1846 人間をダメにする椅子
馬車に移り、漫画を読んでいたらいつの間にか眠りについた。
案外、寝心地がよかったりするんだよな、この椅子。乗ったことはないが、飛行機のファーストクラスにも負けてないんじゃなかろうか? 部屋に一つ欲しいくらいだ。
「いや、これだと漫画が読めないか」
十ページも読まないうちに眠りについてたんじゃ妨害されているのと同じだろう。この椅子は危険すぎるわ。
横を向いたらユウコさんもヨダレを流して眠っていた。いつの間に……。
「てか、レイコさんはどうした?」
昇天したか? 何枚だー何枚だー。漫画を読んだのは何枚だー、ってな。不謹慎か。
「いや、勝手に死んだことにしないでください」
ユウコさんの体から幽体離脱。いや君、死んでいるから。会ったときから幽霊だから。それ、間違っているから。
「なんなんだよ、ユウコさん、死んだのか?」
「いえ、この椅子が気持ちよかったみたいですぐ眠っちゃったんですよ。これ、呪いかなにかですか?」
幽霊に取り憑かれている者に呪いをかけられるとか怖すぎだろう。いや、可能にするヤツが作ったんだけどさ。
「これは、人間をダメにする椅子だな」
椅子に快適さを求めたらダメなんだな。まさかそんな学びを得る日が来るとは。生きているといろんな学びがあるものだ。為になったかは知らんけど。
「朝になったのか」
カーテンを開けると、外は明るかった。オレ、何時間寝たんだ?
「まあ、そう急ぐ旅でもなし。昼までゆっくりするか」
漫画もまだ読んでない。ここで中断するのはなんか椅子に負けたような気がする。なんの勝負だ? などとは言わないで欲しい。これは人間の尊厳をかけた……なんかなのだ。たぶん……。
「そうですね。わたしも久しぶりに眠るって感覚を楽しみました。もうしばらく眠ることもありませんね」
あなたはイイだろうがユウコさんは寝かせてやれよ。ツインで取り憑かれたらさすがにブチ切れるわ。
「その前に朝食にするか」
ぐっすり眠ったからかなんなスゲー腹が減った。今ならお粥三杯はイケそうだ。
「小食か!」
小食なんだよ、オレは!
馬車から出ると、アヤネが猪を丸焼きしていた。サバイバル!?
「朝からヘビーなことしてんな」
オレも猪を丸焼きにしたことはあるが、さすがに朝からやったことはない。油っぽいのは昼を過ぎんと無理だわ。
「朝の散歩をしていたら襲って来たので狩りました」
「そりゃ不運だったな」
猪のほうがな!
「ベー様も如何ですか?」
「いや、寝起きだから遠慮しておくよ。家を作っているヤツらに食わせてやれ。喜ぶぞ」
町で暮らしていたとは思えないくらい上手い解体をしている。超能力で血抜きもしたか?
「では、そうします」
臭いが流れて来ないよう結界を張り、朝のコーヒーを淹れた。




