフリッジを見る。そのランカの思いを知ってか知らずか、飄々とした様子で彼は坂道を上っていた。そして、その少し後ろから付いて来ているアンナは、そんなセルフリッジに何故か不満げな視線を向けていたのだった。なんだか文句がありそうな感じ。

 “おや? 嬢ちゃんの様子が、少しおかしいね。一体、どうしたのだろう?”

 それを見て、ランカはそう思った。

 

 「今回の事は、本当にすいませんでした!」

 そう言って、アンナ・アンリは大きく頭を下げた。

 ――ランカ・ライカの部屋。

 アジトに帰り着いてから、今にも眠りそうなナセとフレイの二人を風呂に入れ、その二人を両脇に置いてベッドに寝かしつけて、話を聞く体制を整えたランカ・ライカは、それからようやくオリバー・セルフリッジとアンナ・アンリの二人を部屋に呼んだ。ベッドの上で上半身を起こして彼らを見ている。

 もちろん、彼女は今回の件の詳細を聞くために彼らを呼んだのだ。

 大体は既に予想がついているが、まだ分からない事もある。

 部屋の中には、他にもナイアマンとナゼル・リメルとダノがいた。少しばかり変な空間かもしれない。何故かアンナが前にいて、その後ろにセルフリッジが控えていた。説明をするのは、セルフリッジのはずだろうに。

 アンナが「……すいませんでした」といきなり頭を下げた事に、部屋の中の皆は驚いていた。

 「あの…… アンナさん?」

 と、困った顔でセルフリッジは言う。それに反応して、アンナは言った。

 「セルフリッジさんもきちんと謝ってください! こんなに酷い作戦を立てたのですから。ランカさん達を騙したも同然じゃありませんか! 以前にわたしはあなたを庇いましたけども、毎回、こんな事をやっているのなら、信用を失って当然です!」

 その彼女の剣幕に、思わずセルフリッジはたじろいだ。

 「いえ、あの…… 毎回という訳ではないのですが……」

 そのやり取りを半笑いを浮かべながら見つつ、ランカは言う。

 「おいおい。声のトーンは、もう少し落としておくれよ。子供達が寝てるんだから」

 ただ、今のところ、問題なくナセもフレイもぐっすりと眠っていた。それだけ疲れているのかもしれない。アンナは小声で続けた。

 「ランカさん達の王子達に対する愛情を利用して、あんな状況になるよう仕向けるなんて、酷過ぎます。彼らにどれだけ精神的な苦痛を与えたか。

 ちゃんと作戦の内容を伝えて、相談する方法だってあったじゃないですか。どうして、そうしなかったのです?」

 それに、困った顔のままセルフリッジはこう返した。

 「いえ、僕の策の練り方は、布石を敷いておいて、それにどう状況が流れ込むかで、臨機応変に内容を整えていくというものなので、その、前もって説明するのが、とても難しくて、ですね」

 アンナは目をきつくすると、こう言う。

 「そんな事は、聞いていません!」

 明らかにセルフリッジはアンナに怯えていた。それに彼女の魔力は関係ないだろう。彼女自身とその人間関係的立ち位置に彼は怯えているのだ。その光景に、ナイアマンとナゼル・リメルとダノの三人は目を丸くした。その中でも、特にナイアマンが驚いていた。

 “凄い…… セルフリッジさんが、自分の策の練り方について話すのを初めて見た”

 それからナイアマンは、そのセルフリッジの言葉から、これまでの彼の策を思い返してみて、“なるほど”とそう思ったのだった。これは参考になる。

 アンナが言った。

 「とにかく、セルフリッジさんも謝ってください。それだけの事を、あなたはしたのですから」

 セルフリッジはこう返す。

 「いえ、いつも謝ってはいますがね」

 それにアンナは更に怒った。

 「いつも謝っているのに、今回もこんな事をやったのですか? 反省がまったくないって事ですか?」

 「いえ、あの、すいません……」

 「わたしに謝っても意味がないじゃありませんか?! きちんと、ランカさん達に謝ってください」

 それからセルフリッジがランカ達に向けて「すいませんでした」と頭を下げると、再びアンナも頭を下げた。

 「無理は承知のお願いですが、どうかわたし達を許していただきたいと……」

 それを受け、ランカは大きな笑い声をあげた。

 「アハハハハハハ!」

 その後で、「おっと、いけない。子供達を起こしちまう」とそう彼女は言う。少しだけフレイが「ううん」と声を上げたが、それだけだった。やはりよく眠っている。それから小声になると、ランカは続ける。

