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愛し子な女子高生(リメイク中)  作者: 沽雨ぴえろ
第3章  王宮編
35/45

お礼参りってご挨拶って意味じゃないの?!



キン キン 



 青く晴れ渡る散歩に適した空の下、王宮の端にある騎士団の訓練場からは絶え間なく金属同士がぶつかり合う派手な音が響いていた。

 剣で打ち合う二人の男を中心に、騎士たちは瞬きもせずにそれを見ていた。


 暫くその音が続いたかと思うと、片方が素早く動いた。

 派手な髪の男が、茶髪の男の剣をかいくぐり、力を乗せ重くした剣で相手の剣を上にはじく。



キィンッ


ガラン



 二人から数メートル離れたところに、剣が落とされる。

 暫くの沈黙。そして。



わぁあぁあああっ



 打ち合いに魅入っていた周りの男たちが一斉に歓声を上げる。

 男はそれに苦笑しながらも相手の男と顔を見合わせ、溜息をついた。それを見た茶髪の男は顔をしかめながら言う。



「お前ら、自分の練習をしろよ」



 すると周りの男たちは目をきらきらと輝かせ、即座に言い返した。



「いやいやいや!それどころじゃないっすよ!いやー、いつ見てもやっぱり凄いですね!副団長とやり合うなんて……」


「もっと殿下も参加なさればいいのに」


「そうだよなぁ……強い殿下が参加なされば、あわよくば稽古をつけてもらえるかもしれないしな」 


「おおっ!!それいい!!お前頭いいな!」



 その内打ち合っていた二人をそっちのけて勝手に盛り上がり、話し合いを始めた男たち。その様子に茶髪の男は呆れかえって後ろを振り返る。



「すみません、殿下。こんなに勝手を言ってしまい…」



 派手な髪の男はその様子を見てもう一度苦笑し、構わないと言い、落ちた剣を拾い上げた。

 男は拾った剣を茶髪の男に押し付け、天を仰いだ。



「今は昼前あたりか」


「そうですね…休憩にしましょうか」


「そうだな」



 それを聞いて茶髪の男はいまだに話し合う男たちに向かって、勢いよく息を吸い込んだかと思うと、思いっきり怒鳴り始めた。



「いつまでも話してんじゃねぇ!!お前ら、今から30分だけ休憩を挟む。飯を食うなら今だぞ!食いっぱぐれても俺は知らん!!!」



ピタリ









うぉおおおおおおおおおおっ!!



「飯だぁああ!!」


「食いっぱぐれるなんて嫌だぁああ!」



「行くぞおおおお!!」




 汗臭い男たちが食堂に向かっていったのは直ぐのことだった。



「さ、殿下。殿下も昼食にしましょう」



 茶髪の男はそういうと、返事を確認しようと後ろを振り返った。派手な髪の男はそれに対して頷きかけたが、なぜか静止した。

 茶髪の男は不思議そうに首を傾げるが、少し離れた植え込みから聞こえた声に気づき、目つきを鋭くする。ちらりと目配せをして、そちらに近寄ろうとしたが、それを止められる。



