表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛し子な女子高生(リメイク中)  作者: 沽雨ぴえろ
第2章  トリップ編
23/45

見たもの全てが真実とは限らない

長い……そして訳分からん(?_?;

ガカッ ガカッ グエッ



「遅くなっちゃった……」



ガカッ ガカッ ガカカッ



「………タラスって、あんな鳴き声なの…?」



 いつもより遅い時間に帰り道を急ぐのは、パン屋で売り子をする少女、チナ。

 チナは頭上高くに飛んでいる魔鳥のタラスの鳴き声に顔をしかめながら、急ぎ足でパン屋の裏口へと歩を進める。



「結局、三分の一、かぁ……」



 半分は売ると宣言したチナだが、実際に売れたのは半分よりもさらに少ない三分の一。それも、いつもの値段ではない。いつもより、日本円で二百円ほど安くして押しつけるように売りつけたのだ。しかし、そうしなかったのなら、全く売れなかったであろう売れ行き。

 チナはガックリと肩を落とし、窓とドアの隙間から洩れる光を見つめた後、ぐっと唾を飲み込み、取っ手に手をかけた。



「……………だぁああっ!!」



 開けられないっ!半分は売るって言ったのに!三分の一って!!うぎぃええええっ!!自信満々に言った分恥ずかしいいいい!あああ、でも帰らなきゃ、でもこんなにパンが……。うわあああ……どーしよどーしよ、格好悪いよーっ!!いやでも、絶対ばれる事だし今あっさりいった方が…いやでも、遅く帰って『粘りましたが…』風にやれば……!!うんそうだ、その方がきっと一生懸命ってわかってくれるよね!よし、暫くここに─────



「…何をしている、娘」


「ぎいえっ」



 いきなり取っ手が回り、ドアが開く。突然のことに尻餅をつく。



「娘、お前がチナか?」


「へっ……へえっ…?!」



 チナは尻餅をつきながら男を見上げる。

 白い詰め襟のシャツに同色のパンツ、赤茶のブレザーにこれまた同色の膝下ブーツ。そして、藍色の短髪。鋭い藍色の目がチナをキツく睨む。



「チナという者か、と聞いている」


「え、あ、はいっ!私がチナでございますっ!!」



 男から発せられる威厳のような圧力に怯えながらも、チナは急いで頷いた。ついでに敬礼もしてしまい、男から奇妙なものを見たような目線を向けられる。



「あ、あはは…」


「………………」


「………………」


「…入れ」


「はい…」



 しばしの沈黙が降りたが、仕方があるまい。チナは一応自分の居候先の家に、居候先の家の客人に許可を出され、ようやく中にはいることができた。チナにとって頭のこんがらがる事だったが、マリアが固い顔をして座っているのを見て、顔を引き締めた。



「マリアさん…?」


「……………」


「マリアさ──…」


「チナ殿、座っていただきたい」



 男がチナの言葉を遮り、チナをマリアの向かいに座るよう促す。チナは困惑した表情を浮かべたが、マリアが何も言わないのを見て、大人しく従った。

 チナが椅子にしっかりと座ったのを見て、男は口を開いた。



「チナ殿、これを見ていただきたい」


「はぁ……」



 チナは未だに無言のマリアを気にしながら、男の取り出した巻かれた紙を受け取る。

 ちらりと蝋を見ると、変な三角のマークが四つ、そしてその後ろに何かのマークがある。チナは首を傾げながら蝋をはがし、くるくると紙を伸ばしてゆく。



「えっと……なになに………?……………………………………………………………………………は?」



 チナはぽかんと口を開け、男と手紙とを見比べた。暫くそれを繰り返した後、ひくひくと頬を痙攣させ始める。



「……嘘ですよね?」


「突然の事で驚きとは思いますが、嘘ではございません。その蝋が何よりの証拠です」


「何で……」





──アリフの街のチナ殿


貴殿には魔調師の資格があるかもしれないことが、先日の一件で確認された。


直ちに王宮へ参上せよ。



     アーノルド・リリデイア・アトマクシー




 いわゆる召喚状だった。チナはその手紙を握り締め、男を見つめる。よく理由が分かっていないらしい。男は無言でチナを見つめ返したあと、小さくため息をはき、薄い唇を動かした。



