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14.夜は終わらない

 「お母さぁぁん!」

 意外にも、真っ先にそう言ってランカに抱きついたのはナセではなく、フレイだった。フレイは頭を振りながら、「お母さんが死んじゃう。お母さんが死んじゃう」と繰り返していた。ランカはそれに驚いた顔を見せたが、自分の腹の傷を見てフレイが怖がっているのだと悟ると彼を抱き上げ、優しく微笑んでやる。

 「怖がらなくても大丈夫だよ、フレイ。こんなのはほんの掠り傷だから」

 そして、愛おしそうに彼の頬に頬ずりすると、額に軽くキスをした。

 フレイがランカに抱きついた所為で、横でそれを見ていたナセもそれからランカの足に縋るように抱きつく。それを見ると、ランカはナセの頭を撫でてからやはり抱き上げた。フレイが、その行動を受けて言う。

 「お母さん駄目だよ。僕らを降ろして」

 「どうしてだい?」

 「だって、お腹を怪我しているのに、もっと傷が酷くなっちゃうよ」

 そのフレイの言葉で、彼が自分を心配しているのだと理解すると、ランカは嬉しそうに微笑みを浮かべた。

 「こんな程度の傷はね、お前達の顔を見ているだけで直ぐに治っちまうよ。だから、心配しなくて良いんだ」

 しかし、そうは言ったが、それからランカは二人を降ろした。二人の腕を縛っている縄を解いてやるためだ。その後で、気を失って倒れている二人の誘拐犯達を縛り上げると、ランカ達は山を登り始めた。早くアジトに帰って、皆を安心させてやりたい。

 しばらく登って通常の登山道に入ると、ランカは辺りを見回し始めた。ライドが近くに落ちたはずなのだ。すると、案の定、彼女の声が聞こえて来た。

 「母さん! 大変よ!」

 上の方から登山道を走って来ている。それを見てランカは安心をする。どうやら怪我はしていないようだ。

 「“大変よ”じゃないよ、お前は。心配かけさせて!」

 ライドはそれに「そんな事を言っている場合じゃないって、大変なんだから」と、そう返す。

 「誤魔化すんじゃないよ」

 と、そうランカは言いかけたが、そこでライドの後からナイアマンとナゼル・リメルがやって来るのを見て言葉を止める。

 「なんだい? お前達。終わったんなら、こっちよりも、ハット達を助けに行っておくれよ」

 ナイアマンはそれにこう返す。

 「いや、だって、母さん。腹に傷を負っていたじゃない」

 それを聞いてランカは両手を腰に当てて、こう言った。

 「わたしの子供達は、みんな心配性だねぇ。この程度の傷で、大騒ぎして」

 ナゼルがこう返す。

 「いやいや、母さん。ふつーは、心配するって。血がそんなに出ているじゃない。ま、ナセとフレイがここにいるって事は、やっぱり問題なかったみたいだけど」

 そのやり取りにライドが割って入った。

 「だぁー! 呑気にそんな会話をしている場合じゃないって! 大変なんだから!」

 それにランカは不思議そうな声を上げた。

 「なんだい、お前は? さっきから、大変大変って」

 「だって、本当に大変なんだもん。さっき空を飛んでいる時に見たの! マカレトシア王国の方からたくさんの灯りが近づいて来ている。多分、グローの討伐隊よ!」

 そのライドの言葉に、一同は声を揃えてこう言った。

 「なんだってぇ!?」

 

 ランカ山賊団のアジト。

 主要メンバーが、会議室に集まっていた。ダノが口を開く。

 「一難去ってまた一難、だね、こりゃ」

 その次にナイアマンが言う。

 「さっき、偵察をしに行った連中から、報告が入ったよ。ライドの見間違いじゃない。確かに軍隊らしき連中が、この山に入って来ているらしい」

 ナゼルがその後で頭を抱えた。

 「どういう事なのかしら? セルフリッジさんは何をやっているのよ」

 ランカが言った。

 「何をやっているも何も、あんの野郎がしくじって情報を漏らしたんだろう? ぬるい仕事をしやがって」

 言葉遣いは汚かったが、ランカはセルフリッジを疑ってはいないようだった。ナイアマンはそれで少し考える。

 “さっき、アンナさんが、僕に王子達がいなくなっている事を伝えて来た時、既に討伐隊はこっちに向かっていたはずだ。なのに、彼女はそれを僕に伝えなかった。という事は、セルフリッジさんは、意図的にこの状況を作り出した可能性が高い”

 もちろん、ナイアマンはセルフリッジが裏切った可能性を考えていたのだ。ただ、そうとばかりも言い切れない。今までにオリバー・セルフリッジと組んで、何度も裏切られたと思った事があったのだが、結局それは彼の謀の範疇であって、問題なく事は済んでしまったのだ。それに、

 “アンナさんは、僕に彼を信頼してくれと言った。彼女はこうなる事を予想して、僕にそれを言ったのじゃないか?”

