656 ハルジスト一族
トントン。
殿様と通信していると、部屋のドアがノックされた。
まだ話が終わってないので目でドレミにお願いした。
あーだこーだと交わし合い、やっと通信を終える。ふ~。メンドクセーことが多過ぎて嫌になるぜ。
「で、なんだって?」
「マスター。お客様が来たそうです」
腕時計を見れば六時半。結構話してたな。
「わかった。すぐにいくよ」
スマッグを仕舞い、食堂へと向かった。
食堂には何人か見知った顔いたが、見知らぬ顔もちらほらいた。まあ、それが、我が家の食事風景。気にもならんわ。
「ベー!」
呼ばれて見れば囲炉裏間にリュケルトと緑色の髪を持つ男女のエルフがいた。ちなにみにリュケルトの髪は白銀です。角刈りですけど。
……エルフの角刈り、見慣れたとはいえ、シュールだよな……。
「おう、リュケルト。久しぶり。元気だったかい?」
「もちろん。ベーのお陰で絶好調さ!」
エルフは種族的に物静かな性格をしているが、リュケルトは熱血漢な性格で、陽気で社交的と、カーチェに匹敵するくらい変人であった。
もちろん、同族から見て、な。オレからしたら好感が持てる性格だよ。他のエルフは陰気臭くてたまんねーよ。
囲炉裏間に上がり、いつもの席につく。
料理はもう並べてあり、他を見れば誰も手をつけてねー様子だった。
親父殿がいねーんだから勝手に食えばイイじゃねーかとは思うが、そうもいかねーのが我が家の現状。食堂にいるの、だいたいがメイドさんだし、主がいるのに先には食えねーわな。メイド道的によ。
「んじゃ、いただきます」
音頭を取り、夕食を始める。
「リュケルトは葡萄酒でイイか?」
無限鞄からカイナ―ズホームで買ったワインを取り出し、掲げて見せた。
「ああ。それで頼む。にしても随分綺麗な瓶に入った葡萄酒だな? どこのだ?」
「どこだろうな? オレもよー知らん。で、そっちの二人も葡萄酒でイイかい?」
「……あ、ああ。もらおう」
男の方が返事をし、女のほうは頷いた。
「まずはともあれ一献といこうか」
三人にワインを注いでやり、オレはミタさんから葡萄ジュースを注いでもらった。つーか、そんなもんあったのね。今度付き合い用に買っておこう。
「乾杯」
「「「乾杯」」」
カップをぶつけ合い、中身を飲み干した。
「リュケルトの一族、って訳じゃねーみたいだな」
葡萄酒を初めて飲んだ反応からして、リュケルトの一族より閉鎖的なところのエルフのようだ。
「これがベーだ。長生きだけの世間知らずが勝てると思うなよ」
つまり、試され観察されていたってことか。となれば、本命は女の方か。
見た目は二十歳後半。意志の強そうな目をしているが、リュケルトの言うように人の心に余り触れたことはねー目をしている。偽るのがなってねーわ。
「失礼した。わたしは、アルウが山のハルジストが一族。ヤニスの流れを汲むアルゼームと申します。これは、我が息子のハジャムです」
ハルジスト一族の習わしか、両拳を床につけ、頭を下げた。
エルフの文化もいろいろ。気にするほどでもねーので軽く流した。
「リュケルトからは聞いているだろうが、オレはヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。長いからベーでイイよ」
「わかりました。では、ベー殿と呼ばせていただきます」
「なんでもイイさ。好きに呼びな。まずは夕食にしよう。食えるのは言ってあんだろう?」
リュケルトは肉も魚も食うが、内臓系や生は食わない。エルフは住む場所で食える食えないが出てくるのだ。
「ハルジストの一族は狩猟で生きている。海のもの以外はだいたい食えるよ」
二人の前に並んだ料理を見れば、鳥肉を中心とした料理になっていた。結構肉食系なのか?
「そうか。まあ、沢山食うとイイさ。なんか腹いっぱい食ってなさそうだしよ」
元々エルフは痩せてはいるが、この二人は更に痩せている。長いこと必要な栄養を取ってねー感じだ。
「……ベー殿は神眼持ちか?」
「そんなもんに頼って見るようなバカと一緒にすんな。オレはこの両目で相手を見ているし、見たままに接してるよ」
別に神を見るわけじゃねーんだ、今ある目で充分だろう。見えない部分があるからこそ見えることもある。見えねーのは相手と本気で向かい合ってねーだけだろうが。
「なるほど、オレもこんなだったのか。結構恥ずかしいもんだな」
「別に無知なのが罪じゃねーよ。無知であると自覚してねーから罪なのさ」
まあ、オレもまだまだ無知だが、だからこそ他人を否定はしねー。まず受け入れてから自分の頭で考えて決め、受け入れるか受け入れないかを判断するようにしているよ。
「なあ、ベー。夕食が終わったら話があるんだが、構わんか?」
「厄介事は間に合ってんだがな」
「その厄介事に便乗させてくれ。まあ、決めるのはベーだ。おれはそれに従うよ」
付き合いが長いだけにオレをわかっているリュケルト。そう言われたら無下にもできねーじゃねーか。ったく。
「わかったよ。聞いてやるよ」
これはオレの出会い運が導いたもの。ならば大切にしなければ大凶を引く。経験上、こう言う場合は乗った方が被害は少ない。
……まったく、たまにこの出会い運が呪いなんじゃねーかと思うよ……。




