1022 いまいち
なにか劇的な感じで発進したが、上昇するのにそんな派手なアクションはない。
いや、プリッシュ号は遊覧目的の船。急上昇も回転も必要ない──以前にしちゃダメだろう。乗船する者を殺す気か! って話になる。
ヒュンヒュンと回転翼がプリッシュ号を空へと押し上げる。
「……ゆっくりなんですね……」
フミさんが拍子抜け、ってな感じで不満を漏らしてる。知らんがな。
「ベー! どこまで上がるの~?」
「前、ルククが飛んだところまで上昇だ」
「方向は?」
あ、方位磁石とかなかったっけ。どうすっぺ?
「ベー?」
「ちょっと待て。今考え中だ」
「わたしには優雅にコーヒーを飲んでいるように見えるけど?」
失敬な。オレは考えながらコーヒーを飲める男だ。
「うん。タケルの潜水艦を真似るか」
操舵輪はゴンドラの前部にあり、有視界飛行のため、モニターを据えることはできないが、我には結界がある。
まずは四十インチくらいの結界板を創り出す。
「ベー、前が見えないよ」
「今、透明にする。ほれ」
目の前に結界があるとわかる程度に透明化させる。
「それは航行補助モニターだ。邪魔ならモニターオフで消える。出すときはモニターオンだ。やってみ」
「モニターオフ。──おっ!? 消えた!」
出したり消したり何度か繰り返して、モニターの存在を受け入れたようだ。
「モニターの右下に矢印があるだろう。それが方位を示す。赤針が向いているほうが北だ。北に舵を切ってみろ」
「アイアイサー」
操舵輪を回し、プリッシュ号を北に向けた。
「おー! スゴぉ~い!」
驚きながらいろんな方向へと変えるキャプテンプリッシュ。目が回るから止めてちょうだい。
「アハハ! 方位っておもしろ~い!」
方位をおもしろいって言うメルヘン、初めて……でもねーな。ブルーヴィにいるブラックメルヘンが同じこと言ってたわ。
「そろそろ真っ直ぐ飛べ」
「方位は?」
「南だ」
シュンパネ使うからどこを向こうと関係ないのだが、ノリに乗ってるキャプテンプリッシュの気を削ぐこともない。上手く煽ててさっさとバイブラストに向かいましょう、だ。
「南確認! プリッシュ号、ヨーソロー!」
ほんと、このメルヘンに余計なこと教えているアホは誰よ? 教えんならもっとメルヘンらしいこと教えやがれ! クソが!
いや、オレも大概なことさせてますけどね! いや、これからさせるけどねっ!
「やっぱゆっくりだと気持ちイイな」
ルククだと景色を楽しんでる余裕もねーし、飛空船だとなんか旅情を感じねーんだよな。
「ベー。このままバイブラストを目指すの?」
「いや、ワープするよ。とりあえず、あの山を越えるまでヨーソローだ」
もうちょっと空を楽しみましょうよ。
「ん~マ○ダム」
ん? なんか久しぶりに言った感じがすんな。このままバイブラストに向かうのもイイかも。
「ベー。飽きた~」
遊覧船になに刺激を求めてんだよ。ゆったりまったり緩やかな気持ちで操縦しろや。
「ったく。しょうがねーな」
我が儘メルヘンめ。
「じゃあ、ワープ航行用意だ。ゴンドラを巻き上げろ」
「どうやるの?」
言葉でもイイんだが、それじゃ味気ねーか。
無限鞄から一メートルの板を出して結界でサクッと削り、レバーにする。
操舵輪の左側に結界でギアっぽいものを創り、レバーをつける。
「そのレバーを手前に引けばゴンドラが上がるからやってみ」
?マークを頭に咲かせながらもレバーを手前に引くキャプテンプリッシュ。
と、ゴンドラを支える四つの鎖が巻き上がり、ゴンドラが上昇。居住区とドッキングする。
「なにも見えないよ」
うん。そこまで考えてなかったです。
外が見えるように結界を弄り、モニターに映るようにする。
「目標座標、バイブラスト。出現地、水輝館の上空」
モニターに『水輝館上空、OK?』と文字を出す。
「キャプテンプリッシュ。シュンパネを操舵輪の盤に嵌め込めろ」
「あ、そう言うことね!」
海賊帽からシュンパネを一枚取り、盤に嵌めた。
「シュンパネを使うのと同じだ。目的地を思い浮かべて、飛べ!」
「水輝館上空へ、ゴー!」
シュンパネは半径二メートル以内にいるもの、いや、あるものを瞬間移動させる。
それを結界で広め、プリッシュ号を瞬間移動させるのだ。なので、ワクワクするようなアクションはありません。
なんの感慨もなく、水輝館の上空に出現しましたとさ。
「……なんかいまいち……」
そこは要改良ってことで今はこれで満足しなさい。