 ナイアマンはアンナからのお願いも気になっていたのだ。ただ、今回に限っては、本当に裏切っていて、それを悟らせない為にアンナにあのように言わせた可能性もある。もっともその場合、アンナがセルフリッジに従うとは彼には思えなかった。彼女はセルフリッジに絶対服従している訳ではないだろう。ただ、それすらも演技だったなら…… ナイアマンは判じかねていた。分からない。そこで彼は口を開く。

 「とにかく、ナセとフレイを差し出す訳にいかないなら、ここを撤退するしかない。軍隊相手に戦いを挑むのは、いくらなんでも無謀だ。マカレトシア王国の反対、タンゲア帝国の方からセルティア共和国に抜けよう。あそこは僕らを山賊扱いしていないからな」

 それを聞いてナゼルはため息を漏らす。

 「相手が百人やそこらなら勝てるかもしれないけど、一度や二度、勝ててもどうにもならないしね」

 ダノがそれに続ける。

 「一人でも、死人が出るのは避けたいし」

 ランカもそれに反論はしなかった。ところが、そうして総意がまとまりかけたところで、部屋の外から声が聞こえて来たのだ。

 「ちょっと、緊急で報告しなくちゃならない事があるのだけど」

 ヌーカの声だった。ダノがドアを開けると、その声にこう応える。

 「なんだよ、ヌーカ。こっちは会議の最中だぞ?」

 するとヌーカはこう言った。

 「だから、その会議に必要な報告なんだってば」

 「何があったんだ?」

 「タンゲア帝国の軍隊も、こっちに来ているって。さっき、反対側に行っていた連中から大慌てで報告があった」

 それにナイアマンは目を丸くした。

 「なんだって? 僕らを攻めるつもりでいるのか?」

 「分からない。今のところ、様子見程度みたい。ただ、セルティア共和国へ続く道も既に封じられているって。タンゲア帝国のリーダーは、大臣のカルモロって奴らしいよ」

 ナゼルがそれを聞いて、まるで独り言を言うようにこう呟いた。

 「確か、カルモロって、グローのお友達だったはずよね」

 ダノが言う。

 「つまり、逃げ道を塞がれているって事? まずいんじゃない?」

 それを聞き終えると、ランカが声を上げる。

 「慌てるのはまだ早いよ。とにかく、もっと、情報が欲しい」

 その言葉にナイアマンが頷いた。

 「そうだね、母さん。タンゲア帝国の動きについて、何か知っている奴がいないか、全員に訊いてみよう」

 それからナイアマン達は全員から情報を集めてみたのだが、結局、有用な情報は一つもなかった。タンゲア帝国で、近々、マカレトシア王国がランカ山賊団に攻め入るという噂が流れていたという程度だ。ところが、そこでフレイから意外な人物から情報を聞き出そうという提案があったのだった。

 「シー…… シロアキなら、何か知っているかもしれません」

 彼によれば、シロアキは随分と色々な事を知っていたらしい。自分達よりも多くの情報を握っている可能性は、充分にある。

 それから倉庫に縛られて閉じ込められいたシロアキが、エントランスに連れて来られた。きつく腕が縛られているのを見て、ランカは声を上げた。

 「ちょっと! わたしは、この子がこんなに酷い扱いを受けているなんて聞いていないよ。腕を少しきつく縛り過ぎじゃないかい?」

 ナゼルがそれにため息を漏らす。

 「うん。母さん。そういうのは後回しにして」

 その後でシロアキは不敵に笑った。

 「いよぉ、ランカ・ライカ。ボクに刺された傷の具合はどうだい?」

 ランカの腹には包帯が巻かれてあったのだが、シロアキはそれを見ていた。それにランカは快活にこう答える。

 「ああ、わたしは、子供からの攻撃じゃ、ダメージを負わないから全然平気だよ」

 何故か嬉しそうだ。

 「そんな訳ないでしょう」と、それにナゼルがツッコミを入れる。その後で、ナイアマンが口を開いた。

 「喋り方が全然違うな、シー…… いや、シロアキ。こっちが本性か」

 「ま、その通りだね」

 「お前は、タンゲア帝国、暗黒街の悪党のうちの一人だな?」

 「おっ よく知ってるね」

 「お前の仲間が喋ったんだよ。断っておくが、既にお前の仲間は全滅しているぞ」

 それを聞いてシロアキは、縛られていながらも肩を竦めるような仕草をした。

 「はっ あいつらも情けないなぁ」

 その後で、フレイが口を開く。

 「お願いです、シロアキ。今、何が起こっているのか教えてください。マカレトシア王国のグローが攻めて来ています。そして反対側からは、タンゲア帝国の大臣、カルモロの軍隊が向かって来ている。ただ、カルモロにはここを攻めるつもりはないようなのです。一体、何が目的なのでしょう?」

