お礼参りをしにいくぜ!~彼女を止めろ~
王宮は噂が回るのが早い。チナの高校の女子たちよネットワークよりも早い。
チナが王宮で働き始めて四日目、一つの噂が回っていた。発祥がどこだかは分からないが、とにかく王宮の噂はほとんどの確率で真実だ。
今回の噂は「王弟殿下が騎士団の訓練に参加なさる」と言うものだった。
単なる風の噂、されど噂。チナはこの噂を聞いた瞬間、一つの使命感にとらわれた。
「ロイ!」
「なんだよ」
「お偉いさんが騎士団にくんの?!」
「あ?あー……らしいな」
チナはぐっと拳を握り、満面の笑みでロイに笑いかけ、わくわくしたように言った。
「じゃあお礼参りに行かなくちゃな!」
「使い方違うぞそれ?死にたいのかお前は!!」
ロイが驚いて大声を出すと、よく分かっていないように首を傾げるチナ。それを見て大きな不安は感じ始めるロイ。
ロイが他に何かをいう前に、チナが世話をしていたグリフォンが散歩に行こうと脱走しかけその話は打ち切られた。
が、ロイの不安は拭いきれなかった。
ロイは正しかったことが、後に証明される。
「───あれ?……マーティン、チナ知らねえか?」
昼、ロイがチナに休み時間だと言いに行こうとすると、チナがいるはずの場所にはチナよりも少し早く魔調師になったマーティンにがいた。
ロイがマーティンにチナの居場所を問う。するとマーティンは不思議そうに首を傾げ、外を指さした。
「え、どっか行きましたよ。お礼参りだって……」
その瞬間、ロイの絶叫が当たりに響き渡ったとか。
「あのバカアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ぜぇ ぜぇ ぜぇ
ピッチチチチチ ピッチチチチチ
ぜぇ ぜぇ ぜぇ
ピッチチチチッチッチッチッ
「ちょ、……まっ……!!」
ゼハッ ゼハッ ゼハッ
ちょっ、マジ無理無理無理無理無理。早いってば。私運動しない人だからさ?体力がね、人並み以下なのよ小鳥さん!体育のテストだって、実技ではいつも私だけ3だよ?他の人は4なのに。駆けっことかも下から数えた方が早かったし?ねぇ分かったか?私が言いたいこと!つまりはだ……つまりはだな……私は運動不足なんだよ!!そんなに早く走れるわけ無いでしょーが!!しかもそっちは空飛んでんじゃん!!追いつけねえって!!
チナは王弟に挨拶をしておこうと思い、休み時間になった瞬間から走って騎士団の訓練場まで行こうとしたのだ。
チナは一応偉い人には挨拶をしておこうと思うことくらいはするらしい。
しかし騎士団に向かっている中、チナは道に迷ってしまったのだ。入り組んでいないのに迷うとはちょっとした才能だろう。
とにかくチナは道に迷ったのだ。チナが頭をボリボリとかきながら眉を八の字にしていると、どういうことかミラクルが起きた。そこに魔鳥が来たのだ。そして今に至る。
来た魔鳥は雀に似た「シジメ」。姿はスズメのようで、スズメの半分ほどの大きさだ。色は茶色く、本当に小さなスズメのような魔鳥が、チナに話しかけてきた。
『チナー早くしなよぉ~』
「だかっ………まっ…!!ゼヒィッ」
『えー………チナ引くぅ~』
「うっさぃ!」
シジメに案内をしてもらっていたのだ。するとどうだ、シジメとチナのスピードがあわなくてチナは必死に走っていた。
常に運動不足なチナにとってこれほど辛いことは無い。
「ちょっ……きゅ、きゅーけ、!休憩っ」
『も~仕方ないなぁ~少しだよぉ~?』
あまりの辛さに道に座り込むチナ。荒い息でシジメに休憩を所望し、許可を得て寝転ぶ。
チナは肩で息をしながら考えていた。
私……魔調師だよね…?騎士じゃないよね?
それはお前の体力の無さの賜物だ、チナよ。
チナは頭上を飛び回るシジメに疑問を投げかけた。
「騎士団で、訓練する、お偉いさんって……特徴とか、あるの?」
するとシジメはチナの腹に舞い降り、嘴を開いた。
『あるよ~。アイツは髪の毛が赤かったかなぁ。あと目は草の色だよ』
草………草?草って、緑だよね緑ってことでいいんだよね?!
チナは小さな体をそっと撫で、ゆっくりと起きあがった。それと同時に飛び上がるシジメ。
『行く?』
「うん。案内よろしく」
『はぁい』
「あ、でもなるべくゆっくりとな!?」
『ぇー』
「うっさい、私が追いつけないっつの!」
『運動しなよぉチナ~』
「ねぇ知ってる?余計な言葉って言葉知ってる?いいから案内しろやおチビが。早く行かなきゃロイくんだろ」
半場シジメは脅して案内をさせるチナ。
チナはゆっくりと、しかし確実に騎士団の訓練場に近づいてゆく。
王弟にお礼参りをしに─────────




