真夜中に
はい、更新ですwww
やっぱり楽しいですね、更新♡
久々のノアです(・∀・)
ふわり。
明かりの灯らない、質素な部屋のカーテンが浮いた。
ゆらゆら ゆらゆら
何度か揺れたあと、闇夜よりも闇色をした何かがカーテンの間を通り抜けてきた気配がする。チナは深夜にもかかわらず、眠気を感じさせないつり目をそちらに向けた。
さわり、とチナの影がざわめいた。
チナはそれに気付かず、目の前に降り立った『黒』に声を掛ける。
「ノア」
『チナ、久しいな』
「久しぶりだね、ほんと。……バレてない?」
仕事の多さやテリアを恐れ、今日まではノアのいる森には近付かなかったが、ノアの言葉に押され、???今日からまた森に戻ることにしたチナは、ノアの湿った鼻を触りながら尋ねた。
もちろんそれはテリアに関してで。バレたのならここを出て行かなければならない。
しかしそれは無用のようで、ノアは低く笑った。
『安心しろ、チナ。我がそのようなヘマをする筈がない』
擦り寄るノアにそうだよな、と笑いかけ、それを合図にしたかのようにチナの足元にしゃがみ込むノアによじ登った。音もなくノアが立ち上がれば、当然目線の高さも変わる。
「この高さも久々だなぁ」
『そうだろうな。ここの天井が高くて助かる』
「え?なんで?」
『でないと、チナの頭がぶつかってしまうからな』
なるほど、とチナが頷けば、ノアはくるりと方向転換をして窓の縁に足かけた。
と、その時だった。
ここここん
「チナ?起きてるか?」
「!!」
その声は、紛れもなくチナの上司、ロイのものだった。ちらりとノアに目配せすれば、すっと細められる金の瞳。ノアが扉を振り返るので、チナも無意識にそちらを向く。
「チナー?………流石に寝てるか…」
「起きてなかったんですか」
「ん、まぁな」
「まぁそりゃそうですよね。今深夜ですからね」
どうやらもう一人いたらしい。チナの知らない声だ。ノアは変わらず扉を見つめるが、外にいる二人は入ってくる気配すらない。
「あーぁ、新人ちゃん可哀想。隊長が忘れずに言っとけば良かったのに」
「お、俺だって忘れてたんだよっ、言うのっ!」
何やらチナにいい忘れたことがあるらしい。チナは思わず眉をしかめる。外の二人が動く気配がした。
コツコツ コツコツ
どうやら帰るらしい。ほっ、としたものの、チナのそれはすぐに引きつることとなった。
「あーぁ、どうしよう。来週の武闘大会出場権、テリアさんとこに取りにいかなきゃならねーのになぁ」
叫ぼうにも叫べなかった。ので、チナを乗せたノアがふわりと浮き、いつものごとくテリアの結界に穴を開け、外に出てから迷惑極まりないほどの音量で叫んだ。
「ざっけんなあんのやろおおおおおおおおおっ!!早く言っとけやボケナスがぁぁああっ!!!」
チナに非は、ない。
―――――――――――――――
――――――――――――
ノアがいつもの湖の畔にチナを下ろし、チナが巨大な樹木の地上に出てしまった根に腰掛けるのを見届け、ノアはその少し先に腹ばいになるように座り込む。
『なに、チナは陸王祭に出るのか』
チナが今日――正確には昨日だが――に起きたことをノアに話し、先ほどのロイの物忘れを思い出してふつふつと沸き上がる怒りを徐々に表していると、ノアが尋ねてきた。
チナが一旦怒りを忘れ、首を傾げてノアの言葉をオウム返しに聞き直した。
「りくおう、さい?なにそれ」
『知らないのか?チナの言った武闘大会は、陸王祭と言うのだぞ』
「へー、そうなんだ?え、でも何で陸王?」
するとノアは、腹ばいになったまま器用に胸を張り、チナがその質問をしてきた事に対してよほど嬉しいのか、尻尾をパタパタと振りながらその質問に答えた。
『陸王、と言うのはな、陸を統べる魔獣の王を表し、人間はそれを「力の象徴」としている。武闘大会は簡単に言うと力の競い合いだ。だから、あいつらは陸王祭と呼んでいるのだ』
「そうなの?ふーん……ほかの祭りにも、そうゆう変わった名前がついてるの?」
『ああ、付いているぞ?海王祭は人が人とに花を贈る祭りで、色は意味を持つ。海王とは海を統べる魔獣を指す』
ほうほう、と頷くチナを見て、ノアは続けた。
『地王祭は、まぁ、いわば感謝祭だな。大地がないと生きてゆけない人は、大地を命そのものとして考える。だから、地中を統べる魔獣を指しているということだな』
「なるほどねぇ」
『空を統べる魔獣を指している空王祭は、ん、まぁ、国民全てが休みを取る日のことだ。空は自由を表すと考えているらしいからな』
「…ん?それ祭りじゃなくない?ただの休みの日じゃね?」
もっともなチナの質問に瞬きを一回してから答えるノア。
『自由、とは、チナの考える自由ではない』