 それを聞き終えると、シロアキは大きくため息を漏らした。

 「なるほどな。もう、そんな事態になっているのか。お前らに教えてやる義理はないが……」

 と、そう言いながら彼はチラリとランカ・ライカを見る。彼女は少しもシロアキに敵意の目を向けてはいない。それでまたシロアキは大きくため息を漏らした。

 「ま、教えない理由もない。どうせ、もう、金にはならなそうだしな。

 タンゲア帝国は、ここにこのフレイ王子とナセ王子がいる事を知らないんだよ。それに気付いたのは、恐らくはボクくらい。ボクは頭が良いもんでね」

 ナイアマンが言う。

 「それで?」

 「ただ、何故か、マカレトシア王国のグローが、ランカ山賊団を攻める事は知っている。しかも、討伐が建前だって事も。それで、グローがそのまま自分達の国に攻め入るつもりなんじゃないかって不安に思っているんだよ、タンゲア帝国の馬鹿な国の連中は」

 ダノがそれに頷いた。

 「なるほど。つまり、タンゲア帝国は、俺らを警戒しているのじゃなくて、マカレトシア王国のグローを警戒しているのか。

 ねぇ、ナイアマン。これは、セルフリッジの旦那の策じゃないのか?」

 ナイアマンはそれに不思議そうな声を上げる。

 「どういう事だ?」

 「マカレトシア王国のグローは、タンゲア帝国の誤解を恐れて、簡単には俺らを攻められない。多分、わざとセルフリッジの旦那はタンゲア帝国に情報を流して、俺らを護っているんだよ」

 ダノはオリバー・セルフリッジに対して好意的だ。だから、そう考えたのだろう。ところがそれを聞くとシロアキは笑った。

 「ハハハ! 面白い話だが、それはどうだろうなぁ?」

 ダノはそれを聞いて睨む。シロアキは面白そうにこう返した。

 「そう睨むなよ、デカブツ。ちゃんと説明してやるから。

 マカレトシア王国のグローとタンゲア帝国のカルモロは、仲が良いんだよ。少しの間くらいならその誤解で足止めできても、直ぐにグローが説明して誤解は解ける。そうなりゃ、むしろタンゲア帝国のカルモロは、グローの王子暗殺に協力するだろうぜ。それくらい奴らは親密だ。

 仮にセルフリッジって野郎が、そんな計画を立てていたのなら、かなりの馬鹿だ」

 そのシロアキの考えをダノは否定できない。ナイアマン達もそれは同じだった。ゆっくりとランカが口を開く。

 「なら、シロアキは、どうすればこの状況を打開できると思うんだい?」

 彼女は未だにシロアキを、少なくとも感情の上では仲間だと認識しているのだ。それを受け、シロアキは顎でフレイを指し示すとこう答える。

 「お前らが助かる方法は一つだけだよ。そこにいるフレイ王子とナセ王子を、グローって大臣に差し出すんだ。あっちも無駄な戦闘で兵士を傷つけたくないと思っているだろうから、それで大人しく引き上げると思うぜ。

 もっとも、王子殺しの罪をお前らに被せるつもりではいるだろうがな」

 ナイアマンはそれを聞いて思う。恐らくは、このシロアキの読み通りなのだろう。王子殺しの罪をランカ山賊団に被せた後は、表向きは討伐隊を向けるが本気では戦わず、こちらが逃げるように差し向けるかもしれない。無駄な戦闘を避ける為に。王子を殺していないと自分達が訴えても、どうせ山賊の言う事などほとんど誰も信じない。

 ナイアマンが言った。

 「とにかく、様子を見守るしかない。僕らを敵視していないとはいえ、タンゲア帝国の軍隊は山賊を見逃してはくれないはずだ。ここで待機しているよりない。

 もしも、マカレトシア王国のグローとタンゲア帝国のカルモロが話し合いをし終えて、僕らを攻める兆候を見せたなら、避けたい手段ではあるが、裏道から逃げるしかない。夜に通るのはかなり危険だがな」

 ナゼルがそれにこう言う。

 「裏道でも、見つかる可能性は大きいでしょう?」

 「ああ、しかし、賭けてみるしかない」

 フレイはその会話を黙って聞いていたが、ほとんど彼は決心していた。これから状況が更に悪化したなら、自分からランカ達に提案しよう。自分達がグローの許へ行くと。そうすれば少なくともこの場は助かるのだから。

 そのフレイの様子に、どうやらランカは気付いているようだった。

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