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愛し子な女子高生(リメイク中)  作者: 沽雨ぴえろ
第2章  トリップ編
15/45

和やか、からの無表情

軽くシリアス。



しゃくっ しゃくっ しゃくっ

じゅりゅ…

もぐもぐもぐもぐもぐ


 足先を湖に浸しながら、ちなは左手に持った果物にかじりつく。かじればかじるほど果汁が出てくるそれは、形はラ・フランスに似ていて、喉の潤いをすぐに癒やした。その果実は狼がお詫びとして持ってきたものだった。どうやら舐めまわしたことを気にしているらしい。ちながそれを叱った為なのだが。

 ちなはラフランスに似た果物をかじり、ゆっくりと咀嚼し、ゆっくりと嚥下した。


ごくん



「なんて、なんてことなんだっ!水色と黒のしましま模様の皮をしたラ・フランスのようなフォルム…まるで食欲をそそらないけど味はリンゴと桃を足したような…それでもって食感は梨のごとく…!!美味。美味なり。…革命だ……革命だっ!」



 そう叫ぶと、ちなは食べかけの果物を無我夢中で食べ始める。食べ終わると手を横にのばす。横には水色と黒のしましま模様の果物がいくつか転がっていた。それを静かに見守る、後ろに控えている狼。どこか微笑ましげに見ているように見える。

 


 ぱしゃ ぱしゃ



 ちなが足を軽く揺すると、水面が歪に揺れて反射する光も同じ様に揺らす。

 湖を囲むように生えている木々。光は森の中よりも圧倒的な量を湖に降り注いでいる。光が乱反射してちなの顔と木を照らす。

 今ちなが座っているのは、湖へとべっぱった木の根だった。両足で跨ぐとちょうどスネの半ばくらいまで水にひたる。

 

 あと一つと言うところで、ちなは食べるのを止めた。最後の一つを手のひらで転がしながら、後ろを振り返る。



「ありがとう、狼さん。これ、美味しいね」



 そう狼に微笑みかける。狼は嬉しそうに鼻をちなに近づける。ちなはそれを見て笑って、恐る恐る鼻をなで、水面に目線を戻した。

 しばらくぱしゃぱしゃという音が響いていたが、その音が唐突に終わる。



「…………帰れるかな」



 ため息とともに呟かれたそれは、ちなの今一番の疑問だった。初めは混乱して、『ここはどこか』と言うのが一番の疑問だったが、落ち着き始めた今、それは最優先の疑問ではない。





「帰りたい………」




『…………………』





 その呟きに、ぴくりと反応するものがいた。しかしちなはそれには気付かない。ちなは気づかないまま膝に目を押しつけ、深いため息をつく。それを『見ているモノ』は、ちなを目を細めて睨むように見つめた。

 そして───────



『娘よ、お前は帰れはしない』


「っ?!」



 どこからか聞こえてきたその声にびくりと体を震わし、顔に警戒でひきつらせながら当たりを素早く見回すちな。しかし周りにいるのは狼だけとわかり、ちなはほんの少し肩から力を抜いた。

 しかし『見ているモノ』はちなに話しかける。



『聞こえているのだろう?娘よ』



 もう一度聞こえたことにより、確かな確信を得たちなは体をこわばらせ、ゆっくりと当たりを見回し、『それ』と目を合わせた。



「………狼、さん?」


『我は狼さんなどという名ではないぞ、娘よ』



 ちなの質問のような確認に、当然というように答える狼。口は動いてはいない。おそらくテレパシーのようなものかと、ちなは予想をつける。



「じゃあ、なんて言うのかな」



 固い声でいうちなに向かって、巨大な狼はゆっくりと頭を垂れた。



「なっ……!」


『娘よ、我に名など有りはしない。…娘、付けてくれないか?』



 金の輝く瞳に見つめられ、ちなは困ったような顔をした。ちなには視線に期待が籠もって見えたのだ。



「いいけど…私、センスないよ?」


『構わん。娘よ、我に名を!』



 輝く瞳に勢い良く振られた尻尾。まさに犬。しかしさすがに『イヌ』と名付けるわけにも行かない。さすがのちなでも気が引ける。ちなは口の端を上げ、目の前の狼をじっくりと見つめた。そして気づく。巨大な黒い狼は、ある神話に出てくるものに似ている、と。

 ちなはゆっくりと口を開く。



「──ノア。あなたの名前はノア」



 『ノアの箱舟』かつてその箱舟は、神の怒りによって興された大洪水から生き物たちを護ったという……そのような噺ではなかったか。目の前の狼はすぐにその名前を気に入ったらしく、いきなり立ち上がり、大きく吼えた。



ヴォオオオオオオン



 びりびりと鼓膜が震える。水面すらも震えている。数回、そんなのを吼えると、狼──ノアは嬉しそうにちなに鼻をこすりつけ始めた。

 ちなも楽しそうにそれの相手をしていたが、すぐに止めた。そして、ノアに目を向ける。



「…ノア。聞きたいことがあるんだけど」


『なんだ、娘よ、このノアが聞いてやるぞ!』



 嬉しそうに目を細めるノアに、かすかに微笑み返し、質問した。

 桜色の唇が言葉を紡ぐ。



「さっきさ、私が帰りたいって言ったときさ、その、聞き取れなかったんだよね…びっくりしすぎて。だからさ、その……ノア。────私、帰れる?」



 ほのかに笑いながら、ちなはノアの金の瞳をのぞくようにして質問した。ちなの期待が、裏切られることの無いように、必死にノアの瞳を覗き込む。そんなこと、意味など無いのに。

 








『娘よ、お前は帰れはしない』







 初めの時と全く同じ様に、そしてはっきりと口にする。ちなの心に答えるように、ノアもしっかりとちなの目を見て。



 













 ちなの顔から、表情が消えた。







リモフラン

水色と黒のしましま模様のフルーツ。見た目はラ・フランス、味はリンゴと桃を足したようで、食感はまるで梨のよう。ちなは知らないけど市場では出回ることはなく、王族のフルーツ(希少価値)。

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