「殿下、なにを──」


「おまえが出る幕はないってことだ。……ほら、来たぞ」


「え?」




 男が聞き返した瞬間、植え込みから大きな陰が飛び出してきた。

 瞬時に臨戦態勢に入ろうとしたが、その陰を見た瞬間、思わずぽかんとしてしまった。



「ガイル?!」



 四角く切られた赤茶の硬質な髪、筋骨隆々とした巨体…。飛び出してきたのは二人の顔見知りだった。



「おおう、オッドに殿下!今日はいい天気だな!」


「はぁ……それで、ガイル、お前何をしていたんだ?怪しいだろうが」



 茶髪の男──オッドがガイルを胡散臭げにじろじろと見回すと、ガイルは苦笑して片手をあげた。



「怪しいって……そりゃ俺じゃなくてコイツだ。ほれ」


「なっ……!コイツは……」



 ガイルの片手にぶらりとぶら下がっていたのは、黒い髪をした少女だった。猿ぐつわを咬まされているらしく、うんうんと唸るばかりで何も聞こえない。



「あぁ?お前、確か──」


「殿下?知り合いですか」



 派手な髪の男が少女を見て目を丸くする。それもそのはずだ。昨日までこの少女について話していたのだから。



「コイツは──」













 「コイツは確か、新しい魔調師だ。名前は……チナ、だったか」



 自分の名前を呼ぶ男の声に顔を上げるチナ。

 目の前には赤い髪の端正な顔をした男。チナはぴんときた。この人がシジメの言っていた、お偉いさんだ、と。

 男はチナをめんどくさそうに見たあと、チナの両脇にたっていた男たちに合図した。



「取りあえず中に連れてけ。話はそれからだ」



──────────────────


──────────────



「………で?おまえ何してんだ?」



 チナの目の前に男の足がある。

 チナは場所を移動して、今は訓練場の隣にある、騎士専用の宿舎の中にいた。

 チナは正座をし、、男たちはそんなチナを囲うように立っている。

 チナの目の前に立つ男に返事をしようと顔を上げ、口を開く。



「いやだから」


「この馬鹿!殿下になんて口の効き方……!!」



 しかしそれがいけなかったらしく、オッドに後頭部をひっぱたかれる始末。チナがオッドを恨めしそうに睨むも、それよりさらに鋭い目つきで睨み返されるので直ぐに断念。

 チナは渋々口調を丁寧にし、切り出した。



「……この度、私を魔調師として働かせていただき、誠にありがとうございます。感謝を表したく、参上いたした次第です」



 チナの言葉にオッドとガイルはぽかんと口を開く。こんな小娘の、どこからそんな言葉が出ているのかと、心の声がダダ漏れである。

 一方、チナの目の前の派手な髪の男は片眉をくいっと上げただけだった。



「……で?」


「ぁん?」



ぼかっ

ごっ



 チナの態度に二人から拳がお見舞いされる。くらりと目の前が揺れる。



「で?おまえは何がしたいんだ?」


「だからぁ……ですから、」


「何をしてくれるんだ?」



 間髪入れずに男が返す。チナは繕うことをせずに顔を歪めた。

 思わず口にでるその言葉。



「しつこいな」



 ぴしりと固まる空気。

 チナがあっ、と声を漏らすが、時すでに遅し。わなわなと震えるオッドがチナの頭を鷲掴み、しゃがみこみ、無理やり目線を合わす。



「き・さ・ま・は、目の前にいる方が誰だか分かっているのか?」


「そんなん知らん!」


「そうだろうな、知らないだろ………………は?」


「誰だか知らん!お偉いさんとしかしらん!!」



 チナのその言い切り方にふらりとよろめくオッド。恐らくチナの世間知らずさに引いたのだろう。

 ガイルが豪快に笑う。



「嬢ちゃん、この方はお偉いさん、どころじゃぁねえぞ」



 その言葉にきょとんとする。くりくりとした黒い瞳を目の前にいる男に合わせる。

 ガイルは幾分まじめな顔つきでチナに言う。



「この方はこの国の王の弟である、シルバ殿下だ。王位継承権も持っている」


「…おーい、けいしょーけん?……弟?王様の?」



 開いた口が塞がらないとはこのことだろう。チナは目の前にいる男、シルバとついこの前にあった王とを記憶の中で比べてみる。

 


「……………似てなくね?」


「……………は?似てない?」



 チナの言葉に反応したのは、他でもないシルバだった。訝しげに眉を寄せる。

 チナは思い出しているからか、目をつぶりうんうんと頷く。



「雰囲気が全然だよね。あっちの方が怖い」



 チナの一言に、シルバは瞑目した。

 そして静かに口を動かした。分かるのか、と。



「…お前、剣はできるか」



 シルバがチナに質問する。その言葉に過敏に反応したのはやはりオッドだった。



「殿下?!何を──」


「嬢ちゃん、剣技ってやったことあるか?」


「な、ガイルおま……」


「なに、やったこと無い?え?ある?どっちだよ」


「ガイ……」


「そうかそうか。殿下、えーと…?少し、だそうです」



 なぜかガイルがオッドとチナの間に入り込み、オッドの邪魔をする。チナはしどろもどろになりながらも答えきると、シルバは立ち上がり、入り口へと歩み寄った。



「来い。俺と勝負しろ!」


「なんでっ?!」



 思わず素で答えてしまったが、シルバが気にした様子はない。チナがまごついていると、シルバはさっさと外に出てしまった。



「……え?え?なに、この展開。……え?」



 すると後ろから深い溜息が聞こえてきたので、若干顔をしかめながら振り返る。思った通り、オッドだった。



「なんだ、そのカオは」


「いや別に」


「………早くいけ。殿下を待たせるな」


「………………………………………え?」


「……お前はとことん失礼なやつだな」



 オッド一番反対し、何が何でも止めようとするのを想像していたチナは、思わずオッドの顔を凝視した。

 オッドは髪をかきあげ、ガイルに目線をずらす。



「ガイル、コイツに木刀を。よろしく」


「あん?お前は」


「疲れたんだよ。…はーぁ……」



 オッドはこめかみを数回もむと、チナをちらりと見て、再度溜息をつく。



「どこに興味がわいたんだ、殿下は」



 そう呟くと、オッドは勢いよく立ち上がり、チナを立たせた。



「早くいけと言ってるだろ」



 オッドはぐいぐいと外に向かって押しやろうとする。しかしオッドは何かを思い出したかのように力を弱めた。



「そう言えば、お前、何で植え込みなんかにいたんだ?」



 ガイルも気になったのか、チナにチラリと目線を送った。

 チナはあぁ、と頷くと、事も無げに言い放った。



「お偉いさんにお礼参りしようかと思って」


「……………は?」


「……………え?」










 このあと、チナがお礼参りの使い方が違うことと正しい使い方を二人掛かりで教わった。そしてあまりにも遅いために帰ってきたシルバに連行されながら説教されたチナ。

 いい思い出ができたことだろう。

 そしてチナはこう言いたいはずだ。




「お礼参りって挨拶って意味じゃないんだ………めちゃくちゃ恥ずかしいんだけどっ!!」




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