「…数日前」


「………は」


「数日前、貴殿は魔鳥に連れ去られ、少しして戻ってきたでしょう。…魔鳥に運ばれて」


「は…い」


「それですよ」


「はあ?」


「……なぜ魔鳥があなたを運び返してくれたのか?王宮では、あなたに魔調師の才がある、と見ています」



 チナはまたもやぽかんとする。訳の分からない単語が多すぎる。しかし男はそれを無視して続けた。



「そのため、チナ殿には今から王宮へ行く準備をしていただきます。なるべくお急ぎください」


「はあ……は?」


「あと数分で迎えが到着します。お急ぎを」


「ちょ、ちょ、待ってよ!」



 勢いよく立ち上がるチナ。椅子が後ろに倒れる。しかしチナは気にせず喋り続けた。

 男は無表情にチナを見つめる。



「いきなり、ほんとにいきなりなんなの?!…王宮から召喚だかなんだか知んないけど、私は行かないからっ!!」


「……では、貴殿は陛下の命に背くと?」


「陛下だろうがなんだろうが、関係ないね」



 男がチナの発言に目を細め、睨み付ける。チナは言い切ると目の前の男を睨み返した。沈黙が落ちる。



「………とにかく、私は、行かな─」


「──────んだ」


「い……え?マリアさん、なんですか?」



 チナが強い口調で言い切ろうとすると、マリアがぼそりと何か呟いた。

 チナが鋭くなっていた目線をゆるめ、マリアの顔を覗き込む。

 しかし、いきなりチナに衝撃が襲った。



「え……?」



 尻餅をつきながら、ぼんやりした頭で考える。いま、突き飛ばしたのは、目の前にいた人。目の前に、いた、人は──



「マリア、さん……?」



 呆然とチナが見つめる先には、肩を怒らせ、立ち上がったマリアだった。いつもの穏やかな顔が、今は険しく、目がつり上がっていた。

 男は離れてそれをじっと見つめる。

 チナはもう一度、彼女の名を呼ぶ。



「マリアさん……?なに、とうし…」


「出てけってんだよ!!」



 ひゅっ、とチナの息が詰まる。見る見る間に顔から血の気が引いてゆく。端からでも分かるくらい、唇が震えている。



「マリア、さ…」


「っ、出てけってんだよ!何で気づかないんだいっ?!あんたみたいな魔性がいてくれたおかげで、商売できてないだろっ」



 その言葉に、大きくふるえるチナ。顔から表情が抜け落ちる。男すらも気付かないようだが、徐々にチナの影からも殺気が強まる。

 チナはすっかり血の気のなくなった顔で、震えてる唇を一生懸命に動かし、首を左右に振る。



「でも、でもマリアさん…マリアさんは、信じてないって……噂…」


「そんなの、信じてたのかい?嘘に決まってるだろう!」


「っ!」


「少し考えれば分かるじゃないか。魔性がいるおかげで、儲からないんだ、いい機会さ!さっさと出てっておくれ!!」



 マリアがチナを見下ろす。

 チナはマリアを見上げる。マリアの目のこれまでにないくらい冷たかった。

 

 どうして


 それだけがチナの心を占めていた。どうして、いきなりこんなことを言うのか。どうして、こんなことを言われているのか。そしてチナは、理解する。












 







──あぁ、なるほど。私が、信用されてなかったんだ。 








 生暖かいものが頬を伝っていく。次も、次も、次も。溢れて溢れて、流れていく。悲しみが悔しさと混ざり合いながら、チナの顔の上を重力に従い、下へと落ちてゆく。幾つものシミがチナのブラウスに作られる。一つ、二つ。まだまだ止まりそうにない。