 「なかなか面白い見世物だったよ、お嬢ちゃん。セルフリッジがそこまで困る姿は滅多に見られるもんじゃない」

 その言葉に、ナイアマン達、三人は頷く。ダノが心の中で呟いた。

 “俺は初めて見た”

 彼はセルフリッジに好意的で、半ばファンのようなものなのだ。この場に出席しているのもだからだった。ただし、このセルフリッジの弱気な態度に幻滅したりはしていないようだったが。

 「見物料金代わりに今回の件は不問にするよ。ただ、どうしてお嬢ちゃんまでわたし達に謝るのかが分からないね。悪いのは、そこにいるいけすかないセルフリッジだろうに」

 すると、アンナは静かにこう答える。

 「いえ、今回の作戦の詳細を、グローの進軍前に聞かされていましたから、わたしも同罪です」

 それにランカは「ふーん、なるほどね」とそう返した。

 今のやり取りで、ランカはセルフリッジを珍しく助けたのかもしれない。一応、アンナが彼を責める事はそれでなくなった。その後で彼女はこう続ける。

 「とにかく、今回の件についての答え合わせをしたがってうずうずしている奴がそこにいる。セルフリッジ、そろそろ説明してやってくれないかい?」

 もちろん、それはナイアマンだった。セルフリッジが頷くと、彼はこう口を開いた。

 「セルフリッジさん。あなたは、マカレトシア王国のグロー達は、ガードが固いと言っていましたね。正確には、メイロナという側近がやり手で隙を見せないと。確かそれで、王子暗殺を計画している証拠が見つけられないという話だった」

 「その通りですね。魔法対策も、マカレトシア王国の城では確りしてありましたから、アンナさんの魔法も活用し難かった」

 「なるほど。だから、それであなたは、グローが友好関係を結んでいるタンゲア帝国の情報に関する甘さに目を付けたんだ。違いますか?」

 それにセルフリッジは笑顔で頷いた。「その通りです」と、そう言う。まるで、子供の謎解きに正解を出しているようだ。

 「まずは、タンゲア帝国の情報屋に情報を流し、それがどういった伝わり方をするのかを探りました。幸い、国の人間に直結するルートを簡単に見つけられましてね。それで、情報を流す事で、タンゲア帝国の行動を引き起こせそうだと考えたのです。因みに、この段階では、まだアンナさんの手は借りていません」

 それにアンナは苛立った顔でこう言った。

 「ちょっと、セルフリッジさん…… そんな事をやっていたなんて、初耳なんですが?」

 それに彼はこう返す。

 「ええ、まぁ、伝える必要もないかと思いまして……」

 するとアンナは彼の両方の頬をつまんで引っ張りながら、「そういうところなんですよ? 分かっているんですか? セ・ル・フ・リッジさん!」と文句を言った。ナイアマンがそれを無視して口を開いた。

 「その後で、あなたはナセとフレイを僕らに預けたのですね? 暗殺を防ぐ為でももちろんあったけど、それはここを餌にして、グローを罠に嵌める為だった。もちろん、グローを出兵させれば、タンゲア帝国もそれで誘い出せる」

 「その通りです。タンゲア帝国の国内に、マカレトシア王国のグローがランカ山賊団の討伐を決行するかもという話と、それが建前という話、後はタンゲア帝国の領地をグローが狙っているという話を同時に流しました」

 そこでダノが声を上げる。

 「つまり、嘘の情報を流して、タンゲア帝国を騙したって事ですか?」

 それにセルフリッジは首を横に振る。

 「いえ、嘘の情報ではありませんよ。どれも本当です。ただ、同時に聞けば勘違いをしてしまう文脈を用いたというだけの話です。グローが領地に攻め込んで来ると」

 ――やはり、とそれを聞いて、ナイアマンは思う。

 この人は策の中で嘘は滅多に使わない。嘘の情報を用いる副作用をよく分かっているからだろう。もっとも、だからこそ厄介なのだが。そこでアンナが口を開いた。

 「それだけじゃないじゃありませんか。わたしを使って、そう勘違いするよう仕向けたでしょう?」

 セルフリッジは頷く。

 「そうですね。それとアンナさんのお蔭で、高速でタンゲア帝国に情報を流す事ができ、同時にあの国の状況把握も的確にできたからこそ、この策は上手くいったのです」

 そのセルフリッジの発言にナゼルは思う。

 “お、お。これは、アンナさんのご機嫌取りをしたのかしら? よっぽど彼女が怖いのね、セルフリッジさんは”