「えっ?!え、え?他に意味とかあんの?!!」
『自由とは、自分からも解放されるということだ。空王祭では仕事も、恋人も、学校も、自分にすらも解放される日。皆仮装をして、その日だけは自分という存在を解放し、誰でもない人間になる』
「な、なんか深いな…!!」
『もちろん、すべての人間だから王族も自由になる日だ。罪人を除いてな』
「へぇー……ってあかんでしょおおお!!王様?!陛下?!ダメでしょ暗殺とか気にしないの?!」
『しらん。そこまで我が知るわけなかろう、チナ』
まるで台風が近付いているときのような溜息をチナに吹き付ける。髪の毛をバタバタといわせながら、そうだよね、と辛うじて返事をするチナ。
『あとー』
「まだあるのっ?!!」
きょとんとするノアにもういい、大丈夫だからと念を押し、説明をやめてもらう。
すると、ノアは何かを思い出したかのようにぱちぱちと瞬きを繰り返した。
『そう言えば、チナ』
「なーんだよーノアー」
チナが根から降りてノアの毛に顔を埋め、よじよじと背に登る。登り終えたのを見計らい、ノアは最初の質問を繰り返した。
『陸王祭に出るのか、チナ』
あぁ、確かにそんな話だったなとチナは思い出し、ほんの少しだけ首を傾げながら頷いた。
「うん、なんか出るらしいよねー」
『チナは闘えるのか』
ノアが心配するのは当たり前であった。細い体を見れば、明らかに怪我をするのは目に見えていた。それでなくとも、ノアは不安だった。ここに来たばかりのとき、チナはとても不安定だった。すぐにでも壊れてしまいそうなくらいに。
だが、それはノアたちが、ノアが傍にいることで保たれた。ノアの言葉で保たれた。そう、『保たれた』だけ。何がきっかけで崩れるかも分からない。
チナは知らないだろうが、陸王祭に出ることはとても名誉なことでもある。中途半端にチナが闘えば、肉体にも傷がつき、精神にも傷がつくだろう。
ノアはそれを危惧していた。
「武術やってたし、もちろん。だって、信じられるのは自分だけだったからね」
そう言って自嘲気味にチナは笑った。それを見て、ノアはさらに不安を募らせた。
例えばチナが強いとしよう。しかし、チナの話ではテリアを満足させなければならない。果たして満足できるのか、と考えたが、ふっとその思考は途切れる事となった。
チナが背中に乗りながら、抱きついてきたからだ。
「………」
『チナ…』
首を背の方に回せば、ノアは自分の広い背に乗る小さな姿を見ることができた。それを見た瞬間、思わず数回瞬きを繰り返した。
こんなにもチナは小さかったのかと。これほどに頼りないのかと。なんて弱き存在、なんて脆い存在。
そしてノアは思い出し、再認識をした。
なぜ忘れていたのだろうか。あれほどチナに言っていたのに。…そうだ、そうであった。我はチナを守る存在。チナを害するもの、仇なすものを消し去る存在。
ノアは小さな少女に顔を寄せて、再度誓うのであった。チナを守ると。
柔らかい感触がして、チナが顔を上げれば、そこにはノアの顔。知性を感じさせる金の瞳がチナを見つめた。
あぁ、心配させているのだな、とチナは悟った。チナもノアの顔に近寄り、頬を子擦り付けた。
…今思えば、私の行動はすべて私自身を守るためだったなぁ…
チナはノアを撫でながら、ふっとそのことについて思った。
なぜ自分は己を守るために武術など学んでいたのか。そのことを考えると、不思議と目の奥が熱くなった。
過去を嘆き、ひたり、静かに涙を流すチナを見て、ノアは目を細めた。
『我がいる。頼れ、チナ』
頼る存在がいないチナに、これ以上の慰めがあるだろうか。チナは唇を震わせ、ぼろぼろと涙を流し、か細く泣き声をあげた。
「っふぃー……やー、泣いたわー」
しばらく経てばチナの涙も収まり、今ではつい先程まで泣いていたとは思わせぬ程の笑みを浮かばせていた。しかしチナの赤く腫れた目を見れば泣いていたことなど一目瞭然。ノアはチナにニシアの水を使えと薦めた。
「ニシア?」
『そこの湖だ。傷を癒し、清める効果がある』
そんなに腫れてる?と尋ねながら、湖に近寄り膝をつく。ちゃぷ、と手を入れれば程よい冷たさがチナに伝わった。
月明かりを浴びて煌めく、普通の水よりも抵抗のない水面に両手を浸し、透き通った水をすくい上げる。隙間を開ければ、普通の水よりもサラサラとした感触でしたへと滑り落ちた。濡れた手で腫れたところを撫でる。数回撫でれば、ヒリヒリとした痛みはなくなっていた。
「…ありがとうノア!」
ノアには助けられてばかりだね、と照れたように笑えば、ノアはチナに擦り寄った。
チナは嬉しそうに撫でれば、ノアも嬉しそうに尻尾を振る。
『我はチナの守護者だからな』
ノアがイケメン過ぎて辛いわ!ほんと、感謝だよねぇ………