 けれどもチナは、震える足を踏ん張り、震える手を突っ張り、震える唇を引き締め、涙の溢れる目を上へと向け、ゆっくりと立ち上がる。

 未だに止まらない涙を手で拭いながら、男の顔を見ずに話す。



「……すぐ、準備します」



 男はチナを見つめたあと、しっかりと頷いた。チナはマリアをちらりと見て、すぐに視線を逸らし、部屋へと駆け込んだ。



























『チナ、泣かないで?ボクたちがいるでしょ?』



 一人きりの部屋。チナはベットに顔を埋め、声を出さずに泣き始めた。

 それを見かねた見守り役の魔獣が影から飛び出し、チナの顔に寄り添う。そっ、と囁くように告げると、チナはやっと顔を上げる。



「……意味なんて、無かったんだ」



 その一言に、魔獣は首を可愛らしく傾げる。チナは『笑って』こたえる。



「…マリアさんは…結局、私のこと何とも思ってなかったよ。私は……自惚れてたみたい…………………信じるなんて、意味、無かったんだっ!」



 そう自嘲気味に笑うチナに、魔獣は寂しそうに鳴く。チナは魔獣を撫で、縋るように囁く。



「あんたたちだけだね、ほんとに信じられるのは」



 チナは寂しそうに笑うと、魔獣を最後に一撫でし、立ち上がった。

 なにやら離れたところから、ぱっこぱっこと音がする。迎えが来たようだ。

 いそいそと制服に着替え、袋に鞄をいれ、ポニーテールにしていたゴムをとる。チナは振り返り、肩に魔獣を乗せ、部屋の入り口まで歩く。ゆっくりと振り返るチナ。



「……行こっか」



ばたん




 部屋のドアが閉められる。


































「お待たせしました」


「…………………ほぅ?………いや、大丈夫ですよ。…もう、いいでしょうか」



 チナが二人の待つ部屋に入る。男はチナの姿と肩に乗る魔獣を見て目を見開いたが、すぐにいつもの顔に戻す。

 チナはマリアを見ようとはせず、ただ男だけを見つめ、頷く。



「はい」


「では、今まで世話になった、マリア・デガロット。おそらくチナ殿は確実に素質を持っている。これからはチナ殿は我々の一員となるだろう。今までのこと、感謝する」


「そんなの、どうでも良いさ。さぁ、早く連れてってくおくれ!顔すらも見たくない!!」



 そんなマリアに、チナは一歩踏み出す。マリアの眉がぴくりと揺らし、そっぽを向く。男は黙ってドアのそばにたつ。

 チナはそっぽを向くマリアをしばらく見つめたあと、頭を下げた。しつまかり、九十度。日本人ならば当たり前だ。感謝の礼なのだから。



「今まで、ありがとうございました」





 ゴミ山に落ちていた私を拾ってくれたこと。笑いかけてくれたこと。心配してくれたこと。居候させてくれたこと。いつでも私の側にいてくれたこと。……嘘を付かせてしまったこと。

 どれだけ私が傷ついたとしても、その時その時は、凄く、楽しかったから。嬉しかったから。嘘を付かせてしまった事への償いとして、懺悔として。





「お世話になったのに、マリアさんに嘘つかして、ごめんなさい。拾ってくれて、嬉しかった」


「…………」


「もう、会うこともないだろうけれど」


「…………」


「お体に気を付けて、いつでも、いつもの元気なマリアさんでいてください」


「…………」



 もう一度チナは深く礼をすると、ドアへと踵を返した。男が無言でドアを開いてくれる。そこで止まる。

 振り返る。マリアは未だそっぽを向いている。



「…マリアさんのパン、大好きでした。マリアさん」


「…………」


「チナ殿、そろそろ……」



 男がチナに声をかける。チナは頷くが、目線はマリアに向いている。

 


 最後。これで、最後だ。きっともう、ここには帰ってくることはないから。



 チナはマリアを強く感情のこもった目で見据え、しかしそれとは逆に、弱々しく、囁くように。






「さようなら、マリア・デガロットさん」



























──────────────────


───────────────



がっこ がっこ がっこ

ふわふわ ふわふわ



 チナが乗っているのは、空を飛ぶ乗り物だった。馬車の人が乗るところだけが飛んでいるように見えるが、実際は見えない魔獣がそれわひいているのだ。

 チナはノア以外に何かにのって空を飛ぶのは初めてなので、窓の外をよく見ようと、身を乗り出す。どんな風に違うのか知りたいらしい。ちなみに魔獣はいつの間にかチナの影に戻っている。

 そんなチナを見ていた男は、唐突に口を開いた。



「マリア・デガロット、でしたか」


「……!」



 目線だけを男に送る。そのキツい目線に一瞥すると、男はチナとは反対側の窓の外を眺め始めた。

 何もないのか。そう思い窓に向き直ろうとするチナを、男が呼び止めた。



「チナ殿」


「…はい?」



 男はちらりとチナを見たあと、手を胸ポケット手を入れた。そしてなにか、白い紙を取り出し、チナに手渡す。

 不思議そうにそれを見るチナ。

 カサカサとそれを開ける。そして、中に書いてある文字を読み、固まる。

 男は横目にその様子を見ながら、話し始めた。

 




「……チナ殿、真実とは、目に見えないところにもあるのですよ。全てが真実とは限らない」











「………っは……、いっ………!っ……………」






 チナはその紙を握り締めながらポロポロと涙をさっきとは比にならないほど流し始めた。



 それほ、手紙。


 マリアから、チナへの、今までのことを覆す内容。


 そこに全てが込められていた。






















『がんばれ』






 だった一言。


 でもそれは────










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