 実際、その通りだった。まだ、彼女が怒っているのではないかと、セルフリッジは不安に思っていたのだ。アンナはそれにこう返す。

 「もっとも、その時は、訳も分からずただ仕事をこなしていましたがね、わたし」

 その言葉に、多少は“お世辞は効かない”と宣言する意味も込めたつもりだったようだが、喜んでいる事を彼女は隠せてはいなかった。ナイアマンが尋ねる。

 「タンゲア帝国を上手く誘導できた事を確認してから、あなたはわざとグロー達にナセとフレイの二人が、ここにいるという情報を漏らしたのですね?」

 「そうです。正確には、その前から、その可能性を疑わせておいて、その段階でそれを確証させたのですがね。そして、同時にタンゲア帝国にランカ山賊団討伐が決行されるという情報を流したのです。もちろん、狙い通り、直ぐにグローの友人のカルモロが出兵しました。

 後の展開もほぼ僕の狙い通りです。タンゲア帝国の誤解を解くためにグローがカルモロと会合し、その場で王子暗殺が目的だと説明した書状を書く。つまり、グローに自ら王子暗殺計画の証拠を作らせたのですね。そして、それをアンナさんに盗んでもらう。これも、実は前もって準備をしていたからこそ上手くいったのですが…… 後は、ご存知の通り、ライカさんにグローをぶっ飛ばしてもらって、反逆罪で捕まえてお仕舞いです。

 グローは気を失わせておかないと、無駄な抵抗をしそうなのでそうしました」

 今回の件で、セルフリッジにとっての唯一の計算外は、シロアキの王子誘拐未遂事件くらいだった。それ以外は、全て問題なく進んでいる。もっとも、それはシナリオを幾つも彼が用意して、どう状況が展開しても良いように、何重にも策を張っていたからなのだが。

 それを聞き終えて、ナイアマンは“恐ろしい人だ”と畏敬の念を抱き、ダノは“流石、セルフリッジの旦那”と感心し、ナゼルは“詐欺師ね、この人”と呆れ、そしてランカ・ライカはほとんど何の感慨も抱かなかった。ナセとフレイの頭を撫でてやっている。その後で彼女は大きくあくびをした。

 「さて。そろそろ、話は終わりだね。わたしも流石に眠いよ。ここらでお開きにしないかい?」

 それからそう言う。まるで緊張感がない。ただ、それには他の皆も同意した。ここにいる全員が、実はヘトヘトに疲れている。それを合図に、セルフリッジとアンナはランカの部屋から退室しようとした。そこでランカはセルフリッジにこう言う。

 「おい、セルフリッジ! その子を仕合せにしてやるんだよ。じゃないと、わたしがお前をぶっ飛ばすからね」

 それにセルフリッジは「もちろん、言われなくてもそうしますよ」とそう返した。アンナは去り際に、もう一度彼らに頭を下げた。

 「さて。お前らも早く寝な。もうかなり遅いよ。夜が明けちまう。明日の仕事は休みにしよう。セルフリッジから、今回の仕事の後払い分も入るだろうしね」

 そうランカが言うと、ナイアマンとナゼル・リメルとダノの三人もランカの部屋を出て行った。それを確認すると、ランカはナセとフレイの二人を両腕で抱き寄せ、心地よさそうに仕合せな眠りについた。

 廊下。

 歩きながら、ナイアマンが口を開いた。

 「どう思う?」

 ダノが感想を述べるように言った。

 「いや、流石、セルフリッジの旦那だね。あんな策だったとは思いも寄らなかった」

 それに反論するようにナゼルが言う。

 「わたしは詐欺師って思ったけど。信用すべきなんだか、どうなんだか…… あの人と積極的に関わるのは避けた方がよくない?

 わたし達に策の内容を話さなかったのだって、本当は初めから策を知っていたら、わたし達が仕事の依頼を受けないと考えたからかもしれないわよ。全てが上手くいった後だから平気な顔で話を聞けているけどさ」

 それを聞くとナイアマンは腕組みをしてから、こう言った。

 「僕は一度で良いから、あの人をこっちから利用してやりたいな。いつも僕らがやられているみたいに」

 そのナイアマンの様子に、ナゼルは少し考えた後でこう言う。

 「ふーん。わたし、今、一つだけ分かった事があるわよ」

 「なに?」

 「マザコンのナイアマンが、初めて母さん以外の女の人に興味を持ったのに、あっさり失恋しちゃったって事」

 それにナイアマンは声を大きくしてこう返した。

 「僕は母さんに対して、そんな感情を抱いた事は一度もない!」

 だがしかし、どうやら、失恋した方を否定する気はないようだった。

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