鬼ごっこをするとは思ってませんでした
恐怖の鬼ごっこです!!
私は今、何をしているでしょうか?
はーい、分かるわけないよねぇ。ということで、ヒントでーす!
私の右手には茶色くて固い、一メートル弱の木の棒――木刀が握られている。そしていつもおろしている髪をポニーテイルにしていて、目の前にはシルバっつー…なに、殿下?って奴がいます。
「準備はいいか、チナ」
って言って、この人も木刀構えてます。……はい!もう分かったよね!正解は『打ち合い』だぜ!まだやってないけど!!
だってさ、考えても見ろよ。いきなりだよ?いきなり
「一緒に打ち合おうZE☆」
って言われたんだよ?!木刀投げ渡されたんだよ?!
怖いだろ、フツーに考えて!!……え?殿下はそんな言い方しないって?それは……まぁ、ね。うん、ごめん殿下のファンの皆さん方。うそつきましたよはい。
「……チナ!聞いてんのかお前このやろー」
はい、殿下ちょっと待ってくださいねーはいはいいま脳内で一人アナウンスを、って、え、今の……殿下?!
「えぇええぇぇえええええっ!!!」
「うるっさいぞおまえぇえ!!何なんださっきから?俺は早く打ち合いたいんだが」
「いやいやいやいやいや!!あんた殿下でしょ?!そんな喋り方していいんかい!!」
「チナ貴様ぁああああ!!殿下になんて口のきき方ぉおおおおっ!!」
「え?って、ちょ、まっ!!オッド木刀を振りまわさないでよ!!ってかこっち来んな!!」
チナの無礼極まりない言葉に、青筋を立てたオッドが木刀を持っていたガイルからそれをもぎ取り、ぶんぶんと振りまわしながらチナを追いかけまわし始めた。
それに焦ったチナは、別の意味で青筋を立てているシルバを無視して正反対の方向に逃げ始めた。
そこから始まったのは、チナがこの世界に来て初めての鬼ごっこ。恐怖の鬼ごっこが、今ここに開幕したのだ――
わぁあああああああああっ!!!
ぎぃえええええええええっ!!!
おらぁああああああああっ!!!
最初の叫びは鬼ごっこを見物している野次馬の歓声、二つ目の叫びは逃げれいるチナの叫び、そして最後の叫びが、逃げるチナを追いかけているオッドの雄たけびだ。
「ぜひっぜふぅっ……はっひ…!!」
運動不足のチナがかれこれ二十分も走り続けられているのは、オッドへの怖さからくる火事場の馬鹿力、そしてチナの危険を察知した魔獣の足どめがあってのことだろう。
魔獣の獣舎から抜け出してきた小さな体の魔獣たちがオッドの体に体当たりをするたびに、かすかに二人の距離が離れてゆく。
それを見て野次馬である騎士たちはさらに歓声を上げる。オッドが戦意喪失しないのはこれがあるからだろう。
「しっ…つ、こいっ…っ!」
「待てやこらぁあああああああ!!」
「だれがまつかぁあああああ!!」
チナが荒い息をどうにか抑え、オッドに叫び返すと、いきなりその場が静まってしまった。
疑問符が浮かんだが、それはすぐに消え去った。
「ねぇ、何やってるの?」
チナの視界の端に、濃い紫が捕らえられた――
「テリア……」
思わずそう呼んでしまったチナの声は、テリアただ一人が聞き取った。すぅ…と目を細めるテリア。
ひるむチナだが、負けじと見つめ返す。
テリアが、ゆっくりと口を開く―――
「ねぇ、何してたの、チナ」




