王様怖い天才怖い。二つ揃えば助ける者は無し
アーノルドォオオオオ!
にこにこにこにこにこ
どきどきどきどきどき
にこにこにこにこにこ
どきどきどきどきどき
──謁見の間にて、片方は玉座に腰を下ろし、極上の笑みを浮かべ、もう片方は大量の冷や汗をかきながら正座をしている。
床に正座をしているのは、黒い髪と瞳をした少女、チナ。チナの傍らにはくつろいだ様子の骨っぽい馬、スケルニア。チナはスケルニアを睨みながら冷や汗をかくという、器用なことをやっていた。玉座に座る男、王はそれを面白そうにしばらく見つめると、いきなり手をたたいた。
パンパンッ
びくっ
チナは大袈裟に見えるほど体を跳ねさせてから、さらに猫背になる。しかし、誰も「陛下の前で、なんと図々しい!」とはいはない。頭が高い、とも。そこにいる人間は分かっているのだ、王を。
王の名前はアーノルド・リリデイア・アトマクシー。彼は『赤の国』の『王』。火のように赤い髪に、神秘的な緑の瞳を持つ青年王だ。
彼は特殊であり異常だった。
彼は齢六にして国内にある街や村の場所、そしてそこへ行くための最短距離を完璧に記憶した。さらにその一年後には財政を、さらにその一年後には、完璧に国の政について理解したのだ。そして彼は、その後も貴族としての働きや礼儀作法、様々な民族に対する接し方など、十五になる前には王になるために必要な全てを理解していた。
彼は特殊であり異常だった。しかし、『オカシイ』のではない。
───特殊であり異常であるという事は、それは『天才』と言うことだ。それを実証したのが、彼、アーノルドだった。
天才ゆえに、する事がない。全てが簡単すぎる。何をやるにも直ぐに終わってしまう。考えることがすぐに終わってしまい、考えること続かない。チェスも、カードも、計算も。彼は小さいながらも、遊ぶものが無くなってしまった。そこで彼は考えた。自分が予測できず、完璧に攻略ができず、飽きないことを。
そして彼は見つけたのだ。自分が予測できず、完璧に攻略ができず、飽きずに考え続ける方法を。
『人間観察』、それが彼の遊びだ。
それは恐ろしいものだった。誰もがそう言う。理由など簡単だ。対象を追いつめて追いつめて追いつめて、行動を観察するからだ。
どんなときでも、王はやってくる……。たとえそれが、トイレでも。
「お、おい……あの娘、陛下の遊び対象になるんじゃないか…?」
壁に寄っている臣下たちから、小さな囁き声が漏れ始める。
ひそひそ ひそひそ
「やっぱりおまえも思うか……俺も思う」
「あれは恐怖だよな…夜に来たときは本当に驚いた…!」
「お前もか……あの娘、可哀想に…」
「あぁ…可哀想だな……でも、」
「あぁ、分かってる」
臣下たちの心が、たった今、一つになる──!!
絶対助けない!!!!!
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「そんなに固くなるな、チナ」
「あ、あい……」
そんなん無理だっつーの!!
チナは恨めしげにそう思いながらも、心の中で首をひねった。
さっきの合掌は一体何だったのかと。顔をちら見しても、にこにこと笑っているだけ。別にそこからは悪意は感じない。害する気はないのが分かるが、そこが恐ろしかった。
テリアの時と、同じ。
何を考えているのか、分からない。それがチナは恐ろしかった。何も読めない。
たらりと、汗が床に落ちる。
ぱたっ
それとともに、アーノルドがチナの後ろに目を向けた。そして、笑う。
「遅かったな」
後ろからは、何か人ではない足音が、確実にチナに近づいていた────…




